トランセンデンス・ストーリー

Meral

魔王編 第九話 剣聖

「それでは試練を開始する!」

ヘリオスのその一言で僕の試練が始まった。

「さあ、どうするか所持者よ。」

ヘリオスはこちらの出方を伺っている。因みにだが通称"属神ジッド"と呼ばれるヘリオス達ダンジョンマスターはそれぞれ何らかの特性を持っているらしい。属神から出される課題をクリアすることでその属神の特性を授かるのだそうだ。ヘリオスは剣術の属神。つまり、剣技に秀でている属神だ。だから今回の課題は戦闘がメインなのだ。

(相手が剣術の属神である以上こちらも剣を使った方がいいだろうな。)

そう考えたレイはグラントに貰った剣を抜いて構える。特に流派とかは無いので右手に剣を持ったままの棒立ちだ。

「我も嘗められたものだな。それは我が剣術の属神だと知っての行為か?」
「うん。これが一番やりやすいんだ。」
「なるほど。では来い!」

そう言ってヘリオスは20メートルくらいあった図体を僕より少し大きいくらいに体を縮め虚空から剣を1本取り出した。

「すぅーー、はぁーー。さあ、実験だ。」

一つ深呼吸をして一言そう言うとレイはヘリオスの背後にいた。

「っ!」

突然自分の背後に現れたレイに驚いたヘリオスだったがそれも刹那に切り替えギリギリで対応した。

「まさか転移でいきなり奇襲を仕掛けるとは思っていなかったな。確かにこれなら構えはなんでもいいとは思うが今の攻撃を防がれてしまった以上同じ手はくわんぞ。」
「今ので仕留められないとかどんな反射神経なんだ。結構自身があったんだけどな。テレポーテーションでの奇襲。」

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テレポーテーション:自分の視界内のどこにでも転移することが出来る短距離系転移魔法
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「正直我もいきなり奇襲で来るとは思っていなかったが、お主今加減したな?」

ヘリオスが少し怒ったように聞く。

「別に手加減をした訳じゃない。確かに今のは本気じゃなかったが、僕は言っただろ実験だと。」

いまいちレイの言わんとしている事が理解出来ないヘリオス。

「これは試練であり、僕の実験でもあるんだ。それに試練では手加減をしてはいけないなんて聞いてないよ。」
「確かにその通りだが、これはお主のこれからがかかった試練だぞ。」
「分かってるさ。それにさっきのでもう試練は合格の筈だけど?」
「ん?どういう事だ。」
「だってヘリオスこの試練が始まるまえに試練の内容で自分がびっくりするような一撃を見せろって言ってたよね。さっきびっくりしてなかった?」
「ぬっ!そ、そんなことは無いぞ。」

焦ったように目線を逸らしながらヘリオスは呟く。

「へぇ〜〜。」

目は髪で見えないがジト目をしているのはすぐに分かった。

「と、とにかく続きをするぞ。」
「分かったよ。それにしても…。」
(どうしようかな。もうこうなったら本当に剣術だけで勝負するしかないのかもだけどそれだとやっぱり勝ち目は無いように思えるし。最初ので一気に勝負を決めるべきだったな。)

と、レイはヘリオス攻略の糸口を探していた。

「仕方がない魔衣まごろを使うか。」
「なに?魔衣だと。そんな馬鹿な、あれを使える者はもうこの時代には存在しない筈だ。あれの会得は古代文字を読めねば無理なんだぞ。今はもう時が経ち古代文字を読める者がいなくなってしまった。」
「僕は研究者だ。それも、とびきりの天才だよ僕は。あまり自分のことを過信するつもりはないけどそこら辺の研究者よりも僕の方が何倍も頭がいいと思うよ。だから古代文字の解読も難しくはなかったな。」

そう言うとレイは魔衣を発動させた。

「驚いたな。まさか本当に魔衣が使えるとは。だが、それを使っても我を倒せるとは思えんがな。」
「そりゃあ剣術だけじゃヘリオスには適わないだろう。でもこっちにはこれがある。」

そう言ってレイは自分の頭を指差す。

(おそらくヘリオスは魔衣の事を熟知しているはず。剣術で勝てない以上ヘリオスが知らない何かをするのがいいだろう。でもどうする?今は魔衣くらいしか戦闘ではろくに使えない。変幻自在はまだ魔衝波しか実践では使えない。他にも色々出来ると思うけど今はそんな余裕は無い。となるとやっぱりあれしかないのか。)

レイはまだノエルに会う前に魔衣を習得してある実験をしていた。まだ完成とは言い難いがヘリオス攻略にはこれが最善の手だった。

(やるしかない!)

「なるほど確かにお主は頭が良くキレるだが、それは我をクリアする決定的な根拠にはならんぞ。」
「それぐらい分かってるさ。でも、もう勝ちは見えている。」
「なに…?」

レイの言葉にヘリオスは疑問符を浮かべる。

(さて、賭けだなこれは。)

「行くぞ!ヘリオス!」
「来いお主の全てをぶつけてみせよ。」

魔衣で強化した身体でヘリオスに高速で近づく。

「はああ!」
「ふっ!その程度か?」

レイの上段から振り下ろした剣をヘリオスは余裕で剣で受け止める。だが、レイはそんなのお構い無しに何度も剣を振り下ろす。

「何度もそんなことをしていれば剣が折れるぞ。こんなふうにな!」

そして、レイの振り下ろした剣をヘリオスが振り上げた剣で迎え撃ち技量が遥かに上のヘリオスがレイの剣を折る。それを見てレイはヘリオスから距離をとった。

「残念だがもう終わりだ。お主はこの試練に落ちてしまった。」
「勝手に決めないでもらえるかい?」
「何を言うか。もうお主は何も手は残っていないだろう。いや正確にはあるんだろうが使えない、使わないといったところだろうか。」
「さすが剣術の属神よく見てるな。」
「それはそうだろう。相手の隙を見つけるのも立派な戦い方だ。」
「でも……流石にこれには気付かなかったみたいだね。」
「?なんのこ……と………っ!!」

レイの言葉に疑問を持ったヘリオスは周囲に気を巡らすと、自分の後ろに先程折ったはずのレイの剣の刃がこちらのうなじに向けられていた。刃は宙に浮いている。ヘリオスは何が起きているのか理解出来なかった。

「なんで?って顔してるな。教えてあげるよこれは魔衣の技だ。」
「いやありえん。魔衣にこのような技は無かったぞ」
「そりゃね。これは僕が作った技だから知らないのも無理はない」
「なんだと?まさか!」
「そう。そのまさかだよ。僕は魔衣の新しい技を作ったんだ。その名は"伸"。魔衣のオーラを折れた刃とこの柄の部分に繋げたんだ。すると刃と柄が別々でもしっかりと刃を使うことが出来る。今回は直線に繋げたんじゃなくて少し曲線を描くようにして背後から刃を向けられるようにしたんだ。」
「ぷっ…………かっはっはっは!」

レイが説明を終えるとヘリオスは突然笑い出した。

「まさか新しい技を作ってしまうとはこれは一本取られたな。認めよう。我の負けだ。よってこの試練の合格を宣言する。試練をクリアした主には剣聖の称号を与える。」

そして、僕はヘリオスから剣聖の称号を貰った。

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