「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十八話 解決
報酬の金額とその内訳が説明された後、俺は握り拳より一回り大きいくらいの魔石の重さを手に感じながら、硬貨が袋に詰められていくのを眺めていた。
アイルが受けていた依頼の報酬が銅貨百五十枚、素材を売って銀貨二百十枚、ゴブリンロード討伐の特別報酬とその素材で金貨百五枚。
当初はただゴブリンを狩って冒険者に慣れようということでこの依頼に同行したので、報酬に関してはとりあえず今日生き延びられれば良いと思っていたのだが、完全にこの金額は想定外だ。
正直なところどう反応したら良いのか分からない。
こんな時はとアイルとシーナに目をやるが、やはり二人ともこれだけの金額が目の前で動くような経験はなかったようで、心ここにあらずといった様子で立ち尽くしていた。
シーナなんて口がぽっかり空いたままの状態で、何と言うか、女としてそれで良いのかと言いたくなる。
一人だけ違う反応をしていたと言えば、ユキが大金をキラッキラに輝いた目で見つめていたことだろうか。
ユキらしいと言えばユキらしいのだが、こいつ、本当に俺やモミジと同じ環境で育ってきた人間なのだろうか。
さて、そうこうしている内に、半分くらいの硬貨が用意されているわけだが、俺はここでもう一つ話し合わなければならないことがあったことに気付く。
「あ、そうだ。この報酬ってどういう分け方するんだ?」
本来別のパーティである俺たちは、この報酬も二つに分ける必要がある。
だが、今回の件に関しては、報酬の対象が個人であったり、労力に大きな差があったりするため、単純に真っ二つに分けようということにするのには難しいところがある。
俺としては別にそれでも良いのだが、そんなことをすればユキが機嫌を損ねるのは目に見えているし、大金を手に入れても正気でいられそうにないアイルたちも反対するだろう。
お互いが納得でき、かつ正気を保っていられるような金額設定ができればよいが……。
すると、マートスが思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、元は二つのパーティなんでしたね。これに関してギルドから注意することがあるとすれば、この報酬は一旦パーティメンバー全体――つまりは五人全員のものになるということだけですね。ゴブリンロード討伐に関してはスマルさんしか戦っていないと聞いていますが、それでもこの報酬はパーティのもの、それをどう配分するのかはあなた方の自由です」
マートスの言うことに従うとなると、俺たちは銀貨換算で千二百七十五枚分の硬貨を分けなければならないということになる。
いろんな意見が出てきそうだが、極力半分に近いように分けるのが良いだろうか。
それは難しそうだと思っていたが、この話し合いは割と早く終わった。
というのも、元のパーティに分けた時に、片方は大金が怖いからそんなに多くは要らないと言い、もう片方にはできるなら全額自分のものにしたいとまで言うような人間がいたのだ。
こんな時に使う言葉なのかは怪しいが、利害の一致、いわゆるwin‐winの関係ということで、アイルとシーナにはゴブリン討伐の依頼から銅貨百枚、俺たちはそれ以外の余った部分をすべて手に入れるという分け方に落ち着いた。
自分の望み通りに事が運んだからか、ユキは今までに見たことがないくらいに興奮してその表情からは喜びが溢れ出ていた。
こうして俺たちが大金を手に入れることが確定したところで、丁度硬貨を詰める作業が終わったようだった。
さすがに何百という単位で硬貨を集めると、その重量も生半可なものではなくなる。
アイルが銅貨百枚が入った袋を持ち上げたが、見た目以上に重かったのか、少しよろめいていた。
俺たちはその三倍以上の枚数を運ばなくてはならないわけだが、正直言ってこれを運んでいる内に襲われたら守り切れる自信はないし、もしこの中から金貨が何枚か抜かれていても気付けるとも思えない。
金庫のようなものがあればある程度は安心できるが、金庫ごと運ぶわけにもいかない。
最終的には俺の収納空間に入れてしまえば良いのだが、もし俺が死んだり二人とはぐれてしまったりした場合には俺以外の二人がこれを取り出すことができなくなってしまう。
銀貨数枚くらいならまだしも、金貨百枚がいきなりなくなってしまうと考えると、それだけは避けなくてはならないというような気になる。
何か他の手段――例えば、銀行のようなものがあれば良いのだが。
さすがにないか、そう思った時、用意していたかのようにマートスが提案した。
「スマルさん、これだけ多いと、色々と困ることがあるでしょう。ギルドに預けてみてはいかがでしょうか」
「それって……」
