異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

決意

朝、目を覚ましたクオは、フィリアの寝顔をしばらく眺めた後、ステータスからアスタへコールをした。

『はい、クオさん。どうかしましたか?』

待つこと10分ほど、アスタがコールに出る。

『アスタ、聞きたいことがあるんだが』

ちなみに、クオは素のモードである。

『はいはい、またステータスのことでしょうか?』

『ああ、魔力保有者マナホルダーについてなんだが』

『っ!……クオさん、もしかしてあなたが手に入れたんですか?』

アスタは一瞬息をのんだ後、やけに嬉しそうに問いかける。

『あ、ああ。……それがどうしたんだ?』

『本当ですか!良かった、本当に良かったです!』

『おい、……はあ』

呼びかけても返事がないので、とりあえず黙って待つクオ。

『……すみません。取り乱しました。いまから魔力保有者マナホルダーについて説明しますね』

しばらく待つと落ち着いたのか、説明を始めるアスタ。

『クオさんは、魔力についてどこまで知っていますか?』

『体の中心部から体内に流れていて、魔法、魔術を使うための力だってことくらいだ』

『まあ、大体合ってますね。……でも、魔力はどうやって生まれるか知っていますか?』

その問いに黙るクオ。

今まで、そんなことは考えたこともなかったのだ。

しかし、黙っているのもなんなので、今考えた推測を話す。

『体内で生成される……とかか?』

『残念!違います』

『…………そうか。で、正解はなんなんだ?』

珍しくブブーと、効果音までつけて馬鹿にしてくるアスタに、クオはイラっときたが、突っかかるのも面倒くさいので流した。

『はい、魔力というのは、妖精が作り出しているのです』

『じゃあ、体内に流れているのはなぜだ?』

『それはですね……。妖精が人の体内に、魔力を流しているのです』

『体の中心部からというのは、妖精が送り出す魔力の核がそこにあるからなんですよ』

『じゃあ、MPは……』

『はい、その人の魔力の核の容量ですね。……ちなみに、MP 回復の値に差が出るのは、人がそとから一度に受け入れられる魔力の量に、差があるからですね』

納得するクオ。

たしかに、その説明は筋が通っている。

『魔力について知ったところで、魔力保有者マナホルダーについて説明しますね?』

パン!と、掌をひと叩き、話を続けるアスタ。

『まあ、簡単です。……魔力保有者マナホルダーは、体内に妖精を住まわせた人のことを言うのです』

その言葉に目を見開き驚くクオ。

しかし、アスタはクオの顔が見えていないので、構わず続ける。

『妖精というのは、魔力をたくさんの人に与えるので、1のMPの容量に、100のMP を保有しています。……要するに、MP濃度が高いんです。だから、MPの上限が100だったときに魔力保有者マナホルダーになれば、ステータスには10000になりますね。……ああ、魔力保有者マナホルダーが生まれたからといって、その周りには妖精がいなくなるわけではありません。新しく発生しますからね。メリットばかりなんです。……ただし、条件がありますが』

『条件?』

さっきから驚きっぱなしだったが、なんとか一言は発したクオ。

『はい、その条件とは……。とても、とても大きな感情を持つことなんです。ただしプラスの』

『なぜだ?』

『妖精にも自我があるので、気に入った相手の体内に住むんです。その相手を見つける方法が、妖精にもとらえられる大きな感情なんです。察知した範囲の妖精は、その相手の体内に、容量が一杯になるまでの数住み着きます。……だから、容量が大きくても満タンまで妖精が入らない場合もあるんです。……ちなみに、クオさんはいくらでした?』

『……P』

『え?』

『……P、と書いてあった』

『P……。ですか。……ちょっと調べてきます』

そう言ってアスタはコールを切った。

……数分後にコールをかけてきたアスタは、なぜか興奮していた。

『クオさん!クオさんのMPがPなのは奇跡なんです!すごいですよ!』

『Pってのは結局どういう意味なんだ?』

アスタは数回深呼吸をすると、ゆっくりと喋り出す。

『クオさんのMPのPという意味は、プラネット……』

この時点でクオは嫌な予感がした。

MP がプラネット。

つまりーー

『このシエル一個分です』

MPの、インフレだ。

『……おい、俺のMP は20位だったはずだ。どういうことなんだ?』

『それを今から説明します』

ここからは長くなったので、箇条書きにすると。

曰く、

•クオのスキル、上限開放は、すでにかなりの量のステータスを用意し、それがレベルアップの度に開放されていくので、現時点でも惑星一つ分くらいの容量は持っていたこと。

•称号 管理神の使徒により、アスタたちとの繋がりが深くなっていたため、昨夜の小さな感情も、管理神と元々繋がりの深い妖精は拾ってしまったこと。

この二つが原因だそうだ。

『………………本当に奇跡だな』

『本当ですよ!ありえないくらいです!…………でも』

そこで一旦アスタは言葉を区切り、

『クオさんが、そんな感情を抱けたことが、何よりも、嬉しいです』

涙声になりながら、言った。

世の中に絶望した少年。

解決する機会も、自分達のせいで潰してしまった少年。

それが今、異世界での出会いをきっかけに、変わろうとしている。

そのことに、喜びを得たのだろう。

その言葉には、昨夜クオが抱いたものと同じ、慈愛の感情が深く込められていた。

これに対し驚き、少し嬉しくなるクオ。

本当にクオは、ほんの少しではあるが、感情が豊かになっていた。

『……妹さんと仲良く、現世を楽しんでくださいね』

『……ああ』

クオは、フィリアを見ながら決意をする。

小さくではあるが、自分に変化をもたらしてくれた妹をーー


ーー守れるくらいには、強くなろうと。

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