異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

初心

更に一年経った3人は、距離が近くなっていた。

あれからルノとフィリアの見つけたお勧めの場所(鍾乳洞や緑に囲まれた滝など)を紹介し、クオと出掛けるということを繰り返していたので、今や必然と出掛ける時は3人揃ってという暗黙の了解が出来つつあった(クオのレベル上げ以外)。

今も、フィリアの村の村長にアーシャが作った薬を届けるというお使いで村長の家に行く途中、その道のりにある店を見て回っては、アーシャにもらったお小遣いで3人で買い物中である。

「ルノお姉様!このお洋服すっごく素敵ですよ!絶対ルノお姉様に似合います!」

フィリアが指をさしたのは、黒い生地に赤いバラの刺繍があしらわれたドレスだった。

これから先着るような場面に出くわすかは別として、確かにルノにはこれ以上ないほどに似合うだろう。

「……おや、ルノちゃんにフィリアちゃん、クオくんも一緒かい。」

「あ、スミさん、こんにちは!」

「……こんにちは」

「こんにちは、スミさん」

フィリアたちに気付いた店員のスミが声をかけてきた。

「ああ、こんにちは。……なんだい、これを見てたのかい?……これは、着るならルノちゃんがぴったりだろうねえ」

「そうなんです!ルノお姉様にはこのお洋服が絶対似合いますよね?」

「ああ、間違いないさね。……でも、ちょっと待ってな、……確かあっちに……ああ、これこれ。はい、フィリアちゃん」

そういってスミは店の奥から箱を取り出し、フィリアに渡した。

「なんですか?開けてみますね。…………わあっ!」

不思議そうに箱を受け取ったフィリアは、中身を見て驚く。

中には、1つの洋服が入っていた。

こちらは白の生地に青バラの刺繍が入っている。

先ほどの服とペアで作られたのだろう。

並べればお互いがお互いを引き立てる、その関係性も、色合いも、まるでフィリアとルノのような服だった。

「かわいいですね!ルノお姉様もそう思いませんか?」

「……ん。かわいい」

「そうかいそうかい!気に入ってくれたかい!」

「はい!」

「ん」

「ならやるよ、持ってきな!」

「ええ!?そ、そんなわけには……」

「……申し訳ない」

「この前、うちの馬鹿息子が風邪ひいて寝込んじまった時、足りない材料をあんたたち3人で取りに行ってくれたらしいじゃないか?
アーシャさんから聞いたよ!それはそのお礼だと思ってくんな!……それに、二人がその服を着て街を歩いてくれれば、うちの店の宣伝になるってもんよ!」

「……でも、流石に貰うわけには……!」

「フィアの言うとおり」

そんな風に始まった押し問答を見ていたクオが口を開く。

「スミさん、四割の割引でどうですか?」

「……まあ、それなら。……本当にタダでいいんだけどねえ。……四割引で、銀貨4枚と銅貨三枚さね。……誰が払うんだい?」

「僕が払いますよ」

そういってちょうど渡す。

日本円にして4300円ほどである。

お小遣いでは躊躇う額だが、クオは冒険者登録こそしていないものの、ちょくちょく魔物の素材をギルドに売っていたのでお金はそこそこ持っていた。

「お、お兄様!?」

「……なんで?」

半分ずつ払おうとしていたのだろう。

ポーチに手を入れていた二人が驚く。

それにクオはにっこり微笑み、答えた。

「僕も二人には絶対似合うと思いましたので、二人が着ているのを見てみたくて……僕からのプレゼントです」

「クオくん!あんた、男だねえ!……二人とも、こうまで言われたんだ。もらってやりな!ついでに、部屋を貸してあげるから着替えてきなよ!」

「は、はい……」

「……ん。じゃあ行ってくる」

二人とも頰を染めながらも、ポーチをルノはポケットに、フィリアは鞄にしまい、着替えにいった。

「……ど、どうでしょう?」

「……かわいい?」

しばらくして出て着た二人は、やはりよく似合っていた。

やはりルノには黒、フィリアには白が似合うと再確認するクオ。

「……ええ、とてもかわいいですよ」

「え、えへへ。嬉しいです」

「……ん」

フィリアは薄く微笑み、ルノは胸を若干反らせて得意げだ。

「では、ちょうどいい頃ですし、そろそろ向かいましょうか」

日が真上に来たのを確認したクオが言う。

「はい!」

「ん」

「また来なよー!」

スミに見送られながら、3人は歩いていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こんにちはー!フィリアですー!お母様からのお薬を届けに来ましたー!」

