「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第五十話 久々の別れ
俺はここでのゴブリン討伐依頼を通して、少しだけ自分の実力というものが分かった。
それは単にアイルやシーナと自分を比べたというわけではない。
簡単に倒すことのできたゴブリンロードが絶望的なほどに強いと言われていたり、その討伐報酬が桁違いだったり、そういう今まで俺が思っていた世界のイメージとの乖離によって自然と気付かされたのだ。
だからまだ知らないことの多い俺には正確に自分の力量を測ることはできないが、これから色んなことを体験して自分の立ち位置を探っていこうと思う。
その一環として、結構近くにいるらしい「勇者」というものに会ってみよう。
勇者と言えば世界の危機を救うとかなんとか何かしらの使命を背負っていて、勿論その戦闘能力は一般人とは比べ物にならない、はずだ。
さすがに手合わせをすることはできないだろうが、ヴォルムに鍛えられた観察眼があればその立ち振る舞いから大体の力量は分かる。
そんなに多くはいないが、この街でお世話になった人に挨拶をして、もう少し観光をしたら、すぐにでも出発しよう。
そういう意図があって、俺たちはアイルやシーナとパーティを組み続けるのは難しいと判断したのだが、アイルはその旨を伝えると残念そうな顔をした。
だが、アイル――きっとシーナも――俺たちの間にある大きな差を感じているのだろう。
特に反対するようなことはなく、ただ俺たちの意向を認めてくれた。
「俺らはこの街でもっと強くなるよ。仲間も増やしたいな。それからは分からんが、いつかまた三人と、今度は肩を並べて戦えると良いな」
「私も、もっとたくさんの魔術を使えるようになって、次会った時には皆さんを驚かせますからね!」
いつかまた。
会えるのなら、きっと二人は今よりずっと成長しているだろう。
だが、会えないとなると……。
俺はその可能性は考えないことにして、二人と別れた。
一つの依頼を共にしただけと言えばそこまで深い関係のようには聞こえないが、俺たちがしたことは、傍から見れば結構命懸けの行動だ。
二人の眼に俺たちがどんな風に映っていたかは分からないが、少なくとも俺は身内を除いて初めてパーティを組んだ人物として二人のことは特別視している。
どこで見かけた時には絶対に声を掛けると断言できるくらいには深い仲だと思っている。
だが、そんな風に思っていても、別れというものは案外あっさりしたものであった。
いや、むしろそう思っていたからこそ、無駄に引きずらないようにしたのかもしれない。
どちらにせよ俺は、何とも言えない喪失感に身を浸すのであった。
===============
一旦宿に戻った俺たちは、丁度カウンターの向こうで客が来るのを待っていたサニにもう三日止まることを伝え、追加で料金を払った。
それから部屋でこれからの三日間をどのように過ごすかの会議を開いた。
だがその前に、一応次の目的地についての確認もしておく。
「思わぬ形だったが、十分すぎるくらいの金を稼ぐことができた。目標達成だ。だから次は勇者とやらに会えることを願って首都セオルドに向かおうと思うんだが、良いか?」
「良いと思うわ」
「……問題、ない」
シーナが話している時に二人は勇者やそのパーティについて興味がなさそうにしていたから反対されることも覚悟していたが、二人は思っていたよりもずっと簡単に俺の意見を通してくれた。
嫌なら嫌と言ってくれれば良いのだが、遠慮しているのだろうか。
「他に意見があれば言っても良いんだぞ? 嫌だとか行きたくないとかないか?」
不満が積もって良いことはない。
いざこざに発展することもあるだろうし、パーティ解散やら、酷いと命のやり取りにまで及ぶ可能性までないとは言えない。
極力ストレスのないような旅にしたいのだ。
「勇者にはそんなに興味があるわけではないけど、だからと言って反対するほどのことでもないし、首都なら栄えてそうだし、他に行きたいところと言われても知らないことが多すぎて案なんて出せないわよ」
「……私も、場所のことは分からない。だから、任せる」
言われてみると確かに、俺も大陸のどこに何という国があるのかということしか分からない。
そんな状態でどこに行きたいかと問われても答えられないのは至って普通のことだ。
