「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第百十九話 誤魔化す
「今、なんて……?」
聞き覚えがある――いや、それどころかよく知った名前が出てきて、俺はつい聞き返してしまった。
「何って、冒険者に小言を言われている内に強くなれたってだけよ」
驚いた顔をしている俺に困惑しているのか、ベネッサはわけが分からないといった様子で繰り返す。
だが、俺が聞きたかったのはそこじゃない。
肝心なのはその冒険者の名前だ。
「フィオと、イチョウって言ったか……?」
「あら、もしかして知り合いだったの?」
知り合いなんてもんじゃない。
フィオは俺がヴォルムに拾われた時から孤児院にいた先輩で、同じ師を持つ姉弟子だ。
イチョウはそのフィオが助けて孤児院で面倒を見ることになった少女で、妹弟子にあたる。
そして、あそこで一緒に暮らしていた家族だ。
他の人がどう思っているかは知らないが、少なくとも俺はあそこで一緒に暮らしていた人たちのことを家族だと思っている。
孤児院を出てから同じ孤児院出身の者と会ったこともどこで何をしているという情報も聞いたことがなかったので、なんだか嬉しい気分だ。
ただ、なんとなく直感的にベネッサに二人が家族みたいなものだと知られると面倒なことになるような気がしたので、俺はそこには言及しないでおくことにした。
「知り合い……まぁ、そんなところだ」
「ふーん……」
歯切れの悪い俺の態度をベネッサは不審に思っているようだ。
だが、それはつまり言いたくないことがあるということ。
それを察したのか、それ以上彼女が何かを追究してくることはなかった。
口には出さないが、彼女のこういうところは本当にありがたい。
「それじゃあ早速能力伸ばしたり、立ち回りの指導に入ろうか。と、言いたいところなんだけど、今日はその前にもっと基礎的なことをやろう。これは全員共通でやってもらうことだから、まとめて説明するぞ」
それから俺は勇者たちに教えた時と同じように魔力操作の練習をするように言う。
ベネッサは過去に同じようなことをしていた経験があるようで、俺から見てもそれなりに上手く魔術を操れているようだ。
カーシュは日頃から魔術を使っているからある程度は形になっていたが、それでも意識して動かそうとすると無駄が多い。
対して日頃から魔術をあまり使わないオルはそもそも体内の魔力に意識を割いて動かそうということ自体への理解が浅いようで、まずは体内の魔力ちゃんと認識するところから始めてもらった。
リースに至っては魔術を使った経験すらないので、まずは俺が補助をしながらの練習だ。
「私もやるのですか……?」
「別に戦闘に使うのが全てじゃないんだ。家事とかに活用できると楽になるぞ」
手応えがないのか時間がたつにつれてやる気を失っていくリース。
家事に活用できると言われて色々と思い当たる節があったのか、それができるようになれば良いか、くらいの気持ちでやってくれるようになった。
まだ吸収力のある年頃だろうから、きっとすぐに簡単な魔術くらいは使えるようになるだろう。
それからは各々にアドバイスをしながら、自分も身体の周りに魔力を飛ばしたりして時間を潰した。
「ちょっと疲れたわね」
「よ、よくそんな涼しい顔してられるニャ……。僕はもう何もしたくないのニャ……」
「……不思議な感覚だ」
「…………」
結局日が傾くまでやった結果、慣れていたベネッサや魔力を認識するまで時間がかかった組は少し疲れた程度の反応だったが、真っ当に長時間訓練をしたカーシュはげっそりしていた。
「情けないわねぇ……」
「ボクは今日初めてやったのニャ。仕方ないニャ……」
今日はまだ魔力を消費するような訓練をしていたわけではないので魔力が空になったことによる倦怠感などはないはずなのだが、それでも長時間集中すれば精神的に疲れる。
それに加えて、カーシュは魔力を動かす練習の中で知らぬ間に少なくない量の魔力を放出してしまっていたようだ。
無駄があると漏れ出て行く。
それを防ぐための練習なのだから初めはできなくても仕方ないが、できるだけ早いうちに練習で漏れ出るようなことはないようにしてもらおう。
