十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜

たろゆ

十三話 赤髪

扉を開けると、そこには初めて見る新鮮な光景で溢れていた。

工房内は、概ね予想通りわちゃわとゃと物で溢れかえっている。

見覚えのあるスタンダードな槌、歪で尖った槌、柄が長く異様に大きな槌など。なお、それら全て名前はわからない模様。お疲れ様でした。

槌だけでなく、色とりどりの金属片やら魔物の角・・・だろうか?そういった加工過程の生々しさを伝える端材が大量に落ちている。

ちなみに、魔物は消滅する際、時たま自分の体の一部を残したまま消えていく時がある。所謂“ドロップアイテム”なのだが、ドロップ率が非常に低い上、強力な魔物でないとそもそもドロップしないという、鬼畜仕様となっているため、周回はオススメしませんね、はい。運営仕事しろ。

というわけで、そこらに落ちている魔物の角やら牙やら皮やらの端材は実は結構なレアアイテムであり、そんなレアアイテムをメーカーから渡されるということは、ここの鍛冶屋の職人さん・・・つまりはこの美人さんが相当な力量の持ち主であるという訳だが・・・

いかんせん、目の前の女性がそもそも鍛冶師に見えない。

流れるような赤髪は、腰まで届くほど伸びていながら、艶やかな光沢を放っている。赤い瞳はキラキラと輝き、この人の性格を如実に表しているよう。
整った目鼻立ちを、肌のキメ細やかさとハリ、そしてツヤが一層引き立てている。これも彼女が魅力的に見える要因の一つだろう。
身長は決して高くはないが、バランスのいい体型は、世の男を大きく惑わせるはずだ。(俺を除く)
先ほど美人だと連呼していたが、まじまじと観察してみると、“可愛らしい”という印象が強くなった。

しかしそれらは所詮彼女の容姿を評価したものに過ぎない。
俺が何より驚いたのはその服装。
スレンダーな体型に良く似合うスカートは短く、ヒラヒラと彼女の色香を撒き散らしている。
そして上半身には高校の制服を彷彿とさせるシャツを着用しているため、一見すると女子高生にしか見えない。

制服を着た赤髪の美人が、この使用感満載の工房の鍛冶師だと、誰が思うだろうか。

まさに、工房に咲く一輪の花。

埃の舞うこの散らかった部屋には到底似つかわしくない存在だ。

こうなると、俺の中の疑問符が渋滞を起こし始める。

・・・あ、今事故った。

なぜ、鍛冶師がそのような格好なのか?なぜ、あなたは鍛冶師なんてやっているのか?そもそもあなたは鍛冶師なのか?

ガンッ!!
あー、玉突き事故だ・・・
言わんこっちゃない。

・・・やめようか、コレ。

冗談はさておき、こちらには聞きたいことが沢山ある・・・というか、沢山出てきた。
呑気に装備を物色している場合ではない。

「あの、あなたはホントにここの鍛冶師の方で?」

少々失礼な聞き方だったかもしれないが、確かな答えが欲しい今、こう聞く他ないだろう。

返答はすぐだった。

「はい!私が“シルバー工房”の鍛冶師です。今日はよろしくお願いしますね。」

失礼な質問のつもりだったのだが、随分と慣れた対応だ。きっとこういった質問には慣れているのだろう。

では、次の質問です。

「あなたは、なぜそんな服装なんでしょう?」

超絶敬語なのはご了承してくれ。初対面の女性にいきなりタメ口使うのはゲームやアニメの中だけだ。
現実的にそれをやったらむしろ友達できない。これ絶対。

「あ、えーとですね、私、実はまだ学生でして、これを着るように学校から言われてるんですよ。あっ、汚れるとか、熱さとかは大丈夫ですよ!私、青魔法使えるので!」

学生、だと・・・。そんな小洒落たものがこの世界にもあるのか。いや、あって当然か。なにせジャパングだしな。日本だしな。高校?大学?もしかしたら年上かもしれないな。いやでも、制服を着るように指定されているのなら、高校か。じゃあ年下か同い年って事じゃん!

マジかよ・・・。

それに、青魔法の使い手と来たか。次の質問は、「その服装で作業とか良くできますね」にしようとしてたんだが、まぁ、質問する手間が省けたな。

そんでもって青魔法のバフを自分にかけて作業すれば汚れもつかず、熱も軽減できると。

なかなか、良い感じじゃないか?鍛冶師の腕は確かなはずだし、気さくで、笑顔が素敵だしな。

それにしても学校かぁ。過ぎ去りし青春を求めて俺も通ってみたいが、今からじゃ無理か・・・。

「ヒナタ?ところで学校ってどうすれば行ける?今からでも入れる?」

しかし俺は諦めない。過去との決別。新たな青春とエンジョイスクールライフのためならば。

今までだんまり決め込んでいたヒナタさんに、怪しげな微笑みを浮かべながら俺は聞いた。
対するヒナタは、顎に手を添えて、それらしいポーズをとった。

「今から・・・ですか。行けなくはないですね。編入という形にはなりますが。しかし、学費等諸問題があるので、少々難しいかと思います。」

年齢的な問題は言わずにおいたのだが、問題無さそうだ。これは収穫の一つだな。しかし、学費・・・要は金。今学校に通うのは経済的な面で厳しそうだ。

「うへぇ、学費ね。こればっかりはしゃーないな」

「お金に少し余裕が出来たとはいえ、学校に行けるほどでは無いですからね。ところで、なぜ今更学校何ですか?ソラノくんが記憶を失くした理由がそこにありそう、とか?」

そうだった。俺、記憶なくしてたんだった。俺ですら忘れかけていた設定をヒナタは覚えていたのか。

「い、いやいや、多分俺は学校には通ってなかったんじゃないか?俺が学校に行きたいのは、そうだな・・・俺ってさ、18歳じゃん?青春を謳歌する時期じゃん?なんていうかさ、“過ぎ去りし青春を求めて”的な側面が見え隠れするというか、なんというか、そんな感じなのよ。」

