十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜

たろゆ

四話 EX

穏やかで心地よい朝日が窓から差し込んでいる。ふんわりと風に揺れる草木はまるで全身で喜びを表現しているかのよう。

「ソラノ君~?目玉焼きはつくれました?」

「あぁ、バッチリだよ。ところで、さっさと着替えたいんだけど、着替えってどこ?」

「もおー、着替えはベッドの横に置いてあるって昨日の夜言いましたよ?」

「あれ?そうだっけ。悪いな」

あぁ、今日も朝から気持ちのいい一日になる予感がビンビンだ。

「あぁっ!ソラノ君、黄身が潰れてるんですけど」

「うへぇ、マジかよ。まぁ、それは俺が食べるから、もう片方の綺麗な目玉焼きをヒナタにやるよ」

「・・・両方とも潰れてるんですが」

「なぬっ」

少しばかり寝ぼけていたか?こんな単純なミスをしてしまうなんてな。

「わりぃ、今日はちょっと寝ぼけてたわ。明日の俺に期待しといてくれ。」

「・・・昨日もそんなような事言ってましたよね?あと昨日も目玉焼き両方とも潰してましたよね?」

「痛い、痛いよ、ジト目が痛い。・・・やめろん!」

「ごめんなさい、最後のやつちょっと気持ち悪かったです。」

お、俺の渾身のやめろんが。

ワード“やめろん”意味→やめて欲しいという意思が込められた俺語。使用後、相手に嫌悪感を与えることが出来る。

使えねぇな。

苦笑を抑えつつ、額に浮かぶ嫌な汗を拭う。

そして、本日の本題へと話題を変えた。

「ところで、今日はついに、行くんだよな?」

「そうですね。必要な知識はもう十分に身についたと思うので、そろそろですかね。」

「はぁ〜、やっと始まるって感じだな。何かな、感無量って感じ?」

「始まる・・・ですか?そこはちょっと分からないですけど、感無量なんて大袈裟じゃないですか?今日だって、ただただ協会で依頼を受けに行くだけですし。」

おっと、始まるなんて表現は確かにおかしいよな。なにせその表現は俺にしか該当しないから。

いや、そんなことより

「いやいや!魔物退治なんて男の子の憧れだぞ?まさかこの手で悪しき魔物を屠る日が来ようとは・・・ふ、ふふふ、フハハハハハハハハ!!!」

「ジィーーーーーーーー」

あっ、やめて、じ、ジト目はやめろん!

・・・流石に口には出さなかったが。

ここまでのやり取りを見てお気づきの方もいるかもしれないが、俺とヒナタの仲は随分と深まっていた。
今では俺が呼び捨てで呼ぶほどだ。
俺が異性を呼び捨てで呼ぶって事が、どれだけすごい事なのか、お分かりいただけるだろうか?これに関しては流石に俺しか分からないだろうな。

まぁそんなこんなで朝食を食べた後、俺達はのんびりと目的の場所へ向かったのだった。

ーーーーーーーーーーーーーー

さて、やってきましたエクスキューションズ協会。通称EX協会。EXとは一体何か、という点についてだが、主に魔物退治を生業とし、生計を立てている者のこと指す。
そして、EXというのは、エクスキューションズを短縮したものである

エクスキューション→排除

どんだけ魔物嫌いなんだよ人間共。(さりげなく自分を除外)まぁ、街に侵攻してくることもあるようだし、人々に害を及ぼす時点で好かれるわけはないか。それに、醜悪な見た目が相まって、もはや嫌われる要素しかない魔物達。

