「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第四十三話 解体
ゴブリンを狩った帰り道、街が見えた時にはもう完全に日が落ちており、街の外には街灯の類はないので、俺たちは俺が魔術で作り出した光の玉で辺りを照らしながら門に近付いて行った。
森の中で光の玉を出した時は魔物が寄って来るのではないかという懸念もあったが、消すと周りが見えないからと視界を優先し、結局門に着くまで光らせていた。
そこで俺たちのことを魔物と間違えた門番が武器を構えていたりしたが、粗方問題はなかった。
街に入ってからは、冒険者ギルドを真っ先に目指した。
激しい戦いはしていないがそこそこ疲れていたし、遅くなってしまったから明日でも良いのではないかと提案したが、一応は先輩であるアイルが「ゴブリンの耳が腐ったらいけない」と言うのでそれに従うことにした。
実は収納空間に入れてしまえば時間の経過を限りなく遅くすることができるのでそんなことを気にする必要はないのだが、魔術に頼らず常識を身に着けることも時には大切だろう。
「すみませーん」
「はい。ご用件は何でしょうか」
忘れていたが、このパーティのリーダーであるアイルがギルドのカウンターにいた職員さんに話しかけ、依頼達成の手続きをしてもらった。
今更、依頼内容を聞いていなかったとかそもそも依頼を受けてから誘ってたのかとか訊けば分かるようなことを知らなかったと気付いたが、既に気にすることではなかった。
「依頼の確認をさせていただきます。『ゴブリン討伐、五体で銅貨三枚』ですね。本日は何体でしょうか」
職員さんの問いに答える代わりに、アイルは無言で持っていた袋をカウンターに置いた。
それを見た職員さんはその膨らみ方に少し驚きを見せながらも、
「そ、それでは集計してまいりますので少々お待ちください」
と、袋をカウンターの奥にある作業場に持って行こうとする。
だが、それを遮る声が上がる。
「待て。実はまだ倍以上の量があるんだ。もっと言うと上位種やら亜種なんかも狩ってきてる。後ろにいる仲間が持ってるんだが、さすがに量が多くてな、作業場で直接出しても良いか?」
さっきカウンターに乗せた袋には大体五十くらいの耳が入っている。
一般の冒険者が一回に持ち帰る量の平均が三十くらいなので、これでも多い方なのだが、俺たちは百を余裕で越えるゴブリンを狩ってきている。
更に上位種や亜種も加えるとなると、カウンターには乗らない量になってしまうのだ。
それを聞いた職員さんは、信じられないのか困惑した様子。
こちらに目線を向けてくるが、俺たちの手に袋などは握られていない。
不審がられても仕方のないことだろう。
できることなら現物を出したいところなのだが、収納空間に入っている耳や死体は袋などには入れていない。
それをこんなところで取り出すというのはさすがにはばかられる。
耳一つくらいなら大丈夫かもしれないが、それ一つを取り出すために、俺は森で描いた魔法陣と全く同じ魔法陣を描かなくてはならない。
別に手間がかかるとか面倒だとかそういうわけではないのでやろうと思えばできるのだが、ここで魔法陣を起動すると周りの冒険者に嫌な目を向けられるのこと間違いなしだろう。
もしかしたら突っかかって来る冒険者が出てくるかもしれない。
そうなるのは避けたかった。
どう説得したものかと考えていると、アイルが小声で職員さんに耳打ちをした。
「……後ろの魔術師が魔術で異空間に保管しているんだ。信じられないかもしれないが、とりあえず作業場に入れてくれないか?」
これのお陰だったのかは定かではないが、職員さんはアイルの話を信じてくれたのか俺たちを作業場まで案内してくれた。
いざ作業場の扉を開けて入ってみると、そこには人が一人横たわれるくらいの大きさの作業台が十数台あり、いかにも解体に重宝しそうな何種類かの刃物があった。
恐らく作業員であろうスキンヘッドで強面のマッチョが三人いて、それぞれが何かの素材を解体していた。
下は作業着のようなものを穿いているが、上半身は裸にエプロンという中々奇抜な格好をしており、それが血で汚れている様子はどう見てもホラーだった。
「なんかあったか?」
「実は――」
