「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第一章 第十三話 ルール説明
二週連続で遅くなってしまいました。
本当にすみません。
話し合いが解散となり各々が寝る支度を整えていく中、俺は一人、ヴォルムと話をするべく彼の部屋を訪れていた。
「おい、さっきのはどういうことだよ!」
無論、その話とは、着物少女たちをここに住まわせる際の俺の役割についてだ。
今まで俺は最年少者、新入りとしてそれなりにサポートしてもらいながらゆるゆると過ごしてきたが、モミジやユキが入ってくるとなればそういう扱いはされなくなるだろう。
それどころか、世話役なんてものになってしまったら最後、モミジやユキが今までの俺のような扱いを受けるのを傍で見る、あるいは俺がそういう扱いをする、といったことになるだろう。
「さっきの? なんのことだ?」
単刀直入に話を切り出したつもりだったものの、ヴォルムは何を言っているのか分からないといった様子で質問を返してきた。
「俺が教育係とか、世話役とかをやるって話だよ! 勝手に話進めやがって、ハッキリ言っておくが、俺はそんなことしないからな!」
分からないなら言えばいい。
俺は今度は明確に、伝えたいことだけを選んでヴォルムを睨んだ。
「まだここに住むと決まったわけでもないのに、何をそんなに怒ってるんだよ」
「決まってないとか言ってるけど実質決まってるようなもんだろ!」
自分がこうなるように仕組んでおいたくせに、当のヴォルムは相変わらず白々しい。
「まぁ確かにそれは俺も認めるけどさ、まだお前がその世話係になったわけじゃねぇだろ? なんで今からそんなにピリピリしてんだよ」
言われてみると、確かにそうだ。
まだ決まったわけではない。
それは紛れもない事実だ。
事実なのだが……、俺が今まで見てきた限りでは、ヴォルムの言っていたことが実現しなかったところを見たことがないのもまた事実なのだ。
「お前がみんなのいる前であんなこと言うからだろ! あの娘たちがここに住むのは確定事項。じゃあ誰が双子の面倒を見る、って話になったら雰囲気で俺にされちまうだろ!」
さすがにジンクスを言ってどうにかなるとは思っていなかったので、今考えたそれっぽいことを言っておく。
我ながら即座に考えたにしてはそれなりに筋の通った理由が言えたのではないだろうか。
しかし、対するヴォルムはその答えを見越していたとでも言わんばかりのドヤ顔と嘲笑を混ぜた表情で、
「イチョウがいんだろ。忘れてやるなよ、可哀そうに」
俺の間違いを指摘した。
俺はすぐに何かを言い返そうとしたが、よく考えてみると――否、よく考えるまでもなくヴォルムの言っていることが正論で、むしろ間違っているのは自分だということに思い至った。
終始ヴォルムがニヤニヤしていたせいでどこかに罠があるのではないかと身構えてしまうが、言葉に詰まってしまった手前、これ以上の反論はできない。
「今日はもう遅い、寝ろ」
ヴォルムも俺がこれ以上は何も言えないと判断したのか、しっしっと手を払って俺に退室を命じた。
どうも気にかかるが、今日はひとまず諦めるとしよう。
「……おやすみ」
「はい、おやすみ」
寝室に戻り、ベッドに潜る。
前世ではこんな気分の時はすぐに眠れなかったものだが、今の身体は完全に子供。
睡魔はすぐにやって来て、俺の気分も機嫌も何もかもを無視して意識を刈り取っていった。
===============
翌日、昼前。
庭――この孤児院には陸上の四百メートルトラックが二つ入るくらいの大きな庭がある――の中央にイチョウとフィオとヴォルムが集まり、その他の子供たちはこれから始まろうとしていることを見届けようと窓に張り付いていた。
今日は昨夜言っていた通り、イチョウとフィオが着物少女たちの自由を賭けて一戦やり合うことになっている。
自由を賭ける、と言うとひどく大きなものをかけているように聞こえるが、その自由とは「孤児院に住む」か「故郷に帰る」かの二つであり、俺からするとそこまで重大なことではないように思える。
しかし、当の二人はそうは思っていないようで、向かい合うその表情からは絶対に勝ってやるという意気が感じられた。
特にイチョウはどんな手を使ってでも勝ちに来るような、勝つためなら殺しも厭わないような、そんな物々しい気配を纏っていた。
