「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第四章 第百三十四話 救出
城の外には多くの見張りがいた。だから中も警備に力を入れているものだと思っていたが、意外なことに人の気配を感じなかった。もしかしたら要所には配置されているのかもしれないが、少なくとも入り口付近にはいない。
少し不審ではあるものの、素直に状況を見ればこれは好機だ。俺たちは急いでモミジとユキのいる地下牢へ向かった。
階段を下りると、すぐそこに看守室があった。ここを通らなければ牢には辿り着けない。だからどうやってここを切り抜けようかと考えていたのだが、ここも入り口同様、人の気配がしなかった。
「妙だな……」
普段から管理を怠っていなければ、少しの間目を離していても牢の中にいる者が脱走することは難しい。だが、だからといって看守が一人もいないのは異常だ。
「気付かれたか……?」
となると考えられるのは、俺たちの侵入に気付いて何かしらの対策をしているという可能性だ。隠れて奇襲を企てているのか、罠を張っているのか。しかし、警戒して神の眼を使って隅まで確認してもそれらしきものを見付けることはできなかった。
一体何があったらこうなるのか。理解の追い付かない状況に不安になる。
「どうしたニャ。何かあったニャ?」
「いや、何かあったんじゃなくて、何もないんだ。看守室に看守がいない。罠らしきものもない。変だと思わないか?」
いつまでたっても動こうとしない俺を不思議に思ったカーシュの問いに、俺はそう返した。カーシュは顎に手を当て、数秒考える。
「……変ニャ、けど、何もないなら、今の内にさっさと助け出すべきニャ!」
確かに、その通りだ。神の眼まで使ったのだから、絶対に危険はない。それは断言できる。だが、それでも何か良くないことが起こりそうな気がしてならなかった。言葉にはできない、気味の悪さ、嫌な予感があった。
そこで、カーシュの他にも意見を聞くべく、後ろを振り返る。
「……私もそう思うわ。それに、何か良くないことが起こるんだったら、それこそ早く出してあげた方が良いはずよ」
ベネッサはため息混じりにそう言い、オルやリースも頷いていた。どうやらこの不可解な状況に反応しているのは俺だけらしい。計画がその通りに進むわけがない。そう考えているにしたって、流石に警戒が過剰だっただろうか。
別に納得したわけではなかったが、ここまで来て引き返すというのもあり得ないし、だったら今すぐ助け出すのが一番というのも事実だ。俺たちは誰もいない看守室を素通りし、その先の牢に繋がるいかにもな見た目をした鉄の扉を開いた。
中に入ると、仰々しく看守室なんてものがある割には小さいスペースだった。少し拍子抜けである。ただ、そのお陰で一番奥の牢に入れられていた二人を見付けるのにも苦労しなかった。いつもの和服ではなく囚人服を着ているせいで違和感があるが、俺が二人を見間違うことなんてないのだ。
「モミジ! ユキ!」
結界の効果で何を言ったところで二人には届かないのだが、俺は二人を見た瞬間、色々と抑えきれなくなって駆け出していた。結界の効果範囲から外れてしまうと音などの情報が隠せなくなるため、他のパーティメンバーも俺が駆けるのに合わせてついてくる。
そして二人を効果範囲内に収めてからもう一度、二人の名前を呼んだ。
「モミジ! ユキ! 助けに来たぞ!」
「うひゃぁっ! 何!?」
「……っ!」
二人からしたらいきなり俺が現れて大声で名前を呼び掛けてきたことになるのだろう。別にそういう意図はなかったのだが、相当驚いたみたいで、モミジは飛び上がり、ユキも珍しく目を見開いていた。
それから数秒、沈黙が流れる。
「スマル……? え? あれ、どういうこと?」
「…………驚いた。ちゃんと、本物?」
モミジはまだ状況がつかめていないようで、混乱している。ユキの方は対称的に冷静で、俺が助けに来たと言って悪事を企んでいる偽物ではないかと疑っているようだ。
「ちゃんと、俺だ。スマルだ。色々あって遅くなったが、助けに来た。証明は……ええと、そうだ、これで証明になるか?」
