「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第百一話 神の眼の能力
ギルドでフォールを回収し、上機嫌なまま宿に戻った俺は、疲れていたこともあってそのまますぐに眠りに就いた。
そこで、俺は夢を見た。
視界いっぱいに広がる無駄にカラフルな世界。
幾何学模様というのだろうか、様々な形をした色の塊が散りばめられた空間は、チカチカして目が痛くなるものだった。
俺は以前もここに来たことがある。
たしか、俺の眼に細工をした神の一柱――『娯楽』の神ボードがいた空間だ。
前は身体が透明で結局最後まで姿を視認することができなかったが、今日はどうなっているだろうか。
一通り辺りを見渡してみるが、人影はおろか小型の生物でさえ一匹も見付けられなかった。
それでもこの空間のどこかには存在しているだろうから、こちらから声を掛けてやろう。
そう思って息を吸ったその時、目の前十センチほどの距離からから声が聞こえた。
「やあ、少年」
見えていないのだから後ろから声を掛けるなりしてくれれば良いのに、やはりいたずらみたいな楽しいことも好きなのだろう。
俺は急に聞こえた音声に驚き、すぐに返答しようにも声が詰まってしまった。
「驚いてくれたみたいだね」
「ああ、心臓に悪いからもっと遠くか視界の外から声を掛けてくれ」
あからさまに不機嫌になって見せると、姿は見えないからどんな表情で言っているのかは分からないが、悪いことをして叱られている子供のような、弱々しい声音で謝ってくれた。
正直神様がこの程度で反省して本気で謝るとは考えられないが、円滑にコミュニケーションをとるためにここで突っかかってはいけない。
どうせ何を言っても変わらないのだから、勝手に俺が今度から気を付ければ良いのだ。
まぁ、それを覚えている内に今度がある気はしなかったが。
「で、今日は俺に何の用だ? 色々楽しい場面は見れたと思うが」
「それは本当にありがとうなんだけど、君、全然眼の能力使ってくれないじゃないか」
何やら今度はボールが不機嫌になった。
俺はその態度の変化に首を傾げる。
「どういうことだ? 確かにそんなに使ってはいないが、それで不都合があるのか?」
使ったと言えばモミジとユキに身体を拭かれていた時や勇者たちを観察した時くらいで、それ以外の場面では使おうと思ったことはなかった。
というか二人の身体を見てしまった時も俺の意志で使いたいと思ったわけではなく暴走したのが原因だ。
あれから能力を使えばいくらでも他人の素肌が見放題だということには気付いたが、見たところで何になるわけでもないし、欲が膨らんでも処理に困るだけだし、何より邪な目線は二人にバレるので、そう簡単に使っていられるような能力ではなかったのだ。
「あるよ! 大ありだよ! 君が能力を使ってくれないと、能力の行使と代償が釣り合わないんだ。代償として視界の共有をしてるのに、能力が使われてないなんて、他の神に知られたら何されるか分からないんだよ」
どうやら俺が能力を使わないだけでこの神の立場は危うくなるらしい。
このまま使わなかったらどうなってしまうのか、その時俺の眼はどうなるのか、気になるには気になるが俺の身体にも影響が出る恐れがある以上、こちらとしても気軽にそうしてやろうとは思えなかった。
だが、使い道が思いつかないのも事実。以前は色んなものが見えると言っていたが、言ってしまえばただの透視能力。
動物や魔物を解体する時に中が見えたら便利かな、くらいしか使い道が思いつかないのである。
「別にそれを使って覗きをしろとか本の中身を見ろとか言ってるわけじゃないんだ。もっとビームが出て欲しいとか要望があったら聞くけど、それがなくても優秀な眼なんだから」
「そうは言ってもなぁ……透視能力で何ができるんだよ」
ビームはビームで使いどころがなさそうなので要らないが、他に何か追加できるなら、お願いしたいところ。
俺は真正面から不満を言ってやった。
すると、ボードが間抜けな声を上げた。
「もしかして、それしか能力がないと思ってたの……?」
その言い草だと、既に他の能力も備えられているように聞こえる。
思い返せばこの能力はそもそもの使用回数が少なすぎる。
そのせいで気付いていなかっただけで、本当は隠された真の能力があったのだろうか。
「……他には、何ができるんだ?」
単純な好奇心と、若干の罪悪感、後悔から、俺は素直に訊いてみることにした。
有用そうな能力なら、今まで使わなかった分も合わせて、たくさん使ってやろう。
