God Darling

豊永彼方

第3話 あれから3年後

 『福山翔哉ふくやましょうや』が死んだ日、そして新たに『ショーヤ』となった日。あれから3年経ち、俺は立って動けるようになった。姿は前世とは違った。顔の造形や性別は大体同じだった。変わったのは髪や目の色と、泣きボクロ。前世は日本人らしく真っ黒だったものが、今世では紫紺の髪に、金色の瞳、左目の下に泣きボクロが出来ていた。色が違うだけで印象が変わると実感したときだった。喋れる、動ける。これが出来るようになってからは不便が少なくなった。ただ、一番の不便なこと、それは身長だ。こればっかりはどうしようもない。そんなことは俺にも分かっている。届かなかった場合はジャンプするか台を探すか、大人を探せば良いのだから。ただ!問題はそこではない。困っているところを見られたり、特定の大人に頼んだ場合、『おぉ~チビ、助けてやろうか』と言う風に『チビ』と呼ばれること。

 (子供のときの癖は残るんだぞ!?俺も昔は母さんに翔子ちゃんと呼ばれて直すよう強請してから直ったの2年後だったし!)

 つまり、俺が懸念していることは一つだけだ。─このままだとずっとチビと呼ばれること。──

「っんっなもん、許せるかぁぁあ!」
「…………何が、許せないのかしら」
「へ、あ、す、すみません!」
「そんなに余裕なのであれば、もっと詰めるわよ」

 ただいま、歴史の時間。講師はクルト、クロやハクと同じ神に属す存在だ。但し、クルは綺麗な女性で、金狐。だからか髪は綺麗な金色で、瞳は茶色だ。けれど、怒ると怖い。笑いながら冷気を漂わせてくる。
 3年前から毎日歴史をやってきたからか、それなりに知識は詰まっていると思う。……多分。子供脳と前世の脳に感謝だ。
 まずこの世界は【ラクロス】と呼ばれていて、魔法が発達している。そしてラクロスには6大陸が存在すると言われ、俺がこうして生活している国は【ニルヴァーナ】と言うらしい。言い伝えでは神々が住まうことから神の国と呼ばれるらしい。

 (うん、間違ってはいないな。この人ら神さまだし。)

 そして、細かくするとニルヴァーナのヴェスラルという場所らしい。クルによるとニルヴァーナの奥の方だとか。
 ラクロスには幾つかの種族がいる。
 まずは魔族、細かくするとキリがないから魔人という括りらしい。魔法に特化している種族だ。魔族は寿命が長く、場合によっては1000年も生きるらしい。
 次に獣人族、獣人族は大きく分けて2つに分かれる。1つは半獣、耳や瞳が獣になったり、尻尾が出来たりするのが特徴だ。この獣人族を【ラティス】という。獣だけでなく、鳥もここに分類するらしい。細かいことは気にするな、だ。もう1つは全身が獣姿で、獣が2本足で歩いているようなイメージ。完全に獣の姿でも人と同じような動きをして、人と同じ言葉を喋ることが特徴とされている。この獣人族を【ニクス】という。
 そして、肌が青いことが特徴とされる青人族せいじんぞく。この種族は変色機能、所謂地球で言うカメレオンのような機能を持っていることが注目されているようだ。
 最後に、人間ヒューマン。特に大きな特徴は無いが、集団行動による作戦が特徴とされているらしい。他にも魔法を扱える点など。
 俺はヒューマンらしい。正直、獣人とかカッコいいなとか思ってみたけれど、俺の大好きな下剋上をするにはヒューマンくらいがちょうどいい。
 大きな差別などは無いらしいけれど、ヒューマンは肩身が狭いらしいから。威張り散らしている奴らを蹴落として、伸びきった鼻をポッキーンとするにはちょうどいい。
 今日から俺は実技が始まる。クロと約束をして3年、知識も充分と判断されたのだ。もちろん、実技というのは保健体育の〇〇〇〇というものではない。ちゃんとした格闘訓練だ。講師は神狼のライ。
 ライは銀色狼だ。よってヒトガタの容姿も銀の短髪、青灰色の瞳。右目に縦の傷痕があった。そして、かなり強い、らしい。前にクロが言っていたのだ。

『ライは強い。普段は加減してくれるが……怒らせたら生きて帰れるとは思うなよ』

 ──はあ、憂鬱だ。ライに鍛えてもらえれば強くなれるってことは分かっている。でも、クロからそんなことを聞いたら恐ろしくて仕方がない。クロだってかなり強い。1回本気で怒らせたことがあった。そのときにはデコピン1発されて終わった。けれど、その1発が酷かった。ピンッと弾かれた瞬間、俺の体は家の外にあった(とは言っても数百メートルは離れている)木に勢いよくぶつかり、木が折れてもさらに飛び続けた。そうして何回も木にぶつかりようやく止まったのは家から1㎞地点だった。木がなかったらどこまで行ってたやら……。それ以来俺はクロを怒らせないようにしている。ちなみに、そのとき俺はあばらを何本か、手足の骨を粉砕骨折していた。