ちなみに魔物に決まった呼び方はない。魔物、怪物、モンスター、怪異etc..。

さて、なぜ俺がここに来たのか、気になるところであろう。もちろん、魔物を退治するEX登録をしに来た。

そして、人生初の魔物退治依頼を受けるのだ。

なに、おかしな話じゃない。

この世界には魔物がたくさんいる。
わー、それは危ないなー早く倒して世界を平和にしないといけないなー、という思考が働く。
魔物を倒す。以上だ。

多くの人間がそういった動機で動くのと同じように、俺もその思考に則ってEXを目指す。それだけだ。

・・・マジレスすると、俺みたいな放浪者が今更働けるほど甘い世界ではない、という非常な現実が眼前に立ち塞がってたりするのだが・・・。

さて、本日のメインイベント“EX登録”を始める前に、今一度、協会の外観を見直したい。

EX協会・・・言い方が違うだけで、ようは冒険者ギルドみたいなものだろう。
しかし、俺がイメージしている冒険者ギルドの外観とは大きく異なった特徴があった。
例えば冒険者ギルドであれば、奇を衒った特徴的な屋根だったり、独自のエムブレムをデカデカと正面扉の上あたりにつけていたりと、“それらしさ”というものが前面に出ていると思う。
一方、EX協会はというと、まぁ一言で表せば、“ビル”・・・かな、うん。
ビル、と言ってしまえば都会の高い建物を想像してしまうかもしれないが、決して高くはない。むしろ低い。
背の低いビル・・・この表現が正しいか。
何だか、スーツを着たサラリーマンが出入りしそうな建物といえば、よりイメージしやすいかと思う。

扉も当然のように自動である。

再構築されて、異世界感及びRPG感が大きくなっていたはずだが、こういった先進的な一面を見ると、再構築前と同じ世界なのではないかと錯覚してしまう。

「早く、EX登録を済ませましょう。もう少ししたら受付が混みあってきますよ。」

協会前で立ち尽くす俺にしびれを切らしたのだろうか、ヒナタが急かしてくる。

「分かった。手順は一昨日教わったとおりでいいよな?」

「はい、間違いないのでご心配なく。」

そういって微笑みとともに俺を送り出すヒナタ。初めてあった時のような神々しさこそないが、全身から凄まじい量のほわんほわんオーラが溢れ出ている(彼は比喩表現に問題があるようです)

自動扉を抜けると、既視感のある光景が広がる。
これは・・・銀行だろうか?正面横一列にズラーっと受付担当らしき職員さんが並んでいる。それぞれの受付には仕切りがあり、随分ときちっとした印象を与える。
やはり銀行に似ているような気がする。

フロントとでも言おうか、この広々とした空間。
右の方には
円形の白いテーブルと、背もたれに細やかな装飾が施された椅子が、2セット用意されており、1セットは冒険者らしき人物が三名で利用していた。
しかし、決してお酒を飲むようなことはなく、大声で騒ぎ立てることもなく、まさに談笑といった体で話し込んでいた。

EXというのは、礼儀正しいのだろうか。

当たり前の事だが、見慣れない光景への戸惑いを隠せない俺は、やや早歩きになりつつ受付へ向かう。

「こんにちは。EX協会です。本日はどのようなご要件ですか?」

EX協会のユニフォームなのだろうが、紫を基調とする白いラインが特徴的なスーツは、正直なところあまりセンスがいいようには思えなかったが、そういった芸術的な感性は人それぞれだから仕方が無い。

ハキハキとした声に対し、俺は、予定していた手順に従い答えていく。

「あぁ、EX登録をお願いします」

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」

そういって受付の男性は書類の準備に取り掛かった。ちなみに受付が全員男性であることへのツッコミは今はしないでおこう。

「ソラノ君〜。私はここで見てるので、あとは頑張ってくださいね。」

ヒナタは何故か、この空間に一本しかない柱に隠れている。心做しか声が震えている気がするが、何がしたいんだ、一体。


・・・さて、ここまで唐突にEXを目指し始めてように見える俺だが、そのための下準備はもちろんしてきた訳だ。実は、ヒナタの家に居候し始めておよそ十日という月日が経過しているのだが、

となると俺がこの1十日間何をしていたのか気になる頃だろう。

何も、毎日ヒナタと初々しいカップルの如くイチャついていた訳では無い。
もちろんそういった時間も無きにしも非ずとも言えなくもない感じではあるが。(全く無かった)
そう、俺はこの十日間、俺はひたすら知識を詰め込んだ。魔物の存在、魔法の使い方、戦闘の基本、武器の種類や特性。そして、この世界そのものについて。

