「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第五十七話 新たな拠点
奴隷の館を通り過ぎてから十分弱、俺たちは遂に身の丈に合った宿を見付けることができた。
見付けた時はその喜びよりもなぜ冒険者ギルドの建物の近くには一軒も高めの宿がないのかという不満が先に出てきてしまったが、何はともあれ宿を確保することができて良かった。
「いらっしゃいませ。三名様ですね」
俺が扉を開け中に入ると、そんな声が聞こえた。
ハキハキとした男の声である。
「従魔のフォレストウルフもいるんだが、大丈夫か?」
人間の数はあっているが、それに加えてフォールがいるということを伝える。
「はい、大丈夫でございます。お部屋はいくつご用意いたしましょうか」
自然な流れで受付のカウンターまで案内され、部屋数を訊かれる。
受付をしてくれたのは姿勢の良いスーツに身を包んだ男だった。
安宿だったら迷わずに一部屋にしたところなのだが、前の宿では廊下に待たされる時間もあったし、男女で分けるのがベターだろうか。
「どうする?」
さすがにこれは一人で勝手に決めて良いことではないので、俺は後ろで話を聞いていたモミジとユキにどうするか尋ねてみる。
「別にどっちでも良いと思うわよ。分けた方が楽だとは思うけど」
「……私も、そう思う」
二人ともどっちになっても良いというような態度ではあるが、やはり分けた方が楽だとは思っているようで、その辺の判断は俺に任せるということだろうか。
「二人部屋を二つ、それと従魔に関して何か特別な決まりがあれば教えてほしいのだが」
部屋が余っているのなら、楽な方が良い。
俺は二つ部屋を頼んで、それから注意しておかなければならないことを訊いておいた。
「二人部屋を二つですね、承りました。従魔に関しては見たところ大型の従魔というわけではなさそうですので特に言っておくことはありませんが、他のお客様を傷つけた場合やこの建物を破壊、または酷く汚した場合にはその従魔の主に責任を取っていただくことになるので、その点については頭に入れておくようにしてください。何か他にご質問などはございますか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「では、宿泊料金をお願いします」
そう言って受付の男はトレーをカウンターに置いた。
この宿では最初の受付の時に払った金額分だけ泊まれるというシステムでやっているらしく、某ハンバーガーチェーンを連想させるような展示方法で宿泊料金に関することが書かれていた。
それによると一人一泊銅貨五枚、従魔は小型なら三枚である。
とりあえず二泊はするだろうという考えで、俺は三人と一匹で銅貨三十六枚分、まとめて銀貨三枚と銅貨六枚をトレーに置いた。
「二泊分ですね。部屋の鍵をどうぞ」
受付の男はトレーを下げると瞬時に俺たちが何泊するのかを把握し、鍵を差し出してきた。
別に難しい計算ではないが、この世界には計算がまともにできない人が多数いると聞く。
この国や世界全体の教育環境がどうなっているのか、詳しくは知らないが、少なくともこの宿では計算ができる――つまりは低ランクの一般人よりは優秀な人間を雇っているということだ。
さすがは少し高めの価格設定になっているだけある。
俺は感心すると同時に、逆に計算ができないような人間はここには入れたくないという篩にかける意味も持っているのではないかと、そんなことも考えた。
「部屋に空きがある限りは宿泊期間の延長ができますが、その場合はお早めに追加料金を払うようにお願いします」
鍵を受け取ると、延長についての説明があった。
早めに、と言って明確な期間を示さないのも客の選別のためなのだろうかと勘繰ってしまうが、別にそれは悪いことでもなんでもない。
俺は延長するなら明日の朝の内に追加料金を払っておこうと心に決めて部屋に向かった。
俺たちがこれからこの街での拠点とする宿は『紫の箱』という名前で、冒険者街と住宅街の中間にある五階建ての宿屋だ。
建物には石材が主に使われていて、どことなく固く清潔な雰囲気を放っている。
俺たちはその三階の二部屋に案内されたのだ。
「荷解き、つってもそんなにやることはないだろうが、とりあえず準備ができたら俺の部屋に来てくれ。この街で何をするのか、大雑把に決めておこう」
俺が収納空間を使っているから荷物というような荷物はないのだが、宿に着いたら色々と確認したりやりたいこともあるだろうということで、一旦分かれてから再集合することにした。
フォールを連れ、木製ながら頑丈そうな扉を開けて部屋の中に入ると、石材をメインに使った綺麗系の部屋が俺たちを迎えてくれた。