「基本的には望んだものを見るだけの能力だよ。透視は隠された見たいものを見てるだけ。他には近い未来やエネルギーの流れ、人の感情や味覚なんかを色として見たりもできる。あとは遠くのものを近くに見るとかね。透視だって、探し物をするのには重宝するんだから」
色々見る能力は、本当に色々見る能力だった。
望んだものを見る能力。その言葉の解釈次第で能力の内容が変わってくるのだ。
「そんなに色々できるなら、最初に言っておいてくれよ……」
「それは、ごめんなさい。能力を使う内に気付いていけたら楽しいかと思ったんだけど、そもそも使わないんだもの……」
「それは……俺も悪かったよ」
それぞれが言わなかったこと、それから使わなかったことを後悔する。
強力な能力の全貌に気付けたはずなのに、二人して暗い雰囲気を纏っているのはシュールな光景だ。
この空気、どうしたものか。
次に何を言おうか考えていると、ボードもいたたまれなかったのか、焦った声の調子で話題を変えてきた。
「そうそう、君は今、人を探してるんじゃないかい? それも眼の能力を使えば一瞬だよ。誤解も解けたみたいだし、そろそろお別れの時間だ。面白い映像が見れることと、君が能力を使ってくれることを期待しているよ」
相変わらず見えないが、ボードが俺の肩をポンポンと叩くと、視界がグニャリと曲がり、気付いたらそこは宿のベッドの上だった。
「眠ってたはずなのに、疲れが取れた気がしねぇな……」
朝日が差し込む部屋の中で、俺は身体を起こしながら呟く。
フォールがどうしているか確認すると、まだ丸まって眠っているようだった。
「透視能力に、共感覚みたいなこともできるのか。……それで、人探し」
俺は眼に魔力を込める。
モミジとユキはどこにいるのか、見たいものだけを見る能力で、二人が見えるまでにある障害物を取り払ってみよう。
それから、遠くのものを近くに見る――所謂千里眼的な能力を併用すれば、二人がどうなっているか、詳しく見られるはずだ。
辺りを見渡してみると、二人が遠くにいるせいなのか、一気に魔力が持って行かれた。
「ぐっ……」
そのせいで少し気分が悪くなったが、これくらいなんてことはない。
堪えて能力を使い続けること十秒。
俺は遂に二人の姿を捕捉することに成功した。
詳しい場所は分からないが、恐らく魔族の本拠地。
二人はその中の牢屋のような場所に囚われているようだった。
そこで、俺は夢を見た。
視界いっぱいに広がる無駄にカラフルな世界。
幾何学模様というのだろうか、様々な形をした色の塊が散りばめられた空間は、チカチカして目が痛くなるものだった。
俺は以前もここに来たことがある。
たしか、俺の眼に細工をした神の一柱――『娯楽』の神ボードがいた空間だ。
前は身体が透明で結局最後まで姿を視認することができなかったが、今日はどうなっているだろうか。
一通り辺りを見渡してみるが、人影はおろか小型の生物でさえ一匹も見付けられなかった。
それでもこの空間のどこかには存在しているだろうから、こちらから声を掛けてやろう。
そう思って息を吸ったその時、目の前十センチほどの距離からから声が聞こえた。
「やあ、少年」
見えていないのだから後ろから声を掛けるなりしてくれれば良いのに、やはりいたずらみたいな楽しいことも好きなのだろう。
俺は急に聞こえた音声に驚き、すぐに返答しようにも声が詰まってしまった。
「驚いてくれたみたいだね」
「ああ、心臓に悪いからもっと遠くか視界の外から声を掛けてくれ」
あからさまに不機嫌になって見せると、姿は見えないからどんな表情で言っているのかは分からないが、悪いことをして叱られている子供のような、弱々しい声音で謝ってくれた。
正直神様がこの程度で反省して本気で謝るとは考えられないが、円滑にコミュニケーションをとるためにここで突っかかってはいけない。
どうせ何を言っても変わらないのだから、勝手に俺が今度から気を付ければ良いのだ。
まぁ、それを覚えている内に今度がある気はしなかったが。
「で、今日は俺に何の用だ? 色々楽しい場面は見れたと思うが」
「それは本当にありがとうなんだけど、君、全然眼の能力使ってくれないじゃないか」
何やら今度はボールが不機嫌になった。
俺はその態度の変化に首を傾げる。
「どういうことだ? 確かにそんなに使ってはいないが、それで不都合があるのか?」
使ったと言えばモミジとユキに身体を拭かれていた時や勇者たちを観察した時くらいで、それ以外の場面では使おうと思ったことはなかった。
というか二人の身体を見てしまった時も俺の意志で使いたいと思ったわけではなく暴走したのが原因だ。
