「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十五話 意外な一面
冒険者ギルドから帰って来ると、強烈な花の匂いが俺の嗅覚を刺激した。
完全に不意打ちをくらってしまったと顔をしかめながらモミジとユキの方に目をやったが、二人はこの匂いのことを覚えていたのか、はたまたこの匂いが嫌ではないのか、とにかく臭いに対する反応は一切示さなかった。
嗅覚が優れていて俺たちよりもこの匂いを強く感じているはずのフォールも何ともないと言いたげな澄まし顔で、俺だけがダメージを受けているという構図が出来上がったというわけだ。
これに防御力云々は関係ないことではあるのだが、防御力が自慢であるはずの俺だけが影響を受けているというのは何とも気に食わないことであった。
「あ、スマルさん! それに皆さんも、今日は遅いんですね?」
そんな状況に俺が頬を膨らませていると、この宿の従業員であるサニがぴょこぴょこと走り寄ってきた。
「おぉ、サニ。なんだか久しぶりな感じがするなぁ……」
俺の疲れが滲み出るような言葉を聞いて、サニは小さく笑みをこぼしながら返答する。
「どうしたんですか、そんなおじいちゃんみたいなこと言って」
本心から出た言葉だったが、おじいちゃんと評されて確かに普段の俺ではこんなことは言わないだろうと気付かされる。
疲れているという自覚はあったが、自分の認識以上であったようだ。
「ずいぶんとお疲れのようですけど、ちゃんとご飯は食べましたか? ちゃんと食べないと力が出せなくなっちゃいますよ」
そんな俺たちの疲れ切った様子を見て、サニは力こぶを作りながら半ば確信を持っている言い回しで俺たちがまだ食事をしていないことを看破する。
自信満々で言うことではないだろうと思ったが、実際まだ夕飯と呼べるようなものは食べていないので、何も言い返すことができない。
それどころか、少なくとも俺は食事のことなどは全く考えていなかった。
嘘を吐く必要もないので、ここは素直に答えておく。
「まだ、食事と呼べるようなものは、何も……」
初めは威勢よく答えてやろうと思っていたのだが、俺が「まだ」という言葉を発した瞬間サニを取り巻く雰囲気がガラリと変わり、得も言えぬ圧迫感が押し寄せてきたせいで尻窄みな感じになってしまった。
それから俺を捉えていた目線が俺の後ろでダラダラ立っていただけのモミジとユキに移ると、二人は驚くべき速さで背筋を伸ばした。
「簡単なものなら用意できますけど、食べますか?」
「は、はい……」
有無を言わさぬ問いに、俺はそのまま従った。
客が俺たちしかいないからか、サニは俺たちのことを気にかけてくれているのだが、その振る舞いは年下だとは思えないほどにしっかりとしている。
この宿の業務を半ば一人でやっているようなものなのでそうなるのは自然なことだとは思うのだが、今のやり取りからは子供に「ちゃんと食べなさい」と説教をしている母親のような風格を感じた。
厨房へ歩いて行くサニを見送りながら、今はそんなことを言われるような年齢ではなくなったが、前世では小さい頃に母親から言われていたなと懐かしく――
――ズキッ
「イテッ……」
突然の頭痛に俺は頭を押さえる。
「どうしたの?」
「……大丈夫?」
原因は不明だが、一瞬のことだったので疲労のせいだろうと気にせず、心配してくれた二人には大丈夫だと伝えた。
そんなこともあったが、俺たちはサニに呼ばれるまでそこで直立待機し、簡単と言いつつも準備してあったかのような出来栄えの料理を食べて部屋に戻った。
部屋に荷物を置き、やっと一息つけると思ったのもつかの間、すぐに女子陣が身体を拭くと言い出したので、俺は部屋の外に放り出されてしまった。
今日はサニも来ないだろうし、どうやって時間を潰そうか。
そんなことを考えていると、フォールが部屋から出てきた。
フォールの世話をするのは基本的に俺なので、二人が中で身体を拭いているのを見ていてもつまらなかったのだろう。