俺は身体から魔力を伸ばし、魔法陣を描くことで魔術を発動させた。火属性の高温を生み出す魔術だ。それによって二人の手足に付いていた拘束具に繋がる鎖を切断する。本当は手首や足首についているリング状の部分を切り落としたかったのだが、そうすると熱で火傷させてしまう可能性があるため、安全を取って鎖だけだ。
「いや、でも他にもできる奴はいるのか……? となると証明としては弱い……?」
そこでこの技能が訓練の上に成り立っているとはいえ、理論上は誰でもできることを思い出し、不安になる。だが、とりあえずユキは俺を本物だと認めてくれたようだ。
だが、それでもまだモミジは混乱している。
「えと、スマル? 助けに来てくれてありがとう、よね。あ、でも、なんで私たちがここにいるって分かったの? それに来るのも大変だろうし……」
本当は神の眼を使ってここを特定した。それを二人には言っても良いと思っているのだが、ここには奴隷たちもいる。彼らを信用してないとかそういうわけではないが、言う必要もないし面倒事になりそうな気がするので秘めておく。
「クリスタルに刻まれてた魔法陣を見て、かな。詳しい座標までは分かんなかったんだけど、大体の位置が特定できれば自ずとその先も見えるというか。最悪虱潰しでも見付けだすつもりだった」
それを聞いてカーシュが驚いた顔をする。
「いないかもしれないのにこんなところまで来てたのニャ!?」
「……で、誰」
そこでユキから質問が入る。二人と奴隷パーティのメンバーは初対面。紹介が必要だ。だが、ここに長居するのは避けたいため、俺は先を急ぐように促すことにした。
「こいつらは二人を助けるために買った奴隷だ。ちゃんと紹介してやりたいんだが、まずはここから出よう。戦争中でピリピリしてるからか知らないけど、嫌な予感がする」
「やっぱり戦争中だったのね……。そんなことするようには見えなかったのに……」
「……人は見かけによらない」
だいぶ調子を取り戻してきた二人がそんなことを言う。魔王に会ったということだろうか。何かされていないだろうか。聞きたいことは色々あったが、とにかく今は外に出ることを優先した。
そして階段を上り切ったその時。
「覚悟しろ、魔王!」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
来週の更新はお休みさせていただきます。
少し不審ではあるものの、素直に状況を見ればこれは好機だ。俺たちは急いでモミジとユキのいる地下牢へ向かった。
階段を下りると、すぐそこに看守室があった。ここを通らなければ牢には辿り着けない。だからどうやってここを切り抜けようかと考えていたのだが、ここも入り口同様、人の気配がしなかった。
「妙だな……」
普段から管理を怠っていなければ、少しの間目を離していても牢の中にいる者が脱走することは難しい。だが、だからといって看守が一人もいないのは異常だ。
「気付かれたか……?」
となると考えられるのは、俺たちの侵入に気付いて何かしらの対策をしているという可能性だ。隠れて奇襲を企てているのか、罠を張っているのか。しかし、警戒して神の眼を使って隅まで確認してもそれらしきものを見付けることはできなかった。
一体何があったらこうなるのか。理解の追い付かない状況に不安になる。
「どうしたニャ。何かあったニャ?」
「いや、何かあったんじゃなくて、何もないんだ。看守室に看守がいない。罠らしきものもない。変だと思わないか?」
いつまでたっても動こうとしない俺を不思議に思ったカーシュの問いに、俺はそう返した。カーシュは顎に手を当て、数秒考える。
「……変ニャ、けど、何もないなら、今の内にさっさと助け出すべきニャ!」
確かに、その通りだ。神の眼まで使ったのだから、絶対に危険はない。それは断言できる。だが、それでも何か良くないことが起こりそうな気がしてならなかった。言葉にはできない、気味の悪さ、嫌な予感があった。
そこで、カーシュの他にも意見を聞くべく、後ろを振り返る。
「……私もそう思うわ。それに、何か良くないことが起こるんだったら、それこそ早く出してあげた方が良いはずよ」
ベネッサはため息混じりにそう言い、オルやリースも頷いていた。どうやらこの不可解な状況に反応しているのは俺だけらしい。計画がその通りに進むわけがない。そう考えているにしたって、流石に警戒が過剰だっただろうか。
