アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第十一話 きちんと自分を見つめることにした……

「よいっしょー!!」

「マキー! あんまり先行するなー!」

「ヒャハハハたのしー!」

 剣をブンブン振り払うとレーザー光線のような物が飛び出して敵を切り裂いていく。
 これは、楽しい。
 敵の数も多いけど、楽しい。
 あれだね、無双系ゲームをやってる感じ。
 ヘイロンのお陰で今の私は無敵よ~!

「マキ君はノリノリだな」

「マキさん楽しそう」

「くっそ、マキに負けてたまるか!」

「ナツ殿、あまり無理はなさるなよ!」

 群がってくる敵を皆でボッコボコにやっつける。
 ハルとナツは息ピッタリのコンビネーションで敵を蹴散らしていく。
 トウジとナギ、リッカは3人でなんかすごい魔法を組み合わせて偉いことになっている。
 アキはフユの肩に乗って楽しそうに矢の雨を降らせている。
 フユはフユで撃ち漏らしを丁寧に駆除している。
 うーん。強い強い。

「精鋭聖騎士隊よりも今のミー達の方が遥かにパワフルだねぇ」

「それってつまり、世界最強ってことを意味するんだけどね」

 トウジのメガネが光る。

「魔王がいなかったら、世界中から狙われそうだよね」

「怯えんなってナギ、今のオレ達なら何が来たって返り討ちよぉ!」

「マキ殿の力は何なんだろう、我らの力を引き出す力……」

「それこそ聖女の力なんでしょう。マキ君……我が嫁……」

「だ、駄目だよトウジ、それにマキさんはボクの……ゴニョゴニョ」

「全く、みんな諦めるっちゅー事を知らんなー。
 ま、ウチはお友達やさかい、仲良くさせてもらうわー」

「……思うんだが、アキも我らの協定に入れるべきだろ。
 いつも風呂とか入ってずる、けしからん!」

「何の話してるのー?」

 敵の数も落ち着いて皆のもとに戻ってくると何やら私の名前を出しながら悪巧みをしている模様。
 いけませんねー。

「マキちゃーんお疲れさ~ん」

 ニヤニヤしながらアキちゃんが抱きついてくる。
 ちょっと汗かいてるんだけどなぁ。

「マキさんお疲れ様です。流石ですね!」

 ナギちゃんも満面の笑みだ。かわいーなー。

「それにしても、凄まじい量の魔石が……」

 トウジがリッカの精霊で集めた魔石を分析してくれていた。

「どれどれ……おお、これは一級品ぞろいやなー」

 トウジとアキが魔石談話で盛り上がり始める。
 魔石は魔道具の材料にもなるし、それらの魔道具を動かすエネルギーにもなる。
 いくらあっても困らない。
 さらに質の高い魔石は貴重なのでその価値は計り知れないらしい。

「さて、一段落着いたが、まだ先は長そうだ。
 時間的にもここに橋頭堡となる場所を作れるといいのだが……」

「そうは言ってもフユ、敵の真っ只中だぞ……」

「聖騎士達の報告だと、間もなく横穴があって、その先が行き止まりになっているので拠点形成をできる場所があるみそうだねー。っと、あそこかな? 精霊たちに探らせるよ」

「ナツ、周囲の掃除を終わらせるぞ」

「よっしゃ、任せとけ」

 人が二人通れるくらいの横道。
 その先はドーム状になっていて、ちょうどテントなどを展開できるエリアが存在した。

「中がストーンリザードの巣になっちゃってるみたいだねぇ。
 トウジ、ナギ、一緒に薙ぎ払うことにしよう」

「任せてくれたまえ」

「頑張ります!」

 静かに暮らしている魔物を蹂躙するのは少し可愛そうな気もするけど、背に腹は変えられない。
 散々切り裂いた自分が言えた義理じゃない……
 でも、死体とかが残る世界だったら……出来るかなぁ……

 3人の合体魔法で横穴は極寒の吹雪、全てを切り裂く風の刃に包まれる。
 その環境で生きられる生物は、いない。

「うう……寒い……」

「この中だけ極寒の地になったみたいだね」

 内部は凍りつき、吐く息を白くさせる。

「精霊よ、彼の地を整え給え」

 土の精霊が周囲の壁面や地面を綺麗に均してくれる。
 アキの取り出した魔道具が洞窟内を明るく照らし、そして温めてくれる。
 まるで室内のように洞窟が変化する。

「すごーい」

「外への通路も壁で偽装してある。魔獣ごときには気が付かれん」

「大気はウチのとこの商品できちっと管理してるさかい安心してや~」

 そう言いながらアキは室内を過ごしやすいように魔道具を取り出してフユやナツ達に指示を出して生活拠点を作成していく。
 あっという間に4LDKの過ごしやすい物件に早変わりした。

