十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜

たろゆ

十二話 気のせい

今日は昨日の疲れを癒すために、休養日にした。
つまり、依頼は受けない。

思い返せば、昨日の戦闘は本当に危なかった。
今回のアナザーリコッデは特異個体という事で、確かに見返りは大きかったものの、ともすれば命すら落としていたと思うと、果たして見返りに重きを置いてしまっていいのだろうか。

だからEXという仕事はそれほど甘くはないのだ。という事を改めて、再認識させられた。

ただ、危険ではあったが、いい経験にはなったと思う。
いくら常に命をかけているEXだとしても、生命が危ぶまれるほどの戦闘はなかなか出来ないはずだ。
駆け出しの内にこういった経験が出来たことは、今後の戦闘に大きく活かせると思う。
アナザーリコッデ・・・強敵だったが、確実に俺の成長の糧になってくれたはずだ。

ただ、俺が今、本当に気になっているのはアナザーリコッデの事ではない。

昨日からどうも元気の無い奴が一人いるのだ。

「・・・・・・」

ぼーっと、生気の感じられない表情で座り込んで窓の外を見ている。

・・・・・・末期ですな。

ヒナタと白ローブにどんな関係があるかはわからないが、間違いなく並々ならぬ因縁がある、と断言しよう。

俺が断言してしまえるほど、あの震え方は尋常じゃ無かった。

当然、昨晩の食事の時にやんわりとした質問を繰り返したのだが・・・

しかし、どんな質問をしても、ヒナタの返答は必死にはぐらかそうとしている者のそれだった。

「え、えと、ちょっと疲れてしまったというか、はい、緊張が解けて気が緩んでたかもしれないですね!し、白いローブなんて見てないですよ!?」

もう、何というか・・・
とてもじゃないが見てられなかったので、深く追及するのも控えた。

何かしらの事情があるにせよ、今は現状を見守るしかないだろう。今すぐにでも助けられない事が非常に遺憾ではあるが。


ただ、いつまでも暗い雰囲気のままでいる訳にも行かない。休養日とは言え、やるべき事はあるのだ。

ヒナタを誘って、早く出掛けなければいけない。

こんな状態のヒナタを外に連れ出すのは不安だが、こんな状況だからこそ、外の空気を吸って、様々な人達と交流する事で、少しは気が紛れるのではないかと思う。

とことこと、ゆっくりとした歩調でヒナタに歩み寄り、声をかける。

「ヒナタ?お金も溜まってきたことだし、そろそろ装備買いに行きたいんだけど」

首を縦に振ったヒナタは、立ち上がり、小走りで自室へと入っていく。きっと身支度をするのだろう。

そうそう、俺の用事というのは、実は・・・

刃こぼれした剣と、傷だらけの防具をそろそろ入れ替え、新たな装備を買いに行くのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

ここは街の南(実はこの街、サニー街という)の工業地帯。一般的な工業製品を製造する工場(電化製品・陶器・衣類etc……)はもちろん、装備品を製作する鍛冶屋もここに集まっている。
基本的には鍛冶屋は製造の場であり、販売は担当していないが、世の中には“常連”というものが存在し、どうしても“この人のものを買いたい”という場合がある。
そんな時、中央区(商業区)の武具屋で“その人”が作製した装備が無い、もしくは売り切れていたら・・・?

結局、工業地帯に戻る事になるのだ。二度手間なのだ。

もう一度言うが、装備を揃えるだけならば、中央区の商業地帯で買えばいい。

しかし、俺はそうしなかった。やはり鍛冶屋で直接購入したい。特に理由はないが、俺はそうしたかった。この気持ち、わかってくれる人もいるはず。
強いていえば、通ぶりたかったのかもしれない。

何はともあれ、歩けば景色は変わっていくもので、辺り一面には無機質なコンクリートが敷き詰められた、正に工業地帯といった様子。

こういった場所にとんでもない職人がうじゃうじゃしていると思うと、期待に胸が膨らむ。


とりあえず、一番はじめに目に付いた鍛冶屋の前に着いた俺は、早速武器を見せてもらおうとするが、ヒナタに呼び止められた。

「ソラノくん!こちらの鍛冶屋で頼みましょう」

魔法職のヒナタなのに、こういった事に詳しいのだろうか?まさかオススメの店を勧めてくるとは思わなかった。よくよく考えれば彼女の方がこの街に詳しいのは当たり前だったか。
初めから聞いておけばよかったと、後悔しつつ、どんな店を勧めてくるのか、期待もしていた。