ホラーな光景に固まってしまっていた俺たちだが、作業員の中でも一番背の高いマッチョが話しかけてくれたことで異空間に素材が入っているという事情を説明でき、作業台を貸してもらえるだけでなく解体までやってくれるということになった。
許可が下りればあとは素材を取り出すだけである。
俺は魔方陣を描き、大量のゴブリンが入った空間に繋げた。
そして、そこに入っていた耳、上位種や亜種の死体を作業台の上に並べた。
並べてみると、全部は作業台に乗らなかったので、こぼれた分は床に山積みになっている。
それと、ゴブリンロードの死体は収納空間の中に入れたままにしておいた。
「ほう、こりゃあ大量だな」
というのは二番目に背の高いマッチョの言葉である。
パッと見ただけで色々と分かるのか、マッチョ三人衆はぶつぶつとあれがどうだのこれがどうだのと三人で話すと、
「よし! 俺たちが明日の朝までに解体しておくから、それ以降にもう一回来てくれ。その時にギルドが買い取るかお前らが持って帰るか決めてお金の話をしよう」
と、今度は一番背の低いマッチョが素材をどうするかの説明をしてくれた。
大方予想通りの展開だが、こうなると俺たちができることはない。
自然と一旦帰ろうという流れになった。
だが、俺は作業場から出る前に、わざと出さずに残しておいた素材を取り出す。
「もう一つ、ゴブリンロードもいるんだが、これも解体できるか?」
これを出すと話が進まなくなりそうだったから残しておいたのだが、案の定、出した瞬間に飛びついた者がいた。
だが、それは意外なことに俺たちをここまで案内してくれた職員さんだった。
「ゴブリンロードって、あの、ゴブリンロードですか!?」
鼻息を荒くして前のめりになる姿は何ともギルド職員らしからぬ様相ではあったが、すぐに「失礼……」と大人しくなった。
それから一泊遅れて、今度は一番背の高いマッチョが「できるぞ」と短く言ったのが聞こえた。
すると、大人しくなったはずの職員さんがハッと何かに気付いたような顔になり、
「ギルドマスターを呼んでまいりますので、少々お待ちください!」
と作業場を飛び出して行った。
急な展開に付いて行けず、残された俺たちは騒がしい職員さんとは対極的に無言になってその帰りを待った。
森の中で光の玉を出した時は魔物が寄って来るのではないかという懸念もあったが、消すと周りが見えないからと視界を優先し、結局門に着くまで光らせていた。
そこで俺たちのことを魔物と間違えた門番が武器を構えていたりしたが、粗方問題はなかった。
街に入ってからは、冒険者ギルドを真っ先に目指した。
激しい戦いはしていないがそこそこ疲れていたし、遅くなってしまったから明日でも良いのではないかと提案したが、一応は先輩であるアイルが「ゴブリンの耳が腐ったらいけない」と言うのでそれに従うことにした。
実は収納空間に入れてしまえば時間の経過を限りなく遅くすることができるのでそんなことを気にする必要はないのだが、魔術に頼らず常識を身に着けることも時には大切だろう。
「すみませーん」
「はい。ご用件は何でしょうか」
忘れていたが、このパーティのリーダーであるアイルがギルドのカウンターにいた職員さんに話しかけ、依頼達成の手続きをしてもらった。
今更、依頼内容を聞いていなかったとかそもそも依頼を受けてから誘ってたのかとか訊けば分かるようなことを知らなかったと気付いたが、既に気にすることではなかった。
「依頼の確認をさせていただきます。『ゴブリン討伐、五体で銅貨三枚』ですね。本日は何体でしょうか」
職員さんの問いに答える代わりに、アイルは無言で持っていた袋をカウンターに置いた。
それを見た職員さんはその膨らみ方に少し驚きを見せながらも、
「そ、それでは集計してまいりますので少々お待ちください」
と、袋をカウンターの奥にある作業場に持って行こうとする。
だが、それを遮る声が上がる。
「待て。実はまだ倍以上の量があるんだ。もっと言うと上位種やら亜種なんかも狩ってきてる。後ろにいる仲間が持ってるんだが、さすがに量が多くてな、作業場で直接出しても良いか?」
さっきカウンターに乗せた袋には大体五十くらいの耳が入っている。
一般の冒険者が一回に持ち帰る量の平均が三十くらいなので、これでも多い方なのだが、俺たちは百を余裕で越えるゴブリンを狩ってきている。
