「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
閑話六 スマルのお料理研究
調理器具を買った後、リースと料理をしてもうしばらくはやらないと決心したすぐ後の話です。
とりあえず形から、そう思って調理器具を色々と買った。使いやすく汎用性の高いものから旅の途中で使うには適さないようなものまで色々だ。だが、簡単なものならできるだろうと思って挑戦した料理はとても上手にできたとは言えないものだった。きっと今後はリースがメインで料理を担当することになるだろう。
だが、そうなるといくつか気になる点が出てくる。まず色々と買った調理器具だが、このままだといくつかの器具は使われないままになってしまう。リースは基本的にあれもこれも道具を使い分けるというようなことをしない。汎用性の高い道具があればそれ一つで色々と作れてしまうのだ。まだ小さく料理のレパートリーが少ないことも手伝って、少しマニアックというか、用途の限られるような道具は出番がなくなってしまうだろう。
それから、密かに画策していた故郷の料理を作るという計画も、頓挫してしまう可能性が出てきた。こっちの世界にない俺が食べたい故郷の料理を再現してやろうという計画なのだが、思っていたよりも自分が下手くそだったことが発覚し、計画の根本からひっくり返りそうになっている。レシピを伝えてリースに作ってもらえれば良いのだが、そもそも料理をしてこなかった俺は他人に伝えられるような詳細なレシピを知らない。自分で全ての作業を担当できるなら研究のように一人でいくらでもやったのだが、調理工程を他人に任せて自分は味見だけというのは少々気が進まなかった。
「どうしたもんかなぁ……」
今のところ考え付いた解決策は二つ。潔く諦めて他人を頼るか、下手なら上達すれば良いと練習するかだ。前者なら新たに料理人を雇ってそれに指示を出しながら完成を目指すことになりそうだが、これをするとなると、どこかに拠点を置いて食材を集める必要があり、冒険者として世界を旅するような活動をすることが難しくなる。個人的にはそれでも良いと思っているのだが、俺は一人で生きているわけではない。今の奴隷パーティはモミジとユキを助け出したら一旦解散、自由の身にしてやるつもりだが、助けておいて二人とも別れて料理の道に専念するというのは無理のある話だった。
と、なると現実的なのは残された方、料理の練習をするということになる。リースとの実力の差を痛感してしばらくはやりたくなかったし、やる気があるのかと言われるとそこまでして再現料理をしたいわけでもないので上達速度には期待できないが、幸いなことにリースという先生役になってくれる人がいるためやり方が分からず途方に暮れて挫折、ということにはならないだろう。あまりにも下手で呑み込みが遅く、絶望して折れる可能性は大いにあるが、流石にそんな酷いことになるとは考えたくなかった。
とは言え、極力リースの手を煩わせずにできるならそれに越したことはない。現時点では本当にやる気があるわけではないが、今後猛烈にこれが食べたいという料理が出てきた時に不自由なく作れるようになっておくべく、俺は夜な夜な料理の練習をすることに決めた。
練習初日、俺は宿の厨房を借りてそこに一人立っていた。一人でやるということは作業を全て自分でやるだけでなく、作る量も食べたいと誰かに言われない限りは一人分で完結させなければならない。だから、まずは量があまり多くならないようなものに挑戦することにした。
「どうせならこっちで食べたことないのが良いな」
その中でもこの世界で見かけない料理を作ってみることにする。上達してから研究を始めるより、同時進行でやってしまった方が効率も良いだろう。正直、こっちに来てからだいぶ時間も経つので味や特徴を正確に覚えているとは考えられないが、それでもある程度は形になってくれるはずだ。
具体的な料理名はお好み焼き。詳しく何を入れていたかは思い出せないが、これなら失敗しても小麦粉が焼けたものができるだけなので、食べられないということもないだろう。早速俺はボウルに小麦粉を入れ、適当な量の水を入れて溶いた。
「えーと、キャベツが入ってたのは思い出せるんだけど……それ以外はさっぱりだ」
しかし、そこに入れるべき具材がキャベツしか思い出せず、ついでに言うとキャベツもどんな切り方をしたら良いのか分からなかった。どうしたもんかな、ととりあえず大きすぎないようにキャベツを刻みながら考える。天かすを入れていたような記憶もあるのだが、この世界では天かすを見たことがない。ただ、お好み焼きを作るためにわざわざ天かすを作って用意するかと言われると、そこまで重要な具材だったような気はしなかった。他にも色々な種類のお好み焼きがあって、たらこやキムチなどを入れることもあったが、まずはスタンダードな豚肉が乗ったものを作るつもりだ。