俺はこの店の店員に気づかれる前にササッと退散。ヒナタイチオシの鍛冶屋へ向かう。

店構えというか、工房構えというか、とにかく、風貌はほかの工房と変わらない、平たく言えば普通の鍛冶屋だ。
ただ、今朝までテンション低めだったあのヒナタがわざわざ勧めてくるほどの店だ。
他にはない魅力があるに違いない。

「お前がこんな店知ってるなんて、ちょっと驚いたよ。この鍛冶屋はどんな特徴があるんだ?」

「まぁ、そうでしょうね。私魔法職なので鍛冶屋にはほとんど行きませんし。この店を知ったのもほんとに偶然でした。」

偶然見つけた・・・この響きが、むしろ俺に期待させてくれる。穴場感がすごい!

そう言うとヒナタは普段通りの不敵な笑みを浮かべて続けた。

「な、な、なんと!!この店で装備品を買うと!サニーソフト(アイス)が貰えるのですよ!」

・・・・・・

・・・は?

「ふざけんな!別に武器の質がいいとかじゃないのかよ!やっぱお前が知ってるわけないよな!魔法系EXだもんな!信じてしまってごめんなさい、今後は信用しないので安心してください!」

俺の期待を返せ!

「ひどい!多少は信じてくださいよ!サニーソフトは商業区でもかなりの限定品でなかなか手に入らないんですよ!」

「知るか!そんなに欲しかったらアイスだけ買えばいいだろ?あとで買ってやるよ。だから今は質の良さにこだわった鍛冶屋に行くぞ。聞きこみ開始だ。」

「えっ!買ってくれるんですか!それはそれはソラノくんもたまにはいいとこありますね。」

「あぁ、買ってやるとも。果たして人気の限定品がこの時間にまだ売っているのか・・・もちろん、売ってなかったらこの契約は無効な。」

「売ってるわけないじゃないですか!ハメたな!二度もハメた!父親にもハメられた事ないのに!」

「パクるな!」

ていうか2度もハメたっけ?覚えてないや。

はぁぁ、と、深くため息をついて、ふと空を見上げる。

ヒナタは・・・いつも通りだな。やっぱり、外の空気を吸うっていうのはいい事だ。でもここ、工業地帯だから決して空気がキレイってわけじゃ無いんだよな。
この適度な淀みがヒナタには丁度よかったのかもしれない(失礼)

やはり今日のヒナタは昨日とは違い、精神的にも、体力的にも、いつも通り落ち着いていると思う。いや、いつもは落ち着いてないか。むしろ暴れてるよな。

ま、まぁ、細かいことはいいさ。多分大丈夫だ。

昨日のことも俺が心配性になりすぎてた部分もあったかもしれない。

気のせいだ。気のせい。

俺はそう思うことにした。

「よし、ヒナタ、いい鍛冶屋に行くための聞き込みを始めよう。」

「・・・はーい」

何拗ねてんだよ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「ここか。」

「ですね。」

聞き込みをした俺たちは、ある鍛冶屋の前に来ている。

どうやら、この工房が注文を受けているメーカーは、武器の丈夫さに重きを置いているため、パワフルな槌さばきで頑丈な装備品を作るらしい。

初心者EXはお金に困ることが多く、装備品がすぐにダメになったりすると生活に大きな支障が出る。だから、丈夫な武器を持つ事をEX協会は推奨している。そのため、俺もまずはここで頑丈な武器を作ってもらおうと思ったわけだ。

しかし、俺は実は今まで依頼を失敗したことはないため、お金に困ってるということもない。正直なところ、質のみを追い求めても金銭的な面では問題無い。

だが、自分の武器は長く、愛着を持って使用していきたいし、簡単に乗り換えるのはちょっと違うと思う。
だからすぐ壊れて欲しくないのだ。かの黒の剣士も自分の武器を家族のように扱っていた。カッコよすぎる。
ちなみに俺が今使っている武器と防具はヒナタ宅の倉庫から引っ張り出したもので、誠に申し訳ないが愛着はあまりない。
しかしこの武器にお世話になったのは事実なので、インゴットにしてアクセサリーでも作ろうかなとは思っている。

