十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜

たろゆ

十話 危機

実はこの再構築した世界に来て、俺はかなり戸惑っていた。

あまりにも非常識で、そして現実味のない現象ばかりが俺の周りを支配していたように思う。

しかし、ヒナタとの出会いが俺を変えた。

戸惑いと困惑の中で調べたこの世界の知識。もし俺一人で調べたとしたら、きっと疑心暗鬼の中でどの情報も信じられないまま終わっていただろう。

初めての魔物討伐。確か相手はホーンドッグ。駆け出しEXでも苦戦しないような相手。しかし、日本という国でぬくぬくと育ってきた俺が、もしも一人で倒しに行くことになったとしたら、その醜悪な姿に怖気づき、一歩踏み込んで剣を振るうことは出来なかっただろう。

更には、オムライス。ヒナタの家にしばらくお世話になることが決まった日の夜。彼女はオムライスを作った。実は俺はオムライスが特別好き・・・という訳ではなかったため、いざ食べるとなってもそれほどの感動はなかった。ただただ“女の子の手料理”という、それだけで良かった。

しかし、一度口に入れると、俺は既にそのオムライスの虜になってしまっていた。
これほど美味しいオムライスは食べたことが無い、と。
その日からオムライスは俺の大好物になったのだ。

このように、俺ヒナタの穏やかで緩い日々はその後も変わることなく続いた。

毎日教会へ赴き、魔物を狩り、小金を稼ぎ、少しだけ贅沢なご飯を食べたり。
強力な魔物が跋扈する湿原を覗きに行ったら魔物の一体が追いかけてきて、死に体で何とか倒したり。

そして家に帰った俺をふわとろのオムライスが迎えてくれたり。
それらの日々は俺にとっては何物にも変え難い貴重な宝物だった。
前世では満たされなかった空っぽの器が少しずつ満たされていくような、そんな気分になれた。
毎日が、とても充実していた。

そう、あの時までは。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

今日でこの世界を創って1ヶ月だ。
当初は“俺が作った世界だ”なんていう不思議なプライドを心に携えていた俺だが、今やこの世界こそが俺が生きる世界であり、決して自分だけのものにしていいような軽いものではないという認識が定着している。

この世界を誰が作ったとか、なぜ作ったのかとか、(まぁ、突き詰めれば全て俺に原因があるわけだが、)どうでも良くなっていた。どうでもいいという表現は聞こえが悪いだろうか?しかし俺は、その感覚は決して間違っていないと思っている。

ただそこにある幸せに身を委ねつつ、こんな日々が続くのならば、案外世界も悪くない、なんて、らしくないことを考えていたとある日のこと。

俺はふと、思いついた疑問を口にした。

「なぁヒナタ。他の世界に行く事はできんの?」

それはなんて事無い、ただの興味から生じた質問。

12世界はそれぞれ独立し、互いの不干渉を貫いていると言うのが歴史書の内容だ。(歴史書と言ってもPC奥の人物が勝手に作り出したものだろうが)

しかし、時代は変わっている。

一貫して不干渉だった他世界は、少しずつ、そして一部のみであるが、世界同士で貿易等の社会的な交流を交えるようになったのだ。もちろん、依然として動きのない世界は多いが。

となると、一部の世界と限定はされるだろうが、他世界へ旅行するとまでは行かずとも、どんな世界なのか見に行くことは出来てもいいはずだ。

そういった推測のもとで質問したのだが、ヒナタの答えはあっさりしたものだった。

「え?旅行にでも行くんですか?別にいいですけど、お金あります?」

色々すっ飛ばしてくるよなぁ。こちらも色々な仮説を立てていたんだが・・・。
そもそも、それほど気軽に旅行に行けるということを初めて知ったよ。

歴史書の内容に不満を覚えた俺は、項垂れたように呟く。

「あれだろ?12の世界はお互いに不干渉で・・・」

「あっははは!もぅ、一体いつの時代の話をしているんですか?そんな時代とっくにすぎて、今では隣界の“セルビオ”なんかは有名な旅行地ですよ。」

いつの時代って、俺が聞きたいよ。この一ヶ月の間に一体何が起きたらそれほど濃密な歴史が生まれるというのか。
・・・とりあえず歴史書使えねぇ。これだけは確かだ。

「へ、へぇ」

既に知っている事実を得意げに語られ、肝心な部分をすっ飛ばされた俺は、こめかみに青筋を浮かべながら微妙な返事をするのだった。

するとヒナタが

「あ、でも、そんな簡単じゃないですよ?他界へ行くには政府の許可やら何やらで大量のお金と、ちゃんとした身分がないと。今の私たちにはそこまでのお金も無ければ一介のEXに過ぎません。この世界“ジャパング”で有名なEXになれば、政府も許可を出すんじゃないですか?」

毎日の依頼でお金は結構貯まっているはずだが、それでも足りないのか。それにEXを仕事としているならば、ジャパング内で有名にならなければいけない、と。これは当分世界旅行は無理だな。

