「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

閑話一 鏡

すみません、更新遅くなりました。



 俺がこの世界に来て、初めて鏡というものを見たのは、一歳になり歩けるようになった頃だった。
 それまでは歩くことができなかったせいで孤児院内でも行ける場所に厳しい制限があったのだが、歩けるようになった途端にその制限が一気に外れ、行けるようになった場所で鏡を見つけたのだ。

 さて、鏡を見つけたということはその中に映る自分も見たことになるのだが、その姿は予想と違っていた。
 異世界なんだから派手な髪色で超イケメンなんだろうと勝手に思っていたが、実際にそこに映った人物は、色素の薄い茶髪に茶色い瞳という地味な雰囲気で、顔のパーツは整っているもののまだ一歳ということで、格好良いというよりは可愛い容姿をしていた。

 少しがっかり感があったが、これからの成長でどうにでもできそうな気がする。
 そうなると気になってくるのがどんな人間がモテるのかということだ。

 俺は異世界に来たからには美少女たちとあんなことやこんなことをしてみたいと思っているが、それを達成するにはいささか内面に不安がある。
 元の世界にいた頃ロクに女子と話してこなかったせいで、美少女はおろか、子供とお婆さん以外の女性とまともに話すことができないのだ。
 さすがに家族との会話に支障が出ることはないだろうが、姉にしろ妹にしろ家族に手を出すことは出来ない。

 だから必然的に外部の誰かと、ということになるのだが、その時に役立つのが容姿だ。
 容姿が良ければそれだけで第一印象は好ましいものになり、そこからならきっと、俺でも美少女と仲良くなれるだろう。
 ひいては良い感じの仲にもなれるはずだ。

 その他にも容姿による印象は、行動を起こす際に影響することがある。
 例えば、少女が悪そうな男に囲まれていたとしよう。
 そこにイケメンが駆け付ければ、少女は何の疑いもなく助けてもらえると考えるだろう。
 だが、駆け付けたのが息切れしたぽっちゃりおじさんだったら、恐怖の対象が一人増えたと思われてもおかしくはない。
 これには多少の偏見があるかもしれない、というか女子と関わってこなかった俺に分かることではないので完全に偏った憶測でしかないのだが、少し極端というだけで間違った話ではないだろう。

 このような同じ言動でもする人によって大きく意味が変わってくるという現象が起こるにあたって、その結果を左右する要素の一つが容姿なのだ。
 いわゆる「ただしイケメンに限る」というやつだ。

 俺は元の世界で自分がどんな容姿をしていたのかが思い出せなくなっているが、この「ただしイケメンに限る」現象に少なくない不満を持っていたことは覚えている。
 このことから、残念ながら俺は格好良いとは言えない容姿の持ち主だったことが分かるが、そんなことはどうでも良い。

 話を戻すが、今肝心なのはこの世界における「イケメン」がどういった人のことを指すのか、自分がそれに当てはまるかどうか、そして「ただしイケメンに限る」現象をどう利用するか、ということだ。

 ありきたりなのはピンチを救うシチュエーションだろうか。
 そうすると街中で絡まれているところを助けるのがよくある話だと思うのだが、そんなことが都合よく起こるものなのかと疑問が湧いてくる。
 確実さを求めるなら、冒険の途中でたまたまパーティーを組んだ人の危機を俺が助けるというのも良いだろう。

 他には――。

 そう考えながら俺はニヤついていた上、無意識の内に鏡に集中してしまっていたようで突然聞こえた後ろからの声に驚かされてしまう。

「何やってんだ? スマル。鏡見てニヤつくのは良いが、あんまり人に見られないようにしろよ?」

 その声の主はヴォルム。
 鏡を見てニヤついていたわけではないのだが、恥ずかしいところを見られてしまった。

「は、初めて見たんだ。思ってた顔とかけ離れてて、凝視しちゃっただけ」

 俺はそう言って微妙な言い訳を残すと、逃げるように寝室に戻った。


 寝室に戻った俺は、ベッドの上で考え事の続きをした。
 だが、途中で邪魔が入ったせいであれ以上のことが思いつかない。


 俺は諦めて考えるのをやめた。
 そして、俺の鏡を気にする日々が始まった。


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 初めて鏡を見た日から約十四年間。
 俺は身だしなみを整えたり、日々の成長を見たりするためにしばしば鏡を見ることがあった。
 毎日見ていると時間が経っても変化が分かり辛かったが、たまに過去の顔を思い浮かべながら見ると、その変化がはっきりと表れて面白かった。
 今思い出しても昔の姿は懐かしいものだ。

 現在、俺は孤児院を出て行くための試験に合格し、旅をする時に着る旅装を鏡――姿見で確認している。

 そこに映ったのは、身長が大体百六十から七十センチくらいの青年。
 邪魔にならないくらいに伸ばした茶髪と茶色い瞳は今も健在で、一歳の時と全く変わらない。
 目付きは鋭くなったような気がするが、決して悪いわけではないといった感じでむしろ優しさを感じる。
 肝心の旅装はというと、まず白を基調として、赤や青、金などの刺繍が所々にされたローブが目に付き、その中を見ると動きやすいような設計がされた白いインナーとベージュのカーディガンのようなものが見える。
 更に視線を下に向けると、青っぽくて濃い色の動きやすいような大きさに余裕のあるズボンを履いていた。

 これだけ中が動きやすそうなのに、ローブのせいでその良さが失われている格好ではあるが、割と良いコーディネートができたのではないだろうか。

「なぁモミジ、ユキ。俺の格好どう思う?」

 二人はいつも和服しか着ないためこういう方面のセンスには期待していないが、それでも女子だ。
 似合っているかどうかだけでも聞いておきたい。

「うーん、良いんじゃない? 大丈夫よ」
「……問題、ない」

 少し不安が残る返答ではあったが、少なくとも酷い格好ではなかったようだ。
 それなら十分。
 前に聞いた時に分かったことだが、俺自体はそこそこ格好良い部類に入るらしく、みすぼらしい格好や極端に奇抜な格好をしていなければそれなりの男に見えるようなのだ。

 一体、どうやってこんな閉ざされた場所にしかいなかった二人が、俺がどの程度なのか判断したのかは分からないが、悪い気はしないので気にしないでおく。

 なんだか嬉しくなってきたので、誰も見ていないタイミングで少しポージングを取ってみる。

「スマル、何やってるの……」
「……格好、良い……ぷふ」


 恥ずかしさで耳が熱くなるのを感じながら、確認を怠ったことを後悔した。



今回から閑話ということで、スマルの容姿に関する話でした。

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