きっと石がむき出しになっていたら冷たい印象を受けたのだろうが、床には絨毯が敷かれているし、ベッドや机などはすべて木製なため、石の冷たさは一切感じられない。
色は白や黒が基調で、他の色も焦げ茶や藍のように暗い色やモスグリーンのような暗く濁った色が使われていて全体的に落ち着いた雰囲気だ。
以前泊まった『陽だまり亭』が木材むき出しだったのを考えるとだいぶ大きな違いだ。
家具の品質も少しだがこっちの方が良いような気がする。
こうして俺が荷物を置きながら部屋の中を物色していると、ノック音が部屋の中に響いた。
モミジとユキが来たようだ。
俺は扉を開けて二人を中に入れ、二つあるベッドの片方に座らせた。
フォールがベッドを使わないため、今のところ誰にも使われないベッドだ。
俺は二人と向かい合うように自分が使うベッドに座り、この街で何をするのか、したいのかを話す会を始めた。
が、その前に。
「そっちの部屋はどうだった? こっちと何か違うところとかあったか?」
こういう風に部屋を分けるとどうしても気になってしまうもう片方の部屋。
さすがに女子部屋に入るのははばかられるため直接見に行くというのは招かれでもしない限りはしないのだが、やはり気になったからには知りたいと思う。
たとえ同じつくりでもどうなっているのかを使っている本人たちの口から聞きたいのだ。
「別に、こっちと違うところは見当たらないわね」
「……そんなに気になるなら、後で見に来ればいい」
来ても良いというなら後で見に行くとして、どうやらこの部屋と大きな変化はないようだということが分かった。
そんなくだらない話から始まったが、その後は至って真面目に話は進行した。
諸事情により、来週の更新はお休みさせていただきます。
現在、送っていただいたコメントには全て目を通しているのですが、アプリの性質上返信というものができません。
なのでどこかにコメントに反応する場所を設けようと思うのですが、エピソードの最後に付け足すのが良いか、コメントに返信するだけのエピソードを作るのが良いか、アンケートのようなものを実施したいと思います。
コメントでどちらが良いか送ってください。次回更新時に結果を反映します。(多数決ではありません)
また、他にも何か意見・感想などがある場合にもコメントにて教えていただけるとありがたいです。
作者のTwitterアカウントも一応ありますので、そちらの方でも対応します。
見付けた時はその喜びよりもなぜ冒険者ギルドの建物の近くには一軒も高めの宿がないのかという不満が先に出てきてしまったが、何はともあれ宿を確保することができて良かった。
「いらっしゃいませ。三名様ですね」
俺が扉を開け中に入ると、そんな声が聞こえた。
ハキハキとした男の声である。
「従魔のフォレストウルフもいるんだが、大丈夫か?」
人間の数はあっているが、それに加えてフォールがいるということを伝える。
「はい、大丈夫でございます。お部屋はいくつご用意いたしましょうか」
自然な流れで受付のカウンターまで案内され、部屋数を訊かれる。
受付をしてくれたのは姿勢の良いスーツに身を包んだ男だった。
安宿だったら迷わずに一部屋にしたところなのだが、前の宿では廊下に待たされる時間もあったし、男女で分けるのがベターだろうか。
「どうする?」
さすがにこれは一人で勝手に決めて良いことではないので、俺は後ろで話を聞いていたモミジとユキにどうするか尋ねてみる。
「別にどっちでも良いと思うわよ。分けた方が楽だとは思うけど」
「……私も、そう思う」
二人ともどっちになっても良いというような態度ではあるが、やはり分けた方が楽だとは思っているようで、その辺の判断は俺に任せるということだろうか。
「二人部屋を二つ、それと従魔に関して何か特別な決まりがあれば教えてほしいのだが」
部屋が余っているのなら、楽な方が良い。
俺は二つ部屋を頼んで、それから注意しておかなければならないことを訊いておいた。
「二人部屋を二つですね、承りました。従魔に関しては見たところ大型の従魔というわけではなさそうですので特に言っておくことはありませんが、他のお客様を傷つけた場合やこの建物を破壊、または酷く汚した場合にはその従魔の主に責任を取っていただくことになるので、その点については頭に入れておくようにしてください。何か他にご質問などはございますか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「では、宿泊料金をお願いします」
そう言って受付の男はトレーをカウンターに置いた。
この宿では最初の受付の時に払った金額分だけ泊まれるというシステムでやっているらしく、某ハンバーガーチェーンを連想させるような展示方法で宿泊料金に関することが書かれていた。
