「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十七話 指名依頼
ゴブリンロードを討伐したということ。
俺はその重大さをいまいち理解できていなかった。
マートスはなんだか物々しく言っているが、そんなことを言われても良く分からないものは分からない。
もっと具体的に何が起こるのかを早く教えてほしいものだ。
そんなことを考えながら、俺は緊迫した空気の中マートスが口を開くのを待っていた。
「まず、ゴブリンロードはゴブリンの上位種ではありますが、他の上位種とは一線を画す強さや狂暴性を持っていて危険であることや、その発見報告数の少なさから冒険者ギルドの特別警戒リストに載っている――つまりは他の魔物とは別の枠で処理するということを確認しておきます」
そこで彼の口から発せられたのは、これから話を進める上での前提――ゴブリンロードはどういう魔物なのかという確認だった。
あっさり倒せてしまったがためにあまり実感がないが、ゴブリンロードは確かに様々な文献で極めて危険であるというような紹介がされていた。
その度合いはそもそも遭遇した人の数が少ないせいで文献によってはバラバラだったが、少なくとも通常種のゴブリンを百体集めても敵わないほどだとあった。
特別警戒リストとは、そういう段違いに強い魔物や大きくなり過ぎた魔物の群れなどが発生した時に、ギルドが実力のある冒険者を直接指名して討伐してきてもらい、被害を最小限に留めるためにあるもので、下級の冒険者や非戦闘職の人は見かけても迂闊に手を出さないようにと一般公開されている。らしい。
というのも、俺はまだこの特別警戒リストというものに目を通したことがないのだ。
ギルドの中を探せば、あるいは職員の誰かに言えば見せてもらえるのかもしれないが、俺はそもそもそんなリストがあることを知らなかったし、というか既に知らぬまま戦ってしまっている。
今回は死なない自信があったし、実際に倒しているのだから結果的には問題ないのだが、これがもっと凶悪な魔物相手で殺されていたかもしれないということを考えると、ぞっとする話だ。
「あ、あぁ分かった。今度俺もそのリストは読むとして、これで何か問題が起きるのか?」
それは単純な疑問。
単に強い魔物を倒したというそれだけのことで、何かマズイことが起こるようにはどうしても考えられなかった。
「問題、と言うほどのことなのかは私が決めることではないのですが、一番はギルドからの指名依頼でしょうね。これ自体に害があるわけではないんですが、これはあまり拒否しすぎるとギルドからは良い目で見られませんし、優秀な冒険者ほどより多く、難度の高い依頼が回されて大変なんですよ」
マートスはどこか遠くを見るようにそんなことを言う。
冒険者時代に何か指名依頼に関する悪い思い出でもあるのだろうか。
「こういうのを煩わしいと感じる冒険者が多くてですね、スマルさんはどうです?」
そうマートスは続け、俺はそれに答える。
「あんまり嬉しくはない制度だとは思った。ギルド公認の実力者って捉え方もできるだろうが、他にやりたいことがあるような奴には鬱陶しいだろうよ」
俺の返答に、マートスはいかにもその通りであるとでも言いたいのか、大げさに頷いて見せた。
「私もこの制度にはあまり良い思い出がなくてですね、今、こうやってギルドマスターなんてものを任されていますから、私の受け持つ範囲内での出来事には基本的にこの制度を使わないようにしているんですよ」
そう言ったマートスは笑っているように見えるが、その表情は硬く、無理しているのだろうということがすぐに分かった。
やはり何か嫌な思い出があるのだろう。
何があったのか聞きたいような気もするが、あまり踏み込まない方が良い領域だと判断して、俺はそれについては言及しなかった。
だが、マートスはそう思っていなかったのか、
「支部ごとに扱い方が微妙に異なるのですが、酷いところだと三日に一度要請してくるなんてこともあってですね……本当に大変なので気を付けてください……」
なんてことを言って、俺たちに注意喚起をしてくれた。
「ところで、ゴブリンロードを倒したから実力のある冒険者ってのは分かるんだが、俺たちはまだ緑級だ。ギルドの連中はそんな俺たちに指名依頼をしてくるもんなのか?」
