トランセンデンス・ストーリー

Meral

魔王編 第七話 別れ


レイがグラントとの初めての訓練を行ってから3週間後の今日、レイはこの日までひたすら特訓を続けた。そして、今のレイのステータスがこれだ。

名前/レイ・アマツキ

Lv48
職業/超越者(研究者)
種族/人間
筋力:7094
俊敏:7946
防御力:6989
頭脳:測定不能
魔力:8478
闘力:12486

と、スキルや魔法を除き現在のレイのステータスである。正直敵無しもいいところだ。

「これで全部だな。」

レイは今、遠征の支度をしていた。今日の正午にアトランタを出てハルベルの街へと向かう。そのための準備だ。

「あの、レイ様」
「ん、エリー?どうしたんだい?」
「いえあの、くれぐれもお気を付けください。」
「分かってるよ。大丈夫だから」
「分かってますわ。レイ様は前衛ではなく後衛で戦闘に参加するよりもダンジョンについての生態調査目的ですものね。お父様から聞いておりますわ。」

そう、今回の遠征ではレイは戦闘には参加せずに研究者それもとびきり優秀なということでメイビスからその力を活用するために遠征への参加を許可したのだ。元々レイはアトランタに残り国の政治の一端をやらせるつもりだったみたいだが本人の強い懇願で遠征への参加が叶ったのだ。

「まあね。僕の職業じゃどう頑張っても戦闘では足でまといだからね。」
「そうですわね。心配する事なんか何もありませんでしたわね。」

エリザベスはぎこちない笑顔でそう言う。

「どうしたの。」
「ふぇ!?」

いきなり顔を近づけてエリザベスにそう問いたレイ。
いきなりの接近にびっくりしたエリザベス。

「いえ、その・・・。」
「別に気を遣わなくもいいよ。話してごらん。」

レイはやはり勘が鋭くエリザベスが何か言いたそうにしているのを見破っていた。

「な、何となく嫌な予感がして…。」
「そっか。でも大丈夫だよ。光達は強いからね。」

レイの方が今は圧倒的に強いのだが、レイは敢えてそう言った。

「そうですわね。勇者である光様達がそう簡単に負けるとは思いません。」
「そういう事。それじゃあもう行かないと。」
「必ず皆様で帰って来てください。」
「御意に。」
「もう!こんな時に王女扱いはやめて下さい!」
「ごめんね。」
「もう…。」

エリザベス怒っていてもその表情はとても清々しいものだった。

(あの人はどこまで私の心を読んでいるのでしょうか。)
_______________________

そして、アトランタ王国の正門前にて。

「皆準備はいいか。」
「「「「「「はいっ!」」」」」」

グラントの呼びかけに勇者一行は声を揃える。

「よし、行くぞ!」

そして、アトランタ王国の勇者一行の遠征が始まった。

「レ!イ!く~ん!」
「ん?おっと、」

遠征が始まって直ぐに咲が、レイに飛びつく。今までだったらそのまま倒れていたのだが今のレイはその程度では倒れない。

「あれ?レイ君体強くなった?」
「まあそれなりに鍛えたからね。」
「そうなんだ。でもレイ君は私が守るよ!」
「う、うんありがとう。」
「と、言っても私は後衛職だから皆の支援が目的なんだけどね。」

ちなみに咲のステータスはこんな感じ

名前/サキ・ホシナ

Lv18
職業/聖治癒師
種族/人間
筋力:704
俊敏:689
防御力:726
頭脳:758
魔力:1086
闘力:767

《スキル》
聖治癒術

《魔法》
治癒術、聖魔法

といった感じだ。まさに後衛職とでもいうべき職業だった。

「女の子に守られるのもなんだか情けない話だけどね。」
「そうだぜレイ。お前も男ならもっと鍛えろ。」
「嫌だよ!私のレイ君が竜虎君みたいなゴリゴリのマッチョになるなんて!」
「落ち着きなさいよ咲。あと、いつから天月君はあなたのになったの。」
「お前達もう少し大人しくしているんだこれからダンジョンに行くんだぞ」
「光は力入りすぎだ。」
「そんなことは無い。」
「はっはっはっ!そんなに元気があるなら大丈夫そうだな。」
「すみません落ち着きのない生徒達で。」
「確かあんたはこいつらの先生だったな。」
「はい。」
「まあ、別に変に緊張するよりもまだマシさ。」
「そう言って頂けると助かります。」

