異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

決着

『それで、もう策は尽きたのかの?』

龍の挑発に、クオは何も言わず駆け出す。

余裕ぶってはいるが、実際に龍の皮膚は灼け爛れていて、動きが鈍っているだろう。

そう考えての行動だった。

事実、龍の顔はどこか焦りがあるように感じられた。

とんでくる攻撃を右へ左へ、時には剣で弾き、切り裂き、受け流す。

単調になった龍の攻撃を躱し、遂に懐へと入り込んだ。

そのことに龍は焦り、力任せに腕を振るう。

それを回避しようとクオは、軽く後ろへ跳び、気付いた。

避けたはずの爪が、自らに迫ってきていることに。

焦っていたように見えた龍の攻撃はフェイントであり、避けられることを前提に、そのまま返す過程でクオに本命の攻撃を仕掛けたのだ。

懐に入り込めたことに少し安堵していたクオは、一瞬であれ地面から足を離すという愚策に出てしまったのだ。

空中にいるため、急な方向転換など出来るはずもないだろう。

そう確信した龍は、敵との決着を予期して笑みを浮かべる。

龍の攻撃がクオに当たるその瞬間、

唐突に、クオの位置が移動した。

クオが上へと移動したことにより、龍の攻撃はその下を通過した。

相手が空中で動いたことに驚く龍。

クオが一瞬だけしか使えないような、瞬発型のスキルを使った訳ではないことは、今まさに、空中を飛びながらかつてない速度で迫っていることからも明らかだ。

龍は理由を知るため、注意深くクオを見て、気付く。

クオの体が、不自然に魔力を纏っていることに。

『空中を移動する魔法じゃと!?』

「魔法じゃねーよ、ばーか」

あいも変わらずクオの挑発が飛ぶが、龍はそれどころではない。

これからの攻撃を受けてしまったらまずい。

と、本能が警鐘を鳴らしているのだ。

それに従い、爪で引っ掻き、ブレスで応戦しようとする龍はーー

一瞬、体を硬直させた。

それは、目の前の人間が放った威圧

ステータスの上でまだ優位であるはずの龍が、クオの威圧に一瞬とはいえ、体を硬直させられたのだ。

直ぐに気をとりなおし、防ごうとするも、元々距離などあってないようなものだったのだ。

当然龍の対象は間に合わず、視界に剣を振り上げるクオが映る。

「……さっきの質問。答えてやるよ。……確かに俺の策は尽きた。……だがな、まだ、頼れる仲間の力があるんでな!」

そう言ったクオは、先ほど自分がやってきた方へチラリと視線を向けると、

「いっ、けえぇええ!」

叫び、剣を突き刺す。

爛れた部分に重ねて貫いたそれは、龍の体に深く突き刺さる。

それを確認したクオは、手元の突起を押すと。

ブシュ。

何かが発射される音と共に、それが龍の体内に入る。

そこまで見届けたクオは、そのまま龍から離れた位置まで移動した。

それを見て不思議がる龍。

『……なぜ、離れた?死にたいのか?』

「……もう、勝ったからな』

『ハッ!この程度の怪我などで、儂が死ぬわけがなかろうに!その証拠に、今からお主を捻り潰して…………』

そこまで言って気付く。

『……お主、儂に何をした?』

自分の体が動かせないことに。

「……おっ。上手くいったみたいだな。……出てきていいぞー!」

クオがそう言って、先ほど視線を向けた方へと呼びかけると、1人の少女が姿を現わす。

「……ん。……作戦、大成功……!」

それは黒の洋服に身を包んだルノであった。

ルノはクオの元まで行くと、ハイタッチを交わす。

『この娘が何かしたのか?』

「ああ、ルノのスキルでな。お前の体の支配権を貰った」

「……操血師。私の血に、龍の体内に入った時に、龍の筋肉の動きを操る性質を加えた」

「……ま、そういうことだ。事実、体が動かないだろ?」

『……なんじゃ、そのでたらめなスキルは……』

2人の言葉が真実であると、身をもって体験している龍は、諦めたような声で呟く。

「……そうでもないぞ?……性質とかは、一個しか加えられないからな」

「……性質を加えると、形状の変化も出来なくなる」

残念そうに喋るルノ。

『いや……。それでも強すぎるのじゃ……。何を残念がっておるのじゃ』

「……で、どうするんだ?……一応、降参するか選ばせてやるが」

『……なぜじゃ?さっさと殺せばよかろうに』

「……だってお前、最初の演技だろ?」

その言葉に目を見開く龍。

『なぜ、そう思う?』

「いや、明らかに演技臭かったし。お前途中で一人称儂に変わってたからな?」

「……大根役者」

『あ……。そういえば、思いっきり儂って言ってしもうていたのじゃ……」

がっくりと項垂れる龍。

もちろん、体は動かせないので、雰囲気だけだ。

「……で、どうする?降参するか?」

『龍の誇りにかけて、降参などしないのじゃ!…………と、言いたいところなんじゃがのう。まだ死にたくないしの。降参するのじゃ』

「おう、そうか」

「……賢明な判断」

こうして、戦いは、龍の降参により、若干締まらなくはあるが、幕を閉じたのだ。

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