調べを進めるうちに、再構築されたこの世界では、ある常識が提唱されている事が分かった。

それは、『遠い昔、十二の世界が統合されて1つになった。しかし、十二の世界は互いの干渉を拒み、各世界そのものの発展はついぞ叶わなかった。統合されたにも関わらず、頑なに独立の姿勢を崩さないこの世界の状態を嘆いたとある人物が、この世界に名前をつけた。彼は、最大限の皮肉を込めてあえてこう呼んだ。『十二世界トゥウェルヴス』と。一つになったにもかかわらず、結局は統合される前の十二個の、それぞれの世界であった時と変わらないのだと。まさしく皮肉である。』というものだ。

どうやら、俺が再構築したのは“遠い昔”という事になっているらしい。まさかこの世の誰もが十日前に創られた世界だとは思うまい。

この話の著者は、まるで再構築前の世界を知っているかのような口ぶりだが、これはあのPC上の人物達が作り上げた設定であるはずだ。そうでなければあまりにも辻褄が合わないしな。

そして、俺がいるこの世界は、

・・・“ジャパング”というらしい。

日本じゃねーか!と思わずツッコミを入れたのだが、その通り、ここは日本だ。

見知った建物は何一つない上に、どうやら都道府県区分などもないようだが、たしかに日本だ。

それは、ここにいるヒナタを始めとした国民の顔立ちや性格、性質が証明しているし、このEX協会の外観からもわかるはずだ。ここに来るまでの道のりで、軽く街の様子を見渡していたのだが、どうやらここは街というわりには栄えてはいないようだ。
失礼だが、木造のボロっとした住居もチラホラと見られたり、広大な畑や田んぼを見かけたり。
ただ、今後は発展していくだろうということは、そこかしこに見られる現代的な住居や、このEX協会の近未来的な外観からも容易に想像できる。

先程栄えてはいないとはいったが、決して田舎という訳では無い。

二本堂書店だの、ウェリオン家電だの、どこかにあったような名前の店もあり、生活に支障はないどころか、快適だ。

科学技術って素晴らしい。

ただ、不思議なのはここまで技術がありながら何故、銃や爆弾などの兵器が全くと言っていいほど流通してないのか。もしくは、昔はあったのかもしれないが、今は完全に消えてしまったのか。
前者であっても、後者であっても、俺に知る由はない。

そこは、PC上の彼らが言っていたように、ごちゃ混ぜミックスシャッフル再構築の弊害なのだろう。彼らしか知り得ないのだ。残念ながら。

ちなみに、今さらになってしまったが、この街の名は“折刺(おりさし)”だ。由来は不明。折って刺すだなんて、物騒な街だと思う。

いやー、しかし、矛盾もいいところだよな。冷蔵庫や風呂、ベッドなどは最新のモデルが発売されているにもかかわらず、テレビやスマートフォン、車などといった製品はどうやら存在していないらしい。本当に、そんなことが起こりうるのだろうか?この世界の人って、テレビもスマホも車もなしに、どうやって仕事してるんだろ。
今どきこれらの神器がないのは辛い。

しかし、この実状、考え方を変えれば、

まるで、このRPG風の世界に合わせるためにわざわざ再構築時に除外したかのような・・・

「お客様!!!聞いてらっしゃいますか!?あのー!お客様!」

鋭い怒気のこもった声で、正気を取り戻した俺は、顔を赤くしてこちらを見据える受付男性の顔を見て、不覚にも恐怖を感じ、すぐさま謝罪した。

「はいっっ!すみませんでした!」

少し離れた柱の陰からも声が掛かる。

「ソラノ君、どうしたんですか?そんなにぼーっとして。受付の男の人、カンカンですよ?」

違うんだ、つい深く考え込んでしまっただけなんだ。(何も違わない説)

ってか、お前はさっさとこっちに来いよ!何で柱の陰に隠れてんだよ!人見知り属性なんて今まで無かっただろぉぉ!

依然として柱に身を隠す彼女に心の中でツッコミを入れる。

受付の男性は言った。

「・・・必要な書類の記入と、指印をお願いします。」

受付の男性は依然として鋭い目つきをこちらに向けてくる。

やめろん!

