「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第五章 第百六十二話 違和感
「それでは、みんなを連れて戻るので、またここで待っていてください」
食事を終えた後、リフィルは子供たちを孤児院に連れて帰った。待っていろとは言われたが、ヴォルムはその間に食器類と鍋を台所へと運んでおいた。きっと、この後一緒に運ぶことになるからだ。どうせ運ぶのなら、手の空いた者がやっておくのが効率的というものだろう。
そうして時間を使って、ヴォルムはリフィルの帰りを待った。しかし、かれこれ十分は待っているはずなのに、一向にリフィルが帰ってくる気配がない。孤児院は隣の建物で距離はないと聞いていたが、具体的にどうなっているのかまでは分からない。もしかすると彼女の身に何かあったのではないかと少し心配になってきた。
しかし、子供たちとの会話を経て自分が余所者であることを実感したヴォルムは、できれば外に出たくないと思っていた。言葉で表現するのは難しい、居心地の悪さがあるのだ。本当なら今頃自分もリフィルと子供たちを連れて孤児院に向かっていたはずなのに、こうして食堂に残っているのもそういう理由からだし、根本的に相容れない何かがあるような気がしてならなかった。
そこで、もう五分だけ、待ってみて帰ってこないようなら様子を見に行ってみることに決めた。食堂に連れてくる時はほんの一、二分しかかからなかったのだ。流石に何かがある。ヴォルムはいざという時のために少し身構えていた。
すると、リフィルたちが出て行ったドアのノブがゆっくりと回るのが見えた。軍人だったヴォルムからすると、それくらいなら簡単に見つけられる。問題はその先に誰がいるのか、リフィルが一人で帰って来たなら良いが、それ以外だった場合、自分はどうするのが正解なのだろうか。集中して、扉が開くその向こう側を見る。現れたのは、申し訳なさそうな表情のリフィルただ一人だった。
「すみません、待たせてしまって。子供たちがちょっと聞き逃せないことを言うものですから……って、どうかしましたか?」
遅くなったのは、子供たちの教育をしていたからのようだ。ひとまず安心して、ヴォルムは警戒の構えを解く。それから、睨みつけるように扉に視線を向けていた理由を説明する。
「いや、遅かったから何かあったのかと思って。そしたらドアノブが回ったから何者が入ってくるのかと身構えた、ってわけさ」
それを聞いたリフィルが一瞬ポカンと間抜けな表情を見せる。そして、噴き出すように笑った。
「あっはは、あの、ごめんなさい。そうですよね。ヴォルムさんは旅人ですから警戒もしますよね。でも、安心してください。この町には危険な人なんていませんよ。みんな親切で優しい人達ですから」
まじめに心配していたのに笑われたのが何だか恥ずかしくて、ヴォルムは口を噤んでしまう。
「いや、本当に、ごめんなさい。ここではそういう考え方って珍しくて」
「まぁ、安全だと言うなら、それに越したことはないからな」
子供たちといた時とは違う種類の居心地の悪さを感じて、ヴォルムは話題を変えるべく「それよりも」と次の言葉をつないだ。
「食器と鍋は台所に運んでおいたが、それで良かったのか?」
勝手にやったことが間違っていたらまずい。そんな確認を取るための質問を聞いて、リフィルは初めて片付けられていることに気付いたらしい。驚いたように食堂を見渡してからヴォルムの方に視線を戻した。
「お待たせした上に片付けまでしてもらっちゃって、ごめんなさいというかありがとうというか……。もちろん、それで大丈夫です。本当は帰ってきたら二人で運ぼうと思っていたんですけど……」
余程ヴォルムを動かしてしまったことが悔やまれるのか、リフィルはどこか落ち込んだ様子である。そんなこと気にしなくても、元々手伝うつもりだったのだから仕事くらいやらせておけば良いのに。ヴォルムは内心でそんなことを考えていたが、それを言ったところで彼女の助けにならないことは目に見えている。励ましの代わりにまだ片付けが終わっていないことを告げてそちらに意識を向けさせることにした。