別に納得したわけではなかったが、ここまで来て引き返すというのもあり得ないし、だったら今すぐ助け出すのが一番というのも事実だ。俺たちは誰もいない看守室を素通りし、その先の牢に繋がるいかにもな見た目をした鉄の扉を開いた。
中に入ると、仰々しく看守室なんてものがある割には小さいスペースだった。少し拍子抜けである。ただ、そのお陰で一番奥の牢に入れられていた二人を見付けるのにも苦労しなかった。いつもの和服ではなく囚人服を着ているせいで違和感があるが、俺が二人を見間違うことなんてないのだ。
「モミジ! ユキ!」
結界の効果で何を言ったところで二人には届かないのだが、俺は二人を見た瞬間、色々と抑えきれなくなって駆け出していた。結界の効果範囲から外れてしまうと音などの情報が隠せなくなるため、他のパーティメンバーも俺が駆けるのに合わせてついてくる。
そして二人を効果範囲内に収めてからもう一度、二人の名前を呼んだ。
「モミジ! ユキ! 助けに来たぞ!」
「うひゃぁっ! 何!?」
「……っ!」
二人からしたらいきなり俺が現れて大声で名前を呼び掛けてきたことになるのだろう。別にそういう意図はなかったのだが、相当驚いたみたいで、モミジは飛び上がり、ユキも珍しく目を見開いていた。
それから数秒、沈黙が流れる。
「スマル……? え? あれ、どういうこと?」
「…………驚いた。ちゃんと、本物?」
モミジはまだ状況がつかめていないようで、混乱している。ユキの方は対称的に冷静で、俺が助けに来たと言って悪事を企んでいる偽物ではないかと疑っているようだ。
「ちゃんと、俺だ。スマルだ。色々あって遅くなったが、助けに来た。証明は……ええと、そうだ、これで証明になるか?」
俺は身体から魔力を伸ばし、魔法陣を描くことで魔術を発動させた。火属性の高温を生み出す魔術だ。それによって二人の手足に付いていた拘束具に繋がる鎖を切断する。本当は手首や足首についているリング状の部分を切り落としたかったのだが、そうすると熱で火傷させてしまう可能性があるため、安全を取って鎖だけだ。
「いや、でも他にもできる奴はいるのか……? となると証明としては弱い……?」
そこでこの技能が訓練の上に成り立っているとはいえ、理論上は誰でもできることを思い出し、不安になる。だが、とりあえずユキは俺を本物だと認めてくれたようだ。
だが、それでもまだモミジは混乱している。
「えと、スマル? 助けに来てくれてありがとう、よね。あ、でも、なんで私たちがここにいるって分かったの? それに来るのも大変だろうし……」
本当は神の眼を使ってここを特定した。それを二人には言っても良いと思っているのだが、ここには奴隷たちもいる。彼らを信用してないとかそういうわけではないが、言う必要もないし面倒事になりそうな気がするので秘めておく。
「クリスタルに刻まれてた魔法陣を見て、かな。詳しい座標までは分かんなかったんだけど、大体の位置が特定できれば自ずとその先も見えるというか。最悪虱潰しでも見付けだすつもりだった」
それを聞いてカーシュが驚いた顔をする。
「いないかもしれないのにこんなところまで来てたのニャ!?」
「……で、誰」
そこでユキから質問が入る。二人と奴隷パーティのメンバーは初対面。紹介が必要だ。だが、ここに長居するのは避けたいため、俺は先を急ぐように促すことにした。
「こいつらは二人を助けるために買った奴隷だ。ちゃんと紹介してやりたいんだが、まずはここから出よう。戦争中でピリピリしてるからか知らないけど、嫌な予感がする」
「やっぱり戦争中だったのね……。そんなことするようには見えなかったのに……」
「……人は見かけによらない」
だいぶ調子を取り戻してきた二人がそんなことを言う。魔王に会ったということだろうか。何かされていないだろうか。聞きたいことは色々あったが、とにかく今は外に出ることを優先した。
そして階段を上り切ったその時。
「覚悟しろ、魔王!」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
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