更に上位種や亜種も加えるとなると、カウンターには乗らない量になってしまうのだ。
それを聞いた職員さんは、信じられないのか困惑した様子。
こちらに目線を向けてくるが、俺たちの手に袋などは握られていない。
不審がられても仕方のないことだろう。
できることなら現物を出したいところなのだが、収納空間に入っている耳や死体は袋などには入れていない。
それをこんなところで取り出すというのはさすがにはばかられる。
耳一つくらいなら大丈夫かもしれないが、それ一つを取り出すために、俺は森で描いた魔法陣と全く同じ魔法陣を描かなくてはならない。
別に手間がかかるとか面倒だとかそういうわけではないのでやろうと思えばできるのだが、ここで魔法陣を起動すると周りの冒険者に嫌な目を向けられるのこと間違いなしだろう。
もしかしたら突っかかって来る冒険者が出てくるかもしれない。
そうなるのは避けたかった。
どう説得したものかと考えていると、アイルが小声で職員さんに耳打ちをした。
「……後ろの魔術師が魔術で異空間に保管しているんだ。信じられないかもしれないが、とりあえず作業場に入れてくれないか?」
これのお陰だったのかは定かではないが、職員さんはアイルの話を信じてくれたのか俺たちを作業場まで案内してくれた。
いざ作業場の扉を開けて入ってみると、そこには人が一人横たわれるくらいの大きさの作業台が十数台あり、いかにも解体に重宝しそうな何種類かの刃物があった。
恐らく作業員であろうスキンヘッドで強面のマッチョが三人いて、それぞれが何かの素材を解体していた。
下は作業着のようなものを穿いているが、上半身は裸にエプロンという中々奇抜な格好をしており、それが血で汚れている様子はどう見てもホラーだった。
「なんかあったか?」
「実は――」
ホラーな光景に固まってしまっていた俺たちだが、作業員の中でも一番背の高いマッチョが話しかけてくれたことで異空間に素材が入っているという事情を説明でき、作業台を貸してもらえるだけでなく解体までやってくれるということになった。
許可が下りればあとは素材を取り出すだけである。
俺は魔方陣を描き、大量のゴブリンが入った空間に繋げた。
そして、そこに入っていた耳、上位種や亜種の死体を作業台の上に並べた。
並べてみると、全部は作業台に乗らなかったので、こぼれた分は床に山積みになっている。
それと、ゴブリンロードの死体は収納空間の中に入れたままにしておいた。
「ほう、こりゃあ大量だな」
というのは二番目に背の高いマッチョの言葉である。
パッと見ただけで色々と分かるのか、マッチョ三人衆はぶつぶつとあれがどうだのこれがどうだのと三人で話すと、
「よし! 俺たちが明日の朝までに解体しておくから、それ以降にもう一回来てくれ。その時にギルドが買い取るかお前らが持って帰るか決めてお金の話をしよう」
と、今度は一番背の低いマッチョが素材をどうするかの説明をしてくれた。
大方予想通りの展開だが、こうなると俺たちができることはない。
自然と一旦帰ろうという流れになった。
だが、俺は作業場から出る前に、わざと出さずに残しておいた素材を取り出す。
「もう一つ、ゴブリンロードもいるんだが、これも解体できるか?」
これを出すと話が進まなくなりそうだったから残しておいたのだが、案の定、出した瞬間に飛びついた者がいた。
だが、それは意外なことに俺たちをここまで案内してくれた職員さんだった。
「ゴブリンロードって、あの、ゴブリンロードですか!?」
鼻息を荒くして前のめりになる姿は何ともギルド職員らしからぬ様相ではあったが、すぐに「失礼……」と大人しくなった。
それから一泊遅れて、今度は一番背の高いマッチョが「できるぞ」と短く言ったのが聞こえた。
すると、大人しくなったはずの職員さんがハッと何かに気付いたような顔になり、
「ギルドマスターを呼んでまいりますので、少々お待ちください!」
と作業場を飛び出して行った。
急な展開に付いて行けず、残された俺たちは騒がしい職員さんとは対極的に無言になってその帰りを待った。
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ぽんちゃま
ざわっ…
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