アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第十二話 みんなにも話すことにした……

「みんな、ちょっといい?」

 シャワーを浴びて部屋にもどり、シャワー中に考えた私の考えを皆にも聞いてもらおうと思った。
 皆、真面目な顔で私の話に耳を傾けてくれる。

「私。やっぱり日本に、帰りたい。
 この世界で皆とずっとこうしているのも良いかなって思ったけど……
 やっぱり、仕事して、向こうの皆と過ごす日々が私のいる場所だって、そうわかったから」

 全員が静かに頷いてくれる。

「マキがそう決めたんなら、それを全力で叶えるよ」

「任せとけよマキ! オレがマキを元の世界に返してやる」

「マキちゃんがそう決めたんなら、叶えるだけやで!」

「マキ殿のために我ら一同粉骨砕身努力しよう」

「まぁ、私達が力を合わせれば……」

「たとえ魔王であろうとミー達の敵じゃない!」

「マキさんを日本に帰すために、全力でが、がんばろう!」

『私も主のために全力をつくすよ』

「……ありがとう、ありがとうねみんな……」

 皆の優しさが心に染み入ってくる。

「それじゃぁ、明日からもよろしくね。おやすみ!」

 気持ちが定まったことで、どことなくフラフラしていた足元がピタッと定まったような気分になる。
 今日はよく眠れそうだ。


---一方マキがいなくなったリビングでは---

「なんだよ、あの表情、可愛すぎだろ……あー、嫁にしてー返したくなーい」

「全面的にナツに同意する。しかし……」

「マキ殿が帰りたいと言うのだ、それを助けるのが自分達の……努め……」

「フユちゃん思い出してにやけとるやん」

「そのためにも、ここの攻略を急がないといけない。リッカ、最深部はどれぐらいで着く予想なんだ?」

 トウジはメガネをくいっと持ち上げる。彼の癖のようなものだ。

「巨大種の先が最深部かもしれないしー、まだまだ遥かに長いのか、正直わからないんだよねー。
 過去の伝承からすれば、5日程の道程と言われてるんだけどー……勇者の力で、だからね」

「ボクたちと勇者達の力の差がどの程度かわからないと、わからないね……」

「アキ、なにそーっとマキの寝所へ行こうとしている」

「いや、真面目な話になっとるしウチは不要かなーって……」

「ダメだって言ったよな?」

「そんなー」

「お主だけマキ殿と一緒にいるなんてずる、不公平だ」

「フユ、言い直してもおんなじことを言っている。
 大丈夫、アキにはボクがマキさんと過度に触れ合うと神経を掻きむしったような痛みが起きる呪いをかけておいたから……」

「え……? じょ、冗談やろ?」

「冗談かどうか、試してみればわかるよ?」

 にっこり。

「アキ、悪いことは言わない、ナギ様の呪いは……」

「まってや、トウジはん、なんで目を伏せるんや!?」

「アキ、精霊が怖がるからあまり近付かないでね……ゴクリ……なんて濃度の……いや、言うまい」

「ちょ、ちょっとリッカのシリアスな口調が怖いねんけど!」

「くっくっく……」

「(ナギは怒らせないようにしよう)」

「(ああ、俺もそう思った)」

 こうして平和に夜は過ぎていく。

------

「ふむ、精霊たちは外に危険はないと言っているよ」

「それでは、行こうか!」

 翌朝、早朝(外では)から出立の準備に追われた。
 マジックバッグにしまうだけなんだけど。
 アキちゃんが用意してくれた朝食をお腹に入れたら出発だ。
 此処から先は聖騎士の方々の情報がないので、より慎重な探索が必要になるそうで、みんな少し緊張しているのが伝わる。
 私も少し気合を入れないとね。