知らない、という時点でそれなりのストレスを抱えることにはなるだろうが、二人――俺も同じようなものだが――は選択権を持っていないに等しかったのだ。
今度世界地図や観光用の書籍があったら買って読もうと心に留め、本題に入る。
「じゃあ、これから三日間の話だ。とりあえずは観光をしようと思う。と言っても、どうやらこの街にはこれといった観光名所みたいなものがないらしい。強いて言うなら無数に並ぶ屋台がそれに当たるそうだ。だから基本的には気になる屋台を回りつつ旅の準備をすることになる。何か希望はあるか?」
俺の話を聞き、モミジとユキは数秒考えるような仕草をする。
それから二人は自分の意見をちゃんと述べた。
「そうね、屋台を回るのは良いけど、夜は宿で食べたいわ」
「……色々、食べて回りたい」
言う時は言うんだなと安心した俺は、二人の要求を承諾する。
「分かった。できる限りのことはしよう。それから、最終日にはお世話になった人――具体的にはこの宿の人や門番さん、ギルドの人とアイル、シーナに挨拶をしに行こう。アイルとシーナには会えないといけないから、明日ギルドに伝言を残しておこう。だから明日の観光はギルドの方から回ることにするが良いな?」
俺の問いに二人は頷き、会議は終わった。
窓の外を見ると、日が段々と傾き始めるくらいの頃だった。
夕飯にはまだ早いが何か用事を挟んだら今度は夕飯が遅くなってしまいそうな微妙な時刻。何をしようか。
このまま部屋で雑談したり、遊んだりするのも良いと思う。
だが、その時俺は一つの名案を思い付いた。
「モミジ、ユキ、フォール。微妙に時間が余ったから、今日こそは風呂に入らないか?」
そんな俺の言葉に、二人は同じようにハッとした表情になる。
フォールも期待を込めた眼差しでこちらを見つめ、嬉しそうにしっぽを揺らしている。
満場一致。俺たちは宿にある風呂に入った。
宿の風呂は元の世界や孤児院の設備に比べたら見劣りするものであったが、それでも十分に風呂としての機能を果たし、久々に俺たちに安らぎを与えてくれた。
お陰様で遂に第五十話を迎えることができました。
ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。
一週間家を空けなければならないため、来週の更新はお休みさせていただきます。
それは単にアイルやシーナと自分を比べたというわけではない。
簡単に倒すことのできたゴブリンロードが絶望的なほどに強いと言われていたり、その討伐報酬が桁違いだったり、そういう今まで俺が思っていた世界のイメージとの乖離によって自然と気付かされたのだ。
だからまだ知らないことの多い俺には正確に自分の力量を測ることはできないが、これから色んなことを体験して自分の立ち位置を探っていこうと思う。
その一環として、結構近くにいるらしい「勇者」というものに会ってみよう。
勇者と言えば世界の危機を救うとかなんとか何かしらの使命を背負っていて、勿論その戦闘能力は一般人とは比べ物にならない、はずだ。
さすがに手合わせをすることはできないだろうが、ヴォルムに鍛えられた観察眼があればその立ち振る舞いから大体の力量は分かる。
そんなに多くはいないが、この街でお世話になった人に挨拶をして、もう少し観光をしたら、すぐにでも出発しよう。
そういう意図があって、俺たちはアイルやシーナとパーティを組み続けるのは難しいと判断したのだが、アイルはその旨を伝えると残念そうな顔をした。
だが、アイル――きっとシーナも――俺たちの間にある大きな差を感じているのだろう。
特に反対するようなことはなく、ただ俺たちの意向を認めてくれた。
「俺らはこの街でもっと強くなるよ。仲間も増やしたいな。それからは分からんが、いつかまた三人と、今度は肩を並べて戦えると良いな」
「私も、もっとたくさんの魔術を使えるようになって、次会った時には皆さんを驚かせますからね!」
いつかまた。
会えるのなら、きっと二人は今よりずっと成長しているだろう。
だが、会えないとなると……。
俺はその可能性は考えないことにして、二人と別れた。
一つの依頼を共にしただけと言えばそこまで深い関係のようには聞こえないが、俺たちがしたことは、傍から見れば結構命懸けの行動だ。
二人の眼に俺たちがどんな風に映っていたかは分からないが、少なくとも俺は身内を除いて初めてパーティを組んだ人物として二人のことは特別視している。
