十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜

たろゆ

十六話 ドラゴン

穏やかな朝日に見送られつつ、いつも通り家を出る。

俺とヒナタはいつものごとくEX協会で受付の男性と話し、受注する依頼を決めようとしていた。ヒナタは依然として、EX協会内では柱の陰に隠れているのだが、その理由は未だに分からない。

ある意味それもいつも通りの光景であるため、若干口元を引き攣らせつつも気を引き締めて依頼を選ぼうとしていたのだが、何と、受付の男性から直々に「是非受けてほしい依頼がある」と言われたのだ。

この人には毎日お世話になっているからなぁ。
話を聞かないわけにも行かないので、とりあえず依頼の詳細を知ってどうするか決めようと思っていたのだが・・・

「草原の・・・ドラゴン討伐、ですか?」

「はい。ソラノさんも、草原の上空にドラゴンが飛んでいたのは知っていると思いますが、あのドラゴンが何者かの攻撃によって翼に傷を負ったようで・・・地面に降りてしまったんです。」

思った以上に難しい頼まれごとになりそうだった。

草原のドラゴンなら、もちろん知っている。この世界に来た俺が一番初めに見た魔物はドラゴンだ。あの時中腰になったのは未だに忘れないし、あの草原でヒナタに会ったことも絶対に忘れはしない。

「それで、ドラゴンを討伐するってのが今回の依頼だと?」

「はい。しかしドラゴンは手負いですので、決して勝てない相手では無いというのが、EX協会の判断です。」

そこまでは分かる。そこまでは分かるのだが、どうにも腑に落ちない点が一つ。

「どうして、俺に頼むんですか?俺より強い人も他にたくさんいるでしょう。」

すると、受付の男性は少しだけ下向き加減にかぶりを振った。

「EXはEX同士でお互いの情報を知ることが出来ない・・・というのは、ある意味EXの中での常識になっていますが、このシステムはもしかしたら間違っているのかも知れませんね。」

質問に対する答えとしては、とても満足できるレベルではなかった。
どうにも煮え切らない態度に俺の疑問は深まるばかり。
早く真相を知りたい俺は、再度、早口に疑問を投げかける。

「どういう事です?」

返答はすぐに返ってきた。

「あなたが・・・あなたがこのEX協会内では一番強いんですよ。倒した魔物の質も、成長スピードも、とてもEX歴一ヶ月ちょいの駆け出しとは思えない。前例を見ない異例のEX。それがあなたです。もちろん、ステータスの詳細までは分からないので、あくまでこの協会内での実績を元にしているだけですが・・・」

なん、だと・・・。
俺が地域最強?それ程の実績を、俺が?

チラッ後ろを振り返ると、ヒナタが不思議そうな顔でこちらを見ている。彼女には聞こえてはいないようだ。
彼女は俺の事をどう見ていたのか、気になる。
本人は自分よりも俺の方が強いとは言っていたが、まさか俺がこの地域で一番の実力者にまで上り詰めていたとまでは知らないだろう。

「どうされました?ソラノさん。」

と受付の男性。

「あ、いえ、何でもないっす」

・・・少し、テンパっていることを認めなければいけないだろうか。
努力の成果?毎日コツコツ依頼を受けていたことで、着実にレベルアップしていたという事か?

いやでも、待てよ。俺が今まで倒してきた魔物はアナザーリコッデを除けば雑魚ばかりじゃないか?

それに、俺は“湿原”の魔物にかなり手こずった。
それは恐らくアナザーリコッデを倒してステータス的にも、技術的にも、パワーアップした今でも同じだろう。

それなのに俺が一番なのか?
この地域って、相当レベルが低いんだな・・・。

コホンッと一つ咳払いを送る受付の男性。改めて真剣な眼差しで俺に語る。

「あなたの活躍は協会役員の中でも話題になっています。アナザーリコッデの特異個体を倒した、と。あの魔物は高難易度クエストの中でも上位に位置する強さを持っていたはず。あの時点で高難易度クエストを一度も受けていなかったあなたが倒したというのは驚きました。少なくともこのEX協会の中でアレを倒せるのはあなただけでしょう。・・・ここまで言えば分かりますよね?この依頼に最適な人材は、少なくともこの協会内ではあなたしか居ないのです。」