そんなこちらのふざけた声を察したかのような絶妙なタイミングでもう一度目が合う。

何で男なんだよ!というツッコミは、今更言えるはずもなかった。

ーーーーーーーーーーーーーー

登録は、思いのほか長引いた。
記入しなければいけない書類が予想以上に多く、携帯の機種編手続きをどことなく思い起こさせた。
どうやら受付の男性はその道のプロフェッショナルらしく、登録用書類の処理を流れるように終わらせてくれた。

それでも15分ほどかかったのだが。

ちなみにその間にヒナタは協会を出て街をぶらついていたらしい。


EXとしての登録を終えた俺達は、ホーンドッグなどという名前の魔物を三体倒すべく、町外れの森の中にいた。

ここは弱い魔物が大量に生息する森で、初心者にはうってつけなのだという。

そしてこの森に名前はない。冷静に考えてみれば、名前がつくほどの森など、それこそ天然記念物クラスのものを中心とした有名な森や、指定保護植物が群生している森くらいにしかつかないはずで、名前が無いことがむしろ当たり前だ。
しかし、明確な名前が定義されていなくとも、地元民からそれとなく呼ばれている名はある。

それが、“折刺の森”。

・・・でしょうね!

ちなみに、この森のように魔物が生息する地域には必ず目印的な意味での囲いがしてあり、人が迂闊に近づけないようになっている。

逆に、ヒナタが言っていたように、魔物が囲いを超えて侵攻してくる場合もあるため、折刺の森周辺に住居は皆無。寂しいものである。

「ホーンドッグかぁ〜」

懐かしいなぁ〜とでも言いたげな深みのあるつぶやきをヒナタはこぼした。

「ホーンドッグがどうしたんだ?」

何気ない質問だったが、ヒナタはまるで“墓穴を掘って焦っている人”のような表情と仕草でこう言った。

「え?い、いやいや!ホーンドッグと戦うのは初めてですよ!はい!」

「・・・」

怪しい、怪しいぞ・・・とか思ってしまったこちらが恥ずかしくなるほどあからさまに怪しい。
うむ、先ほどからヒナタの様子がおかしい。
何故こんなにも動揺しているのか。

確か、ヒナタの両親は多忙の身で家にほとんど帰れないらしいので、ヒナタ自身に一人暮らし用の家を買い与え、EXとして活動しながら生活するようにと言い残して行ったそうだ。(これはヒナタ本人が言っていたことなので、恐らく間違いはないはず。)

つまり、ヒナタはEX歴もそこそこで、現時点での実力も俺よりは遥かに高いのだろう。

しかし、だとしたらホーンドッグと“初めて”戦うなど嘘に決まっている。

このホーンドッグ、角の生えた四足歩行の犬なのだが、ビギナーEXの訓練用と言っても差し支えないくらい弱い。ただの犬だ。
よって、多くのEXはホーンドッグを倒して初めて自分がEXであることを実感するのだ。
そして、ホーンドッグと何度も戦ううちに、実践的な戦闘技術の基礎に磨きをかけ、より強い自分へと成長していくのだろう。
ヒナタだってそれは同じはずだ。

さてさて、
協会で受付の男性から隠れたり、
EX歴がそこそこあったり、
ホーンドッグと戦ったことがないなどと妄言を吐いたり。
更には動揺まで激しいと来た、

これらの条件を客観的に捉えつつ整理していくと、俺はある仮説にたどり着いた。

“ヒナタさん、実はめっちゃ強いけど男の俺に強いことを知られるのが恥ずかしいから何とか誤魔化そうとしている説”

きっとビンゴだろう。
俺は鈍感系主人公みたいな都合のいい察しの悪さは持ち合わせてないからな。

むしろ心が冷静である限り推測と仮定を永遠と繰り返しつつ生きていくタチだ。実に厄介であると我ながら思う。

まぁ、だからと言って空気読めない系でもない。ここは彼女の意思を汲むべきだろう。

全てわかっているといった風な顔でヒナタに一瞥をくれてやってから、俺はホーンドッグ討伐の依頼を達成すべく、森の散策を開始するのだった。

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