「・・・よくわかりませんが。端的に学校でイチャイチャしたいと、そういう事でいいですか?」

・・・・・・

随分と冷たい風が吹くんだなぁ、この工房の中。
そして彼女は随分と察しがいいご様子だ。

そんな冷たい目で俺を見るな!いいじゃないか!青春させてくれよ!こちとら残念な学生生活を送ってたんじゃ!

「お客さん?そのー、武器、なんですけど・・・」

おっと忘れていた。俺は武器を買いに来たんだった。
EX協会受付の男性といい、この娘といい、どうも会話を忘れがちだ。悪い癖がつく前に直さねば。

ところで、この人学生ってことは、やはり俺とそう歳は変わらないよな?
こういっちゃあ悪いが、見た感じだと、おそらく年下だろう。
つまり、冷静に考えて今までのような超絶敬語は不要。
ここはサラーっと若干軽めのノリに戻してもいい・・・よな?

いいはずだ。

「あぁ、そうだった。こんな事言うのもアレだけど、何かオススメある?」

どうだ!見たか!これで俺はマンガ主人公に一歩近づいたぜ!
急にくだけた口調になった俺に少し戸惑ったか、瞳に動揺が走ったが、直ぐに理由を理解してくれたのだろう。すぐに気を取り直して丁寧な対応。

「オススメですと、あちらの箱に入っている物は、私的にも自信作です!」

ほほぅ、さりげなく自分の作品の出来をアピールするあたり、自分の腕に相当自信があるか。それとも、自信の無さからくる、「買って欲しい」という思いがあるのか。

どちらにせよ、品物を見て、手に取ってみれば何か分かるだろう。・・・ちょっと言いすぎたかもしれない。手に取っただけじゃ流石に分からないから、じっくりと見たり、振ったりしよう。うん。

そう思い、蓋を開けて、中に入っていたロングソードを手に取ろうとした時、赤髪職人さんから声がかかる。

「お客さん、もしかして武器とか買うの、初めてだったりします?」

「あぁ、初めてだけど、それがどうかした?」

初めてだから一体なんだというんだ。そんな奴にウチの商品を売るわけにはいかないね!とでも言うつもりだろうか?

「いえ、こんな工業地帯にまでわざわざ武器を直接買いに来るなんて、よっぽどこだわりが強いのかなー?って思ってたんですけど、オススメを聞いてきたところとか、工房内をキョロキョロと見渡すところとか、まるで初めて来たみたいな動きだったので・・・」

なるほどな。工房まで直接買いに来るような客はそういないんだな。俺みたいな駆け出しだと尚更。
仕草から駆け出し臭漂う俺氏。とてもカッコ悪い件。

「あー、ここまで買いに来たのは俺の謎のこだわりだけど、見ての通り、俺は駆け出しだから、色々教えてもらえると助かるかな」

そう、ここまで来たのは本当に俺の謎のこだわりが働いたからに過ぎない。本来ならば駆け出しというのは商業区の武器屋でセール品でも買うのだろう。
財力が無いからな。
しかし、俺は一味も二味もある曲者なのだ(自覚あり)。
ここまで買いに来ても不思議ではない。(自分で言うか)
こんなおかしな俺の行動とは裏腹に、赤髪の彼女は親切だった。

「そういう事でしたら、了解です!私ににおまかせ下さい!・・・といっても、教えられることはそうないっちゃないんですけどねー」

そう言って微笑む赤髪職人さん。
人柄が滲み出ている。

それはさておき、俺はふと気づいたことがあった。

「あのさ、お互い歳も近いし、こんだけ話したらもう他人じゃないだろ?その、使いづらそうな敬語はやめちゃっていいよ。俺もさっきそうしたし。」

キタコレ。もう俺が主人公でも良くね?

赤髪職人さんは少し驚いたように目を開かせたが、その後改まったように背すじをピンと伸ばした。

「そ、そうですかね・・・」

そういう彼女の頬は少し朱に染まっていた。
まぁ、言われて敬語を止めるって、若干恥ずかしいよね。気持ちは分かる。

しばらく頬に手を当てて下を向いていたが、フッと顔を上げて、ニコッと眩しい笑顔を向けてきた。

「え、えーでは、コホン。ども!私は国立総合学校で学生やってる、咲花 風亜(さきばな  ふうあ)だよ!今日はよろしく!」

やはり、元気がいい。明るい笑顔に輝く赤髪。思わず見とれてしまうような自己紹介だった。
もっとも、言った本人は嬉しいような、困ったような、また、恥ずかしいような・・・といった、微妙な表情をしていたのだが。










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