 外に出てしばらく下っていくと敵と遭遇する。
 数も質もあまり変化はないけど、なんとなくあっさりと撃破できた。

「なんだか、昨日より調子がいいね」

「皆、マキの覚悟を知ったからな。吹っ切れた感じだな」

『主自身の力も増している。私もその覚悟の恩恵を受けているようだ』

 確かに、身体が軽いような気がする。 
 全員の動きや魔法から精霊まで把握できているような、そんな不思議な感覚さえ覚えている。

「こうかな?」

 試しに魔法を使ってみる。
 なんとなく、こんな感じかなと前から突っ込んでくる犬みたいな魔獣に放ってみる。
 光の玉が周囲を照らしながら飛んでいき、敵の目前で分裂して矢のように敵を貫く。

「な、マキ君、君は魔法も使えるのか……しかも、マジックアローなんだろうけど、何だ今のは?」

「い、いやーなんとなくアニメで見た魔法っぽくならないかなーって……」

「す、すごいですよマキさん。精度も威力も申し分ないですよー」

「こ、これは負けていられない……」

 魔法だけじゃなかった。
 剣を借りているんだけど、なんかこう動かせばいいって感じがわかる。そんな気がする。

「えーい!」

「な!? マキ、今のはサウザンドリーフ流剣術奥義 桜華一閃……??」

「え、な、なんかこうしたら良いかなーって……」

「お、俺もまだうまく……負けられん!」

「やべーなー、そのうちマキが分身したりするのかな……俺の立場が……」

「分身……あーあれかぁ……できるかなぁ……」

「止めてくれマキ、アレはもうそりゃぁ血の滲むような鍛錬を……」

「いや、私だってここまで来るのに……」

「俺だって……」

 なぜか何人かが落ち込み始めたので自重しといた。
 後で物陰で試したら分身できた。やったね。

「皆止まれ!」

 フユの鋭い声で全員に緊張が走る。
 微かに地面が揺れている。

「……巨獣か……」

「そのようだ。ここからは慎重に進もう」

 山の内部を基本的には円筒部の外周を回りながら降りていく構造の洞窟だけど、時々壁面内に入り込んだり入り組んだ作りになっている。
 幸いほぼ一本道の作りになっているので、迷う心配は少ない。

 注意しながらも相変わらず襲い掛かってくる魔獣を排除しながら進むと、段々とその足音は大きくなり、その巨大さを感じられる。

「こんな大きな生物は見たことないなぁ……」

「日本にいたら自衛隊が出てくるよ」

「いっそ、その方が楽かもな」

「どうやらこの先のようだ、軽口はそこら辺で止めておこうか、リッカ殿どうだ?」

「うーん、フユっち、どうやら巨大な亀のようだよ、友達はそう言ってる」

「平気? フユ……」

「何を仰るマキ殿、思うところがないと言えば嘘ですが、私も冒険者として一度ならずも戦っております。お心遣いだけありがたく受けておきます」

「光よ、皆を守る盾となれ」

 ナギの補助魔法が皆を包み込む。

「アーツ使用は個人の判断で……こんなところで死ぬなよ……」

 ハルとナツが飛び出していく。
 私も飛び出そうとしたらフユに止められた。

「マキ殿は自分の後ろで全体を見てくだされ」

 全員が戦闘に入って敵の注意が他のメンバーに向いてから戦場へと突入する。

「おっきーーーーーー!」

 戦闘中だが、間の抜けた声が出る。
 その巨大な亀は20メートルはある。
 山のように巨大なこうらに図太い手足。
 陸亀の仲間っぽい身体の作りをしている。

「やっぱり、甲羅は硬い!」

 ナツとハルの剣を簡単に弾いている。

「魔法も効き目なしだな」

「手足を狙うにも、以外に素早い!」

 でている手足を狙うとシュッと甲羅の中に引っ込んでしまう。
 亀と違うのは手足をしまうとその穴に装甲がせり出て穴を塞いでしまう。
 首元に注射でもしてあげようかと思ったけど難しそうだ……

