アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第四話 久々のお風呂が気持ちよかった……

 薄々気がついていたけど、うちの子達、皆、異常なほど強い!
 ハルは剣と盾を見事に使って正統派騎士って感じ。
 ナツはナイフを両手に持って華麗に立ち回る。
 アキはものすごい弓の使い手。
 フユの槍は早い、強い、渋い!

 私もヘイロンのお陰で、借りた剣を振るうだけでなんか衝撃波が飛んでくようになりました。
 テヘペロ。

 あと、襲ってくるような目が赤く光っている魔獣は倒しても血が出ないでグズグズと溶けるみたいに死んじゃうので、あんまりグロくない。
 まぁ、動物を切ったりは仕事でしてたけど。
 あくまでも治療だから全然意味合いが違う。
 さらにゲームみたいなファンタジーでありがちな魔物もいるということがわかった。
 森を抜けて歩いていると、ドロドロぐちゃぐちゃのスライム、小さな鬼みたいなコブリン、夜になるとアンデッドのスケルトンとか、現実感がどんどん薄れていく。
 何かのゲームの中に居るのかな私。

 何度か野営もしたけど、アキが持つマジックバッグが便利過ぎる!
 魔法によって見た目よりも大量の物をしまっておけるんだって!
 めっちゃ高級品らしいけど、さっすが飛ぶ鳥を落とす勢いの商会の会長様!
 自分が鳥だけどね!

「皆凄いねー。私はヘイロンのおかげで凄いことになってるけども……」

「ほんとだよ、長年の鍛練が霧散するような気持ちになるよ……」

「マキが安全ならそれでいいけど、やっぱり神獣様ってのは凄いんだなぁ……」

 私の中でヘイロンが尻尾を振っているのがわかる。可愛いヤツ。

「ウチは商売柄、最初の頃は酷いもんやったから……生きるための技術やな」

「自分は槍の道場に生まれたお陰で、それなりの腕になった」

「トーンツリー流槍術の免許皆伝とか、国全体でも数人しかいないんじゃなかったっけ?」

「それを言ったらハル殿、サウザンドリーフ流剣術の奥義をその若さで使える方が……」

「ナツはんの怪しい暗殺術みたいな戦い方のほうが気になるんやけど……」

「ああ、うちの家系は影でちょっとな……なんか天賦の才能があるとかどうとか?」

 皆ハイスペックだなぁ……神獣に守ってもらって言えた義理じゃないけど。

「そう言えば王都までってまだ掛かるの?」

「後二日くらいかな? いやー、今考えるとこの道程を二日ちょいで移動できたのって奇跡だよなー」

「アーツを掛け合って無茶したからなー」

「そうそう、アーツってあのボワーってオーラみたいのが出るやつ?」

「ふむ、アーツと言うのはこの世界にある武術系の技術で、一部の人間が生まれながらに持っている才能の一つ。学んで会得できるスキルよりも効果が高く消費エネルギーも少ないと言うすぐれものだ」

「オレはスピード系アーツ、ハルはパワー系、アキはテクニック系、フユはディフェンス系だな。
 正直、これだけのアーツ使いが揃うことなんてまずありえねぇ!」

「冒険者で今まで数名に出会ったことはあるが、それくらい希少な存在だ」

「それに、マキちゃんと居る時に使うと、なぜか皆にかかるんよねー」

「ああ、アレには驚いた。あんなことは聞いたこともない」

 魔法もアーツと同じように生まれた才能で使えるか使えないかが決まるらしい。
 興味深い世界だなー。

「でも、何と言っても神獣を従えるマキの力だよね……」

「見たことも聞いたこともない、そもそも神獣がイースシティ帝国の神竜ヴァハルムーティア以外の存在を知らなかった」

『勇名は聞き及んでいる。何度も言うが、一応神獣と名乗ったが、本当にひよっこだから諸兄達が思うような圧倒的な力は無いぞ。せいぜい魔獣風情から主を護るぐらいと思っておいて欲しい』

「いやー、あのレーザーだけでも……」

 結構撃ってると気持ちいいんだよね。アレ。

「さて、やっと川沿いに出たな。
 ここからは街道が続いている。野営暮らしもおさらばだ」

「キャンプみたいで楽しかったけどなぁ!」

「アキのマジックバッグがあったから楽だったけど、普通は野営は大変なんだぞ、勘違いしないようにな」

「ふむ、日本に比べれば科学技術は遅れている。
 その代わり魔道具や魔法が発達しているがな」

「そうやでー、停電とかも無いし便利やでー。商品のアイデアはマキと暮らしとった日本を無意識に参考にしとったんやね。天才とかもてはやされとったけど、種がわかればマキのおかげやったんやね……」

「そうか、商店の仕組みもコンビニ的な発想なのか……」

「そやねー」

「ちょうど宿街が見えてきた。今日はあそこで泊まろう」

 ハルの指差す方に石造りで揃った建物が並んでいる。
 王都へと向かう中心街道沿いには何箇所か宿街があるそうで、常に賑わっているらしい。
 この世界へ来て初めてのハル達以外の人との接触に少しビビってます。私。
 この年になると、新しい人間関係を築くのは気が重いのです……人見知りだし……
 仕事? 仕事は仕事で割り切るからちゃんと飼い主さんとのコミュニケーションはとれます。
 そこはプロですから。……最初は酷いもので院長にはとんでもなくお世話になりました。
 だからきちんと院長に現状を伝えないと!
 無断欠席とか社会人としてあるまじき行為!