「でも、運んだだけだ。しまう場所が分からなかったから洗ってもいない」
「じゃあ、私はそれをやりましょう。ヴォルムさんは部屋に戻って休んでいて良いですよ。大分手伝わせてしまいましたし……」
どうやら、ヴォルムに手伝ってもらうのは運ぶところまでの予定だったらしい。大丈夫だと言っているのだが、やはり昨日は倒れていたこともあって気を遣ってくれているみたいだ。思い返せば食堂に用意されていた食器などは手伝ってくれと呼ばれる前から置いてあったもののようだし、料理の時もあくまで手伝いとしてメインの作業は彼女がやっていたように思う。体調を気にしてくれるのは嬉しいが、それが的外れだとなんだか指摘したくなってしまう。しかし、無理に手伝わせろと言うのも違う。
「……少し、聞きたいことがある、から、俺もついて行って良いか?」
悩んだ末に、ヴォルムはそんなことを言った。リフィルも断る理由がないようで、それならばと承諾してくれる。若干気まずい空気が流れたような気がしたが、とりあえず二人で台所に向かった。
「本当に持ってきただけなんですね」
「そう言っただろ。あんまり勝手に触って問題起こしても迷惑かけるだけだからな」
台所にはヴォルムが運んだ食器と鍋がそのまま置かれていた。食器を洗う前には水に浸けて置いたりするものだが、どの流しを使えば良いのか判断がつかないヴォルムはそれすらしないでおいていてのである。
「そうですねぇ、これだったら、また手伝ってもらいましょうかねぇ」
ここまで連れてきておいて、何もさせずに話だけというのもそれはそれでやりづらい。それが分かっているのか、リフィルはすっかり手伝わせるつもりだ。ヴォルムとしてはそうなるのを狙っての行動だったのでむしろ喜んでやると言ったところなのだが、またしてもそれを口に出すことはなかった。
「うーん、鍋を洗ってもらいましょうか。そこの流しを使ってください。たわしがあると思うので」
どこか吹っ切れた様子のリフィルの指示に従い、ヴォルムは鍋を洗い始める。その裏で、口実であった聞きたいことの話をいつ切り出そうかとタイミングをうかがうのであった。
食事を終えた後、リフィルは子供たちを孤児院に連れて帰った。待っていろとは言われたが、ヴォルムはその間に食器類と鍋を台所へと運んでおいた。きっと、この後一緒に運ぶことになるからだ。どうせ運ぶのなら、手の空いた者がやっておくのが効率的というものだろう。
そうして時間を使って、ヴォルムはリフィルの帰りを待った。しかし、かれこれ十分は待っているはずなのに、一向にリフィルが帰ってくる気配がない。孤児院は隣の建物で距離はないと聞いていたが、具体的にどうなっているのかまでは分からない。もしかすると彼女の身に何かあったのではないかと少し心配になってきた。
しかし、子供たちとの会話を経て自分が余所者であることを実感したヴォルムは、できれば外に出たくないと思っていた。言葉で表現するのは難しい、居心地の悪さがあるのだ。本当なら今頃自分もリフィルと子供たちを連れて孤児院に向かっていたはずなのに、こうして食堂に残っているのもそういう理由からだし、根本的に相容れない何かがあるような気がしてならなかった。
そこで、もう五分だけ、待ってみて帰ってこないようなら様子を見に行ってみることに決めた。食堂に連れてくる時はほんの一、二分しかかからなかったのだ。流石に何かがある。ヴォルムはいざという時のために少し身構えていた。
すると、リフィルたちが出て行ったドアのノブがゆっくりと回るのが見えた。軍人だったヴォルムからすると、それくらいなら簡単に見つけられる。問題はその先に誰がいるのか、リフィルが一人で帰って来たなら良いが、それ以外だった場合、自分はどうするのが正解なのだろうか。集中して、扉が開くその向こう側を見る。現れたのは、申し訳なさそうな表情のリフィルただ一人だった。
「すみません、待たせてしまって。子供たちがちょっと聞き逃せないことを言うものですから……って、どうかしましたか?」
遅くなったのは、子供たちの教育をしていたからのようだ。ひとまず安心して、ヴォルムは警戒の構えを解く。それから、睨みつけるように扉に視線を向けていた理由を説明する。