「疲れてるみたいだけど、これはまだ基礎だからな。各自空いてる時間を見つけ次第魔力操作の練習に時間を当てるようにしてくれ。いずれその効果を実感できる時が来るはずだから」
予期せぬ自主練習の追加にカーシュは絶望したような顔でこちらを見つめてきたが、それに取り合ってはやらない。
そんなに嫌なら必死こいて練習してさっさとマスターしてしまえば良いのだ。
そうすれば無駄に疲れることはないし、戦闘面でも大幅な強化が見込めるだろう。
「明日からは一人ひとりが別の訓練をするのだな?」
「はーい、私はスマル様と模擬戦がしたいわ」
自分の成長に繋がることが良く理解できているのか、オルとベネッサはやる気満々だ。
二人の眼からただならぬ熱意を感じる。
ただ、二人の視線は明確に何かが違っていた。
ベネッサから向けられる妙にゾッとする視線を意識しないように努力しながら、俺は頷いた。
「オルは近接戦闘で、特に防御時の動きに関してやってもらおうと思ってる。ベネッサは俺とやりたいみたいだけど、明日はオルに攻撃する役をお願いするよ。それを見て指導はちゃんとするからさ」
オルが無言で頷き、ベネッサは頬を膨らませて不満げだったが、最終的には了承してくれた。
「リースはどうする? 魔術に関しては早急にってわけじゃないから勉強の方先にやるか?」
「……明日も魔術の方が良いです」
リースは数秒考えるような仕草をした後、そう答えた。
戦闘に繋がるようなことは嫌がるかと思ったのだが、案外魔術の習得には意欲的なようだ。
「じゃあ、カーシュとリースは明日も魔術の練習な。実践的なことは後回しに、理論的なことを先にやろう」
「はい」
「座学ニャ? 良かったニャ……」
真面目な面持ちで返事をするリース。
対してカーシュは余程今日の訓練が辛かったのか、実践は後回しという言葉を聞いてほっとしているようだ。
俺はそんなことをのたまうカーシュに冷たい目を向ける。
「勿論、全員魔力操作の練習は日課として続けてもらうからな」
絶望顔に戻ったカーシュがなんだかおかしくて、俺はしばらく笑っていた。
聞き覚えがある――いや、それどころかよく知った名前が出てきて、俺はつい聞き返してしまった。
「何って、冒険者に小言を言われている内に強くなれたってだけよ」
驚いた顔をしている俺に困惑しているのか、ベネッサはわけが分からないといった様子で繰り返す。
だが、俺が聞きたかったのはそこじゃない。
肝心なのはその冒険者の名前だ。
「フィオと、イチョウって言ったか……?」
「あら、もしかして知り合いだったの?」
知り合いなんてもんじゃない。
フィオは俺がヴォルムに拾われた時から孤児院にいた先輩で、同じ師を持つ姉弟子だ。
イチョウはそのフィオが助けて孤児院で面倒を見ることになった少女で、妹弟子にあたる。
そして、あそこで一緒に暮らしていた家族だ。
他の人がどう思っているかは知らないが、少なくとも俺はあそこで一緒に暮らしていた人たちのことを家族だと思っている。
孤児院を出てから同じ孤児院出身の者と会ったこともどこで何をしているという情報も聞いたことがなかったので、なんだか嬉しい気分だ。
ただ、なんとなく直感的にベネッサに二人が家族みたいなものだと知られると面倒なことになるような気がしたので、俺はそこには言及しないでおくことにした。
「知り合い……まぁ、そんなところだ」
「ふーん……」
歯切れの悪い俺の態度をベネッサは不審に思っているようだ。
だが、それはつまり言いたくないことがあるということ。
それを察したのか、それ以上彼女が何かを追究してくることはなかった。
口には出さないが、彼女のこういうところは本当にありがたい。
「それじゃあ早速能力伸ばしたり、立ち回りの指導に入ろうか。と、言いたいところなんだけど、今日はその前にもっと基礎的なことをやろう。これは全員共通でやってもらうことだから、まとめて説明するぞ」
それから俺は勇者たちに教えた時と同じように魔力操作の練習をするように言う。