ハルベルに着く3日間は何事も起きず予定通りに到着した。

「わぁ!凄い、凄いよレイ君!」
「うん、そうだね。これが迷宮都市ハルベル。」

アトランタ以外の巨大な都市に来るのは初めてだったのでアトランタに引けを取らない活気にレイ達は圧倒されていた。

「よし、今日はとりあえず宿をとってそこで1泊してから明日ダンジョンに潜る予定だ。何かあったら俺か騎士団のやつに報告してくれ。」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
今回の遠征ではグラントが率いる王国騎士団も引率として10人程一緒に来ている。
 
「よし、では解散!」

グラントの掛け声で皆は自分の部屋へと向かった。
そしてその夜。コンコンとレイの部屋のドアがノックされた。

「どうぞ。」

ある準備をしていたがそれを見られないようにして、レイは扉に見向きもせずに答えた。

「こんばんわ。」
「どうしたの星菜さん?」
「もう!咲って呼んでっていつも言ってるのに。」
「うっ。さ、咲」

苦し紛れにそう言った。

「うん!ありがと。」
「それで、こんな夜中にどうしたの?」
「えっとね。その何だか嫌な予感がしてね。」
「咲もエリーと同じ事を…」
「む、レイ君。エリーってもしかしてエリザベス様?」
「そうだよ。」
「なんでそんなに親しげな呼び名なのかな?」

ニッコリと笑顔で聞いてくる咲だが、目が笑ってない。

「色々あったんだ。それで嫌な予感ってどんな感じなんだい?」
「軽く流された…。まあいいや、それで嫌な予感は嫌な予感だよ。特に何かあるわけじゃないんだけどね。なんとなくこうレイ君が離れていってしまうような感じかな。」
「なるほどね。でも心配要らないよ。」
「何で?」
「情けない話だけど。守ってくれるんでしょ。」
「!!そっか、そうだよね。うん!絶対にレイ君は私が守るから!」
「うん。それじゃあおやすみ。」
「うん!おやすみなさい。」

そして、咲は自分の部屋へと戻っていった。

「さて、あともう少しだな。」

レイはまた先程の作業に取り掛かった。
そして、翌日。

「よし、お前ら準備はいいな?」
「はい。皆問題ありません。」
「行くぞ。」
「「「「「「「おうっ!」」」」」」」

今日から1週間勇者一行はハルベルでの訓練を開始する。その道中、

「ねえ、あれが勇者様なのかな」
「そうだよ。だって騎士団長様がいらっしゃるもの。」
「へぇーあれがか。」
「見て見てお母さん勇者様だよ!」
「そうだね。カッコいいね。」
「うん!僕もいつかあんなふうになりたいな~。」

と勇者というのは、かなり人気があるみたいだ。

「すげえ人気者だな俺たち。」
「有名人にでもなった気分だぜ。」
「余り肩のちからを抜きすぎるなよ。」

他の生徒達が今の自分達の扱いに浮かれていると光から注意を受ける。そして、着々とダンジョンへ向かった。

「ここが、ダンジョン・ヘリオスだ。」

ついに到着したそのダンジョンはまるで神殿のようだった。

「まず先にお前達にはギルドで冒険者登録をしてもらう。それをしないとダンジョンに入れないからな。」

そういってギルドに向かった。

「冒険者登録ですね。少々お待ち下さい。」

受付の人にそう言われてしばらく待つと、

「これがギルドカードとなります。皆様はGランクからです。これはどなたであっても必ず一番下のランクからですのでご了承ください。」

その後も受付の人から様々な説明を受けた。まずは
このギルドカードについて、このカードは1人につき2枚発行されてそれらは対となっている。一つはギルドが管理しもう一つは本人が所持する。これでもし所持者側に何かあった場合、つまり万が一ギルドカードが壊れたりするともうひとつも壊れるというわけだ。
もし壊れてしまったらもう助けることは不可能らしい。そして、このカードは倒したモンスターを正確に表記してくれる。クエストを受けることでランクを上げたり、モンスターを討伐したりしてランクを上げる事が出来るらしい。最後に冒険者のランクはG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSまであるらしい。

「わかりました。ありがとうございます。」
「はい、くれぐれもお気を付けください。」

受付に説明を聞き終えた僕達はグラントさんの元へ集まった。

「終わったか?」
「はい。」
「よっしゃ、それじゃこれよりダンジョンによる遠征訓練を開始する。皆覚悟はいいな。あくまでこれは訓練だ。危険だと判断したらすぐに撤退する。行くぞ!」