「いや、遅かったから何かあったのかと思って。そしたらドアノブが回ったから何者が入ってくるのかと身構えた、ってわけさ」
それを聞いたリフィルが一瞬ポカンと間抜けな表情を見せる。そして、噴き出すように笑った。
「あっはは、あの、ごめんなさい。そうですよね。ヴォルムさんは旅人ですから警戒もしますよね。でも、安心してください。この町には危険な人なんていませんよ。みんな親切で優しい人達ですから」
まじめに心配していたのに笑われたのが何だか恥ずかしくて、ヴォルムは口を噤んでしまう。
「いや、本当に、ごめんなさい。ここではそういう考え方って珍しくて」
「まぁ、安全だと言うなら、それに越したことはないからな」
子供たちといた時とは違う種類の居心地の悪さを感じて、ヴォルムは話題を変えるべく「それよりも」と次の言葉をつないだ。
「食器と鍋は台所に運んでおいたが、それで良かったのか?」
勝手にやったことが間違っていたらまずい。そんな確認を取るための質問を聞いて、リフィルは初めて片付けられていることに気付いたらしい。驚いたように食堂を見渡してからヴォルムの方に視線を戻した。
「お待たせした上に片付けまでしてもらっちゃって、ごめんなさいというかありがとうというか……。もちろん、それで大丈夫です。本当は帰ってきたら二人で運ぼうと思っていたんですけど……」
余程ヴォルムを動かしてしまったことが悔やまれるのか、リフィルはどこか落ち込んだ様子である。そんなこと気にしなくても、元々手伝うつもりだったのだから仕事くらいやらせておけば良いのに。ヴォルムは内心でそんなことを考えていたが、それを言ったところで彼女の助けにならないことは目に見えている。励ましの代わりにまだ片付けが終わっていないことを告げてそちらに意識を向けさせることにした。
「でも、運んだだけだ。しまう場所が分からなかったから洗ってもいない」
「じゃあ、私はそれをやりましょう。ヴォルムさんは部屋に戻って休んでいて良いですよ。大分手伝わせてしまいましたし……」
どうやら、ヴォルムに手伝ってもらうのは運ぶところまでの予定だったらしい。大丈夫だと言っているのだが、やはり昨日は倒れていたこともあって気を遣ってくれているみたいだ。思い返せば食堂に用意されていた食器などは手伝ってくれと呼ばれる前から置いてあったもののようだし、料理の時もあくまで手伝いとしてメインの作業は彼女がやっていたように思う。体調を気にしてくれるのは嬉しいが、それが的外れだとなんだか指摘したくなってしまう。しかし、無理に手伝わせろと言うのも違う。
「……少し、聞きたいことがある、から、俺もついて行って良いか?」
悩んだ末に、ヴォルムはそんなことを言った。リフィルも断る理由がないようで、それならばと承諾してくれる。若干気まずい空気が流れたような気がしたが、とりあえず二人で台所に向かった。
「本当に持ってきただけなんですね」
「そう言っただろ。あんまり勝手に触って問題起こしても迷惑かけるだけだからな」
台所にはヴォルムが運んだ食器と鍋がそのまま置かれていた。食器を洗う前には水に浸けて置いたりするものだが、どの流しを使えば良いのか判断がつかないヴォルムはそれすらしないでおいていてのである。
「そうですねぇ、これだったら、また手伝ってもらいましょうかねぇ」
ここまで連れてきておいて、何もさせずに話だけというのもそれはそれでやりづらい。それが分かっているのか、リフィルはすっかり手伝わせるつもりだ。ヴォルムとしてはそうなるのを狙っての行動だったのでむしろ喜んでやると言ったところなのだが、またしてもそれを口に出すことはなかった。
「うーん、鍋を洗ってもらいましょうか。そこの流しを使ってください。たわしがあると思うので」
どこか吹っ切れた様子のリフィルの指示に従い、ヴォルムは鍋を洗い始める。その裏で、口実であった聞きたいことの話をいつ切り出そうかとタイミングをうかがうのであった。
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