注意するべき点が分かったところだが、この制度についてはまだ分からないことが多い。
それは「実力のある冒険者」というのがどのような冒険者のことを指すのかということなどだ。
単に腕っぷしが強いだけでは実力のある冒険者とは言い難いだろうことは予想できるが、現時点でそのくらいの判断材料しかない俺に指名依頼が通達される可能性があるというのは何とも不思議なことである。
一体、マートスは俺に何を見てそう判断したのだろうか。
「腕っぷしが第一で、人格破綻者でなければ基本的には対象になるんですが、その物差しは各ギルドマスターに委ねられているのですよ。それで、こうやって話をすれば人柄の良し悪しなんてものは分かりますから、それを本部に報告しているんです。結局私は中間管理職ですからね」
どこか疲れているような印象を放つマートスが、ギルドマスターという役職に就きながらも自由は少ないということは理解できた。
「さ、忌々しい制度の話はこの辺にして、報酬の話をしましょう」
遂には忌々しいとまで言ってしまった指名依頼の半紙を切り上げ、報酬の話へと移った。
「まず、ゴブリンロード討伐に対する報酬が、金貨五十枚。それから被害を最小限に留めたことへの謝礼に金貨二十五枚。後は素材の買い取り次第です」
続けざまに作業員の一人が口を開く。
「素材は全部こっちで買い取るなら金貨六十枚くらいが妥当だろうな。特に魔石は金貨三十枚ってところだ」
「合計で金貨百三十五枚ですね」
俺たちはその金額に驚愕し、固まってしまう。
上手く考えられないまま、俺はなんとなく魔石だけを回収して後は売り払った。
報酬の金額は金貨百五枚。
ただゴブリンロードを倒しただけでこんな額になるのだ。
このことからもいかにゴブリンロードが恐れられているということが分かる。
ちなみに、魔石とは魔物の中に稀に精製される宝石のようなもので、俺が今回回収したのは直径が十数センチほどの魔石だ。
これは魔石としては大きい方らしいのだが、そんなことを言われても俺には使い方が一切分からなかった。
諸事情により、来週の更新はお休みさせていただきます。
次回更新は再来週になります。
俺はその重大さをいまいち理解できていなかった。
マートスはなんだか物々しく言っているが、そんなことを言われても良く分からないものは分からない。
もっと具体的に何が起こるのかを早く教えてほしいものだ。
そんなことを考えながら、俺は緊迫した空気の中マートスが口を開くのを待っていた。
「まず、ゴブリンロードはゴブリンの上位種ではありますが、他の上位種とは一線を画す強さや狂暴性を持っていて危険であることや、その発見報告数の少なさから冒険者ギルドの特別警戒リストに載っている――つまりは他の魔物とは別の枠で処理するということを確認しておきます」
そこで彼の口から発せられたのは、これから話を進める上での前提――ゴブリンロードはどういう魔物なのかという確認だった。
あっさり倒せてしまったがためにあまり実感がないが、ゴブリンロードは確かに様々な文献で極めて危険であるというような紹介がされていた。
その度合いはそもそも遭遇した人の数が少ないせいで文献によってはバラバラだったが、少なくとも通常種のゴブリンを百体集めても敵わないほどだとあった。
特別警戒リストとは、そういう段違いに強い魔物や大きくなり過ぎた魔物の群れなどが発生した時に、ギルドが実力のある冒険者を直接指名して討伐してきてもらい、被害を最小限に留めるためにあるもので、下級の冒険者や非戦闘職の人は見かけても迂闊に手を出さないようにと一般公開されている。らしい。
というのも、俺はまだこの特別警戒リストというものに目を通したことがないのだ。
ギルドの中を探せば、あるいは職員の誰かに言えば見せてもらえるのかもしれないが、俺はそもそもそんなリストがあることを知らなかったし、というか既に知らぬまま戦ってしまっている。
今回は死なない自信があったし、実際に倒しているのだから結果的には問題ないのだが、これがもっと凶悪な魔物相手で殺されていたかもしれないということを考えると、ぞっとする話だ。
「あ、あぁ分かった。今度俺もそのリストは読むとして、これで何か問題が起きるのか?」
それは単純な疑問。