どこで見かけた時には絶対に声を掛けると断言できるくらいには深い仲だと思っている。
だが、そんな風に思っていても、別れというものは案外あっさりしたものであった。
いや、むしろそう思っていたからこそ、無駄に引きずらないようにしたのかもしれない。
どちらにせよ俺は、何とも言えない喪失感に身を浸すのであった。
===============
一旦宿に戻った俺たちは、丁度カウンターの向こうで客が来るのを待っていたサニにもう三日止まることを伝え、追加で料金を払った。
それから部屋でこれからの三日間をどのように過ごすかの会議を開いた。
だがその前に、一応次の目的地についての確認もしておく。
「思わぬ形だったが、十分すぎるくらいの金を稼ぐことができた。目標達成だ。だから次は勇者とやらに会えることを願って首都セオルドに向かおうと思うんだが、良いか?」
「良いと思うわ」
「……問題、ない」
シーナが話している時に二人は勇者やそのパーティについて興味がなさそうにしていたから反対されることも覚悟していたが、二人は思っていたよりもずっと簡単に俺の意見を通してくれた。
嫌なら嫌と言ってくれれば良いのだが、遠慮しているのだろうか。
「他に意見があれば言っても良いんだぞ? 嫌だとか行きたくないとかないか?」
不満が積もって良いことはない。
いざこざに発展することもあるだろうし、パーティ解散やら、酷いと命のやり取りにまで及ぶ可能性までないとは言えない。
極力ストレスのないような旅にしたいのだ。
「勇者にはそんなに興味があるわけではないけど、だからと言って反対するほどのことでもないし、首都なら栄えてそうだし、他に行きたいところと言われても知らないことが多すぎて案なんて出せないわよ」
「……私も、場所のことは分からない。だから、任せる」
言われてみると確かに、俺も大陸のどこに何という国があるのかということしか分からない。
そんな状態でどこに行きたいかと問われても答えられないのは至って普通のことだ。
知らない、という時点でそれなりのストレスを抱えることにはなるだろうが、二人――俺も同じようなものだが――は選択権を持っていないに等しかったのだ。
今度世界地図や観光用の書籍があったら買って読もうと心に留め、本題に入る。
「じゃあ、これから三日間の話だ。とりあえずは観光をしようと思う。と言っても、どうやらこの街にはこれといった観光名所みたいなものがないらしい。強いて言うなら無数に並ぶ屋台がそれに当たるそうだ。だから基本的には気になる屋台を回りつつ旅の準備をすることになる。何か希望はあるか?」
俺の話を聞き、モミジとユキは数秒考えるような仕草をする。
それから二人は自分の意見をちゃんと述べた。
「そうね、屋台を回るのは良いけど、夜は宿で食べたいわ」
「……色々、食べて回りたい」
言う時は言うんだなと安心した俺は、二人の要求を承諾する。
「分かった。できる限りのことはしよう。それから、最終日にはお世話になった人――具体的にはこの宿の人や門番さん、ギルドの人とアイル、シーナに挨拶をしに行こう。アイルとシーナには会えないといけないから、明日ギルドに伝言を残しておこう。だから明日の観光はギルドの方から回ることにするが良いな?」
俺の問いに二人は頷き、会議は終わった。
窓の外を見ると、日が段々と傾き始めるくらいの頃だった。
夕飯にはまだ早いが何か用事を挟んだら今度は夕飯が遅くなってしまいそうな微妙な時刻。何をしようか。
このまま部屋で雑談したり、遊んだりするのも良いと思う。
だが、その時俺は一つの名案を思い付いた。
「モミジ、ユキ、フォール。微妙に時間が余ったから、今日こそは風呂に入らないか?」
そんな俺の言葉に、二人は同じようにハッとした表情になる。
フォールも期待を込めた眼差しでこちらを見つめ、嬉しそうにしっぽを揺らしている。
満場一致。俺たちは宿にある風呂に入った。
宿の風呂は元の世界や孤児院の設備に比べたら見劣りするものであったが、それでも十分に風呂としての機能を果たし、久々に俺たちに安らぎを与えてくれた。
お陰様で遂に第五十話を迎えることができました。
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