話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

君は僕の気持ちを知らない

ノベルバユーザー13583

野球盤

僕は渾身のボールを投げ込む。
バッター先ほどツーベースを放っている強打者の未来。

彼女は向かってきたボールに対して綺麗な軌道でバットを出す。 

このバッターはどんなにタイミングを外してもスイングの軌道は絶対に崩れない怪物ヒッター。
しかし、彼女が振ったバットに当たる瞬間ボールが横に移動する。

『これでスリーアウトだね。』

『くぅ〜あそこはスライダーですか…』

『未来もまだまだだね〜』

『ふん、樹君を簡単に抑えて次の回で逆転してやりますよ。』

『そういう事は一度でも三者凡退に抑えてから言いなよ。』

僕が挑発すると未来は悔しそうに拳を握る。

今僕たちがやっているのはリアル野球盤ではなく普通の野球盤だ。

何故、僕らが野球盤をやっているかというと昨日の出来事から話さないといけない。




9月も後半に差し掛かったこの時期。
僕らはテレビで高校野球の県大会決勝を見ていた。

試合は春の甲子園を賭ける大事な試合で取っては取り返すシーソーゲーム。

選手の誰もが真剣で顔に黒い土がついてることなんて御構い無しで、こっちまでドキドキして握る手には汗が吹き出る。

結果は延長で隣町の強豪校がサヨナラタイムリーで勝利した。

『凄かったね…』

『そうだね…でも、負けてしまった方も可哀想…きっと、今まで必死になって頑張って来たのに…』
彼女はそう言って顔をうつ向く。

『別に彼らもこれで終わりではないよ。まだ、地方大会で結果を残れば甲子園に行けるし、もしそれがダメでも夏があるからね。どの高校も今は新チームでまだまだスタートしたばかりだからこれからだよ!』

『そうだね…』
彼女はそう言って笑った。

たぶん、彼女は普通に笑っているつもりなのだようけど僕にはその笑顔がひどく寂しげに見えた。


最近わかったのだが未来はよくテレビを見る。
見るジャンルは様々でスポーツから漫才、音楽、歴史物、アニメなど幅広く見ている。

そして、放送されている最中の彼女は目をキラキラされてテレビを見ている。
しかし、番組が終わると同時にひどく悲しい表情なっている。

まるで、魔女の魔法でパーティに参加出来たシンデレラが魔法が解け夢から覚めてしまって普通の小間使いの戻ってしまったかの様に…

きっと、彼女はテレビを見ている間は魔法にかけられたかの様にテレビの中の世界にいるのだと思う。
しかし、番組が終わると同時にそんな訳ないと魔法が解けたかのように現実を突きつけられ自分に失望しているだのように感じる。

もしかしたら、僕の勘違いで、ただ好きな番組が終わってしまった事に対して残念なだけかもしれない。

事実がどちらかは本人しかわからない。

でも、僕は彼女のその表情が頭に残った。

そして、今日僕は家の倉庫にあった野球盤を持って彼女の病室に入った。


そして、冒頭に戻る。




6回の表、2対3で樹がリード。
ツーアウト、ランナー2,3塁。2ストライク 2ボール。
バッターは先ほどタイムリーを放っている樹。

ピッチャー未来が投げた。
ボールは真ん中のストレート、完全なる失投。
(貰ったーー!!)
樹は心の中で叫びながらバット振る。

しかし、バッターのバットは空を切る。

タイミングはドンピシャだった。
現実の野球ならどう変化した所でバットには当たっていただろう。

しかし、これは野球盤…
リアル野球盤にはない、野球盤にしかない切り札がある。
消える魔球…バッターの目の前で消える変化球、見送ればボールになるが振れば当たらない変化球。

まさに、魔球である。

『甘かったね。樹君』
空振り三振をした僕に未来はドヤ顔で言って来る。

(クソー!!)
ゲームだとわかっていても暑くなる樹であった。


それから回は進み、最終回、ツーアウト満塁、2ストライク、2ボール

バッターは未来、ピッチャーは僕。

この試合、樹はすでに恥など初回の時点で完全に捨ている。

初心者である未来に対して初回にボロクソに打たれあっさり2点を取られた樹は、未来にはあえて言っていなかった消える魔球を行使して何とか抑えた。

使った時は『こんな変化球あるなんて聞いてない!』とか言っていたが『ごめん、ごめん忘れていたよ。』と言って誤魔化し未来にもやり方を教えゲームを再開した。

その時から、樹は手加減と言う言葉が綺麗さっぱりに頭から消えた。

そして、何とかコツコツと点を取って2対3にしたのだ。

えっ、初心者相手に本気って大人気ない?
知らない言葉ですねー

大体、見た目はアレだか相手は自分より一つ上。言うなら僕よりも大人だ!大人気ないなんて言葉存在しない。
しないったらしない!

野球盤には3つの変化がある。
スライダー、シュート、消える魔球。

しかし、実は野球盤には隠された変化球が存在する。
その球は野球盤の機能には無く、操作する人の技量で生まれる変化球チェンジアップ。

野球盤で投げる球はどの変化でも大体スピードは同じでありストライクとボールさえ見極めれば同じタイミングで全て打てる。

だからこそ、緩急つける事が出来るこの球は野球盤の裏魔球と言っても過言ではない。

結果は、未来の空振り三振で樹の勝利で幕を閉じた。

勿論そのあと、未来の抗議は凄かったが『切り札は最後まで隠すもんなんですよー』と言って未来の言いがかりを全て無視をして勝ち誇った。

たぶん、もう未来に勝つ事が出来ないので、その分、今は大いに勝ち誇らせて貰った。

その後、3日間ずっと未来に野球盤に付き合わされ、想像した通り僕はアレから一度も未来に勝つ事はできなくなった。




「君は僕の気持ちを知らない」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く