俺はどうせこの後フォールを洗ったり自分の身体を拭いたりすることになるのだからと少し汚れ気味なフォールと、少しの間廊下でじゃれ合った。
案の定、土やら埃やらで汚れていて触っていた手が真っ黒になってしまったのだが、大型犬と遊ぶような感じで楽しかった。
そうこうしている内に女子陣の色々が終わったようで、今度は俺たちが身体を拭く番となった。
まずフォールを水をためた桶の中に入れて洗うのだが、フォールはまだ俺とじゃれている気分だったのか、予想以上に水をまき散らしながらの洗浄となった。
途中からは囲うように結界を張ったので被害としては床が少し濡れたくらいなのだが、テンションの上がったフォールに汚水の入った桶をひっくり返されて俺はびしょ濡れになってしまった。
濡れて困るようなものは身に着けていなかったから良いのだが、だからと言って気分の良いものではなかった。
フォールも俺の様子を見てそれを察したようで、乾かしたり俺が身体を拭いたりしている間は大人しく待っていてくれた。
着替えも終わり、女子陣も部屋に入れ明日の予定を決めるための会議をする。
ギルドを出た時点では観光をしようということになっていたのできっとそこに落ち着くのだろうが、肝心なのは観光として何をするのかだ。
「とりあえず、まとまった金が入る確約みたいなものはあるからな。色々買って回るのはどうだ?」
俺は賑わっている屋台巡りをしたいと提案する。
「良いわね。でもそれは何か他のことをしながらでもできないかしら」
「……何があるのか、分からない」
俺としては適当に街を歩き回れれば良いかなという感じだったのだが、二人の言う観光はもっとしっかりとしたもののようで、観光名所などを事前に調べていこうということらしい。
「それならサニに訊くのが一番かもしれないな……」
「そうしましょう」
「……行こー」
ということで、俺たちは受付にいるサニにどう観光するのがお勧めかを訊いた。
「観光、ですか。でしたら――」
それから小一時間。妙に熱の入った説明を俺たちは受ける羽目になったのであった。
完全に不意打ちをくらってしまったと顔をしかめながらモミジとユキの方に目をやったが、二人はこの匂いのことを覚えていたのか、はたまたこの匂いが嫌ではないのか、とにかく臭いに対する反応は一切示さなかった。
嗅覚が優れていて俺たちよりもこの匂いを強く感じているはずのフォールも何ともないと言いたげな澄まし顔で、俺だけがダメージを受けているという構図が出来上がったというわけだ。
これに防御力云々は関係ないことではあるのだが、防御力が自慢であるはずの俺だけが影響を受けているというのは何とも気に食わないことであった。
「あ、スマルさん! それに皆さんも、今日は遅いんですね?」
そんな状況に俺が頬を膨らませていると、この宿の従業員であるサニがぴょこぴょこと走り寄ってきた。
「おぉ、サニ。なんだか久しぶりな感じがするなぁ……」
俺の疲れが滲み出るような言葉を聞いて、サニは小さく笑みをこぼしながら返答する。
「どうしたんですか、そんなおじいちゃんみたいなこと言って」
本心から出た言葉だったが、おじいちゃんと評されて確かに普段の俺ではこんなことは言わないだろうと気付かされる。
疲れているという自覚はあったが、自分の認識以上であったようだ。
「ずいぶんとお疲れのようですけど、ちゃんとご飯は食べましたか? ちゃんと食べないと力が出せなくなっちゃいますよ」
そんな俺たちの疲れ切った様子を見て、サニは力こぶを作りながら半ば確信を持っている言い回しで俺たちがまだ食事をしていないことを看破する。
自信満々で言うことではないだろうと思ったが、実際まだ夕飯と呼べるようなものは食べていないので、何も言い返すことができない。
それどころか、少なくとも俺は食事のことなどは全く考えていなかった。
嘘を吐く必要もないので、ここは素直に答えておく。
「まだ、食事と呼べるようなものは、何も……」