「それじゃ、ルールを説明するぞー」
そんな空気を感じ取ってか、ヴォルムが二人の間に割って入ってルールの説明を始めた。
一旦殺伐とした――主にイチョウだけだが――雰囲気が和らぎ、見ている側としても、重いプレッシャーから解放されたように感じた。
「ルールは簡単。最低限これから言う三つのことに従ってくれればそれで十分だ」
ヴォルムがビシッと指を三本立て、すぐに一本にした。
「一つ目、どちらかの戦闘続行が不可能だと俺が判断した場合、残った者の勝利とする」
指が二本になる。
「二つ目、どちらかが負けを認めたと俺が判断した場合、その者の敗北とする」
そして、一本になる。
「この敷地から出る、あるいは建物に被害を出した場合、その者の敗北とする。何か質問はあるか?」
「はい」
ヴォルムが説明を終ると、意外なことにフィオがそれに対する質問をした。
「そのルールに反しなければ何をしても良いのですか?」
するとヴォルムはその問いに待っていましたと言わんばかりの凶悪な顔で答える。
このタイミングの良さ、打ち合わせしていたな。
「ああ、何をやっても良い。俺が止めに入らねぇ限りは基本的に勝敗はついていねぇものだと思え。このルールだと反則ってもんもねぇからな」
そう言い終えると、ヴォルムは俺たちのいる建物の方へ歩いてきた。
そしてふと振り返ると、
「あ、そうそう、言い忘れてたけど、お前らの戦いの余波が外に漏れねぇように一応結界は張ってある。俺がこの後お前らをどう教育するかにも関わることだからな、思いっきり戦ってくれ」
さもイチョウが負けることになるような口ぶりで煽った。
これにはイチョウも頭に来たようで、
「ヴォルムさん、私は貴方に教えてもらおうなんて思ってませんからね」
怒気をいっそう強めながらそう言った。
「さて、どうなることやら。結果は分からないもんだからね」
それをへらへらと笑ってヴォルムがかわす。
そして、
「それじゃ、そろそろ始めるとするか」
たまに見る真剣な表情で言う。
「両者向かい合って……始め!」
フィオ対イチョウ。
俺がこの世界に来てから初めて見る人対人の戦闘が始まった。
本当にすみません。
話し合いが解散となり各々が寝る支度を整えていく中、俺は一人、ヴォルムと話をするべく彼の部屋を訪れていた。
「おい、さっきのはどういうことだよ!」
無論、その話とは、着物少女たちをここに住まわせる際の俺の役割についてだ。
今まで俺は最年少者、新入りとしてそれなりにサポートしてもらいながらゆるゆると過ごしてきたが、モミジやユキが入ってくるとなればそういう扱いはされなくなるだろう。
それどころか、世話役なんてものになってしまったら最後、モミジやユキが今までの俺のような扱いを受けるのを傍で見る、あるいは俺がそういう扱いをする、といったことになるだろう。
「さっきの? なんのことだ?」
単刀直入に話を切り出したつもりだったものの、ヴォルムは何を言っているのか分からないといった様子で質問を返してきた。
「俺が教育係とか、世話役とかをやるって話だよ! 勝手に話進めやがって、ハッキリ言っておくが、俺はそんなことしないからな!」
分からないなら言えばいい。
俺は今度は明確に、伝えたいことだけを選んでヴォルムを睨んだ。
「まだここに住むと決まったわけでもないのに、何をそんなに怒ってるんだよ」
「決まってないとか言ってるけど実質決まってるようなもんだろ!」
自分がこうなるように仕組んでおいたくせに、当のヴォルムは相変わらず白々しい。
「まぁ確かにそれは俺も認めるけどさ、まだお前がその世話係になったわけじゃねぇだろ? なんで今からそんなにピリピリしてんだよ」
言われてみると、確かにそうだ。
まだ決まったわけではない。
それは紛れもない事実だ。
事実なのだが……、俺が今まで見てきた限りでは、ヴォルムの言っていたことが実現しなかったところを見たことがないのもまた事実なのだ。
「お前がみんなのいる前であんなこと言うからだろ! あの娘たちがここに住むのは確定事項。じゃあ誰が双子の面倒を見る、って話になったら雰囲気で俺にされちまうだろ!」
さすがにジンクスを言ってどうにかなるとは思っていなかったので、今考えたそれっぽいことを言っておく。