というか、ジャパングって名前誰が考えたんだよ。やめろよ。微妙だぞ。何か言ってて微妙に恥ずかしいの俺だけかな。

しかしそんな願いが届くはずもなく、目の前のヒナタは微笑みを崩さずこちらを見据えている。

「それはそうとソラノくん。今日はどんな依頼をします?」

「あー、今日はどうしような。」

そう言えば、この一ヶ月で俺のレベルもだいぶ上がってきた。・・・と思う。そろそろビディオンを確認した方がいいかな。まぁいいや。

俺のステータスの上昇とともに、倒す敵の強さも大きく変化している。
少なくともこのEX協会に届く依頼はほとんど達成できる。しかし、どうやらこのEX協会は規模が小さいらしい。(比較対象は都心部のEX協会本部)
更に、ここら一帯には強い魔物はそうはいない。
そのため、協会に届く依頼も大したものはないという。

だから、例え協会のほとんどの依頼をこなせても決して自分の力を過信してはいけない。

とは言いつつも、ここ一週間程は手応えのない敵ばかりで、絶賛萎え萎えなうだったため、今日は何を倒そうかなどという発想はあったものの、倒した事がある魔物ばかりが頭をよぎり、発想の段階で止まってしまったのだ。

ヒナタは目を見開いて、まるで信じられないと言った様子。しかし、数秒後に何かを思いついたような不敵な笑みを浮かべた。

「考えてないんですか?それじゃ、今日はアナザーリコッデの討伐などどうでしょう!?」

アナザーリコッデ・・・アナザーリコッデと言えば・・・

「それ昨日一番報酬高かったやつじゃねーか!高難易度だろ?嫌だよ。」

最近のヒナタは俺が強くなったというのを理由に、報酬のいい依頼に行きたがる。

確かに俺は着実に強くなり、高難易度依頼も一部を除いて達成できるレベルになった。

しかし、決して過信はしていない。
EX歴1ヶ月の俺が高難易度をクリア出来るはずがないのだ。きっとこの協会の水準が低いだけだ。

周りのEXも皆、高難易度をクリアできる実力者のはずだ。

せめて他人が受ける依頼が分かれば良いのだが、EX協会というのはどこも個人情報の管理に力を入れているらしく、個人の受注状況も例外ではないらしい。

つまり、依頼を受けるには受付に行き、依頼一覧表をを見せてもらい、その中からやりたい仕事を選ぶというわけだ。

話を戻そう。

確かに強くなった俺だが、慢心は思わぬ事故を生む。念には念をというが、俺はその上でさらに念をおしたい。

また、最近湿原の魔物に殺されかけたのも若干トラウマになっている。

俺は湿原の魔物を通して、いくら規模の小さいEX協会とは言っても、高難易度だけはまるで別物である事を身をもって知ったのだ。

以上の点から、俺は高難易度依頼には反対なのだが、、、

「いいじゃないですか。ソラノくん強いんだし。もう私より強くなってますし。貢献度的にソラノくんの方活躍してますし。」

という事らしい。要は、俺が強くなったせいで自分(ヒナタ)という存在があまり必要でなくなり、置物状態になっているのが気に入らないのだろう。

どうせ置物なら報酬が多いものを!
ある意味当然の思考と言える。

「お金欲しくないんですか?アナザーリコッデなど、私の支援を受けたソラノくんにかかれば3分で料理してやりますよ。」

おかしいぞ。それ結局俺だぞ。
3分で料理してやりますよ。っていやいや、料理してやるの俺だからね。

「ほらほら、早くしないと置いていきますよ!」

「あっ、おい!」

駆け足で走り出したヒナタを追うように俺も走る。
お前が先に協会に行ったところで、結局以来受けるの俺じゃん。お前、柱の陰に隠れるだけじゃん。

そんな心の叫びも虚しく、

俺は渋々アナザーリコッデとかいう四足歩行のガチムチイノシシを倒しに行くのだった。

もはや慣れ親しんだ受付の男性は、少しだけ難しい顔をしていたが、その後、納得したように頷き、判を押してくれた。もう1ヶ月ほどの付き合いになるが、未だに名前は知らない。

名札くらいつけて欲しいものだ。

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ここは例の湿原にほど近い湖のほとり。湖には新鮮な魚が多く生息しているが、危険な魔物も水中に潜むため、この湖で釣りをするの者はかなりの熟練者であるが、、、

「マジで釣るの?ていうか本当にアナザーリコッデって水中に住んでんの?」

ヒナタは俺にアナザーリコッデを釣り上げろという。
無理だろ。アナザーリコッデは体長三mを超えてくる大型のモンスター。重さも相当なものだろう。更に本体の重さに加えて水の抵抗を考えるととてもじゃないが釣り上げることは出来ない。ていうか何で水中に住んでんの?