初めは威勢よく答えてやろうと思っていたのだが、俺が「まだ」という言葉を発した瞬間サニを取り巻く雰囲気がガラリと変わり、得も言えぬ圧迫感が押し寄せてきたせいで尻窄みな感じになってしまった。
それから俺を捉えていた目線が俺の後ろでダラダラ立っていただけのモミジとユキに移ると、二人は驚くべき速さで背筋を伸ばした。
「簡単なものなら用意できますけど、食べますか?」
「は、はい……」
有無を言わさぬ問いに、俺はそのまま従った。
客が俺たちしかいないからか、サニは俺たちのことを気にかけてくれているのだが、その振る舞いは年下だとは思えないほどにしっかりとしている。
この宿の業務を半ば一人でやっているようなものなのでそうなるのは自然なことだとは思うのだが、今のやり取りからは子供に「ちゃんと食べなさい」と説教をしている母親のような風格を感じた。
厨房へ歩いて行くサニを見送りながら、今はそんなことを言われるような年齢ではなくなったが、前世では小さい頃に母親から言われていたなと懐かしく――
――ズキッ
「イテッ……」
突然の頭痛に俺は頭を押さえる。
「どうしたの?」
「……大丈夫?」
原因は不明だが、一瞬のことだったので疲労のせいだろうと気にせず、心配してくれた二人には大丈夫だと伝えた。
そんなこともあったが、俺たちはサニに呼ばれるまでそこで直立待機し、簡単と言いつつも準備してあったかのような出来栄えの料理を食べて部屋に戻った。
部屋に荷物を置き、やっと一息つけると思ったのもつかの間、すぐに女子陣が身体を拭くと言い出したので、俺は部屋の外に放り出されてしまった。
今日はサニも来ないだろうし、どうやって時間を潰そうか。
そんなことを考えていると、フォールが部屋から出てきた。
フォールの世話をするのは基本的に俺なので、二人が中で身体を拭いているのを見ていてもつまらなかったのだろう。
俺はどうせこの後フォールを洗ったり自分の身体を拭いたりすることになるのだからと少し汚れ気味なフォールと、少しの間廊下でじゃれ合った。
案の定、土やら埃やらで汚れていて触っていた手が真っ黒になってしまったのだが、大型犬と遊ぶような感じで楽しかった。
そうこうしている内に女子陣の色々が終わったようで、今度は俺たちが身体を拭く番となった。
まずフォールを水をためた桶の中に入れて洗うのだが、フォールはまだ俺とじゃれている気分だったのか、予想以上に水をまき散らしながらの洗浄となった。
途中からは囲うように結界を張ったので被害としては床が少し濡れたくらいなのだが、テンションの上がったフォールに汚水の入った桶をひっくり返されて俺はびしょ濡れになってしまった。
濡れて困るようなものは身に着けていなかったから良いのだが、だからと言って気分の良いものではなかった。
フォールも俺の様子を見てそれを察したようで、乾かしたり俺が身体を拭いたりしている間は大人しく待っていてくれた。
着替えも終わり、女子陣も部屋に入れ明日の予定を決めるための会議をする。
ギルドを出た時点では観光をしようということになっていたのできっとそこに落ち着くのだろうが、肝心なのは観光として何をするのかだ。
「とりあえず、まとまった金が入る確約みたいなものはあるからな。色々買って回るのはどうだ?」
俺は賑わっている屋台巡りをしたいと提案する。
「良いわね。でもそれは何か他のことをしながらでもできないかしら」
「……何があるのか、分からない」
俺としては適当に街を歩き回れれば良いかなという感じだったのだが、二人の言う観光はもっとしっかりとしたもののようで、観光名所などを事前に調べていこうということらしい。
「それならサニに訊くのが一番かもしれないな……」
「そうしましょう」
「……行こー」
ということで、俺たちは受付にいるサニにどう観光するのがお勧めかを訊いた。
「観光、ですか。でしたら――」
それから小一時間。妙に熱の入った説明を俺たちは受ける羽目になったのであった。
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