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幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~第一話.変わる自分-4~

あのクソ親父に山に放り込まれてから約一週間、今のところ何も得るものがなかった。強いて言えば、狩りをすることが出来るようになったことだ。
しかし、この時の俺はまだ8歳である。親父に言われた『足りない何か』を見つけることは困難を極めた。
 狩りのことではないのはわかるのだが。

 「………さて、今日はどうしようか………少し移動するか」
 俺は初日の川辺からあまり遠くへは行っていなかったので、親父の言う『足りない何か』を探すために動いた。

ひたすら山頂を目指して山を登り続けて数時間。ようやく周りを見渡せるほどの高さに辿り着いた。
 「………ってどこ見ても木木木………ホントに何処だよココ」
 疲れ果てて山頂の大木の幹に腰をかける。
 正直山を降りることは諦めていたので、残り三週間ほどサバイバル生活をして、迎えに来た親父を殴ってやる。
そう俺の魂に誓った。
とその時、
―――キュイキュイ
 そんな鳴き声と共に、茶色の毛をした生き物が、まるで何かから逃げ出すように草むらから飛び出てきて、
ドテッ
 あ、転んだ。
 「………狸かな?」
この山には色んな動物がいるのだな、と近くにやってきた狸に手を伸ばす。
 「………あれ?」
この狸、後ろ足が怪我してるような………

ガアァァァァアッ!

 狸を介抱しようかと考えた次の瞬間、約50mほど先の木々が、メキメキと音を立てて倒れていくのが見えた。
 「なっ、なんだ?!」
 驚き立ち上がり、木々が倒れた場所を見ると、
 「あ………熊?!」
それもかなり大きい。周りの木々と殆ど変わらない大きさだ。例えるなら〝山の主〟と言ったところか。その姿を見て、驚きで固まっていると、

 「………あ、しまった」

 遠目で見ているつもりだったが、目が合ったような気がした。その瞬間、
ドドドドドドドドド………メキメキ
案の定、熊がこちらに向かって突進してきた。
 「や、逃げ………」
ようとしたが、近くの怪我をしている狸を一瞥し、
 「………………」
 立ち止まった。
こんなところで小さな命を捨てる覚悟が出来るほどの精神は持ち合わせていないのだ。
 熊はものの数秒で近くまで突進してきた。止まる気配はない。それでも俺はそこから動かない。
あと数mとなったとき、

 「うおおぉぉぉらあぁっ!!」

ありったけの力で木刀を横降りして、熊の顔面にヒットさせた。ミシッという嫌な音がしたような気がした。
 吹っ飛びはしなかったが、突進の方向をずらすことが出来た。8歳の力では、それが限界であった。
 勢い余った熊は、反対側まで走り、坂を転げ落ちていった。

 「はぁ………はぁ………腕、折れるかと思った………」
 何とか熊の撃退に成功した俺は、その場で崩れ落ちたように倒れた。登山と熊殴りで残りの体力を殆ど消費した感じだ。
―――キュイキュイ
 とそこへ後ろ足を怪我した狸が、足を引きずりながら近付いてきて、鼻頭を押し付けてきた。
 「………ん、礼をするには、まだ早いんじゃないかな?」
 俺は狸を抱えて起き上がり、またも数時間かけて、山を降りて元の川辺へ移動した。

 「………よし、これでいいか(パンッ)」
 嫌がらずに抱えられた狸を川まで連れてきた俺は、狸の怪我を水で洗い流し、服を千切って傷口に巻き付け、応急措置を施した。
その時、太陽が真上に登り昼を知らせた。
 「………はい、これやるよ」
 昼飯にとっておいたこんがり肉を狸の前に置いた。狸は雑食なので問題ないはずだ。
クンクン………ガツガツ
肉の匂いを嗅いだ狸は、すぐに食らいついた。
それを見た俺も肉に歯を立てた。
………最近肉ばっかりで野菜食べてないなぁ………

昼飯を食べ終えると、狸は半分ほど残していた。それをくわえて、そわそわと山奥を気にし始める。
 「ん?………ああ、仲間がいるのか?………行ってやれよ」
 俺がそう言うと、狸は肉をくわえて、
―――ペコリ
礼をするかのように頭を下げて、木々の中へと去っていった。
 「………ヘンな狸だなぁ………うっ(ドサッ)」
と、狸の後ろ姿が見えなくなると、急に意識がなくなった。


どれくらい眠っていたのだろうか。目が覚めると空はすっかり暗くなっていた。だが、俺の周りは明るい………焚き火がついているからか。
………いや、焚き火をつけた覚えはない!
その事実に気づいた俺は慌てて体を起こす。

 「………気が付いた?」

 聞き覚えのない声に、さらに驚き、振り返る。
 「………え?」
 目の前には、薄い布一枚を身に付けた小柄な茶髪の少女がいた。

―――狸の〝耳〟と、狸の〝尻尾〟がついている少女が、いた。


 「き、君は、誰………?」
 「………名前はない。………あなたがつけてくれる?私の、名前」

―――それは、月明かりが綺麗な夜の出来事だった。

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