幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~第一話.変わる自分-5~

ピーチクパーチクチチチ………

俺は小鳥のさえずりで目が覚めた。目蓋の上からでもわかるほど明るいので、きっと朝なのだろう。
しかし、昨日の夜に何か見たような………夢だったのだろうか?
そう思いながら、寝返りを打って大きく伸びをする。

―――フニッ、フニッ

 あれ、何か手先が柔らかいものに触れている………?それに、温かい………
ようやく目がはっきり見えてきた。と思ったら、
 「………おはよう」
 鼻頭がくっつきそうなほど近くに、昨夜の茶髪少女がいた。俺の手は彼女の頬に当てられていた。
 「あ、え?おはよ………って、えええぇぇぇぇぇえ?!?!」
ゴロゴロゴロゴロ………ボチャンッ
驚きのあまり、後退しようと転がり、川に落ちてしまった。お、溺れるっ!
 「………ぷはっ」
 川から上がり、俺が寝ていた場所を見ると、やはりそこには茶髪少女が。
 何故目の前に昨日の夜見たあの茶髪少女が?!じゃあアレは夢じゃなかったのか?!
 「………驚かないで」
そう言いながら近づいてくる茶髪少女は、何とも言い難い迫力に包まれていた。何故か?
 「………い、いや。驚かないほうがおかしくないか?」
 「………そんなことは、ないと思うけど」
 首を傾げられてしまった。
 (………可愛いな)
それが彼女に対する最初の第一印象だ。
 「あ、俺は九我龍影都。よろしく」
 我が家の家訓、初対面の人には自己紹介&挨拶。
 「………うん、よろしく」
と、握手を交わしたところで。
しかし謎である。俺はこんな山奥に放り込まれたが、彼女は一体どこから?
 「………覚えてない?」
そう言うが否や、茶髪少女はボンッと煙に包まれた。
 「え………?」
 風が吹き、煙が晴れるとそこには、昨夜見た〝狸耳〟と〝狸尻尾〟を付けた茶髪少女がたたずんでいた。
だが、不思議と違和感がなかった。
 「………これが、私の正体。あなたが助けた狸は、この私」
そう言って左足を上げる茶髪少女。その足首には俺が巻いたと思われる服の切れ端が巻いてあった。
 「じゃあ、つまり………君は化け狸?」
 「………そういうことになる」
 茶髪少女は理解してくれたことが嬉しいようで、ふさふさな尻尾をゆっくりと左右に動かした。
その尻尾を見ていると………無性にさわさわしたくなる。
 「ね、ねえ。………君の尻尾、触らせてくれないかな?」
 俺の頼みに、彼女は少し驚いた様子だったが、やがて
「………かまわない」
 承諾を得ることが出来た。
 彼女は背中を向け、尻尾を俺の目の前で振った。それを見て、思わず(尻尾に)抱きついた。
 「ひゃうんっ?!」
ああ、温かい………久し振りに感じる人肌(?)の温かさに猛烈に感動した。これほど人が近くにいることを、嬉しく思ったことはない………!
 「………あ、あの………もう少し、優しく………ぅんっ(ビクッ)」
サバイバル生活一週間と川ポチャによる冷えた心と身体が温かく包まれる感覚が、そこ(尻尾)にはあったのだ。
 「………え、えいと………っ(モジモジ)」
 「え、どうしたの?(さわさわ)」
 「………ストップ」
 「あ、はい」
ストップがかかったので、お触りタイム終了である。

は、本題を忘れてた。
 「で、なんで人に化けてまで俺に会いにきたの?」
その質問に、彼女は尻尾を正しながら答える。
 「………怪我を治してくれた。その恩返しに、あなたを助ける」
 「えっと………要はサバイバルの手助けをしてくれるってこと?」
 「………そういうこと」
これは頼もしい〝仲間〟が出来た。とても喜ばしいことである。
その日から、俺はその茶髪少女とサバイバル生活をすることになった。自分の身を守るために、彼女に武術を教えもした。
 一人でいた時よりも何十倍も楽しかった。

だが、三週間後―――

「バカ野郎!私は女子供を連れて生活しろと言ったか?!そんな腑抜けに育てた覚えはないぞ、影都!」

ヘリコプターを操縦してやってきた親父に見つかった。まず殴ってやろうとしたが、逆に地面に押さえつけられてしまった。茶髪少女は親父の前で正座されている。耳と尻尾は隠していた。
 「もう明日から学校だ。帰るぞ!」
 「は?あの子はどうする?!」
 「置いていく!元々この山にいたんだろう?ならば問題ないはずだ」
 「この人でなし!」
そう言い合う間にもヘリに乗せられ、離陸してしまう。
 「あ、えいと………っ!」
 彼女は連れていかれる俺に手を伸ばした。俺はその手を掴もうとしたが、届かない。

 「ま、舞狸!」
 「………えっ?」
 「君の名前は〝侑廻舞狸うかいまいり〟だ!」
 「………え、影都!」

ヘリは無情にも俺を乗せて、爆音を立てて山から―――〝舞狸〟のいる山から去っていった。

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