「ソラノくん、普通に釣ってはいけませんよ。」

だからなぜ水中なのだと聞いてるだろうに。

「じゃあどうしろと?俺に釣りのテクニックは無いから技術的な事はできんぞ。」

するとヒナタはニンマリと不敵かつ愛らしい笑みを浮かべた。

「いえいえ、これからやる釣りは最も単純で簡単な方法です」

すぅ、と一呼吸おいて話し始めたヒナタの作戦とは、こうだ。

「ソラノくん、まずは釣り針にこの肉を括りつけて手前側におびき寄せるのです。アナザーリコッデはその巨体から、近くに来れば水面が少し暗くなるので、そうなったらチャンスタイム!鍛え上げたソラノくんの黒魔法をぶち込みましょう!そうすればアナザーリコッデにダメージを与えると同時に、周囲の湖も黒魔法の威力で吹き飛び、数秒間は姿を現すはずです!そしてその隙にグサッといくのです!どうです?完璧でしょう!」

「長ぇ」

「ぇ・・・」

その作戦も結局全部俺じゃん!ちょっとは後ろめたさとかないのかな?無いよな。

さぁ冷静に考えよう。
まず俺の黒魔法で湖を吹っ飛ばせるか?いや、無理とは言わないが厳しいだろう。俺は決して魔法系EXではないから威力的に不安は残る。

仮に湖を消し飛ばしたとして、その後の数秒でアナザーリコッデを倒せるか?いや、これも怪しい。上手く行けば急所への一撃で倒せるが、仕留めきれない可能性の方が高い上、その場合の反撃を考えると迂闊にでは出せない。

あーでもない、こーでもないと確実な方法を模索する俺。しかしヒナタはというと

「ソラノくんがやらないなら私が釣りますよ?早くしないと日が暮れます。突撃あるのみ!です!」

なぜにお前はそんなに男らしいんだ。

「さぁ行きます!」

そう言って早々と釣り針を湖に投げ入れる。

「あっ、おい!」

あまりの行き当たりばったり加減に、こいつは本当に俺よりEX歴が長いのか?とかよく今までやってこれたな、とか思うところはあったが、ヒナタが釣り針を落としてしまった以上、もう後戻りはできない。

俺は黒魔法を撃つために身構える。

「ソラノくん!来ますよ!」

ヒナタの掛け声とともに水面が徐々に暗くなっていく。
現れた影はだんだんと大きくなっていき、大きくなっていき、お、おおきくなって、、、

「ちょっとデカすぎないですかね!?ヒナタさん!?」

影は既5メートルを越そうかというくらいに膨れ上がってきていた。

水面が荒れ狂う。水しぶきをまき散らしながらそれは姿を現した。

ウオオオオオオォォンッッッ!

「な、なんじゃこりゃ」

体長3メートルとか誰が言った!?まじで!

目の前のアナザーリコッデは明らかに10メートル近くあるぞ!
驚きのあまり、当初の予定であった黒魔法の行使をすっかり忘れていた。これはまずいとヒナタの方を向き、作戦の失敗を伝えようとしたのだが、

「悪いヒナタ!呆然としてて、黒魔法撃つの忘れた・・・って!何やってんの!死ぬぞ!?」

「あ、あわわわ・・・」

振り返って作戦の失敗を伝えたが、どうやらヒナタはそれどころではないらしく、地面に座り込んで口をぱくぱくさせていた。

「まじで!頼むぜヒナタさん!?クッソ!これはやばいマジでやばい!どうする?どうする?」

軽く一人パニックだが、アナザーリコッデもなかなか手を出してこない。警戒心を強めているのかと思ったが、口元がもぐもぐと動いている。先ほど釣り針に餌としてつけた肉を頬張っているのだろう・・・これはっ!チャンスタイム!

「しゃあ!ぶちかますぞ!ディストラクションッッッ!!!」

俺の手から放たれた黒い瘴気は猛スピードでリコッデの大牙へ直進する。

所詮は四足歩行のイノシシが巨大化しただけの魔物だ!この一撃で大牙をへし折ってやるぜ!と言った意気込みで放った渾身のディストラクションだったが果たして・・・

狙い通り大牙に直撃した黒い瘴気は、バキャッ!という鈍い音を立てて大牙をへし折る・・・ことは無く、うっすらとヒビをいれる程度に終わった。

「ま、マジですか・・・」

下手に刺激したせいで食事をやめてこちらに注意を向けたリコッデ。
やってしまった感が尋常じゃない。

この世界で暮らして1ヶ月。俺は、かつて無い危機を迎えることとなった。



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コメント

  • たろゆ

    お久しぶりです。宣言通り(少し遅れましたが)落ち着いたので、定期的に更新できればと思います。よろしくお願いします。

    1
  • 瑞樹の相棒ヤゾラっち

    おっひさー、リアル大丈夫でしたか?これからさらに主人公がこれからどんどん強くなっていくのかな?次話も楽しみです^_^

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