「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第四章 第百五十話 邪魔

 エネルギーソードを衛星のように体の周りに展開すれば、コウスケもブルーも迂闊には近づけなくなる。だからと言って俺が何の妨害もなく遠距離組を叩きに行けるかと言われるとそんなことはないのだが、少しでも二人からの攻撃の手が緩まれば突破することは難しくなかった。

「クソ! 速い!」

 彼らにとって、エネルギーソードは初見の攻撃だろう。それを見て瞬時に危険なものだと察知し、飛び込んでこなかったのは良い判断だと言える。しかし、様子見ができるほど余裕のある状況ではなかった。どうにか進路を塞ぐなり何なりして妨害するべきだったのに、彼らは立ち止まってしまった。
 二人の壁を突破した俺に、レイジの放った弾丸が飛んでくる。少しでも邪魔をしてやろうという魂胆なのだろう。しかし、近接組に追いつかれないように身体強化をした俺の速度は先程までとは比べ物にならない。狙いがズレているのか、ちっとも邪魔とは思わなかった。

「エレキネット!」

 それを見て点でとらえるのは困難だと判断したのだろう。エルが広範囲に電撃の網を放った。投網のように広がる電撃が迫る。しかし、網というのは斬撃に弱いものだ。俺はエネルギーソードで網を切り裂き、通り抜けた。
 すると、その横からいきなり大量の水が押し寄せてきた。術の名前は聞こえなかったが、ビッグウェーブという水属性の範囲攻撃魔術だ。それもただのビッグウェーブではなく、濁った水には鋭利な石が混ざっている。無詠唱の複合技。才能があるとは思っていたが、流石にこれほどの成長を見せつけられるとは思っていなかった。俺は驚きつつも、ドーム型の障壁を作り衝撃に備える。
 その時だった。後方から攻撃を受けたかと思うと、障壁が割れてしまったのだ。見ればレイジが銃を構えている。当てられないならとチャージしておいた魔力をここぞとばかりに撃ち込んできたというわけだ。
 咄嗟に前方に障壁を作り出すが、それだけでは濁流を受け止められない。腕を身体の前でクロスして急所へのダメージがないように身を丸める。身体強化に望みをかけて数秒踏ん張ったが、押し寄せる水に耐えられるはずもなく、俺は流された。石と一緒にミキサーにかけられているような感覚。さらに、エルが電撃を放ったのだろうか。全身に電流が突き刺さった。色々なものが混じっている水は電気をよく通す。そこまで計算したうえでの攻撃なのかは定かではないが、良いコンビ技だった。

「ちゃんと痛えな……」

 俺はいかなる時も体表を覆うように膜状の結界を張っている。そのお陰で多少の攻撃で傷を負うことはない。今も外傷は一切なく、見た目だけではダメージが入っていないようにも見えるくらいだ。だが、この膜はそこまで便利なものではない。柔軟性に富んでいるこの膜は衝撃を和らげてはくれないのだ。石が突き刺さるのは防いでくれたが、それで体表に傷がつかないだけで身体に石がぶつかったダメージはある。大量の水に押し潰されたダメージだって少しも軽減されていない。ただ、身体強化もあったからか幸いなことに骨が折れたりはしていない。言ってしまえば痛かっただけ。膜の耐久知的に電撃は怖かったが、電撃に関しては身体に通していないのでノーダメージだ。ちなみに、炎に当たった場合、熱は通すので燃えはしないが火傷したりでダメージは通るから、気を付けておかなければならない。

「よいしょっと」

 俺は痛む身体にこっそりと回復魔術をかけながら、大袈裟に立ち上がった。

「よーし、そろそろ本気出すかな」

 そして、そう宣言した。
 実を言うと俺はまだまだ本気ではなかった。しかし、それは相手をなめているからではなく、単純に戦闘がつまらないものになってしまうからだった。俺が本気で勝ちを取りに行くと、何者にも破れない結界の中からソードビットを飛ばす戦法を取ることになる。特に多人数相手の時に有効で、まさに今はその使いどころというやつだった。
 それでも、ギャラリーがいる今日の模擬戦でそれが出てくることはないだろう。勝たなくてはならない試合というわけでもないからだ。命がかかっていれば当然、安全かつ強力な布陣で戦うつもりだが、今は絶対にその時ではない。強いて言えば後でパーティメンバーに何か言われるかもしれないが、それくらいは何の問題もなかった。
 だから、俺がここで言う本気というのは、ソードビットの本気である。先程までは身体の周囲にしか展開していなかったが、本来、俺のソードビットはもっと広い範囲を飛び回れる。それに数もまだまだ増やせるのだ。全員を同時に剣で狙うことができる。操作は難しくなるが、自分の身体には反撃が届かない安全圏から一方的に攻撃できるソードビットは強力な武器だと言えた。

「ソードビット、展開!」

 立ち上がった俺が無傷なのを見て警戒を強めた様子の勇者たち。手を出してこないなら、こちらから。そう思って一斉に剣を飛ばすのだが――

「――はい、そこまで」

 俺の作り出したエネルギーソードが何者かによってすべて破壊されてしまった。聞き覚えのある声。どこか悪意を感じざるを得ない登場の仕方。彼しかいない。

「ヴォルム……」
「おう、ヴォルムだ。なんだ、そんな顔して」

 これからという時に邪魔をされたら誰だっていやな顔をするだろう。それを分かっていてそうした。あるいは本当にたまたまここに来たタイミングが悪かっただけなのかもしれないが、終わるまで待つとかいう考えはないのだろうか。

「…………いや、別に」

 言いたいことは色々あったが、ここで口論を始めても不毛だ。俺は不満を飲み込んでここに来た理由を説明するように目線を送った。

「魔王に聞いていると思うが、お前らに過去の話をしてやりに来た。なんか邪魔しちまったみたいだが、俺も忙しいんでね、さっそく移動してお話タイムにするぞ」

 そう言って笑うヴォルム。勇者たちは多少困惑しているようだったが、事情は理解したらしい。ヴォルムの言うことに従うようだ。

「そんじゃ、レッツゴー」

 そう言って、ヴォルムが訓練場の外に向かって歩き出す。俺たちは無言でそれに続いた。

「え? 終わりなの? ねぇ、私の番は?」

 一名を除いて。


これにて第四章は終了! 次回からヴォルムの過去を少し語っていこうと思います。

それと、コメントをちらほらいただけているようで、ありがとうございます。ちゃんと全部に目を通しております。

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