水溶き小麦粉にキャベツを入れる。その色味を見て俺はある食材を思い出した。それは紅生姜。うろ覚えだが、小さい頃はそれが嫌で取り除いて食べていた気がする。だが、思い出したところで紅生姜の作り方は分からないし、作る時間もなかった。
「何かに漬けてるんだろうけど、何に漬けてるんだ? ただの生姜はあるからそれ入れるか」
生姜なら同じだろう。そう考えた俺はボウルに刻み生姜も追加した。ただ、紅しょうがのように細切りにするような技術はなかったため、そこそこ大きめの塊を入れることになった。形的には粗微塵というか、雑微塵といった感じでため息が出る。
それから焼くためにフライパンを熱し、油を引いた。いまいち火加減が分からないのでとりあえずは焦げないように弱めの中火くらいで構えておく。そしてもう一つ思い出していた具材――卵をボウルに追加し、さっくりと混ぜてからフライパンの上に落とした。
ジュウジュウと焼ける音がして、小麦粉とキャベツの焼ける匂いが昇ってくる。それなりにいい匂いだが、ここでボーっとしていてはいけない。忘れないように焼ける塊の上に豚肉を薄くスライスしたものを並べていく。
「うわー、懐かしいな。それっぽいぞ」
見覚えのある光景に少し興奮しつつ、焼けるのを待った。それからなんとかフライ返しを二つ使ってひっくり返し、豚肉の面も焼いていく。するとさっきまでと違う、豚肉が焼ける独特の匂いが白い煙に乗って昇って来た。とても良い匂いだ。だが、上に見えている面は前世で俺が見ていたものとは少し違うような気がした。こんがり焼けているのは良いのだが、どうものっぺりしているというか、違和感のある焼き上がりだった。
数分後、豚肉の面の焼け具合を確認するためもう一度ひっくり返し、茶色く色づいた豚肉を確認して俺は完成を悟った。出来上がったお好み焼きをお皿にスライドさせ、ソースを取り出す。と言ってもお好みソースではなくウスターソースに近い何かだ。それとマヨネーズをかけると、見た目は完全にお好み焼きになった。
「いただきます」
味はいかほどか、熱々のお好み焼きを口に入れる。
「……うーん。全然違う……」
再現料理第一弾の出来は、ハッキリ言って微妙だった。何と言うか、トッピングが豪華なソースせんべいと言うか、生姜が邪魔というか、とにかくお好み焼きではないのだ。別に不味くはない。これはこれで食べられる料理なのだが、俺が求めていたお好み焼きとは全然違う何かになってしまった。
「分からない……」
しかも、その何かをお好み焼きにするために必要なパーツが分からない。少し試してみたいことがあるのでいきなり手詰まりということにはならなさそうだが、これ一つを完成させるのにも時間がかかりそうだ。
それから俺はもそもそと残りのお好み焼きもどきを食べ、片付けをしてから部屋に戻った。
とりあえず形から、そう思って調理器具を色々と買った。使いやすく汎用性の高いものから旅の途中で使うには適さないようなものまで色々だ。だが、簡単なものならできるだろうと思って挑戦した料理はとても上手にできたとは言えないものだった。きっと今後はリースがメインで料理を担当することになるだろう。
だが、そうなるといくつか気になる点が出てくる。まず色々と買った調理器具だが、このままだといくつかの器具は使われないままになってしまう。リースは基本的にあれもこれも道具を使い分けるというようなことをしない。汎用性の高い道具があればそれ一つで色々と作れてしまうのだ。まだ小さく料理のレパートリーが少ないことも手伝って、少しマニアックというか、用途の限られるような道具は出番がなくなってしまうだろう。
それから、密かに画策していた故郷の料理を作るという計画も、頓挫してしまう可能性が出てきた。こっちの世界にない俺が食べたい故郷の料理を再現してやろうという計画なのだが、思っていたよりも自分が下手くそだったことが発覚し、計画の根本からひっくり返りそうになっている。レシピを伝えてリースに作ってもらえれば良いのだが、そもそも料理をしてこなかった俺は他人に伝えられるような詳細なレシピを知らない。自分で全ての作業を担当できるなら研究のように一人でいくらでもやったのだが、調理工程を他人に任せて自分は味見だけというのは少々気が進まなかった。
「どうしたもんかなぁ……」
今のところ考え付いた解決策は二つ。潔く諦めて他人を頼るか、下手なら上達すれば良いと練習するかだ。前者なら新たに料理人を雇ってそれに指示を出しながら完成を目指すことになりそうだが、これをするとなると、どこかに拠点を置いて食材を集める必要があり、冒険者として世界を旅するような活動をすることが難しくなる。個人的にはそれでも良いと思っているのだが、俺は一人で生きているわけではない。今の奴隷パーティはモミジとユキを助け出したら一旦解散、自由の身にしてやるつもりだが、助けておいて二人とも別れて料理の道に専念するというのは無理のある話だった。