 ハルは宿街につくと迷うことなく一番立派な宿へと進んでいく。
 周りの建物に比べて明らかに作りが良いし、ドアとか係の人が開けてくれて、緊張します。
 そう言えば洋服はアキが幾つか持っていた商品を分けてもらいました。
 ヨーロッパみたいなデザインで、どこかのお姫様にでもなったみたいでワクワクしちゃいました。
 今の私はスーパーボディを持ってますからね。ふふん。
 日本の私は……聞かないで……

「うわーフッカフカ!」

 今までも野営とは思えないまともな寝所だったそうですが、やっぱりホテルのベッドは別物。

「それにしても、ハルとナツは凄いんだねぇ」

 ホテルに二人の家名の入ったナイフを見せたら、支配人まで出てきてスイートルームを全部貸し切りになっちゃったのには驚いた。
 それにアキの商品も多数利用しているらしくて支配人の腰が心配になるくらいペコペコしてたなぁ……

「マ~キちゃん! 取り敢えずお風呂やでー。
 上流階級の間で大人気の我がBBブラックバード商会自慢のバスユニット堪能してや~」

 私の服を剥ぎ取るように脱がしてくるアキの目つきが怖い。
 私の影からシュルリとヘイロンが抜け出してくる。

『私は扉の前にいる。主もゆったりして欲しい』

 紳士だなぁ……

「ちょ、アキ! どさくさに紛れてどこ触ってるの?」

「はぁ~~マキちゃんマキちゃ~~ん」

 なにこのおねーさん怖いんですけど。
 お風呂に入ってからもなんか一生懸命必死になって私の身体を洗おうとするアキを防ぎながら身体を洗う。

「すごいね~、お風呂はあの家よりここのほうが遥かに立派だねー!
 シャンプーとかリンスもあるんだねー」

「ふっふっふ、全て我がBB商会の商品でんがなまんがな!」

 素っ裸でふんぞり返るのは止めて欲しい。
 それにしてもアキのスタイルは同性からみても素敵だ。
 スーパーモデルがすっぽんぽんで目の目でふんぞり返っていたらこんな光景なんだろうなぁ。

「こんな広い湯船初めてー……あーーーーーーーー、気持ちいい~~~」

「この世界はあんまり湯船に浸かるって習慣がなくてなー。
 お陰で売れた売れたウッシッシ」

「凄いんだねーアキは。でも、お陰でこんな気持ちが良いんだから感謝しないとねーありがとねー」

「あーーーもーーーーーかわいーーーーーーマキーーーーーーー好いとーよー!」

「分かった分かった私もアキも皆も大好きだよー」

 ひっついてくるアキを引き剥がして素晴らしいお風呂を堪能する。

『主、何やら下が騒がしい。休息中にすまないが動ける準備をして欲しい』

 テレパシーみたいに頭に声が響く。

「アキ、なんか外の様子がおかしいってヘイロンが」

「ん~~? なんやろ?」

 急いでお風呂から上がって着替える。
 外に出るとヘイロンが私の影に潜む。
 そしてすぐにハルとナツが慌ててやってくる。

「すまないマキ、どうやら帝国の兵が来ているらしい」

「こんな王都に近いところに来るなんてなに考えてるんだか……」

「帝国?」

「イースシティ帝国。一応休戦中だが、サウザンドリーフ王国とは過去に戦争をしていた。
 トーンツリー共和国と同盟を組んでからは大人しくしていたんだが……」

「オレ達を狙って来たのか?」

「……ありえなくはないが……そこまで諜報の手が回っているとは考えたくないな……」

「取り敢えずフユが今様子を見に行ってくれて……なんか静かになったな……」

 確かに階下での騒ぎが落ち着いている。
 そしてドスドスとフユの珍しく急いだ足音が上がってくる。

「マキ殿、皆の衆、下に……下にナギとリッカ、トウジが来ておりますですぞー」

 フユも焦っていたのか語尾がおかしくなっている。
 それよりも……

 皆、我先にと階段を降りていく。
 私も喜びを抑えきれずに階段を駆け下りる。

 ホテルのカウンターの前で衛兵に囲まれている3人組。
 ひと目でわかった。

「トウジ!」

 黒いローブを羽織っているメガネをかけた知的な青年。クールイケメン。
 姿は変わってもわかる。メガネみたいな模様が可愛かったモルモットのトウジだ。

「リッカ!」

 やけに派手な服を着て、なんか濃い顔つきと真っ赤なとさかみたいなリーゼント。
 日焼けなのか茶色い肌、茶色の暴れん坊のニワトリのリッカ。

「ナギ!」

 白いローブを羽織った。なんていうかショタ? 形容詞はかわいい。
 中性的なかわいい青年、少し臆病だけど優しいうさぎのナギ。

「「「マキ」」」「君!」「っち!」「さん!」

 思わず抱きついてしまう。
 家で飼っていた全員が無事でいたことが何よりも嬉しかった。








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