「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第百十八話 姉弟子と妹弟子
魔王という強大な存在と対峙しなくてはならない。
その事実を再確認させられたパーティメンバーは、一人を除きあまり乗り気ではないように見えた。
口には出さないが、誰もが不満を抱えているような雰囲気だ。
思いつめたような顔をして、重たい空気が場を支配している。
「ねぇ、そろそろお昼じゃない? 私、リースちゃんの作るご飯食べてみたいんだけど」
そんな中、唯一魔王に関して特に思うところがないどころかこの空気感すら意に介していない様子のベネッサが、そんなことを言い出した。
マイペースな奴だとは思ったが、今はそれがありがたい。
俺はリースとカーシュに宿の厨房の様子を見て人数分の昼食を作ってくるように指示を出した。
これで少なくとも二人は目の前の仕事に集中できる。
一旦不安なことから目を逸らすことができれば、ある程度は気も紛れるだろう。
「あと二組分用意したら使わせてくれるみたいニャ。もう少し待つニャ」
先行して厨房の様子を見に行ったカーシュが、約束を取り付けて帰ってくる。
その情報を聞いて、二人に調理道具や材料が入った袋を渡した。
この袋の中には収納空間の魔法陣が描かれていて、その見た目からは考えられないくらいの容量を誇っている。
ちなみに、食材を入れることもあるということで内部の時間経過速度をいじっており、まとめて大量に買った食材を腐らせることなく使えるという便利仕様もついている。
そんな袋を持った二人が厨房へ向かうのを俺たちは見送った。
===============
それから俺たちは二人が作ってくれた昼食を食べ、冒険者ギルドの管理する訓練場へと向かった。
今回は最低限の護身術や魔力操作を教えるためにリースにもついて来てもらっている。
今後は勉強の方に力を入れてもらうつもりだが、その第一弾として戦闘に関する知識を今日覚えてもらおうという名目だ。
また、パーティメンバーがどれくらい動けるのかということを把握することで、自分がどこにいれば安全なのか、いざという時は何をすれば良いのかということも考えてほしかった。
それが分かればここにいても危険はないという安心感につながるだろう。
「これからの旅が楽しみだわ」
訓練場までの道中、そのリースはというと、ベネッサに絡まれていた。
と言うのも、ベネッサはリースの作る料理を気に入ったらしい。
戦闘が好きだという印象のあるベネッサは、魔王を目標として強敵と戦う機会がある旅に好みの飯が追加されたことでこのパーティを良い環境だと認めたみたいだ。
「ボクも手伝ったニャ! ボクには何もないのかニャ?」
「手伝っただけでしょう。それなら誰にでもできるわ」
「やらない奴が言う台詞じゃないニャ!」
ドヤ顔で褒めてもらうつもりだったカーシュが、雑にあしらわれてキレている。
最初はベネッサを入れることで問題が起こらないか不安だったが、今のところ問題どころかパーティの空気を良くしてくれているように感じる。
恐らく、というか絶対に狙ってやっているわけではなさそうだが、彼女が欲望に忠実に動いた結果空気が良くなるなら、大金を払って買った甲斐があるというものだ。
そうしていくらか良い雰囲気で訓練場に入った俺たちが最初にやるのは、各々の能力チェックだ。
何ができて、何ができないのか。どういう立ち回りがしたいのか。相性の良し悪しはどうか。などなど。
他にも確認しておかなければならないことがたくさんある。
奴隷として購入した時点で最低限欲しい能力は指定していたので今になって使えないなんてことにはならないだろうが、それでも練度の差や、これから練習することで変わる部分、向き不向きなどが絡むと訓練メニューは大きく変わってくる。
「とりあえず連携は実践の中で確認するとして、まずは個人の能力を伸ばそうと思う。そのための確認だ。手を抜くんじゃないぞ」
一応、ここでわざと無能のふりをして脱退を図る、なんて者が出てこないように釘を刺して、俺は各自に口頭と、実際に動いてもらって確認作業を進めた。
まずオルは、事前に言っていた通り前衛をしてもらうことが確定した。
理由として遠距離攻撃手段が乏しいという点を挙げると消去法のように聞こえてしまうかもしれないが、オルの能力を見た限りでは優秀な前衛になってくれそうだった。
特に、防御力が高いのを活かした立ち回りで、所謂タンクのようなことができるのが良かった。
パーティとして戦う時には俺が防御系の魔術を使って前衛が多くの魔物を抑えるような状況は作らないようにするだろう。