と、なると現実的なのは残された方、料理の練習をするということになる。リースとの実力の差を痛感してしばらくはやりたくなかったし、やる気があるのかと言われるとそこまでして再現料理をしたいわけでもないので上達速度には期待できないが、幸いなことにリースという先生役になってくれる人がいるためやり方が分からず途方に暮れて挫折、ということにはならないだろう。あまりにも下手で呑み込みが遅く、絶望して折れる可能性は大いにあるが、流石にそんな酷いことになるとは考えたくなかった。
とは言え、極力リースの手を煩わせずにできるならそれに越したことはない。現時点では本当にやる気があるわけではないが、今後猛烈にこれが食べたいという料理が出てきた時に不自由なく作れるようになっておくべく、俺は夜な夜な料理の練習をすることに決めた。
練習初日、俺は宿の厨房を借りてそこに一人立っていた。一人でやるということは作業を全て自分でやるだけでなく、作る量も食べたいと誰かに言われない限りは一人分で完結させなければならない。だから、まずは量があまり多くならないようなものに挑戦することにした。
「どうせならこっちで食べたことないのが良いな」
その中でもこの世界で見かけない料理を作ってみることにする。上達してから研究を始めるより、同時進行でやってしまった方が効率も良いだろう。正直、こっちに来てからだいぶ時間も経つので味や特徴を正確に覚えているとは考えられないが、それでもある程度は形になってくれるはずだ。
具体的な料理名はお好み焼き。詳しく何を入れていたかは思い出せないが、これなら失敗しても小麦粉が焼けたものができるだけなので、食べられないということもないだろう。早速俺はボウルに小麦粉を入れ、適当な量の水を入れて溶いた。
「えーと、キャベツが入ってたのは思い出せるんだけど……それ以外はさっぱりだ」
しかし、そこに入れるべき具材がキャベツしか思い出せず、ついでに言うとキャベツもどんな切り方をしたら良いのか分からなかった。どうしたもんかな、ととりあえず大きすぎないようにキャベツを刻みながら考える。天かすを入れていたような記憶もあるのだが、この世界では天かすを見たことがない。ただ、お好み焼きを作るためにわざわざ天かすを作って用意するかと言われると、そこまで重要な具材だったような気はしなかった。他にも色々な種類のお好み焼きがあって、たらこやキムチなどを入れることもあったが、まずはスタンダードな豚肉が乗ったものを作るつもりだ。
水溶き小麦粉にキャベツを入れる。その色味を見て俺はある食材を思い出した。それは紅生姜。うろ覚えだが、小さい頃はそれが嫌で取り除いて食べていた気がする。だが、思い出したところで紅生姜の作り方は分からないし、作る時間もなかった。
「何かに漬けてるんだろうけど、何に漬けてるんだ? ただの生姜はあるからそれ入れるか」
生姜なら同じだろう。そう考えた俺はボウルに刻み生姜も追加した。ただ、紅しょうがのように細切りにするような技術はなかったため、そこそこ大きめの塊を入れることになった。形的には粗微塵というか、雑微塵といった感じでため息が出る。
それから焼くためにフライパンを熱し、油を引いた。いまいち火加減が分からないのでとりあえずは焦げないように弱めの中火くらいで構えておく。そしてもう一つ思い出していた具材――卵をボウルに追加し、さっくりと混ぜてからフライパンの上に落とした。
ジュウジュウと焼ける音がして、小麦粉とキャベツの焼ける匂いが昇ってくる。それなりにいい匂いだが、ここでボーっとしていてはいけない。忘れないように焼ける塊の上に豚肉を薄くスライスしたものを並べていく。
「うわー、懐かしいな。それっぽいぞ」
見覚えのある光景に少し興奮しつつ、焼けるのを待った。それからなんとかフライ返しを二つ使ってひっくり返し、豚肉の面も焼いていく。するとさっきまでと違う、豚肉が焼ける独特の匂いが白い煙に乗って昇って来た。とても良い匂いだ。だが、上に見えている面は前世で俺が見ていたものとは少し違うような気がした。こんがり焼けているのは良いのだが、どうものっぺりしているというか、違和感のある焼き上がりだった。
数分後、豚肉の面の焼け具合を確認するためもう一度ひっくり返し、茶色く色づいた豚肉を確認して俺は完成を悟った。出来上がったお好み焼きをお皿にスライドさせ、ソースを取り出す。と言ってもお好みソースではなくウスターソースに近い何かだ。それとマヨネーズをかけると、見た目は完全にお好み焼きになった。
「いただきます」
味はいかほどか、熱々のお好み焼きを口に入れる。
「……うーん。全然違う……」
再現料理第一弾の出来は、ハッキリ言って微妙だった。何と言うか、トッピングが豪華なソースせんべいと言うか、生姜が邪魔というか、とにかくお好み焼きではないのだ。別に不味くはない。これはこれで食べられる料理なのだが、俺が求めていたお好み焼きとは全然違う何かになってしまった。
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