あの魔物・・・アナザーリコッデは、特異個体だったわけか。高難易度の上位クラス。それほどの魔物を倒せるほど強くなっていた・・・のか?
自分の強さについては議論の余地あり、だな。近いうちにビディオンを開いてみよう。

「誰か、他の人もこの依頼を受けるということはありますか?」

「いえ、今のところあなたにしか頼んでいません。他のEXだと高い確率で命を落とす事が予想されるため、迂闊に頼めないのです。」

俺の眉間にシワがよる。手負いとはいえドラゴンを一人で討伐・・・!?
ドラゴンという魔物がどれほどの強さなのかはわからないが、だからこそソロで対峙するのは避けたいところ。
しかし、受付の男性が言うのならば、他のEXでは危険すぎるのだろう。万が一にでも足でまといになってもらっては困る。

俺が険しい表情をしていると、受付の男性が、話の続きをするつもりなのか、こちらをジッと見つめている。

こちらもそれに応じるように相手の目を見やる。

そして受付の男性が口を開いた。

「確かにソロ討伐は危険です。しかし、あなたの知り合いに信頼のおけるEXがいるならば、連れていくべきでしょう。・・・どなたか、そういった人物に心当たりはありますか?」

「あぁ、それだったらいつも一緒に依頼をこなしてるパートナーが、あそこの柱の陰に・・・」

そういって振り返り、指を指すと、柱からバッチリ顔を出してこちらを伺っていたヒナタが驚いたように目を見開き、サッと柱に完全に体を隠した。

「あーあーあー、何やってんだか。・・・すみません、どうも人見知り?みたいな感じで。いつもはあんな風じゃないんですけ・・・ど・・・」

そこまで言ったところで、俺はある異変に気づく。

受付の男性の顔付きが、明らかに違っていた。
俺がEXになってから、度々お世話になっているこの協会の職員は、誠実な仕事ぶりが自他ともに認められている優秀な人材が集められている。
それはこの男性も同じはずで、登録の時こそ少しだけ怒らせてしまったものの、それ以降は親切な対応を、快くしていただいている印象が強かった。

それなのになぜ・・・、なぜこの男性の顔はここまで恐怖に染まっているのか。
何に対して恐怖を抱いているのか。

しかし俺がその答えにたどり着く前に、受付の男性が意を決したように立ち上がる。

そして一言。青ざめた顔のまま言う。

「あなたは、何も知らないようですね」

彼はそう言って、あろう事かヒナタが隠れている柱の方へ歩み始めた。

しかし俺には彼の行動の意味が理解できない。

コツコツと、男性の革靴が鳴らす音が、やけに響く。・・・今日はあまり人がいなかったのだと、今更ながら気づいた。

男性が柱の裏に回り、ついにヒナタへと接触するが、俺にはその様子を窺い知ることは出来なかったし、回り込んで様子を見に行くことも出来たはずなのに、不思議と足が動かなかった。

時間にして数分の出来事だが、そこにある緊張感は尋常ではなかった。
幾らか落ち着いた様子の男性がこちらに戻ってくる。

「お待たせしました。たいへんお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。」

唐突な謝罪にも反応できず、

「ぁ、あぁ・・・」

何とも中途半端な返事になってしまった。蚊の鳴くような、極小の声。何故俺の声帯がここまで固まってしまっているのか、分からない。背中に嫌な汗が伝う。

嫌な沈黙が降りていたが、先に口を開いたのは俺だった。

「彼女の・・・ヒナタの事を知ってるんですね。驚きました。」

掠れた声は未だ戻らない。

「もちろん知っています。ええ。知っています。」

その反応は何もかもが不自然だった。力強く肯定したようにも思えるが、俺には何かを必死に、自分に言い聞かせているようにしか見えない。

「それでは、ドラゴン討伐の件、よろしくお願いします。場所はテウス草原東です。対象が大きいのですぐに見つかりますよ。」

何も教えてはくれないのか。

半ば突き放すような言い方に、戸惑いとともに怒りを覚えるが、反抗する気も起きなかった。
何より、鍛え上げられた協会職員がこういったおざなりな対応をする事に強く疑問を感じた、というのもあった。