だが、それでも想定外の攻撃などで防御が間に合わない時、咄嗟に生身で防御に回れるというのは安心感が違う。
それでいて攻撃力も十分あり、技術面に関しても荒い部分を失くして行けばそれなりに光るものがありそうだ。
次にカーシュだが、斥候はやってもらうつもりだ。
だが、ガッツリ前衛で戦ってもらうかと言われると微妙なところだった。
魔術をそれなりに使えるため、カーシュには遠距離攻撃という選択肢がある。
素早い動きを活かして近距離で魔術を取りまわすのは良いと思ったが、一旦中距離くらいから魔術を使った動きを見てみようということになった。
剣術の方はひたすら攻撃を受けないようにするとのことで、避けるか流すのが得意なようだ。
斬撃が有効なら切りつけ、他は魔術で対応してきたのだろう。
実践の中でその二つの攻撃方法の割合を見て、立ち位置を決めよう。
リースは戦闘経験が全くなく、自衛のための護身術なども分からない様子だった。
そもそも戦闘はさせないつもりだったのでそれは問題ない。
ただ、今後街中を一人で行動する機会があった時、自分を守れるようになっていた方が良いのは確かだ。
それを説明した上で、まだ何が得意なのかも分からないため魔術や近接戦の基礎を齧らせてみることで合意した。
そして、ベネッサ。
彼女は魔術をメインに遠距離攻撃を得意とした上で、近接戦闘もやってみるように勧められて、やってみたらできたので最近はカーシュのような立ち回りをしていたと言う。
ただ、後衛として雇われるなら後衛をするつもりだし、自分が前衛に上がったら後衛が俺しかいなくなってしまうことを理解していた。
元々は固定砲台的なこともしていたそうなので感覚を戻す時間があれば問題なさそうだ。
現時点での戦闘力は購入した奴隷の中では一番だし、あまり心配しなくても強くなってくれるだろう。
そこで俺はふと気になって訊いてみる。
「そういえば勧められたって言ってたし、こうやって教わることにも抵抗なさそうだけど、前は誰かに教わってたのか?」
俺としては世間話のような軽い質問のつもりであった。
だが、期限の良さそうな表情から更に笑みを深めたベネッサの口から出た名前は、衝撃的なものだった。
「教わっていた、というよりは小さなことを逐一指摘されるのが嫌でそれを直していたというようなものなのだけど、以前パーティを組んでいたフィオとイチョウという冒険者から色々と仕入れたわ」
その事実を再確認させられたパーティメンバーは、一人を除きあまり乗り気ではないように見えた。
口には出さないが、誰もが不満を抱えているような雰囲気だ。
思いつめたような顔をして、重たい空気が場を支配している。
「ねぇ、そろそろお昼じゃない? 私、リースちゃんの作るご飯食べてみたいんだけど」
そんな中、唯一魔王に関して特に思うところがないどころかこの空気感すら意に介していない様子のベネッサが、そんなことを言い出した。
マイペースな奴だとは思ったが、今はそれがありがたい。
俺はリースとカーシュに宿の厨房の様子を見て人数分の昼食を作ってくるように指示を出した。
これで少なくとも二人は目の前の仕事に集中できる。
一旦不安なことから目を逸らすことができれば、ある程度は気も紛れるだろう。
「あと二組分用意したら使わせてくれるみたいニャ。もう少し待つニャ」
先行して厨房の様子を見に行ったカーシュが、約束を取り付けて帰ってくる。
その情報を聞いて、二人に調理道具や材料が入った袋を渡した。
この袋の中には収納空間の魔法陣が描かれていて、その見た目からは考えられないくらいの容量を誇っている。
ちなみに、食材を入れることもあるということで内部の時間経過速度をいじっており、まとめて大量に買った食材を腐らせることなく使えるという便利仕様もついている。
そんな袋を持った二人が厨房へ向かうのを俺たちは見送った。
===============
それから俺たちは二人が作ってくれた昼食を食べ、冒険者ギルドの管理する訓練場へと向かった。
今回は最低限の護身術や魔力操作を教えるためにリースにもついて来てもらっている。
今後は勉強の方に力を入れてもらうつもりだが、その第一弾として戦闘に関する知識を今日覚えてもらおうという名目だ。
また、パーティメンバーがどれくらい動けるのかということを把握することで、自分がどこにいれば安全なのか、いざという時は何をすれば良いのかということも考えてほしかった。
それが分かればここにいても危険はないという安心感につながるだろう。
「これからの旅が楽しみだわ」
訓練場までの道中、そのリースはというと、ベネッサに絡まれていた。
と言うのも、ベネッサはリースの作る料理を気に入ったらしい。
