異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

閑話 デート (ルノ)

「……ここ」

「そうか」

素っ気なく返しているように見えるクオは、看板を見て隠しきれていない安堵の表情を漏らしていた。

キャサリンなどと書いてあったらどうしようかと考えていたクオは、クレアと書かれた看板に、内心かなり喜んでいたのだ。

「いらっしゃいませ。本日は、どのような服をお探しでしょうか」

2人が店に入ったのに気付いた店員が、声をかける。

「ああ。今日はこいつの服を買いにきたんだ。俺は細かいことはわからないし、ルノは店員に聞いて決めて来いよ」

「……ん。感想は聞きにきていい?」

「……あ?別にいいが……。あんまたいしたこと言えないぞ?」

「……ん。クオの意見が聞ければ十分」

ルノは頷くと、店員のもとへ行く。

「……これ、どう?」

しばらくしてやってきたルノは、白のキャミソールの上に黒のカーディガンを羽織り、赤いスカートを履いていた。

「……ああ。似合ってるな」

「……可愛い?」

「ああ」

「……」

「可愛い可愛い」

「……てきとう」

可愛いと言われるまで視線で訴えたルノだったが、若干投げやりにいわれ頰を膨らませる。

だが結局可愛いと言われたことに満足したのか、それ以上は何も言わずに去って行った。

「お、終わったか?」

「……ん。これ」

そう言って取り出したのは、先ほど見せにきた服と、

「お前、これ」

黒のネグリジェだった。

見た感じ生地がかなり薄く、ルノのような美少女が着ると目のやり場に困ること必須だろう。

「……薄くないか?」

「……平気」

「これを着るのか?」

「……ん。着るのは寝るときだけ。……だから、これを見るのはフィアと……クオ、だけ」

クオという時に合わせて手を口に当て妖艶に微笑むルノ。

そして自然な流れのままクオと腕を組んだ。

今日一日中どこか積極的だったルノに付き合っていたクオは、ドギマギは多少するものの、概ねいつもどおりに対応することができるようになっていた。

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「だいぶ暗くなったな」

あれからのんびりと帰っていると、空に星が見えるような時間になっていた。

「……ん。早く帰らないと、フィアが心配する」

そう言って歩く速度を少し速める2人。

実際もう少し遅くなることも考えた時間を帰る時間としてフィリアには伝えてあるのでフィリアが過度に心配するようなことはないのだが、にもかかわらず速度を上げたことから、2人がフィリアを心配しているのだと言うのがうかがえる。

大通りから外れた今、静けさに満ちた空間に2人の足音だけが響く。

ふとクオが隣を見ると、ルノは魅入られたように、空のただ一点を見つめていた。

その視線の先を追うクオ。

「……月か」

「……ん」

「……クオ」

「……ん?」

「……ありがとう」

「どうしたんだ?急に」

「……月。私の、ルノの由来の1つを見て思った」

そう言ってルノはまたふと月を見る。

「……凄く、綺麗」

「ああ」

「……こんなに綺麗なものが、私の名前にはこもってる。……私のこの髪を見て、こんなに綺麗なものを想像してくれる」

「……私は、この髪が嫌いだった。……この髪のせいで、お母さんとお父さんが大変な目にあった。みんなが私を見てくれなかった」

「……でも、同じ色の髪の妹ができた。……フィアは、私をルノお姉様って慕ってくれた」

「アーシャさんは、私を受け入れてくれた。
娘みたいに扱ってくれた。……たまに、お母様と重なるくらい、私にとっても大事な人」

「クオは、私に名前をくれた。居場所をくれた。大切な人たちにルノって呼ばれるのが、……嬉しい」

「……だから、ありがとう。私を救ってくれて。……一緒にいてくれて」

「……ああ。まあ、なんだ。……この日常が好きなら、飽きるまで続けてやるよ」

「……ん。……クオ」

「……どうした?」

ルノの呼び掛けに、耳を傾けたクオ。

若干屈んだ姿勢になる。

そこへーー

「……ありがとう」

囁くようにそう言ったルノ。

その声はかなりの熱を帯びており、反射的にクオは顔を仰け反らせた。

その様子を見て、頰を膨らませるルノ。

「……ひどい」

顔を仰け反らせられたことに不満げなようだった。

「……いや。……すまん」

自分が悪いと分かっているのだろう。

ばつが悪そうに、目をそらしながら謝るクオ。

その様子にルノはクスリと笑うと、

「……変なクオ」

「……あのなあ」

明らかにからかわれていることに気づき、呆れた表情を見せるクオ。

しかし、それを見たルノは嬉しそうに、抱きつく腕の力を強める。

なんとなく、クオはルノには強く言えないのである。

普段からくっつかれているからこそ分かった、ルノのいつもよりほんのり高い体温を感じつつ。

これから先も、ルノには敵わないんだろうな。

そう思いながら、空を仰ぐクオだった。

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