その言い草は、ギルドが銀行と同じような業務を請け負っていると言っているように聞こえた。
使えるのなら是非とも使いたいが、その前にまずはそれがいったいどんなものなのかを訊いておく必要がある。
「……どんなもんなんだ?」
俺は期待を込めてマートスに質問した。
「冒険者ギルドでは、冒険者の所持金を預かり、その預かり金額を記録、各地のギルドと共有することでどこのギルドからでも預けたお金を取り出すことができるようなサービスを行っています。これは割と最近になってできたものなのでまだ利用者は多くありませんし、そんなに世界各地に行く冒険者もいないので需要もいまいちなのですが、特に高位の冒険者に評判が良くて、ギルドとしては続けようということになっています。安全性は確保しますので、どうかご検討ください」
俺の問いに、マートスは用意された台本を読むような説明口調から若干愚痴のようなものをこぼしながらも答えてくれた。
「それは、利用料とかは取られるのか?」
元の世界の銀行のように色々面倒な仕組みになっていたりしないかの確認も怠らない。
「初回の預け以降は預けるにしても、取り出すにしても銅貨一枚分の手数料をいただくということになっています。これだけの大金を預けても今なら無料ですので、是非ご活用ください」
聞く限りではただ預けるだけのサービスのようだが、どこか不自然なまでに勧めてきているような気配がする。
俺はその態度を不審に思い、再度質問をする。
「さっきからやけに勧めてくるが、なんか裏があったりしないよな?」
俺のいきなり核心に迫る問いに、マートスは一瞬の硬直の後、
「……ギルドからお金がなくなってしまうので、置いて行ってくれたらありがたいと思いまして……」
そう、弱々しく言った。
「…………」
「…………」
「…………使おうか」
俺はモミジとユキにアイコンタクトを取り、ちょっとかわいそうに見えてきたマートスのためにギルドに報酬を預けることにした。
勿論、俺たちがすぐに使えるように銀貨十枚は抜いて持っておくことにした。
こうして、ゴブリンロードに関する一軒は幕を閉じたのであった。
報酬に矛盾が生じる部分があったので、四十六話の内容を変更しました。
今まで数字は漢数字表記でしたが、今回大きな数字を扱った時に見辛かったので、今後大きな数字を扱う時にだけ算用数字を使おうと思うのですが、ご意見、ご要望があればコメントお願いします。
アイルが受けていた依頼の報酬が銅貨百五十枚、素材を売って銀貨二百十枚、ゴブリンロード討伐の特別報酬とその素材で金貨百五枚。
当初はただゴブリンを狩って冒険者に慣れようということでこの依頼に同行したので、報酬に関してはとりあえず今日生き延びられれば良いと思っていたのだが、完全にこの金額は想定外だ。
正直なところどう反応したら良いのか分からない。
こんな時はとアイルとシーナに目をやるが、やはり二人ともこれだけの金額が目の前で動くような経験はなかったようで、心ここにあらずといった様子で立ち尽くしていた。
シーナなんて口がぽっかり空いたままの状態で、何と言うか、女としてそれで良いのかと言いたくなる。
一人だけ違う反応をしていたと言えば、ユキが大金をキラッキラに輝いた目で見つめていたことだろうか。
ユキらしいと言えばユキらしいのだが、こいつ、本当に俺やモミジと同じ環境で育ってきた人間なのだろうか。
さて、そうこうしている内に、半分くらいの硬貨が用意されているわけだが、俺はここでもう一つ話し合わなければならないことがあったことに気付く。
「あ、そうだ。この報酬ってどういう分け方するんだ?」
本来別のパーティである俺たちは、この報酬も二つに分ける必要がある。
だが、今回の件に関しては、報酬の対象が個人であったり、労力に大きな差があったりするため、単純に真っ二つに分けようということにするのには難しいところがある。
俺としては別にそれでも良いのだが、そんなことをすればユキが機嫌を損ねるのは目に見えているし、大金を手に入れても正気でいられそうにないアイルたちも反対するだろう。
お互いが納得でき、かつ正気を保っていられるような金額設定ができればよいが……。
すると、マートスが思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、元は二つのパーティなんでしたね。これに関してギルドから注意することがあるとすれば、この報酬は一旦パーティメンバー全体――つまりは五人全員のものになるということだけですね。ゴブリンロード討伐に関してはスマルさんしか戦っていないと聞いていますが、それでもこの報酬はパーティのもの、それをどう配分するのかはあなた方の自由です」
