アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第十話 山の上には洞窟が……

「いてて……」

 ハルは傷だらけの顔をナギに治療してもらっている。

「動かないでハルさん。顔の傷は綺麗に治さないと……」

「ハルがわりーんだぞ! 寝ぼけやがって!」

 ナツもちょっとバツが悪そうだ……

 超加速登山をすると空中に飛び出してしまいそうなので、山道の幅も狭くなった上部ではリッカによる精霊の加護だけにしている。
 それだけでもすごく歩きやすいし、サクサク進むことが出来る。
 時折山肌を疾走してくる魔物もいるけど、トウジとアキの餌食になっている。

「マイフレンド! 魔石の回収を頼むよー」

 リッカが精霊に声をかけると、地面に落ちた魔石はトプンと地面に飲み込まれて私達の手元に浮かんでくる。危険な山肌に降りなくても回収ができて便利便利。

「異常なほど魔獣が多いな……山頂部に近づいてもこんなに襲われるなんて……」

 ハルの傷はパット見では全くわからないほど綺麗に治してもらったみたい。
 あんまりじっとは見ていないけど……
 どうにも、ぎくしゃくしちゃう……

「さーて、目的の場所につきましたよー」

 リッカは山頂にほど近くに造られた小さな社を指差す。

「表向きは山の神を祀る祠。しかしてその実態は!」

 リッカは祠の扉を開け、御神体の置かれた台座に自分の指輪を押し当てた。

「ヨーロハマ=ピケル=リッカントが命ずる。精霊よ、秘められし道を我が前に示せ」

 ズズズズと地面が揺れ始める。

「な、なに? 地震?」

「ダイジョーブ! さ、火口へレッツゴー!」

「火口!?」

 リッカについて山頂部火口付近へと近づいていく、進入禁止エリアだが、リッカは迷うことなく歩いて行く。魔法の加護があるけど怖いものは怖い。

「ほーら、道ができてるでしょう!」

「おお! これはすごい!」

「うわー!」

 火口と言っても休火山、マグマがグツグツなんてことはない。
 火口内部に真っ白な足場が出来ていた。
 火口中心部に向かって螺旋状に……

「え……まさかこれ、降りてくの?」

「リッカ、これは魔法とかで飛んではいけないのか?」

 トウジが恐ろしいことを言う。
 正直ここに立っているだけでも怖いのに……

「あー、駄目だねーそれをすると入り口が消えちゃうよ!」

「ふむ、色々と考えられてるんだな……」

「お、落ちたりしないよね?」

「オー! マキ心配ならミーが背負ってあげようか?」

「それならマキ殿、自分が……」

「悪いから歩くよー……うう、怖いなぁ……」

 背負って歩かれる方が怖い……
 必死に壁側に寄りながら下っていく。
 皆ひょいひょいと降りていくんだもん……

「ここが、聖域への入り口。なんだけど……中は危険だから気をつけてね~」

「おいおい、今言うかね」

「はっはっはーどうせ行くしか無いし、準備は万全だろ?」

「まあな、マキがいればオレたちは最強さ」

「OK! それじゃぁ行こうか!!」

 時代を感じさせる扉を開くと……

「こ、これは……」

 大人3人がゆうに通れる通路の両壁には、絵物語が描かれている。
 歴史的、芸術的な価値がありそうだと素人目にもわかる。

「ここに描かれているのはー、太古の昔から伝えられた数々の物語。
 スワムホースの物語から、勇者の物語まで、教会に秘匿されている物もたくさんあるよ。
 なので、ここで見たこと聞いたことを外でべらべら話すと、教会から怖い人が来まーす」

「だから最初に言っておけってば……他にはないのか言ってないこと……」

「うーん、そうですねぇ。教会自慢の聖騎士部隊が今まで何度となくこの聖域の最深部へのアタックを試みましたがー。未だに一度も成功していないこと。勇者以外、この聖域を突破することは出来ない。
 なーんて言われてることぐらいですかねー」