あれから能力を使えばいくらでも他人の素肌が見放題だということには気付いたが、見たところで何になるわけでもないし、欲が膨らんでも処理に困るだけだし、何より邪な目線は二人にバレるので、そう簡単に使っていられるような能力ではなかったのだ。
「あるよ! 大ありだよ! 君が能力を使ってくれないと、能力の行使と代償が釣り合わないんだ。代償として視界の共有をしてるのに、能力が使われてないなんて、他の神に知られたら何されるか分からないんだよ」
どうやら俺が能力を使わないだけでこの神の立場は危うくなるらしい。
このまま使わなかったらどうなってしまうのか、その時俺の眼はどうなるのか、気になるには気になるが俺の身体にも影響が出る恐れがある以上、こちらとしても気軽にそうしてやろうとは思えなかった。
だが、使い道が思いつかないのも事実。以前は色んなものが見えると言っていたが、言ってしまえばただの透視能力。
動物や魔物を解体する時に中が見えたら便利かな、くらいしか使い道が思いつかないのである。
「別にそれを使って覗きをしろとか本の中身を見ろとか言ってるわけじゃないんだ。もっとビームが出て欲しいとか要望があったら聞くけど、それがなくても優秀な眼なんだから」
「そうは言ってもなぁ……透視能力で何ができるんだよ」
ビームはビームで使いどころがなさそうなので要らないが、他に何か追加できるなら、お願いしたいところ。
俺は真正面から不満を言ってやった。
すると、ボードが間抜けな声を上げた。
「もしかして、それしか能力がないと思ってたの……?」
その言い草だと、既に他の能力も備えられているように聞こえる。
思い返せばこの能力はそもそもの使用回数が少なすぎる。
そのせいで気付いていなかっただけで、本当は隠された真の能力があったのだろうか。
「……他には、何ができるんだ?」
単純な好奇心と、若干の罪悪感、後悔から、俺は素直に訊いてみることにした。
有用そうな能力なら、今まで使わなかった分も合わせて、たくさん使ってやろう。
「基本的には望んだものを見るだけの能力だよ。透視は隠された見たいものを見てるだけ。他には近い未来やエネルギーの流れ、人の感情や味覚なんかを色として見たりもできる。あとは遠くのものを近くに見るとかね。透視だって、探し物をするのには重宝するんだから」
色々見る能力は、本当に色々見る能力だった。
望んだものを見る能力。その言葉の解釈次第で能力の内容が変わってくるのだ。
「そんなに色々できるなら、最初に言っておいてくれよ……」
「それは、ごめんなさい。能力を使う内に気付いていけたら楽しいかと思ったんだけど、そもそも使わないんだもの……」
「それは……俺も悪かったよ」
それぞれが言わなかったこと、それから使わなかったことを後悔する。
強力な能力の全貌に気付けたはずなのに、二人して暗い雰囲気を纏っているのはシュールな光景だ。
この空気、どうしたものか。
次に何を言おうか考えていると、ボードもいたたまれなかったのか、焦った声の調子で話題を変えてきた。
「そうそう、君は今、人を探してるんじゃないかい? それも眼の能力を使えば一瞬だよ。誤解も解けたみたいだし、そろそろお別れの時間だ。面白い映像が見れることと、君が能力を使ってくれることを期待しているよ」
相変わらず見えないが、ボードが俺の肩をポンポンと叩くと、視界がグニャリと曲がり、気付いたらそこは宿のベッドの上だった。
「眠ってたはずなのに、疲れが取れた気がしねぇな……」
朝日が差し込む部屋の中で、俺は身体を起こしながら呟く。
フォールがどうしているか確認すると、まだ丸まって眠っているようだった。
「透視能力に、共感覚みたいなこともできるのか。……それで、人探し」
俺は眼に魔力を込める。
モミジとユキはどこにいるのか、見たいものだけを見る能力で、二人が見えるまでにある障害物を取り払ってみよう。
それから、遠くのものを近くに見る――所謂千里眼的な能力を併用すれば、二人がどうなっているか、詳しく見られるはずだ。
辺りを見渡してみると、二人が遠くにいるせいなのか、一気に魔力が持って行かれた。
「ぐっ……」
そのせいで少し気分が悪くなったが、これくらいなんてことはない。
堪えて能力を使い続けること十秒。
俺は遂に二人の姿を捕捉することに成功した。
詳しい場所は分からないが、恐らく魔族の本拠地。
二人はその中の牢屋のような場所に囚われているようだった。
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