異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

初めまして

ルノとフィリアは目の前の男の威圧に竦み、ガタガタと体を震わせながら、腰を抜かしてへたり込んでいた。

八百万を構えるクオも、硬直したまま動くことが出来ない。

『もう、何もしていないのに怯えるなんて失礼だなあ』

そう言った男はケラケラと笑っているが、その瞳は、どこまでも暗く、人間味が感じられなかった。

殺意はない。

しかし、男の纏う雰囲気は龍などとは比べものにならない、絶対的な死を想起させるものだった。

何故クオたちが男と相対しているのか。

それは数時間前にさかのぼる。

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帰ってきた3人(と1匹)は居間でくつろいでいた。

「……疲れましたあー」

「……ん」

フィリアはソファーにくでっと寝そべって呟き、ルノはそんなフィリアを膝枕し、フィリアの頭を撫でながらも、背もたれにもたれかかっている。

あの後、武器の性能を調べるために魔物を狩ったりしていた。

ただ帰るだけでなく、思いの外寄り道をしたので、2人は疲れていたのだ。

「……でも、途中でお兄様が運んでくれましたから……えへへ」

「……クオ、かっこよかった」

フィリアはにへらとだらしなく頰を緩ませ、ルノもフィリアを撫でていた手で自分の赤くなった頰を抑え、うっとりとした様子で一点を見つめる。

疲れた2人を、途中からクオがお姫様抱っことおんぶで運んだのを思い出していたのだ。

「……ま、まあ。あれくらいで喜ぶならまたしてやるよ」

ルノに見つめられたクオが言う。

しかし、検証が楽しくてついついやり過ぎたのはクオなので、申し訳なく思っているのだろう。

その証拠に、若干見てくるルノから目を逸らしていた。

「ほんとですか!?……あ、ルノお姉様。膝枕ありがとうございました!」

それを聞いたフィリアが、先ほど疲れたと言ったとは思えない勢いで跳び起きる。

その時に、ルノへのお礼を忘れないあたりできた子である。

「……ん。どういたしまして。……クオ。じゃあ次はデートの時。……いい?」

さらっとデートの約束を取り付けようとするルノ。

「……あ、ああ」

そんな2人にクオはタジタジであった。

「な、なるほど……。特別感をだすのですね?」

「……ん。デートの時に頼めば、クオは私たちを意識するはず。……それに、私たちも嬉しい」

「さ、流石ルノお姉様です!」

「……ん。さっきも言った。……2人で頑張る」

「はい!」

2人で囁きあった後、グッと拳を握る。

内容が聞こえなかったクオは、首を傾げる。

しかし、龍は聞こえたようで、

『プププ、主人も隅に置けないのじゃ』

と、明らかに小馬鹿にしたような、演技臭い芝居をする龍を、クオは窓から全力で放り投げ、暫くした後風魔法で回収する。

『ヒ、ヒュッ。と、突然のこと過ぎて、反応が出来なかったのじゃ』

怖過ぎて、若干龍は呼吸困難っぽくなっていた。

「お前、呼吸どうやってしてるんだ?」

『そ、そこ?そこなのじゃ?も、もっと労ってくれてもばちはあたらんぞ?』

「?なんで?」

『素で返されると困るのじゃが……』

「で、どうやってるんだ?」

『ついに取り合ってもくれないのじゃ……。そ、それはじゃな、まあ気分じゃよ気分。龍だったからの、呼吸が出来なくても何となくしたようになるのじゃ』

普通に答えた方が会話が繋がるかもと、真面目に答えた龍だったが、肝心のクオは、

「へえ」

の一言だけ言うと話をなかった事にした。

龍がもしも人化が出来ていたら間違いなく四つん這いになっていただろう。

「お、お兄様!それは何ですか?」

いたたれまなくなったフィリアは、クオが持っていた紙を見て尋ねる。

「……ん?ああ、これは地図だ」

「「……地図?」」

ルノとフィリアは何故そんなものをとでも言いたげに首を傾げる。

「ああ、この村を出ようと思ってな」

「……え?…………お、お兄様、出て行くんですか?」

「……」

「まあな、フィリアを生贄にされた時にはもう出ようと決めてたんだよ」

フィリアの質問を肯定したクオ。

それにフィリアは、

「ぐすっ、えぐっ、そ、そんなあ」

と泣き出し、

「……」

ルノは無言だが目の焦点が定まっていない。

「!?……ど、どうしたんだ?」

そんな2人の様子に珍しく慌てるクオ。

そんなクオにフィリアは半ばタックルをするように勢い良く抱きつく。

遅れて同じ様に抱きつくルノ。

「な、なんだ?」

「お兄様、お兄様!嫌です、置いていかないでください!」

「……」

泣き出し、必死に引き止めるフィリアと、言葉が出ないのか、無言だがいやいやとクオの胸に頭を擦り付けるルノを見て、やっと理解したクオ。

「……い、いや、2人も連れて行くつもりだったんだが……」

「……え?」

「……?」

涙目のまま、クオを覗き込んだ2人は、言葉の意味を理解すると、恥ずかしそうに顔を赤くした。

「……も、もう!そう言う事ならちゃんと言って下さいお兄様!」

「……酷い」

そう言いながらも2人は若干嬉しそうに微笑んでいる。

そんなほんわかとする雰囲気の中、

『プクク。あ、主人説明下手なのじゃ!言葉が絶対的に足りないのじゃ!コミュ症ってやつなのじゃ?』

全く学習もせず、空気を読まない発言をした1匹が、今度こそかなりの間投げ捨てられたまま放置されたのは言うまでもない。

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時間を置いて、刀を風魔法で拾おうとした時、違和感に気づく。

辺りが余りにも静かだった。

その事に眉をひそめるクオ。

そこに、

『初めまして、クオくん、フィリアちゃん、ルノちゃん』

と、軽薄な声が響く。

それを聞いた途端、クオの背筋に凄まじい寒気が走る。

バッと一瞬で臨戦態勢になり、手に戻した八百万を引き抜くクオ。

その先にいたのは、白いローブを着た男だった。

後ろを確認するも、既にルノとフィリアは腰が抜けて立てていなかった。

実際、クオも男の放つ圧に体が動かない。

『もう、何もしていないのに怯えるなんて失礼だなあ』

そう言った男はケラケラと笑っているが、その瞳は、どこまでも暗く、人間味が感じられなかった。

殺意はない。

しかし、男の纏う雰囲気は龍などとは比べものにならない、絶対的な死を想起させるものだった。

「お前は誰なんだ?」

なんとかクオが紡いだそのセリフに、男はわざとらしく額に手を当てる。

『ああ!そうだった!僕としたことが、名乗らないなんてこっちの方が失礼だったね!ごめんよ?』

そこで、ゴホンと咳払いをすると、

『では、改めましてこんにちは、そして初めまして!僕はーー』

『唯一神やらせてもらってる、ロキと言います!』

と、肩書きに合わないおちゃらけた様子で、

『よろしくね?』

にっこりと微笑んだ。

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