そして、僕達の初ダンジョンが幕を開ける。しかしこの後僕達は命運を分ける出来事が起こる…。

「あっそうだ。おい、レイ」
「はい?」
「これ持っとけ。」
「これは…剣ですか?」
「ああ、一応な。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「グラントさんあれは?」
「どうした光?おっ、来たか。あれはこのダンジョンのモンスターで「ゴブリンですよね。」ゴブ・・・おい待て!何で知ってんだよ。幾らお前が研究者でも見たことないだろ。」
「鑑定を使いました。」
「な、なるほどな、まあいい。で、あれはさっきレイに言われちまったがゴブリンだ。まあ雑魚だからお前らなら大丈夫だろう。」

そう言ってダンジョンでの初戦闘が始まった。

「いくぞ!はぁぁ!」

ザシュッという音で自分の職業に合う武器として渡された聖剣をゴブリンに振りかざす光。

「おらぁ!」

ドンッという音をたててゴブリンを吹き飛ばしたのは武闘系の職業を持つ崇の武器、ナックルだ。そして、あっという間に初の戦闘が終わり、

「やっぱまだ無傷で勝つのは難しいみたいだな。」
「人とモンスターでは動きが違いますから少し慣れる必要がありそうです。」

グラントと光が初戦闘を終えて先ほどの戦闘の反省をしていた。

「怪我した人はこっちに来てー。回復するから。」

怪我をした者の手当をしているのは治癒術の魔法を持つ咲だ。軽傷者ばかりなのですぐに傷は回復する。

「ありがとう咲。」
「良いよ美羽ちゃん。私にはこんなことしか出来ないんだから。」
「咲さん私にもいいかしら。」
「はい、先生。」

咲に治癒術をかけてもらっている。紅崎の職業は剣巫
もう1人の里原の職業はヴァルキリーだ。2人とも強力な戦闘職だった。

「なるほど。ダンジョンの壁こんな感じなのか。」
「いつまでやってんだ、レイ。行くぞ。」
「ん?分かった。」

戦闘を終えてからレイはダンジョンを入念に観察していた。ちなみにこのダンジョン・ヘリオスは階層式でどんどん下に向かって行く感じだ。それに原理は不明だか僅かに壁が光っているため視界はさほど悪くない。現在は48階層まで確認されている。

「少し危なっかしいところもあったが大丈夫だな。この調子で行くぞ。」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

その後も順調に階を進んでいき現在は40階層だ。

「皆かなり慣れてきたな。初戦闘を除けば1度も怪我をしていない。これなら50階層までもしかしたら、行けるかもしれん。」
「でも、油断してはダメですよ。」
「お前に言われなくともわかってるよ。もしもの時は頼むぞ。」
「分かってます。」

レイとグラントは2人でヒソヒソと会話をする。今、この中で最も強いのはレイだからだ。レイが何故戦闘に参加していないかというと、まだまだここではレイの力だと楽勝過ぎる。それに、もしもレイの力をみて他の者の士気が下がる事になるかもしれない。そう判断したグラントは自分が命令するまでレイに戦闘に参加するのはやめてもらっている。一方光達は、

「最初はやばかったけど、かなり安定してきたな。」
「うん。この調子で頑張っていこう。」
「そうね。まだ余裕はあるし。」
「余り無理をしてはダメよ。私は先生だからあなた達に何かあったら直ぐに撤退してもらうようにしてもらいます。」
「でも、私の治癒術で怪我は治せるから、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。」

と、今ひとつ不完全燃焼といった感じ。

「休憩は終わりだ。次に行くぞ。」

グラントの掛け声で次の階へと足を運ぶ。そしてしばらくして、

「45階層から一気に変わったな。」

そう、45階層からモンスターの強さがガラリと変わった。

「気をつけろよ。ここからがお前らとしては本番だ。」

グラントが注意を呼びかける。

「ん?あれはなんだ?」

光が見つけたのは青い鉱石だった。

「ありゃあ確かブルーライト鉱石だな。あれはかなり珍しい鉱石だぞ。」
「よし、なら俺が取ってやる。」

そう言って1人の生徒がその鉱石を取ろうとする。

『マスターあれは罠です!』

ノエルから突然警告されてすぐにレイは声を上げる。

「それに、触れちゃダメだ!」
「え?何だって?」

グラントの説明を聞いてすぐさまブルーライト鉱石を入取するためその鉱石を取ろうとした途端、その鉱石を中心に魔法陣が現れた。

「なっ!?これは。ダンジョントラップか!皆すぐにこの魔法陣から出るんだ!」

グラントの注意は既に遅く僕達はどこかの階に転移してしまった。

「ここは?」

辺りを見回すと真っ暗でよく見えない。だが、ダンジョンから出たわけではないと皆理解していた。すると、

ブフォォォォォォオォォオォ!!!!