単に強い魔物を倒したというそれだけのことで、何かマズイことが起こるようにはどうしても考えられなかった。
「問題、と言うほどのことなのかは私が決めることではないのですが、一番はギルドからの指名依頼でしょうね。これ自体に害があるわけではないんですが、これはあまり拒否しすぎるとギルドからは良い目で見られませんし、優秀な冒険者ほどより多く、難度の高い依頼が回されて大変なんですよ」
マートスはどこか遠くを見るようにそんなことを言う。
冒険者時代に何か指名依頼に関する悪い思い出でもあるのだろうか。
「こういうのを煩わしいと感じる冒険者が多くてですね、スマルさんはどうです?」
そうマートスは続け、俺はそれに答える。
「あんまり嬉しくはない制度だとは思った。ギルド公認の実力者って捉え方もできるだろうが、他にやりたいことがあるような奴には鬱陶しいだろうよ」
俺の返答に、マートスはいかにもその通りであるとでも言いたいのか、大げさに頷いて見せた。
「私もこの制度にはあまり良い思い出がなくてですね、今、こうやってギルドマスターなんてものを任されていますから、私の受け持つ範囲内での出来事には基本的にこの制度を使わないようにしているんですよ」
そう言ったマートスは笑っているように見えるが、その表情は硬く、無理しているのだろうということがすぐに分かった。
やはり何か嫌な思い出があるのだろう。
何があったのか聞きたいような気もするが、あまり踏み込まない方が良い領域だと判断して、俺はそれについては言及しなかった。
だが、マートスはそう思っていなかったのか、
「支部ごとに扱い方が微妙に異なるのですが、酷いところだと三日に一度要請してくるなんてこともあってですね……本当に大変なので気を付けてください……」
なんてことを言って、俺たちに注意喚起をしてくれた。
「ところで、ゴブリンロードを倒したから実力のある冒険者ってのは分かるんだが、俺たちはまだ緑級だ。ギルドの連中はそんな俺たちに指名依頼をしてくるもんなのか?」
注意するべき点が分かったところだが、この制度についてはまだ分からないことが多い。
それは「実力のある冒険者」というのがどのような冒険者のことを指すのかということなどだ。
単に腕っぷしが強いだけでは実力のある冒険者とは言い難いだろうことは予想できるが、現時点でそのくらいの判断材料しかない俺に指名依頼が通達される可能性があるというのは何とも不思議なことである。
一体、マートスは俺に何を見てそう判断したのだろうか。
「腕っぷしが第一で、人格破綻者でなければ基本的には対象になるんですが、その物差しは各ギルドマスターに委ねられているのですよ。それで、こうやって話をすれば人柄の良し悪しなんてものは分かりますから、それを本部に報告しているんです。結局私は中間管理職ですからね」
どこか疲れているような印象を放つマートスが、ギルドマスターという役職に就きながらも自由は少ないということは理解できた。
「さ、忌々しい制度の話はこの辺にして、報酬の話をしましょう」
遂には忌々しいとまで言ってしまった指名依頼の半紙を切り上げ、報酬の話へと移った。
「まず、ゴブリンロード討伐に対する報酬が、金貨五十枚。それから被害を最小限に留めたことへの謝礼に金貨二十五枚。後は素材の買い取り次第です」
続けざまに作業員の一人が口を開く。
「素材は全部こっちで買い取るなら金貨六十枚くらいが妥当だろうな。特に魔石は金貨三十枚ってところだ」
「合計で金貨百三十五枚ですね」
俺たちはその金額に驚愕し、固まってしまう。
上手く考えられないまま、俺はなんとなく魔石だけを回収して後は売り払った。
報酬の金額は金貨百五枚。
ただゴブリンロードを倒しただけでこんな額になるのだ。
このことからもいかにゴブリンロードが恐れられているということが分かる。
ちなみに、魔石とは魔物の中に稀に精製される宝石のようなもので、俺が今回回収したのは直径が十数センチほどの魔石だ。
これは魔石としては大きい方らしいのだが、そんなことを言われても俺には使い方が一切分からなかった。
諸事情により、来週の更新はお休みさせていただきます。
次回更新は再来週になります。
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