「……ふむ、ヘイロン殿、もしかしてこの亀、聖獣ですかね」

 リッカが私のそばに来て、私の中のヘイロンに問いかける。

「精霊がすっかり怯えている。霊格も高そうなので」

『ふむ……どうやらそのようだな、何やら、痛みで正気を失っているようだな……』

 私はその亀の状態を観察する。
 よく見ると、顔の部分の目や嘴の部分が白く変色している。

「もしかしたら……ヘイロン、あの子と話せる?」

『まずは正気を取り戻してもらわないことには……』

「皆! 攻撃を止めて! ナギ、あの子の顔周囲の痛みを除いてあげて!」

「敵を回復するのですか?」

「お願い!」

「……わかりました……」

「でも、あれだとしても、この世界に治療薬はないし……食欲も落ちてるだろうし……」

 私はこの子の体調不良の原因に心当たりがある。
 ビタミン不足。特にこの子は日も当たらない洞窟内に住んでいる。
 ……ファンタジーなのに、それで良いのだろうか?
 だって、もともとこの子洞窟内にいる設定でしょ?
 まぁ、そんなことを考えても仕方ない。
 ビタミンA,C,Dらへんの摂取で改善してくれそうなんだけどなー……

「アキちゃんマジックバッグ貸して、代わりになるもの探す!」

「はいよマキちゃん」

 マジックバッグを探して弄る。欲しいものを考えながら引き出すとアイテムは取り出される。
 私はビタミンの代わりになるものを想像して引き抜いた。

「な、何やねんそれ、そんなん入れてないで」

「おお、懐かしのレプ○ゾル!」

 診療でも使うし、フユ用にも使っていた水生生物のアイテムと言えば信頼のテ○ラさんのビタミン剤だ!

「これじゃぁ少ない、できれば樽で!」

 そう思いながらバッグからアイテムを引っ張り出すと、ちゃんと樽に入ったレプ○ゾルが取り出せた。
 なにこれ、めっちゃ便利!

「い、いや、そんなものこの世界に無いから……」

 アキちゃんがなにか言ってるけど、今は治療が先!

「どう? ナギ?」

「たぶん、少しは良くなっているはず……」

『聖獣よ、汝が痛みを和らげしはここなる乙女。我が声に耳を傾け給え!!』

『う……まだ少し痛むが……だいぶマシだ……』

「大丈夫?」

『すまぬな……迷惑をかけたようだ小さき者よ……』

「えーっと、たぶん貴方の痛みを解決する方法を私は知っています」

『なんと! それならば是非に教えて欲しい……もう何十年か身体が腐り落ちるような痛みでろくに食事も取れていない……』

『聖獣は食事は基本的に必要ではないが、まぁ気を喰ってるだけだと味気なくてな』

『ふむ、そなたも聖獣か疾き者よ。聖獣がなぜ小さきものの、臣下になっているのだ?』

『彼女は聖女だ。聖獣としての努めを果たしている』

『おおおおおお……聖女とな……ふむ、小さき娘よ、我が前に立てるか?』

「はい、それなら傷の状態も見せてください……えーっとナギちゃんの力は……」

 私は癒やしの魔法を構築して腐り落ちそうな白色の部分を治療する。
 同時にビタミン不足を精霊術を利用して亀さんの体内へと満たしていく。
 難しいことは精霊さんがやってくれる。

『おおお……急に楽になった。それに汝が魂……確かに聖女の者。
 そうか、刻が来たか。傷を癒やしてもらった礼と盟約をもって汝を我が主としよう。
 聖女よ、私に名を与えてくれ……』

「え、えーっと。亀さんだからフユの兄弟的な感じでー……ウインとか?」

 私がそう口にすると、私とウインの間に繋がりができたことを感じる。

『我が眷属が仲間にいるな……汝には主を守る盾となってもらおう』

「おおおおおおおお!!」

 フユとの繋がりも作られたような感覚がするのと同時にフユも強力な力が流れ込んだようだった。
 巨体がニュルンと私の身体の中へと吸い込まれていく。
 ヘイロンに続き二匹目の聖獣ウインが仲間になった。






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