戦闘が好きだという印象のあるベネッサは、魔王を目標として強敵と戦う機会がある旅に好みの飯が追加されたことでこのパーティを良い環境だと認めたみたいだ。
「ボクも手伝ったニャ! ボクには何もないのかニャ?」
「手伝っただけでしょう。それなら誰にでもできるわ」
「やらない奴が言う台詞じゃないニャ!」
ドヤ顔で褒めてもらうつもりだったカーシュが、雑にあしらわれてキレている。
最初はベネッサを入れることで問題が起こらないか不安だったが、今のところ問題どころかパーティの空気を良くしてくれているように感じる。
恐らく、というか絶対に狙ってやっているわけではなさそうだが、彼女が欲望に忠実に動いた結果空気が良くなるなら、大金を払って買った甲斐があるというものだ。
そうしていくらか良い雰囲気で訓練場に入った俺たちが最初にやるのは、各々の能力チェックだ。
何ができて、何ができないのか。どういう立ち回りがしたいのか。相性の良し悪しはどうか。などなど。
他にも確認しておかなければならないことがたくさんある。
奴隷として購入した時点で最低限欲しい能力は指定していたので今になって使えないなんてことにはならないだろうが、それでも練度の差や、これから練習することで変わる部分、向き不向きなどが絡むと訓練メニューは大きく変わってくる。
「とりあえず連携は実践の中で確認するとして、まずは個人の能力を伸ばそうと思う。そのための確認だ。手を抜くんじゃないぞ」
一応、ここでわざと無能のふりをして脱退を図る、なんて者が出てこないように釘を刺して、俺は各自に口頭と、実際に動いてもらって確認作業を進めた。
まずオルは、事前に言っていた通り前衛をしてもらうことが確定した。
理由として遠距離攻撃手段が乏しいという点を挙げると消去法のように聞こえてしまうかもしれないが、オルの能力を見た限りでは優秀な前衛になってくれそうだった。
特に、防御力が高いのを活かした立ち回りで、所謂タンクのようなことができるのが良かった。
パーティとして戦う時には俺が防御系の魔術を使って前衛が多くの魔物を抑えるような状況は作らないようにするだろう。
だが、それでも想定外の攻撃などで防御が間に合わない時、咄嗟に生身で防御に回れるというのは安心感が違う。
それでいて攻撃力も十分あり、技術面に関しても荒い部分を失くして行けばそれなりに光るものがありそうだ。
次にカーシュだが、斥候はやってもらうつもりだ。
だが、ガッツリ前衛で戦ってもらうかと言われると微妙なところだった。
魔術をそれなりに使えるため、カーシュには遠距離攻撃という選択肢がある。
素早い動きを活かして近距離で魔術を取りまわすのは良いと思ったが、一旦中距離くらいから魔術を使った動きを見てみようということになった。
剣術の方はひたすら攻撃を受けないようにするとのことで、避けるか流すのが得意なようだ。
斬撃が有効なら切りつけ、他は魔術で対応してきたのだろう。
実践の中でその二つの攻撃方法の割合を見て、立ち位置を決めよう。
リースは戦闘経験が全くなく、自衛のための護身術なども分からない様子だった。
そもそも戦闘はさせないつもりだったのでそれは問題ない。
ただ、今後街中を一人で行動する機会があった時、自分を守れるようになっていた方が良いのは確かだ。
それを説明した上で、まだ何が得意なのかも分からないため魔術や近接戦の基礎を齧らせてみることで合意した。
そして、ベネッサ。
彼女は魔術をメインに遠距離攻撃を得意とした上で、近接戦闘もやってみるように勧められて、やってみたらできたので最近はカーシュのような立ち回りをしていたと言う。
ただ、後衛として雇われるなら後衛をするつもりだし、自分が前衛に上がったら後衛が俺しかいなくなってしまうことを理解していた。
元々は固定砲台的なこともしていたそうなので感覚を戻す時間があれば問題なさそうだ。
現時点での戦闘力は購入した奴隷の中では一番だし、あまり心配しなくても強くなってくれるだろう。
そこで俺はふと気になって訊いてみる。
「そういえば勧められたって言ってたし、こうやって教わることにも抵抗なさそうだけど、前は誰かに教わってたのか?」
俺としては世間話のような軽い質問のつもりであった。
だが、期限の良さそうな表情から更に笑みを深めたベネッサの口から出た名前は、衝撃的なものだった。
「教わっていた、というよりは小さなことを逐一指摘されるのが嫌でそれを直していたというようなものなのだけど、以前パーティを組んでいたフィオとイチョウという冒険者から色々と仕入れたわ」
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