「聖騎士たちもアキっちがいればもっと楽だったろうに……」

「ところでリッカ、聖騎士はどのあたりまでここを制覇できたんだ?」

「実はミーが知る限り、もうしばらく進んだあたりで巨大種に出会って撤退しているそうなんだよねー」

「きょ、巨大種もいるのか……だからそういうのは早くだな……」

「良いじゃないか、結局進むしか無いわけだからな。
 巨大種か、久しぶりで腕が鳴る」

 フユが妙に張り切っている。
 楽しそうに槍のメンテナンスをしている。

「楽しそうだねフユ」

「いやー、やはり強大な敵と、特に巨大種との戦闘は心が踊ってしまいます。
 長き冒険の旅でも幾度か巨大種との死闘はありましたが、倒した時の達成感は格別でしてな」

「流石に巨大種を相手にしたことはないなぁ……」

「ま、今のオレらとマキとが力を合わせれば、なんとかなるだろ」

「頑張るよ私!」

「さて、明日からも頑張るためのうまい食事やで!」

「待ってました!」

 結構過酷な旅をしているはずだけど、美味しい食事を食べているとそんなことは忘れてしまう。
 大好きな皆と、のんびり旅をしている。そんな気持ちになってしまう。

「ほんとに、なんで私ここに居るんだろ……」

 当たり前の疑問が湧いてくる。
 ふとした時にかんがえてしまう。
 なんで私なんだろう?

「マキが来てくれて、ほんとに嬉しかったよ。
 それでいいじゃないか」

 ハルがまたイケメンなことを言ってくる。

「そうだぜ!」

「また再び皆でマキ殿と一緒にいられる。
 こんな幸せは他にはない」

 さらっと顔から火が出そうなことを言うナイスミドル。渋い! かっこいい!

「もう、フユそういうこと真っ直ぐ言わないでよ。恥ずかしいじゃん」

 中身の年齢から、これくらいの男性から言われると父性的な魅力で蕩けそうになりそうです。
 自分は父も母もすでに亡くしているから、余計にそうなのかもしれないなぁ……
 よく見るとフユは実直な経験と年齢が見事にミックスアップされた大人の男性の魅力が溢れている。
 いかんいかん、ハルのせいで色々とおかしい。
 火照りそうだった頬をパンパンと叩く。

「どうしたマキ君?」

 魔石を吟味していたトウジとアキも音に気がついて心配そうに私の顔を見てくる。
 このクールメガネ理系イケメンの普段はどS風な態度からの、心配そうな表情の破壊力は凄まじい。

「な、なんでもないですよ! あー、シャワー浴びてこよっと!」

 素っ頓狂な声を上げて逃げるしか無い。

「お、マキちゃんシャワーならウチも……」

「アキは駄目だ。ちょっと話したいことがある」

 ハルがアキの腕をぐっと掴む。

「マキはゆっくりシャワーを浴びてくると良い」

 ニッコリとイケメンスマイル。
 ううん……ここはイケメンパラダイス……

 疲れているみたいです私。シャワー浴びてゆっくりしよっと。

『主。それではゆっくりするといい』

 ヘイロンはシャワーの外で見守ってくれる。
 この子も精神的イケメンだ。
 ユニットバスみたいなシャワー、それでもまさか洞窟の中でシャワーをゆったり浴びれるのはありがたい。

 シャワーを浴びながら自分の水を弾く肌、水滴の流れる見事なプロポーションに見惚れてしまう。

「これ、あたしなのかぁ……」

 鏡に映る姿は西洋のスターのように整った顔。
 以前のじみーな慢性的に消えない隈を刻み込んだ疲れきった顔とはまるで違う。
 シワもない、押すと弾いてくるプルップルの肌。
 キラキラと輝きを見せる髪。
 何もつけなくてもみずみずしい果実のような唇。
 鏡に写っている自分とはわかっているが、あえて言おう。かわいい。本当にかわいい。
 それにこのスタイル。なんだこのメロンは。
 このくびれ、鍛え上げられボンッとしたヒップ!
 信じられん。モデルか何かだ。

「……くふふ……これ、このままこの身体で生きれば勝ち組じゃない……?」

 鏡に映る私は歪んだ笑みを浮かべても、かわいい。

「……仕事……大丈夫かなぁ……」

 獣医師という仕事、特にペットを相手にする小動物臨床と言われる場所で働く獣医師は、忙しい。
 8時から20時までの診療時間だけど、お預かりしてる動物のケアや経過を見るので7時前には病院に入っている。
 うちの病院は夜間も対応しているので、夜間のスタッフとの通達作業なんかもあるから私は6時半には通院している。
 夜も20時に閉めてもそれ以前にいらしゃってる方や、開いてると来られる飼い主さんは絶えない。
 結局だらだらと夜間診療の22時になっている。
 カルテの整理や、夜間スタッフへの引き継ぎ、一日中動き続けて日付が変わる前に家に滑り込む。
 そんな生活の繰り返しだった。
 日々全く異なる病気を相手にしながら、ワンコにニャンコにうさぎにハムスターフェレットインコに亀に魚、院長がなんでも診る人だったので本当に多種多様な動物の様々な病気と対面した。
 入院処置に手術補助、ワクチン、採血、レントゲン、歯科処置、超音波、心電図、病理検査、血液検査、レントゲン読影、ありとあらゆる仕事が雨あられと降ってくる。

「……でも、嫌じゃないんだよね……」

 もちろん辛いことも山ほどある。
 それでも、それらを全て言いと思えるほど、ありがとうと言われるのが、動物が元気になることが、新しい動物と出会えることが嬉しかった。

「……やっぱり、帰らなきゃ……」

 少し長いシャワーを浴びて、私のココロは定まった。
 この世界からの帰還。

 やっぱり、私は、それが目的。
 そのために、さっさと魔王を倒す!












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