ベネッサは過去に同じようなことをしていた経験があるようで、俺から見てもそれなりに上手く魔術を操れているようだ。
カーシュは日頃から魔術を使っているからある程度は形になっていたが、それでも意識して動かそうとすると無駄が多い。
対して日頃から魔術をあまり使わないオルはそもそも体内の魔力に意識を割いて動かそうということ自体への理解が浅いようで、まずは体内の魔力ちゃんと認識するところから始めてもらった。
リースに至っては魔術を使った経験すらないので、まずは俺が補助をしながらの練習だ。
「私もやるのですか……?」
「別に戦闘に使うのが全てじゃないんだ。家事とかに活用できると楽になるぞ」
手応えがないのか時間がたつにつれてやる気を失っていくリース。
家事に活用できると言われて色々と思い当たる節があったのか、それができるようになれば良いか、くらいの気持ちでやってくれるようになった。
まだ吸収力のある年頃だろうから、きっとすぐに簡単な魔術くらいは使えるようになるだろう。
それからは各々にアドバイスをしながら、自分も身体の周りに魔力を飛ばしたりして時間を潰した。
「ちょっと疲れたわね」
「よ、よくそんな涼しい顔してられるニャ……。僕はもう何もしたくないのニャ……」
「……不思議な感覚だ」
「…………」
結局日が傾くまでやった結果、慣れていたベネッサや魔力を認識するまで時間がかかった組は少し疲れた程度の反応だったが、真っ当に長時間訓練をしたカーシュはげっそりしていた。
「情けないわねぇ……」
「ボクは今日初めてやったのニャ。仕方ないニャ……」
今日はまだ魔力を消費するような訓練をしていたわけではないので魔力が空になったことによる倦怠感などはないはずなのだが、それでも長時間集中すれば精神的に疲れる。
それに加えて、カーシュは魔力を動かす練習の中で知らぬ間に少なくない量の魔力を放出してしまっていたようだ。
無駄があると漏れ出て行く。
それを防ぐための練習なのだから初めはできなくても仕方ないが、できるだけ早いうちに練習で漏れ出るようなことはないようにしてもらおう。
「疲れてるみたいだけど、これはまだ基礎だからな。各自空いてる時間を見つけ次第魔力操作の練習に時間を当てるようにしてくれ。いずれその効果を実感できる時が来るはずだから」
予期せぬ自主練習の追加にカーシュは絶望したような顔でこちらを見つめてきたが、それに取り合ってはやらない。
そんなに嫌なら必死こいて練習してさっさとマスターしてしまえば良いのだ。
そうすれば無駄に疲れることはないし、戦闘面でも大幅な強化が見込めるだろう。
「明日からは一人ひとりが別の訓練をするのだな?」
「はーい、私はスマル様と模擬戦がしたいわ」
自分の成長に繋がることが良く理解できているのか、オルとベネッサはやる気満々だ。
二人の眼からただならぬ熱意を感じる。
ただ、二人の視線は明確に何かが違っていた。
ベネッサから向けられる妙にゾッとする視線を意識しないように努力しながら、俺は頷いた。
「オルは近接戦闘で、特に防御時の動きに関してやってもらおうと思ってる。ベネッサは俺とやりたいみたいだけど、明日はオルに攻撃する役をお願いするよ。それを見て指導はちゃんとするからさ」
オルが無言で頷き、ベネッサは頬を膨らませて不満げだったが、最終的には了承してくれた。
「リースはどうする? 魔術に関しては早急にってわけじゃないから勉強の方先にやるか?」
「……明日も魔術の方が良いです」
リースは数秒考えるような仕草をした後、そう答えた。
戦闘に繋がるようなことは嫌がるかと思ったのだが、案外魔術の習得には意欲的なようだ。
「じゃあ、カーシュとリースは明日も魔術の練習な。実践的なことは後回しに、理論的なことを先にやろう」
「はい」
「座学ニャ? 良かったニャ……」
真面目な面持ちで返事をするリース。
対してカーシュは余程今日の訓練が辛かったのか、実践は後回しという言葉を聞いてほっとしているようだ。
俺はそんなことをのたまうカーシュに冷たい目を向ける。
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