幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~序語.2~

―――舞狸が何故人に化けているのかは、追々話すとして。

 今日はこの店に依頼があったはず。と、俺は机に置かれた書類に目を通す。
 「今日の依頼はなんだっけ?」
ソファーに座って雑誌を読み漁っている舞狸に、俺は尋ねた。
 舞狸は雑誌のページを捲りながら、応える。
 「………郊外で起きている、人が突如行方不明になる事件の調査依頼」
 「ああ、これか」
 俺は一枚の依頼用紙を手に取り確認する。
 「今時神隠しだなんてな………世も末だな。さっさと終わらせよう」
 「………今から行くの?」
 「ったりめーだ。ほら、準備して出発だ」
 俺は彼女の手から雑誌を奪い、「えー、まだ読んでるのに………」と文句を言っている舞狸に外着に着替えるよう促す。
 「………また化けるの、面倒」
 「つべこべ言うな。さっさと着替えろ」
 「………わかった(脱ぎ脱ぎ)」
 「ちょ、ここで着替えるのかよ!(ダッ)」
 慌ててその部屋から飛び出す俺。あいつの奔放さをどうにかしなければ………
―――今日は白だったか。


 『影之屋』を出てから約1時間後、俺と舞狸は行方不明が多発するという都会外れの森の中の湖畔に着いた。周りに人はいない。
 「………っと、近くに建物もないし、道もあってないようなもの。誘拐ではなさそうか」
 「………森に入ったまま帰ってこないって、近所の住民が」
 「だとすると………足を滑らせて池に落ちた、とかか?」
 「………その可能性は、否定できない」
ここまで話すと、二人とも黙り込んだ。
 俺が人がいたという痕跡がないかと探していると、

 「………影都、ちょっと行ってくる」
という舞狸の声と、どぼんっ。と水に何かが落ちたような音がした。
 驚いて振り向くと、舞狸が立っていた場所には一枚の上着と、投げ出されたニーソ&靴。そして、湖畔には波紋が広がっていた。
 「え、な何してるんだ舞狸!」
 悲鳴にも近い音量で、波紋の中心に叫び込むと、
 「………ぷ、はっ。着衣潜水は中々キツい」
 舞狸は、何事もなかったかのように浮上してきた。眼鏡はかけたままだった。
 「………何ヤッテルンデスカ、舞狸サン?」
 思わず片言で敬語になってしまった。
しかし、こちらの心配には何の反応もせずに、淡々と告げる。
 「………見た感じ、底に死体とかはなかった」
 「縁起でもないことを言うんじゃない」
だが、事故ではないと一つ安心出来た。それは良かったのだが、そこで一つ疑問ができた。
 「じゃあ行方不明の正体は一体………?」
 他の可能性を考えなければならない。その為にも、まず舞狸を湖畔から出す必要があった。
 「おい、上がってこい。舞狸」
 「………うん。………あれ?」
うーん、足を滑らしたような跡もないし、真相は一体………?
 「………んっ、んっ」
とりあえず、被害者の関係者に話を聞いてみようかな?これは中々面倒な依頼だな………
「………影都」
 「ん、なんだ?早く上がって………」
 「………上がれない」
 「は?」
 「………足に、なにか引っ掛かってる。んっ」
いくら力をいれて上がろうとしても、腰から上が上がらないそうだ。
 「………引っ張って」
 「お、おう。わかった」
 俺は助けを求めるように舞狸が伸ばした手を握る。
 自分より小さく、白くサラサラした腕。少し力を入れたら折れてしまいそうなほど細い腕だ。
 不覚にも、一瞬ドキドキしてしまった。
そんなことよりも早く引き上げなければ、と力を入れた瞬間、
キイィィィィィンッ
 いきなり鋭い耳鳴りのようなものが鼓膜に響く。
 「「な………っ」」
その次の瞬間には、
 「え………影都っ」
 「お、い!どうなっ」
―――ザブンッ
俺と舞狸は、水の中に引き込まれた。
 息も出来ない水中で頼りになるのは、今この手で握りしめている舞狸の手。
 離れてはまずい。と舞狸の腕を引いて、華奢な体を抱きしめる。
 浮き上がるための力も入らない………
だんだん意識が薄れる中で、
―――俺は見た。

 (………………あれ、は?)
 湖畔の底で、円状に光る《魔法陣》のようなものを。

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