幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~序語.1~

―――――夏休み。

それは、学生であれば誰でも楽しみにしている、夏の長期休暇である。
 普段から学問に勤しんでいる学生たちは、これを機に存分に羽根を伸ばすことであろう。家に籠ってゴロゴロする人、家族と旅行に行くひと人、海山で遊んで楽しむ人などたくさんいる。例外に、親が鬼でずっと勉強、塾に行かされるという可哀想な人達も多々。
そんな中、俺は―――――

「はっ、はっ、はっ………」
 都内の馬鹿広い公園でランニングをしていた。一周約3キロはあるランニングコースを只今5周目である。最初に走り始めた場所に辿り着いて、腕立て伏せ50回・腹筋50回したら、今日のトレーニングが終わる。
 残り500mまで走ると、開始地点が見えてきた。あと少し、とラストスパートを掛けようとした、が。

ガシッ
「なっ………」

いきなり足に固い何かが引っ掛かり、前のめりに倒れそうになる。
だが慌てない。
 「はっ………と(くるん)」
 身体より先に手を地面につけ、腰を浮かして、体操の頭跳ね起きの要領で空中を一回転。
 危なげもなく着地することに成功した。

 「チッ」
 「………おい、舌打ち聞こえてるぞ」

 振り返るとそこには、
 「………舌打ちなんて、していない」
 低身長茶髪の眼鏡少女がいた。フード付きの黒パーカーに、灰色のジーンズを身に付けている。そして、手には赤い液体が付いた鉄パイプ。
 「おい、なんだその物騒なものは」
 「………今日こそ決着をつけさせてもらう」
そして何故かパイプを構える茶髪少女。
 「あー無駄無駄。いっつも俺の勝利に終わってるし。だから諦mブウォンッっぶねー!何すんだ!」
 「………話を最後まで聞く義理はない」
 「それはごもっともだが!」
 何度も降り下ろされる鉄パイプ(with 血痕)。俺はそれを少ない動作でかわしていく。
 「………避けないで(ブンブン)」
 「避けるだろ普通!………ここでドンパチするつもりはないんだ!そんじゃ、アデュー!(ピューッ)」
 俺はランニングによって疲労した足を無理矢理動かして、全速力で逃げ出し、もとい戦略的撤退を行った。
 「あ、逃げられた………」

 「あー疲れた。あいつ………恐ろしいことしやがって………」
 自宅に戻り、ソファーに寝転がる俺。
 俺――九我龍影都くがりゅうえいと――は、由緒正しき武家、九我龍家の次男、16歳である。背中まで伸びてしまった黒髪をポニーテールで結い上げて、無造作に伸びた前髪をヘアピンで止めている。身長は同年代と比べるとやや高く、身体は平均的数値程度である。そのせいか、実家の親父には、
 「武門の身でありながら、そのようなもやしであることは許されん!鍛えなおせ!」
と言われるのである。だから、先程トレーニングしていたのだが。
 俺は今、実家から離れて親が用意した木造建築物(二階)に住んでいる。ただし、仕送りが少ないので家の一階に店を建てた。それが『影之屋』である。簡単にいえば何でも屋。自宅兼事務所みたいなもので、多い時は1日に3、4件、少ない時は全く依頼がないのだが。
なにも影都一人で営んでいるわけではない。もう一人いる。

――――ガラッ
「………疲れた。コーラが欲しい」

 店に入ってくる否や向かい側のソファーに腰をかけてそう言ってくる丸眼鏡をかけた少女。彼女こそがもう一人『影之屋』の一員、侑廻舞狸うかいまいりだ。
 「げ、もう来たか。さっきのは何だったんだ?」
そう、先程襲ってきた少女は、舞狸だったのだ。
 「………腕が鈍らないように、相手になって欲しかった」
そう真顔で言い切る舞狸は、俺と同じ16歳だ。茶髪のショートボブの髪型で、何を考えているかわからない澄んだ薄藍色の瞳をしている。背は俺の胸の高さぐらいと低く、手足も細い。一見すればそれは大人しめの文学少女のようだ。
しかし、騙されてはいけない。舞狸は嫉妬深く、気が強い。そして「棒術」が得意で、隠密行動が日課だという謎の多いのだ。
そういえば、彼女にはもうひとつ大きな秘密がある。

 「………影都、戻ってもいい?」
 「………別に構わないが」

 途端、舞狸の身体から煙が突発的に噴き出された。まるで発煙筒をたくさん巻き散らかしたようだ。
………窓を開けてからにしてくれよなあ。
このような事態にも関わらず、平然とそんなことを考えながら、近くの窓を全開にする。
 煙が外に逃げていき、部屋が晴れる。
そこにいたのは、

 「………やっぱり、これが落ち着く」

 頭に茶色の丸い狸耳、背中側の腰にふわふわした尻尾を着けた、舞狸だった。

―――侑廻舞狸は、人に化けた狸。化け狸だ。

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