とても猛々しい鳴き声が聞こえてきた。そして、ドシンッ!ドシンッ!という足音らしき音も聞こえてくる。暗闇から現れたのは。

「なっ!?こいつはベヒモス!」

20mもありそうな巨大な二足歩行の猪のようなモンスターだった。

「鑑定!」

レイは即座にベヒモスを視た。

ベヒモス Lv89 ランクA
《スキル》
筋力増加
【装備】
棍棒

ダンジョンに潜む高位モンスター。その一撃は一つの村を壊滅させる程の筋力を備えている

という結果だった。モンスターにもランクがあり、冒険者と同じようなレートだ。今現在光達が倒せるのはせいぜいBランクの中位モンスターで大分出来る方だろう。だが、目の前にいるのはAランクの高位モンスター。勝ち目はなかった。

「なん・・だ・これ。」

皆目の前のモンスターに怯えていた。

「くそ!お前ら今すぐ逃げろ!ここは俺達が足止めする。」

そう言って、グラントと騎士団が僕達の前に出た。

「ダメです!危険過ぎます!ここは皆で逃げましょう!」

光が精一杯声を張り上げるが

「そんなことさせてもらえるとは思えねえな。」

グラントは長年の経験からベヒモスは自分では勝てないと判断していた。だが、せめて国の希望である光達だけは生かさなければならなかった。自分の命を犠牲にしても。

「そんな・・・。」
「くっ・・・。行くぞ光。」
「っ!?何を言ってるんだ崇!それじゃあグラントさん達が」
「分かってる!でも仕方ないだろう」

崇は歯を食いしばる。その表情を見て光は決心する。

「僕も戦います。」
「何言ってんだ!バカ野郎!逃げろ!」

光の決意にグラントは反対する。

「僕は勇者だ。ここで逃げたら魔王にだって勝てない!」
「!好きにしやがれ。」

光の思いにグラントは折れた。そして、僕達はベヒモスとの戦闘を開始した。だが、

「後ろからスケルトンが現れました!」
「なに!?ちっ!俺と光はベヒモスの相手をする他はスケルトンの相手をしろ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」

そして、事態は乱戦へと突入した。

「こんな所で死んでたまるかー!」
「はぁぁ!」
「おりゃぁぁあ!」
「いっけぇぇえ!」

皆必死に戦っていた。

「ごめんね咲ちゃん。」
「ううん、大丈夫皆頑張ってるから。」

怪我した者を治療していた咲。そこに、

「まずい!」
「お前ら伏せろー!」

光とグラントが相手していたベヒモスが筋力増加を発動し持っていた棍棒を地面に振り下ろす。すると地面が陥没し岩の破片が飛び散る。

「危ない!」

その内の大きな岩が咲に向かって飛んでいく。

「え?あ、きゃあああああああ!」

咲は目を瞑る。もう誰もが終わったと思った。だが、

「あれ?」

いつまで経っても衝撃が来ない事に咲は不思議に思い片目を開けるとそこにいたのは、

「大丈夫かい?」

おおよそダンプカー程の大きな岩を片手で止めるレイの姿だった。

「うそ・・・。レイ・・くん?」

咲は目の前の光景に理解出来なかった。自分が守ると約束した筈の相手が自分を有り得ないほど大きな岩から守ってくれた。だが、どうやってその岩を止めたのか、などと様々な疑問か生じる。そして、レイの次の言葉に咲は目を見開く。

「ごめんな。」
「えっ?」

レイは素顔を現わし咲にそう告げた。そしてレイは懐から1枚の紙を取り出す。

「強制転移魔法陣発動。リターン!」

そうレイが唱えると咲の目の前は真っ白になり眩しさのあまり目を閉じてすぐに開くとそこは昨晩来た宿のレイの部屋だった。

「もしかしてこれって・・・。」
「俺たち逃げられたのか?」
「マジかよ、おい!」
「にわかには信じ難いが何が起こったんだ?」

皆絶体絶命のピンチから抜け出せたことに大喜びしていた。

「咲!」
「!美羽ちゃん!」
「はぁ、よかった。無事で。」
「うん、レイくんが助けてくれたの。」
「そうね、びっくりしたわ。天月君にはお礼を言わないとね。」
「うん!」
「所で天月君はどこかしら?」
「うん、どこだろう。・・・あ・・れ・・・?」

そこで咲は気づいた。その場にレイだけがいない事に

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