マートスの言うことに従うとなると、俺たちは銀貨換算で千二百七十五枚分の硬貨を分けなければならないということになる。
いろんな意見が出てきそうだが、極力半分に近いように分けるのが良いだろうか。
それは難しそうだと思っていたが、この話し合いは割と早く終わった。
というのも、元のパーティに分けた時に、片方は大金が怖いからそんなに多くは要らないと言い、もう片方にはできるなら全額自分のものにしたいとまで言うような人間がいたのだ。
こんな時に使う言葉なのかは怪しいが、利害の一致、いわゆるwin‐winの関係ということで、アイルとシーナにはゴブリン討伐の依頼から銅貨百枚、俺たちはそれ以外の余った部分をすべて手に入れるという分け方に落ち着いた。
自分の望み通りに事が運んだからか、ユキは今までに見たことがないくらいに興奮してその表情からは喜びが溢れ出ていた。
こうして俺たちが大金を手に入れることが確定したところで、丁度硬貨を詰める作業が終わったようだった。
さすがに何百という単位で硬貨を集めると、その重量も生半可なものではなくなる。
アイルが銅貨百枚が入った袋を持ち上げたが、見た目以上に重かったのか、少しよろめいていた。
俺たちはその三倍以上の枚数を運ばなくてはならないわけだが、正直言ってこれを運んでいる内に襲われたら守り切れる自信はないし、もしこの中から金貨が何枚か抜かれていても気付けるとも思えない。
金庫のようなものがあればある程度は安心できるが、金庫ごと運ぶわけにもいかない。
最終的には俺の収納空間に入れてしまえば良いのだが、もし俺が死んだり二人とはぐれてしまったりした場合には俺以外の二人がこれを取り出すことができなくなってしまう。
銀貨数枚くらいならまだしも、金貨百枚がいきなりなくなってしまうと考えると、それだけは避けなくてはならないというような気になる。
何か他の手段――例えば、銀行のようなものがあれば良いのだが。
さすがにないか、そう思った時、用意していたかのようにマートスが提案した。
「スマルさん、これだけ多いと、色々と困ることがあるでしょう。ギルドに預けてみてはいかがでしょうか」
「それって……」
その言い草は、ギルドが銀行と同じような業務を請け負っていると言っているように聞こえた。
使えるのなら是非とも使いたいが、その前にまずはそれがいったいどんなものなのかを訊いておく必要がある。
「……どんなもんなんだ?」
俺は期待を込めてマートスに質問した。
「冒険者ギルドでは、冒険者の所持金を預かり、その預かり金額を記録、各地のギルドと共有することでどこのギルドからでも預けたお金を取り出すことができるようなサービスを行っています。これは割と最近になってできたものなのでまだ利用者は多くありませんし、そんなに世界各地に行く冒険者もいないので需要もいまいちなのですが、特に高位の冒険者に評判が良くて、ギルドとしては続けようということになっています。安全性は確保しますので、どうかご検討ください」
俺の問いに、マートスは用意された台本を読むような説明口調から若干愚痴のようなものをこぼしながらも答えてくれた。
「それは、利用料とかは取られるのか?」
元の世界の銀行のように色々面倒な仕組みになっていたりしないかの確認も怠らない。
「初回の預け以降は預けるにしても、取り出すにしても銅貨一枚分の手数料をいただくということになっています。これだけの大金を預けても今なら無料ですので、是非ご活用ください」
聞く限りではただ預けるだけのサービスのようだが、どこか不自然なまでに勧めてきているような気配がする。
俺はその態度を不審に思い、再度質問をする。
「さっきからやけに勧めてくるが、なんか裏があったりしないよな?」
俺のいきなり核心に迫る問いに、マートスは一瞬の硬直の後、
「……ギルドからお金がなくなってしまうので、置いて行ってくれたらありがたいと思いまして……」
そう、弱々しく言った。
「…………」
「…………」
「…………使おうか」
俺はモミジとユキにアイコンタクトを取り、ちょっとかわいそうに見えてきたマートスのためにギルドに報酬を預けることにした。
勿論、俺たちがすぐに使えるように銀貨十枚は抜いて持っておくことにした。
こうして、ゴブリンロードに関する一軒は幕を閉じたのであった。
報酬に矛盾が生じる部分があったので、四十六話の内容を変更しました。
今まで数字は漢数字表記でしたが、今回大きな数字を扱った時に見辛かったので、今後大きな数字を扱う時にだけ算用数字を使おうと思うのですが、ご意見、ご要望があればコメントお願いします。
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コメント
ばど
のんびりでいいのでお体に気を付けて長く配信してください。