異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

化物

もう一度振り下ろされた腕を、クオは八百万で防ごうとする。

しかし、先ほどでもギリギリ拮抗に持ち込めていた攻撃なのだ、今の明らかに膂力が増した状態の男が放つと威力はまさに桁違いであり、受けきれなかったクオは勢い余って吹き飛び、壁へと激突した。

「クオ!」

珍しく焦った様子でルノが叫ぶ。

それに反応したのか、壁が崩れたことによる土煙が収まらないうちに、クオが立ち上がる。

額から出る血を拭い、自らに回復魔法を使い傷を塞いだ。

「……物理ダメージ7割カットでもこんな喰らうのかよ……」

忌々しそうにそう吐き捨てると、もう一度肉薄する。

身体強化、風魔法などによる行動のアシストをしながら、化物と打ち合う。

しかし、威力は軽減できず、打ち合う度に腕が折れ、それをまた回復して、と捨て身のごり押しの戦法だった。

武器を持たなくなったことにより、先ほどよりも攻撃の間隔は短くなり、体の防御力も上がっているのか、八百万で切りつけた場所も、すこしの傷しか入らない。

(アスタ、何か対策はあるか?)

藁にもすがるといった様子で、クオが尋ねる。

『はい。おそらく、彼がこうなったのはジャガーノートが関係していると思います』

(?あの戦斧がか?)

『今調べましたが、先ほどあった場所はもとより、半径10キロの範囲内のどこにもジャガーノートが見当たりません。おそらく、融合に近いことをして物理に特化した結果があれだと』

(なるほど。つまりあの戦斧の特性を引き継いでるんだな?)

『おそらくは、ですが。……なので、やはり魔法などが有効だと思います』

それを聞いたクオは、魔術を放とうとするも、あまりの凄まじい攻防に発動するひまもなく、苦肉の策として八百万に風魔法のエンチャントを施た。

やはりアスタの推測は正しかったのか、先ほどとは比べ物にならない程の傷を負わせることができていた。

今までは薄皮一枚といった様子であったが、今の攻撃では肉が裂け、少量ではあるが血が垂れてきた。

「お兄様!」

「クオさん!」

繰り返すこと数分、綱渡りの様な攻撃を続けているにもかかわらず、未だに決定的なダメージは与えられていなかった。

そんななか、クオを呼ぶ声にちらりとそちらを見ると、そこにはフィリアとルッカがいた。

「なんでいるんだ」

「サタナさんが周りの残党は倒したから私も乗り込むって入っていってしまって。私たちはどうしようかと迷っていたところにすごく大きい怪物とそれに立ち向かうクオさんが見えたので……」

ルッカたちの隣に立つルノの表情はとても不安げで、手助けに入りたいのか、足を踏み出そうとしては引っ込める動作を繰り返していた。

今駆けつけた2人よりも早くからこの状況を見ているので、ルノの不安はとても大きいものになっているだろう。

「アァアガアアァ!」

相手が少しの間でも他の場所に視線を向けたのが気に食わなかったのか、化物が大きく手を振りかぶり、さらに威力の高い攻撃を喰らわせようとする。

それを見て表情を硬くする3人。

そんなルノたちをみてクオは歯がゆそうな顔をするが、まずこの攻撃をなんとか防ぐため、すぐに化物へと向き直った。

そして、再び攻防が激化しようとしたとき、

クオは何かに気付いて飛びのいた。

その次の瞬間、

ボンッ!

そんな、気の抜けた、あまり脅威を感じない音とともに発した爆発で、

化物の頭が、吹き飛んだ。

それを見たクオが驚愕の表情を浮かべる。

その理由は、突如魔法が飛んできたこと、そして、

発動した瞬間に消えたから派手さはなかったが、発動したのは初級魔法。

にもかかわらず、おそらく完全に発動すれはクオの水蒸気爆発に少し劣る程度の威力であると分かったからだ。

「ルッカーー!」

魔法が飛んできた方向と同じところから聞こえてきた声。

正体を確認するべくクオが振り返った先には、

「ルッカ。久しぶりー」

「もうお姉ちゃん!勝手にいなくなったら心配するでしょ!」

「……ご、ごめん。許してー!」

ルッカに頬ずりする、桃色の髪の少女と、

それを引き剥がし説教をするルッカの姿だった。

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