「……あのときは死ぬかと思ったなぁ」
「……今、ここで死んでもいいのよ…?」
「ひっ……!す、すみません!」

 やっぱりクルも恐ろしい。女性は怒らせたら怖いのがほとんどだ。母さんや妹も怒らせたら怖かった。
 そう言えば、全身骨折したときはクルが加護かけて助けてくれたんだよな。じゃなきゃすぐに死んでいた。そんなもの、ごめんだ。死因がデコピンなんて。

「……あっ!」
「……今度は何かしら」
「く、クル!魔法の訓練も今日からだっけ?」
「……はあ、ずっと集中してないと思ったら。その口調だとライの訓練が怖いの?」
「ひぇ!?い、いや……ライに鍛えてもらえれば強くなれるって分かってるよ?でも、……クロが『ライは強い』って言うから」
「ああ、クロードも強いものね。ライも強いわ。けれど、怒らせなければ平気よ。それにライは貴方の事を溺愛してるから。早々そんなことはないはずだわ」

 ライが、あのライが俺を溺愛?見た目3歳でも中身19の俺を?いや、俺のこと知ってるよね?
 あれから、俺は自分のことについてここの神さま達に説明した。前世のことと、今世の事を全く知らないこと。言っていないことは、唯さんのことと、恋人いない歴や童貞について。そんなこと言わなくていいだろ?

「おい、そろそろ実技だぞ」
「あら、噂をすれば、ね」
「ひぃ~……」

 実技訓練が始まる予定の2分前、クルと勉強をしていた部屋にライが態々迎えに来た。怖くて怖くて仕方がないのに、その元凶が迎えに来た。

「あ、そうそう。おちびさん、私の特訓のときに寝たりしたら……うふふっ、どうしてあげようか・し・ら♪」
「ひっ!?ね、寝ません!寝ませんから!」
「ああ、俺のときにも気絶なんかしたときは……」
「なっ、なんで!?」

 金狐のクルトは二重人格ではない。ではないけれど、授業の時とそうでないときとで印象ががらりと変わる。授業中は常に冷静な人、それ以外は……人で遊ぶのが大好きな姐御に。悪趣味だとは思う。なのに、何故か最近のクルのお気に入りは俺らしい。理由は『他に飽きたから』。それを聞いたときはなんじゃそりゃ、と思ったぐらいだ。

「ほら、チビ。行くぞ」

 ライにひょいと担ぎ上げられる。ライは身長が大きいのだからすぐに担ごうとするのを結構本気でやめてほしい。しかも俺は縦にも横にも小さいのに肩に米俵担ぐみたいに担ぐから。俺はいつも担ぎ上げられる度にヒヤヒヤもんだ。それに肩の骨が腹に刺さってかなり痛いです。それを嫌がって暴れても押さえつけられるから余計に痛くなるという悪循環。

「……っ、もう!ライ降ろせよ!歩ける!それからっ、俺はチビじゃない!」
「はいはい、暴れると落ちるぞ。チビ」
「だっからぁ!チビじゃねえっての!言葉通じてんのか!?」
「うるせえぞー」
「聞けよ!」
「聞いてるぞ」
「わざとスルーかよ!?俺はチビじゃない!」
「チビはチビだろ」
「ああぁぁぁああ!!前は大きい部類だったのに!」

 前世は178㎝はあってそれなりに大きい部類だった。なのに、ここではチビチビチビ。だあっ、苛つくッ!ナメんなよ、すぐにその背ェ追い抜いてやるからなァ……
 ライに呪いをかけていたところで武道場についてしまった。武道場に入るとライに摘ままれてポイッと投げ捨てられる。それを上手くバランスを取って着地する。慣れたものだ。武道場は初めてだったけど。

「ほら、始めるぞ。まずは自己流で来い。見極めてやる」
「………は?」

 今、コイツは何と言った?自己流?武道どころは授業のみ、喧嘩はまともにしたことがない俺に対して?

 (嘘だろ……最悪だ)

 それにこの体格差じゃまともに相手をされるわけがない。無知な餓鬼とは違いそれぐらいは分かる。現実を理解して、動けなかった。

「……どうした、来ないのか?来ないで、やる前から諦めるのか」
「……チッ、っざけんな。誰が諦めるって?ナメんな!らぁ!」

 完全に挑発だろうが、理解した上でそれに乗ってやる。そのまま短い足で走り、拳を握り、ライに思いっきり振りかざした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品