「ふーん、つまり、今、目の前に迫ってる奴らは全力で排除すればいいんだな」

 ハルは剣を抜きながらニヤリと笑う。
 通路は緩やかなカーブを描きながら段々と広くなっていた。
 そして、カーブの先からドタドタと足音が聞こえてきていた。

「4足歩行……リザード系か……」

 フユも槍を構えて敵襲に備える。

「来るぞ!」

 ナツが私を庇うように前に出る。
 曲がり角から現れたのはでっかいトカゲ。
 ヌメヌメしてて大きすぎるために少々気持ちが悪い……

「うへぇ、剣が汚れそうだな……」

「なら任せておきたまえ。凍てつく風よ我力となれ!」

 トウジがくいっとメガネを持ち上げて魔法を唱える。
 広げた手の前に魔法陣が浮かび上がり突風がトカゲを貫く。

 ベキ、ベキ……

 体表のぬめりが瞬時に凍りついている。

「助かる!」

 アキが足を撃ち抜くとバキンと砕け散る。
 どうやらトカゲさんは芯まで凍りついているみたいだ。

「ふむ……マキ君といるとここまで威力が上がるのか……楽でいいな」

 ニヤリと微笑むトウジ。いじめっ子っぽいなぁ……

「もうトウジ一人でいいんじゃないか?」

「そうも行かないのさー。報告では魔法を跳ね返すやつもいる。
 まぁ、全員でかかればオールオッケー!」

「リッカさん、そういう情報は早めに言ってよ……
 聖なる力よ、我らを護り給え」

 ナギちゃんが可愛らしい声で魔法を唱えると全員の身体を暖かな光が包み込む。

「これは……プロテクション……いや……フルリジェクションか!?」

 なんだかハルが驚いている。

「ほう、王国にもこれがわかる人間がいるのか……」

「いやいやいや、こんな上位防御魔法をさらっと使う人間が帝国にいるなんて聞いてないぞ……
 しかも個人で……」

「普段はもう少し大変なんだけど……マキさんといると、頑張れる!」

 うーん。かわいい。

「そんなにすごい魔法なの?」

「そりゃそうだ、魔法攻撃、物理攻撃を防ぐんじゃなくて拒絶するんだから……
 こんなん常時使われたら無敵だよ……」

 ナツが呆れている。

「ナギ様がすごいだけで、帝国でもこんな使い手は他には居ませんがね」

「トウジだって実力では隊長より遥かに上だよ」

「黒の隊長は確か有名貴族の縁者だからーとか言われとったねぇ」

「アキはいい耳を持っているな」

「商人に必要なのは情報やからねー」

 トウジとアキが黒い笑顔で笑いあっている。怖い怖い。

 緩やかな下り坂は延々と続いていく。
 そして、周囲の様子がガラリと変わる。
 整えられた通路のような道から、いかにも洞窟と思われるエリアに変化する。
 同時に今まで薄っすらと壁自体が発光しているようだったが、一寸先は闇、道があるのかもわからない。

「ここで、光を焚くとうじゃうじゃと魔物が集まってくるから注意してねー。
 正解は、闇の精霊よ我らに闇を見通す光を与えたまえ」

 夜目が効く。そんなレベルじゃない。
 真っ暗だった洞窟内がまるで昼間と変わらないように見えるようになる。

『主、もし彼のような魔法使いがいない時は言ってくれ。
 私の力でも同じようなことは出来る』

「そーなんだー。ありがとーヘイロン困ったときは言うね」

『うむ』

 洞窟の形が変わると敵の量もまるで変わる。
 今までは通路に迷い込んだ敵を倒していただけだったみたいだ。

「ほほう、これだけの量の相手をするのは久しぶりだ。
 我が槍の錆としてやろう」

「手応えある相手も久しぶりだぜ!」

「聖なる力よ、我らを護り給え」

「風の力よ、敵を切り裂く刃と化せ」

 皆張り切ってる。バトルマニアって怖い。


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