「わかりました」

その一言だけ告げて、俺は協会を後にした。

柱の陰に隠れていたヒナタは・・・

床に座り込んで、人目を憚らず涙を流していた。

彼女が何を思い、何が起きて、なぜ泣いているのか・・・悲しい事に、俺には知る由もなかった。

・・・何故俺は、何も知らずにのうのうと過ごしてきたんだ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ドラゴン。

俺の知るドラゴンと、この世界のドラゴンは大筋で似ていた。

全身は筋肉質で、硬く、それでいて柔軟性に優れる。
鋭い爪は、持ち前の腕力と合わさることで、最悪の凶器となる。
無数に生える鋭利な牙は、強靭な顎と相性がいいようで、一度噛まれたら最後、肉片も残らない。
長く、太い尾はまさに筋肉の塊。触れるだけで怪我をしそうなほど研ぎ澄まされた鱗が何枚も、何枚も重なり合うことで、頑丈かつ凶悪な一撃を繰り出す。
そして、巨大かつ邪悪な様相を呈する翼は、その図体を持ち上げる程なのだから、恐ろしい強さの風を生み出す事が出来るだろう。

極めつけは、ドラゴンそのものが元来持つ能力“ブレス”。

今回討伐するドラゴンは、火のブレスを吐くらしい。

どれをとっても今までの魔物とは一線を画す強敵だ。

受付の男性は俺に適正があると見込んで依頼を頼んだのだろうが、果たして俺の力で勝てるだろうか。

準備は万全だ。気持ちも作ってきた。
後は戦うだけの状態と言える。負ける要素は可能な限り減らしてきたつもりだ。
しかし、勝つか負けるかは、神のみぞ知るところ。

実力は拮抗することだろう。

さらに、驚いたことに、このドラゴンは手負いだ。

本来ドラゴンというのは、その強力な能力とは裏腹に、温厚な性質だ。
つまりはこちらが手を出さなければ、ドラゴンも手を出してこない。

よって、草原の上空を飛び回るドラゴンに対して警戒する必要性はあまり無い。

しかしそのドラゴンが傷を負っている。

つまり、何者かがドラゴンに先生攻撃を仕掛け、ここまでの重傷を負わせたのだ。

敵は弱っている。チャンスだと、思うか?

それとも、まだ油断ならない強敵だと思うか?

人それぞれ捉え方は違うのだろうが、現時点の状況を省みると、本当に恐れるべきはドラゴンではないと言える。

もちろんドラゴンを恐れていない訳では無い。未だに冷や汗は止まらない。

しかし、傷を負ったドラゴンがいるのなら、傷を負わせた何者かが必ず存在するのは道理。

これだけの強大な存在を無傷・・で、更には瀕死・・に追い込んだ何者かにこそ、俺は恐怖した。

なぜ、無傷・・だと分かったか?

簡単な話だ。

数ある魔物の中でも、ドラゴンという種族はプライドが高いことで有名だなのだが、
仮に今回のように自分を傷つける存在が現れようものならば、地獄の果てまで追いかけてでも仕留める執念深さを持ち合わせている。
それはひとえに、ドラゴンという種族として、そして絶対強者としてのプライドを守るための行為であるが、それらの獲物を仕留めた際にはドラゴンはこれまた大きな雄叫びをあげ、随分と上機嫌になるらしい。そして傷を癒した後に再び空の世界へと戻るそうだ。

つまり。つまりだ。

もしもこのドラゴンが傷を負わせた相手に勝っていたなら。

自分を傷つけた敵に復讐を果たせていたのなら・・・

グルルルアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

プライドの高いドラゴンがこれ程までに怒り狂うわけ、無いだろう?


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