「……ふぉっふぉ、よくきたのう。……ほれ、3人疲れたじゃろうに、早う中へ入りなさい」

「「「お邪魔します」」」

3人日が人はリビングへと通され、紅茶とスコーンを出された。

それぞれお礼を言ってから食べ始める。

「これ美味しいです!」

「……甘い」

「本当に美味しいですね」

「好きなだけ食べていいんじゃよ?」

「はい!」

「ん」

「ありがとうございます」

しばらく3人がお菓子を食べるのを微笑みながらみていたヴォルフだったが、途中で現れた女性が彼のに耳打ちした瞬間ーー

「その話を今するなと言うておるじゃろうが!」

突然、険しい顔で声を荒げた。

いきなりのことにルノとフィリアは驚いている。

フィリアは特に少し怯えていた。

それを見たヴォルフは申し訳なさそうな顔をすると、

「すまんのう、本当は色々話もしたいんじゃが……。3人とも、今日はもう帰ってくれんかの?」

そういって、帰るように促した。

「分かりました。また今度、ゆっくりできる時に来ますよ。……二人とも、帰りましょう」

「はい。ヴォルフさん、お薬、ここに置いていきますね。さようなら」

「ん。また」

「本当にすまんのう」

びっくりしたのだろう。

フィリアの若干元気のない態度に、村長は今一度、謝った。

……しばらく散歩をして、フィリアもいつもどおりに戻っていた。

「それにしても、ヴォルフさんはどうしたのでしょう?」

「……わからない。でも、大人の事情。気にしても仕方ない」

「そうですね!それより早く帰りましょう!お使い頑張ったので、きっとお母様が美味しいご飯を作って待ってますよ!」

「……フィアは食いしん坊?」

「る、ルノお姉様!ち、違います!私は食いしん坊なんかじゃないです!」

「……まあまあ。フィーは早くご飯が食べたいなら、怒る時間が勿体無いですよ?」

「……!も、もう!お兄様まで!知りません!」

そういってそっぽを向くフィリアに、ルノとクオは笑い、しばらくすると、釣られてフィリアも笑い出す。

こうして、赤い夕焼け空の下、3人の家族は、笑顔で帰路についた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕飯を食べ、眠りについたクオは、ノックの音で目を覚ます。

扉を開けると、顔を赤くしてもじもじしているフィリアが立っていた。

「どうしました?」

「あ、あの……」

しばらくもじもじとしていたフィリアだったが、意を決したように喋り出す。

「お、お手洗いに、行きたくて……。で、でも今日はなぜか怖くて……、つ、ついて来てくれません、か……?」

一言一言喋る度、更に顔を赤くするフィリア。

昼間のヴォルフが少しトラウマになっているのだろう。

「いいですよ」

クオは微笑みながら承諾する。

それにフィリアは安心した顔をした。

クオとフィリアがお手洗いから戻って来ると、リビングから話し声が聞こえた。

フィリアと覗いてみると、そこにはヴォルフがいた。

「あ!」

フィリアが、何かに気付いたのか、小さく声を上げる。

アーシャとヴォルフの間の机にはフィリアのポーチが置かれていた。

どうやらヴォルフのところに忘れてきて、それを届けにきたようだ。

折角少し幸せな1日だったというのに、ヴォルフのせいで少しマイナスだったのだが、今のヴォルフをみてフィリアも少しのトラウマなど無くなるだろうと、クオは一安心する。


ーーーーしかし、

ヴォルフから聞こてきた言葉で思い出す。

忘れていた、忘れようとしていたことを。


「フィリアちゃんが、龍の生け贄となるよう、龍直々に指名なさったのじゃ」


「「え?」」

幸せなど、簡単に無くなるものだということを。

クオの冷えた瞳には、ヴォルフの、驚いた顔が映っていた。

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