アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第八話 超高速山登り、なにこれ……

 一日ゆったりしてから登山へと挑む事になりました。
 馬車が通れない林道を抜けると、険しい山道……なんてことはなくて、のどかな山道に出る。
 緑も多く吸い込む空気も美味しく感じる。

「もうしばらくはきちんと整備された道が続く、霊峰中腹からは険しい山道になる」

「さーて、ミーのフレンド達に助けてもらおうか、マキっちちょっとこっちへ」

「あ、はーい」

 リッカがぐいっと肩を寄せてくる。
 私との距離が近いほうが皆の力が増すことがわかっている。

「あ、ボクも魔法かけます!」

 なんか焦ってナギくんが私にくっついてくる。

「オレのアーツも使うぜ!」

 ナツも同様にくっついてくる。皆かわいいなぁ。

「風の精霊、大地の精霊、汝らが加護を我らに……」

「疾風が如き力を我らに、速度増加!」

「速度強化!」

 3人の魔法とアーツが全員を包み込む。
 リッカの精霊魔法によって山からの加護を経て滑落や落石を防いでくれて、さらに風の精霊による俊敏性の上昇、ナギ、ナツの速度上昇が合わさって……

「な、なんか、周りがゆっくりに感じるんだけど……」

「凄まじいな、周囲の刻が緩やかに流れるように感じるほどとは……」

「ふむ、興味深い……これほどの強化を行ったのは私達が初めてでしょう」

 ハクとトウジが難しい話をしている。
 試しに山道を登ろうと一歩前に出すと、まるでジャンピングシューズでも履いてるかのように身体が軽い、ジャンピングシューズなんて履いたこと無いけど。

「すごーい、たのしー」

 たぶん周りから見たら早回しでも見ているように私達が山を登っていっているんだろうなぁ……

『主、前方に魔獣の気配だ気をつけろ』

「皆ー、前に魔獣が居るってー」

「ウチに任せときー!」

 前方でのそーーーーっと動いているクマに似た魔獣の群れ、アキが弓を放つとトウジが魔法を付与して燃え盛る。降り注ぐ炎の矢は魔獣たちを撃ち抜く……

「ん? 効いてないの?」

 撃ち抜かれた魔獣はそのままその場に立ったままだ。

「いや、もう終わっとるで」

 スローモーションのようにボワッと燃え上がり、ポトリと魔石が落ちる。

「な、なんだか、変な感じだね……」

「いや、マキこれ凄すぎるぞ。
 相手からしたら知覚も出来ない内に倒されているんだからたまったもんじゃない……
 遠距離から全てが終わるから俺は必要ないなこりゃ……」

 その後も何度か魔獣(皆の話ではかなり高ランクな魔獣らしい)に出会ったけど、相手は何も出来ずにアキとトウジのあわせ技で倒されていく。
 山登りもまるでスキップ気分で登れるし、景色を楽しみながらのピクニック気分になってしまう。
 そして何より、普通なら中腹までも数日かけて登るはずなのに、昼過ぎには中腹の休憩所に到着する。

「あ、なんか変な感じだね強化を解くと……」

「空気が変わる。貴重な経験をさせてもらった」

「アキとトウジに任せっきりだったねー」

「いや、私だけじゃなくてアーツや強化を維持し続けていたナツとリッカにも驚いた。
 ふたりとも只者ではないな……」

「マキのおかげだ。ほとんど負担を感じなかった」

「マキっちのそばにいると精霊たちの機嫌がいいこと良いこと、さすがはマイワイフ!」

「リッカ、約束忘れたのか?」

「おっと失礼」

「何こそこそやってるのー?」

「な、何でもないでござる」

 フユは焦ると時々語尾がおかしくなる。

「あやしーなー……」

「皆ー、食事の用意ができたでー」

 アキは見た目に似合わず(失礼)家事全般完璧だ。
 全員の食事を休憩所で素早く作ってくれる。味も最高だ!

 中腹に造られた休憩所は簡易な生活設備が整えられており、今は魔獣の増加によって閉鎖されているけど、霊峰を訪れる人々で普段は賑わっている。
 周囲の警戒はヘイロンとリッカの精霊が行ってくれている。
 魔道具で魔獣が嫌がる音を放っているので二重の対策はしている。

「しっかし、信じらんないなここまで半日だぞ半日!」

「以前騎士の訓練で全速力で登ったときでも丸二日はかかったのに……」

「そう言えば高山病とかは大丈夫なの?」

「それはミーのフレンドたちが護ってくれるさぁ!」

「至れり尽くせりだねぇー」

「ま、マキさんに近づいているといくらでも力が湧いてきます」

 そっと近づいてきたナギをなでてあげると気持ちよさそうに目を閉じて撫でられている。
 ああ、前のナギを思い出すなぁ。

「あ、ずるいぞナギ!」

「ナツもくればいいじゃん、前だってお構いなしに擦り寄ってたくせにー……」

「い、いや、まぁそうなんだけどさぁ……」

 何を気にしてるんだろ?

「昔よりも皆がご飯自分で用意して食べてくれるから楽だねぇ~」

「マキお嬢様私めの食事はいかがでしょうか?」

「最っ高だよアキちゃん! 大好き!」

 ふふんと勝ち誇ったような顔をするアキちゃん。綺麗だなぁ~。

「自分も野外での料理は自信がある。今度アキ殿にも振る舞おう」

「オレも川魚料理ならなかなかのものだぜ!」

「俺だって野山の獣料理から野草やキノコ等を利用した料理など一通りは抑えている!」

「ミーの故郷の料理今度作るよー!」

「私も帝国風の煮込み料理を振る舞おう!」

「ぼ、ボクもお菓子作りには自信あるよ!」

「皆凄いねー! 今度パーティしようね!」

 それから何故か料理自慢大会になってしまった。
 予定よりもかなり早い道程になっていたけど、此処から先は今までと違って険しい山道になるし、ここのような休憩所は無いので、夜間を考えて明日の早朝に出発になった。

「小型だけどシャワーもあるし、十分だね」

「ウチがいうのもあれやけど、マキちゃんは女の子なんやからもう少しバスタイムを大事にせなあかん」

「耳が痛い……し、仕事が忙しくて……」

「こっちではちゃんとするんやで、せっかくこんなに綺麗な肌になったんやから!」

「あっ、もう! また変なとこ触ってー!」

 アキちゃんは隙あらばボディタッチしてくるから油断できない。

「くっくっく、男どもの怨嗟の声が聞こえてくるようやわー。あー、気持ちいい~」

「ん? アキちゃんなんか言った?」

「何でもあらへんよ~、ほらマキちゃんちゃんとここも洗わんとー」

「キャハハ、やめてよくすぐったいよー」

「くっくっく……」

 シャワーから上がるとなんか皆がアキちゃんのこと睨みつけてた、仲良くしないと駄目だよー。

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