それによると一人一泊銅貨五枚、従魔は小型なら三枚である。
とりあえず二泊はするだろうという考えで、俺は三人と一匹で銅貨三十六枚分、まとめて銀貨三枚と銅貨六枚をトレーに置いた。
「二泊分ですね。部屋の鍵をどうぞ」
受付の男はトレーを下げると瞬時に俺たちが何泊するのかを把握し、鍵を差し出してきた。
別に難しい計算ではないが、この世界には計算がまともにできない人が多数いると聞く。
この国や世界全体の教育環境がどうなっているのか、詳しくは知らないが、少なくともこの宿では計算ができる――つまりは低ランクの一般人よりは優秀な人間を雇っているということだ。
さすがは少し高めの価格設定になっているだけある。
俺は感心すると同時に、逆に計算ができないような人間はここには入れたくないという篩にかける意味も持っているのではないかと、そんなことも考えた。
「部屋に空きがある限りは宿泊期間の延長ができますが、その場合はお早めに追加料金を払うようにお願いします」
鍵を受け取ると、延長についての説明があった。
早めに、と言って明確な期間を示さないのも客の選別のためなのだろうかと勘繰ってしまうが、別にそれは悪いことでもなんでもない。
俺は延長するなら明日の朝の内に追加料金を払っておこうと心に決めて部屋に向かった。
俺たちがこれからこの街での拠点とする宿は『紫の箱』という名前で、冒険者街と住宅街の中間にある五階建ての宿屋だ。
建物には石材が主に使われていて、どことなく固く清潔な雰囲気を放っている。
俺たちはその三階の二部屋に案内されたのだ。
「荷解き、つってもそんなにやることはないだろうが、とりあえず準備ができたら俺の部屋に来てくれ。この街で何をするのか、大雑把に決めておこう」
俺が収納空間を使っているから荷物というような荷物はないのだが、宿に着いたら色々と確認したりやりたいこともあるだろうということで、一旦分かれてから再集合することにした。
フォールを連れ、木製ながら頑丈そうな扉を開けて部屋の中に入ると、石材をメインに使った綺麗系の部屋が俺たちを迎えてくれた。
きっと石がむき出しになっていたら冷たい印象を受けたのだろうが、床には絨毯が敷かれているし、ベッドや机などはすべて木製なため、石の冷たさは一切感じられない。
色は白や黒が基調で、他の色も焦げ茶や藍のように暗い色やモスグリーンのような暗く濁った色が使われていて全体的に落ち着いた雰囲気だ。
以前泊まった『陽だまり亭』が木材むき出しだったのを考えるとだいぶ大きな違いだ。
家具の品質も少しだがこっちの方が良いような気がする。
こうして俺が荷物を置きながら部屋の中を物色していると、ノック音が部屋の中に響いた。
モミジとユキが来たようだ。
俺は扉を開けて二人を中に入れ、二つあるベッドの片方に座らせた。
フォールがベッドを使わないため、今のところ誰にも使われないベッドだ。
俺は二人と向かい合うように自分が使うベッドに座り、この街で何をするのか、したいのかを話す会を始めた。
が、その前に。
「そっちの部屋はどうだった? こっちと何か違うところとかあったか?」
こういう風に部屋を分けるとどうしても気になってしまうもう片方の部屋。
さすがに女子部屋に入るのははばかられるため直接見に行くというのは招かれでもしない限りはしないのだが、やはり気になったからには知りたいと思う。
たとえ同じつくりでもどうなっているのかを使っている本人たちの口から聞きたいのだ。
「別に、こっちと違うところは見当たらないわね」
「……そんなに気になるなら、後で見に来ればいい」
来ても良いというなら後で見に行くとして、どうやらこの部屋と大きな変化はないようだということが分かった。
そんなくだらない話から始まったが、その後は至って真面目に話は進行した。
諸事情により、来週の更新はお休みさせていただきます。
現在、送っていただいたコメントには全て目を通しているのですが、アプリの性質上返信というものができません。
なのでどこかにコメントに反応する場所を設けようと思うのですが、エピソードの最後に付け足すのが良いか、コメントに返信するだけのエピソードを作るのが良いか、アンケートのようなものを実施したいと思います。
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コメント
ゆずっこ
毎度面白い話でとても楽しく読んでいます
アンケートの件ですが自分としてはエピソードの最後につけて貰えるとありがたいです。
話を読んだついでに裏設定だったり作者さんのお話だったりが読めて手軽でいいかなと思います。
今後も更新楽しみにしてるので面白い話をよろしくお願いします(*´∀`*)