我ながら即座に考えたにしてはそれなりに筋の通った理由が言えたのではないだろうか。
しかし、対するヴォルムはその答えを見越していたとでも言わんばかりのドヤ顔と嘲笑を混ぜた表情で、
「イチョウがいんだろ。忘れてやるなよ、可哀そうに」
俺の間違いを指摘した。
俺はすぐに何かを言い返そうとしたが、よく考えてみると――否、よく考えるまでもなくヴォルムの言っていることが正論で、むしろ間違っているのは自分だということに思い至った。
終始ヴォルムがニヤニヤしていたせいでどこかに罠があるのではないかと身構えてしまうが、言葉に詰まってしまった手前、これ以上の反論はできない。
「今日はもう遅い、寝ろ」
ヴォルムも俺がこれ以上は何も言えないと判断したのか、しっしっと手を払って俺に退室を命じた。
どうも気にかかるが、今日はひとまず諦めるとしよう。
「……おやすみ」
「はい、おやすみ」
寝室に戻り、ベッドに潜る。
前世ではこんな気分の時はすぐに眠れなかったものだが、今の身体は完全に子供。
睡魔はすぐにやって来て、俺の気分も機嫌も何もかもを無視して意識を刈り取っていった。
===============
翌日、昼前。
庭――この孤児院には陸上の四百メートルトラックが二つ入るくらいの大きな庭がある――の中央にイチョウとフィオとヴォルムが集まり、その他の子供たちはこれから始まろうとしていることを見届けようと窓に張り付いていた。
今日は昨夜言っていた通り、イチョウとフィオが着物少女たちの自由を賭けて一戦やり合うことになっている。
自由を賭ける、と言うとひどく大きなものをかけているように聞こえるが、その自由とは「孤児院に住む」か「故郷に帰る」かの二つであり、俺からするとそこまで重大なことではないように思える。
しかし、当の二人はそうは思っていないようで、向かい合うその表情からは絶対に勝ってやるという意気が感じられた。
特にイチョウはどんな手を使ってでも勝ちに来るような、勝つためなら殺しも厭わないような、そんな物々しい気配を纏っていた。
「それじゃ、ルールを説明するぞー」
そんな空気を感じ取ってか、ヴォルムが二人の間に割って入ってルールの説明を始めた。
一旦殺伐とした――主にイチョウだけだが――雰囲気が和らぎ、見ている側としても、重いプレッシャーから解放されたように感じた。
「ルールは簡単。最低限これから言う三つのことに従ってくれればそれで十分だ」
ヴォルムがビシッと指を三本立て、すぐに一本にした。
「一つ目、どちらかの戦闘続行が不可能だと俺が判断した場合、残った者の勝利とする」
指が二本になる。
「二つ目、どちらかが負けを認めたと俺が判断した場合、その者の敗北とする」
そして、一本になる。
「この敷地から出る、あるいは建物に被害を出した場合、その者の敗北とする。何か質問はあるか?」
「はい」
ヴォルムが説明を終ると、意外なことにフィオがそれに対する質問をした。
「そのルールに反しなければ何をしても良いのですか?」
するとヴォルムはその問いに待っていましたと言わんばかりの凶悪な顔で答える。
このタイミングの良さ、打ち合わせしていたな。
「ああ、何をやっても良い。俺が止めに入らねぇ限りは基本的に勝敗はついていねぇものだと思え。このルールだと反則ってもんもねぇからな」
そう言い終えると、ヴォルムは俺たちのいる建物の方へ歩いてきた。
そしてふと振り返ると、
「あ、そうそう、言い忘れてたけど、お前らの戦いの余波が外に漏れねぇように一応結界は張ってある。俺がこの後お前らをどう教育するかにも関わることだからな、思いっきり戦ってくれ」
さもイチョウが負けることになるような口ぶりで煽った。
これにはイチョウも頭に来たようで、
「ヴォルムさん、私は貴方に教えてもらおうなんて思ってませんからね」
怒気をいっそう強めながらそう言った。
「さて、どうなることやら。結果は分からないもんだからね」
それをへらへらと笑ってヴォルムがかわす。
そして、
「それじゃ、そろそろ始めるとするか」
たまに見る真剣な表情で言う。
「両者向かい合って……始め!」
フィオ対イチョウ。
俺がこの世界に来てから初めて見る人対人の戦闘が始まった。
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