「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第五章 第二百二話 新情報

 戦闘訓練をしたり、今までに得られた知識の共有をしたりと戦力増強のためにいろいろと手を打つこと二日間、とりあえず生命エネルギーの存在とある程度の仕組み、それから魔物を食べるとその力を手に入れられることを覚えてもらった。戦闘時の単純な身のこなしや武器の扱いなどは元々レベルが高いのをスカウトしただけあって特に言うことはない。なんなら素の身体能力や戦闘能力だけを見たらヴォルムよりも上だ。これが更なる力を手に入れたらと思うと、どれだけ強くなるのかが楽しみで仕方がなかった。
 そして、二日後と言えば教会に潜入していたリフィルが帰ってくる予定の日でもある。いざその日になってみると、本当に帰ってくるのか心配な気持ちが大きくなって不安だったが、そんな気持ちはつゆ知らずといった様子でリフィルは帰ってきた。外傷がない、どころかこの三日間で教会の人間に誰一人として見付からなかったし、存在を気取られなかったらしい。

「おかえり」
「ただいま、と言えば良いのでしょうか……? 何やらお疲れの様子ですけど、私のいない間に何かありましたか?」

 心配していたのはこちらの勝手だし、その気持ちを分かってほしいわけでもない。ただ、呑気にそんなことを言い出すリフィルに変な笑いが込み上げてくるのをこらえながら、何もないと誤魔化した。
 それから、早速報告をしてもらうことになった。ちなみに、オーリとネルは仲間にしたとはいえ、完全に信用しているわけではないし、これから離脱する可能性があるため余計なことを知ってほしくない。彼らの身を守るという意味でもこの場にいない方が都合が良い。一日休みだと言って自由に過ごしてもらっている。
 ネルは何も言わずに、むしろ嬉しそうな反応をしていて、オーリは何か言いたいことがありそうな顔をしていたが、何を言っても聞き入れてもらえないことを理解しているのだろう。黙ってうなずいてくれた。

「結論から言うと、ありました、神に関する記述がある書物」
「へぇ、本当にあったんだな。それで、読めたのか?」

 そもそも、半ば確信のようなものを持っていたからリフィルは潜入したのだが、実際に存在をその目で見てきたと言われると驚きを隠せない。とはいえ、考えていた通りに存在していたからと言って何かが変わるわけではない。肝心なのはその中身。何が書いてあったのかだ。

「何冊か厳重に保管されていて読めないものもありましたが、ほとんどは目を通すことができました。読めなかった数冊にこそ重要な情報がありそうなのが悔しいところですが、今回、持ち帰れた情報だけでも十分に有用だと思います」

 何やら得られた情報に自信があるらしく、リフィルの目つきは真剣だ。神を殺す、その手掛かりになる情報を持ち帰ることができたのだろう。

「まず、読んでみて真っ先に気付いたのが、私の知っている神話とは内容が違うということでした。この国でも、私のいた教会でも、一般には神々が大地を作り、空を作り、我々人間をも創造したとして伝わっています。しかし、教会に保管されていた書物には神々がどこか遠い地から来訪したかのような書かれ方をしているんです。今でこそ超常的な存在としてあがめられていますが、その前は人間と同じように地上で暮らしていたみたいです」
「それが本当なら、普通の生物と同じように外傷を与えて殺すことができるってわけか」

 しかし、それは昔の話だ。生物的な根幹が変わっていなかったとしても、現状の神はそう易々と外傷を与えられる存在ではない。

「そうです。ただ、現在神は別の次元に暮らしていて、我々人間が干渉できない場所にいます。そこをクリアできればいくらか希望が見えてくるんですが……その、問題の手掛かりになりそうな部分が抜けているんですよね……」

 戦争のときに暴れていたような神に力を授かった人間がいる以上、神がこちらの次元に降りてくるか、こちらから向こうに行くのか、それかそれに近い他の方法で力を授かるのか、いずれにしても接触する機会がある。そこに横槍を入れられるなら十分にチャンスはあるのだが、いつ、どこでそのパスが繋がるのかが分からない今、そこを狙うのはとても現実的な案だとは言えない。
 タイミングと場所を特定できる何か――例えば前兆などが観測できるならそれでも良いが、結局、それもどういった事象が前触れとしてあるのかが分からないうちは観測できない。あるいは、こちらの好きなタイミングで乗り込める手段があればそれが一番なのだが、そんな都合の良いことがあるのだろうか。

「おそらく、厳重に保管されていた数冊に今に至るまでの大事な部分が書かれているのだと思います。次元を超える方法か、そういった力を手に入れる方法か……」
「もしくは、雑に置いてある方は囮のフェイクで、中身は嘘、本当のことが書いてあるのはほんの一部の書物だけ、ってこともあり得るな。そもそも、この町の教会にすべての情報があるはずがないんだ」

 すると、内容がフェイクである可能性まで頭が回っていなかったのか、リフィルが少し落ち込んだような表情になった。

「そ、うですよね……。少し浮かれていました。気をつけないと……」

 せっかく潜入までして情報を集めてきてくれたのに、こんなことを言うものではなかったか。ヴォルムは後悔した。

「手掛かりがゼロだったのが一になっただけ良いんだ。ただ、比較対象もなくこれだけを妄信するのは危ないってだけで。囮の話をするんだったら、厳重に保管されている方がフェイクの可能性だってある。そうだとしたら誰かが盗み見に来ることを想定しているようで気味が悪いが、結局は全ての情報が集まったところでどれが事実かなんて判断ができないんだ。情報を精査するのは後ですること。今はとにかく、どんな情報だろうと集めるのが優先だ。気に病むことは何もない。むしろ危険な潜入までしてくれたんだ。感謝しかないよ」
「いえ、情報をまるっきり信じるのが危険なのは、その通りなので。いずれ読めなかった分もどうにか中身を見れるようにしますね」

 気合を入れ直した、と言っても良いのだろうか。思っていたよりは落ち込んでいないようで、情報収集に意欲的だ。これなら過度に心配する必要もなさそうだ。

「そうだな、その前に、俺が集めた仲間と会ってもらおうか。四人で今後の方針を決めるぞ」

 その後、リフィルから追加でいくらか情報を聞き、この日は休暇とした。


来週の更新はお休みです。
最近、お休みが多くてすみません。もうしばらくはこれくらいのペースになりそうです。

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