異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

リビングに集まった3人は、不安や悔しさなどに顔を歪めていた。

全員が、フィリアの手紙を読んだからである。

なぜ突然、フィリアが自らを犠牲にするという選択をしたのかは、誰もわからなかったが、誰1人としてフィリアの変化に気づくことがで気なかったことにやるせなさを感じていたのだ。

特に、クオなどは、いつもならするはずもないいらついた表情をしていた。

「どう、……しましょうか」

アーシャの疑問はもっともだった。

フィリアが生贄にすでに捧げられた以上、逃げるなどという選択肢はなくなったのだから。

「……決まっています。戦うしかないでしょうね」

その疑問の答えは、アーシャには現実味のない案だった。

このあいだの龍の咆哮を聞いて怯えたアーシャは、とても戦って相手になるものではないと思っているのだ。

「戦うって……。そんなことしても、犠牲が増えるだけよ!」

馬鹿なことを言う息子を止めなければ。

そんな使命感から言った言葉を聞いたクオはしかし。

「犠牲なんかになるつもりはさらさらありませんよ。……あの龍のせいでうちの空気は最悪でしたからね。元々戦うつもりでしたし。仕返しですよ」

にやりと獰猛な笑みを浮かべたクオは、戦う以外の選択はないと、堂々と他の選択肢を切って捨てた。

クオは内心怒り狂っていたのだ。

実際、他の選択肢など、見捨てる以外には無いのだ。

それを理解していたアーシャは、クオを止めるための言葉を紡げなかった。

不安そうなアーシャを見て、クオは笑って言う。

「……大丈夫ですよ。ちゃんと作戦も考えてありますし」

「……それに、私も付いて行く。だから、問題ない。クオに、無茶はさせない」

「……と、言うことです。だから安心して、……そうですね。昼食でも作っていてくださいよ」

そう言う、クオの覚悟の決まった揺るぎない瞳を見たアーシャは、これ以上何を言っても無駄なのだと悟った。

「……わかったわ。みんなの好物を作って待ってるから、早く帰って来なさい」

「はい。お母様。必ず、みんなでご飯を食べに帰ってきますよ」

「きっと、お腹空かせてるから、たくさん用意してて」

その会話に、鬱屈とした重さなどなく、本当に遊びに行くような、何でもない日常の会話だった。

「任せときなさい!じゃあ、行ってらっしゃい!」

「「行ってきます」」

こうして、2人は見送られながら、出かけて行く。

龍の待つ山へと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2人は、山の中を駆ける。

鬱蒼とした木々が行く手を阻んでいた。

それをスパスパと剣で切り裂きながら進んでいく。

クオの持つ剣は、今まで使っていた剣とは形が異なり、剣の中央にラインが入っており、持ち手には、突起のような物が付いていた。

龍が住んでいるのだ、人はおろか、魔物すら全く見当たらない。

そんなところに当然道などなく、自らで切り開きながら進んで行くしかなかった。

定期的に森へと入っていたクオと、それにたまに付き合っていたルノにとっては道無き道を進むことなど造作もなかった。

しかし、そんな2人の全身は汗で湿っていた。

だが、この汗の原因は疲労などではない。

山を登れば登るほど、龍に近づくということだ。

2人は、徐々に近づく龍から発せられる、威圧に冷や汗を流していたのだ。

まだ山の中腹だというのにすでに感じる圧倒的強者の存在感。

魔物が存在しないのも頷ける話であった。

しかし、2人の覚悟はこれくらいのことで折れたりはしない。

むしろどんどんとスピードを上げていき、遂に龍のすぐそばまで来た。

徐々に開けていく木々。

視界を遮る物がなくなった時、2人は、龍の全貌を見た。

神聖さを感じさせる、純白の鱗に包まれ輝く巨体。

鋭い金色の双眸は、見るだけで相手を恐怖に竦みあがらせるだろう。

なにより、クオの鑑定した、龍のステータスは圧巻であった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

名前   種族 龍

年齢1457

Lv394

HP9743456

MP 97619

STR64845

DEX91461

AGI51841

INT81943

DEF84678

スキル

固有スキル

咆哮  Lv9  剛爪Lv8  ブレスLv9 飛翔Lv10

収集コレクト  念話

称号 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

もはや、如何にかできるレベルではない。

しかし、クオは諦めてはいなかった。

龍は、クオを視界に捉える。

『ほう、妾を前にして臆さぬか、小さき者よ』

念話で話しかけられているのに、圧倒的な大声で話しかけられているように錯覚する、重厚な声。

「そりゃ、わざわざ会いに来てるんだからな。怯えてられねぇよ」

『ふむ、まあ、言われてみればそうじゃな』

クオを捉えた双眸は、興味深そうに細められる。

『して、何の用じゃ?』

「お前に生贄にされる少女は俺の妹だ。だからかえしてもらいに来た。」

『……クク、クハハハハ!そうかそうか、妾の贄を奪いに来たのか!……あれは、矮小な生き物が如何にかできるものではない。だからこそ妾が貰うのじゃ。妾のものを奪う。……お主、その意味が、分かっておるのか?』

解き放たれる威圧。

今まで意識していない、漏れ出た威圧でさえ冷や汗を流していた。

しかし、そんなものが児戯に思えるほどに強烈な威圧だった。

だが、ここで竦んでしまっては終わりだ。

そう思ったクオは、正面から龍を睨め付ける。

「当たり前だ。お前を倒して、妹を連れ帰る。それだけだろ?」

『いってくれるな!いいだろう。お主の力、妾に届くならば届かせてみよ!』

「ガァァアアアァアアアア!」

龍の放った咆哮が、地面すら揺さぶる。

それに対し、クオは剣を正眼に構える。

戦いの火蓋が、切って落とされた。

「異世界奮闘、チート兄」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く