とまぁ、そういった経緯で俺は丈夫な武器を求めたのだ。

さて、鍛冶屋で武器を作るといっても、職人さんが自由気ままに装備を作っている訳では無い。

ほとんどの鍛冶屋はメーカーからの注文を受けて、メーカーの希望に沿った武器を作成するらしい。
もちろん、職人さんの腕によって武器の質にもムラが出てくるのは当然のため、作成された武器にはメーカーロゴとともに、作成者とその所属工房の刻印が彫られるらしい。

この工業地帯にある鍛冶屋は所謂大企業の下請け及び孫請けと言ったところだろうか。

ただ、腕のいい職人の鍛冶屋には複数のメーカーから注文が届くこともあったり、鍛冶の道を極めたベテラン鍛冶師はオリジナルのメーカーを作り、武器の設計から作成までを1人で行う、などという場合もある。
もちろん、両者とも(特に後者は)素晴らしい品質を誇るが、その分目を見張るほどの値がつく。
それらに俺が関わるのは相当後か、もしくはそんな日は来ないか、の二択だろう。無論、この街の工業地帯にそれほどの腕を持った職人はいないであろうが。

というわけで、俺達がやってきたこの鍛冶屋の名前は“シルバー工房“。
大手メーカーで頑丈な武器が特徴的な“バリアーズ”の依頼を受けている鍛冶屋だ。
駆け出しはまずバリアーズから。このフレーズは誰もが聞いたことがあるはずだ。それほどまでに、扱いやすく、丈夫な武器ということなのだろう。その安定感から、ベテランになってもバリアーズを使い続けるEXも少なくないという。


さて、この鍛冶屋には受付らしき小窓が一つ、ついており、そこから様々な手続きをするのだろうと思うが、工房内部を窺い知ることはできない。まさか正面の扉から無言でヅカヅカ入るわけにも行かないし、窓が非常に汚れているのだ。恐らく武器を作る際に発生するアレやコレが周囲に飛び散った結果、汚れてしまったのだろう。
しかしその汚れから、職人魂の一片が読み取れる。

ここから、声をかけて、聞こえるだろうか?工房内から特に音は聞こえないため、作業はしてないものと思われる。

「あのー、武器の購入を検討している者ですが」

工房に直接買いに来る人なんて、そう居ないだろうに、返答は早かった。

「あ、はい!はい!少々お待ちください!」

・・・おや?

工房の奥から聞こえてきた声は、意外にも女性の声だった。

ヒナタも同じ事を思ったようで、

「ソラノくん。どうやらこの鍛冶屋の職人さんは女性みたいですね。」

「それも1人で、な。やっぱ珍しい感じ?」

「そうですね。女性が自分の工房を持つなんて、なかなか珍しいとは思います。でも一つの鍛冶屋に一人しかいない、というのは割と普通ですよ。大抵の鍛冶屋は一人で作業をするか、アシスタントを一人つけて二人で作業するかの二択なので。」

随分と大変そうだな、鍛治職人って。しかも女性と来たものだから、アシスタントの一人くらいいないと、力仕事がなかなか進まないんじゃないか?
でも現実にこの女性は営業をしている訳だし、聞きこみの結果、多くに人がこの鍛冶屋を勧めてきたのだから、相当な努力をしたのだろう。いや、今もしているのか。

こういった裏方の人たちに俺らEXの活動は支えられているんだな、と思うと、これから購入する武器を大切にしていかないといけないなと、心から思う。

「お待たせしましたー!武器の購入でしたね!こちらの扉から工房の中へどうぞ!お好きな武器を選んでください!」

小窓を開けて、顔を覗かせた“シルバー工房”の職人さん。

やけに元気よく受付をしてくれた女職人さんは、赤髪で、ショートで、スタイルも良くて。

工房やら工業地帯などという男臭い場所には到底似つかわしくないような、

俺たち二人が思わず絶句するほどの美人だった。


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