真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

challenge5

ー2125年 4月25日 PM18:00 『対魔物特殊機動部隊』本部、ミストルティンー

『対魔物特殊機動部隊』の本部の建物、通称ミストルティン。
平和の象徴たるその建物は、鉄と石材、コンクリートで形成され、まるで要塞のような雰囲気を醸し出していた。
そして、その建物の内部では一人の大男が壇上で声を張り上げ、眼下にいる年齢職業バラバラな100人余りの受験者を見下ろしていた。
「『対魔物特殊機動部隊』、訓練生候補の諸君!急に呼びかけに応じ、よく馳せ参じた!」
天井から照る光に当てられた禿頭を光らせ、唾を飛ばしながら大声を上げる30代ほどの大男。
この男は『対魔物特殊機動部隊』所属、近郷コンゴウ 吟治ギンジ少尉。
今回の試験の立案者であり、この場にいるすべての試験監督の上に立つ、事実上の責任者だ。
「普段の試験であれば、ここで簡単な概要の説明をしているところだが、今回は訳が違う」
そう言って近郷はその場で一歩引くと、自身の後ろにいた人物が訓練生候補たちに見えるように半身をずらす。
「さて、賢明な諸君には既に分かっていると思うが話しの続きはこの方から窺ってくれ」
近郷 吟治の後ろには髭面の熊のような大男が立っていた。
「どうも、初めまして!私は『救世主の剣《Savior Seber》』所属、『対魔物特殊機動部隊』訓練生特別顧問の真白 健だ。今日はよろしく頼む」
その人物はその場にいる二人の少年達にとってよく知る人物だった。
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ー2125年 4月25日 PM18:15 『対魔物特殊機動部隊』本部、ミストルティン 訓練生候補控室ー

「なぁ……」
「…なによ」
「お前アレ知ってた?」
「……知ってたら来ると思う?」
「だよな……」
「ホント、何やってんのよあのクソ親父……!」
そう言って歩夢は一つ大きく息を吐くと、まるで現実から目を背けるように手の平で目元を覆う。
彼らが今いるのは先程までいたホールのすぐ隣に設けられた控室だ。
広さで言えばだいたい体育館ほど。
その空間には所狭しとベンチと机が並べられ、机の上には参加者全員が寛げるようにという配慮かお菓子の入った籠があった。
「まったく。楓も柊もどっか行っちゃうし」
「あの二人はしゃーねーよ。公務中だからな。後で顔を合わせる機会くらいはあるだろ。それよりも、だ」
「……なによ?」
「なんで親父さん。ここに来たんだと思う?」
「知らないわよ……」
机の上にあがっている籠の中から煎餅を手に取り、言葉とともに蓮に投げつける。
蓮はそれを割らないように注意してキャッチすると袋を開けて口に運ぶ。
「醤油煎餅か。お、柿ピー見っけ」
ボリボリと煎餅を齧りながらベンチに腰掛けた蓮は籠の中身をあさり、中のお菓子を物色し始めた。
「アンタもアンタで相当自由よね……で、アンタは何か気づいたの?」
そんな蓮の様子に呆れつつ歩夢は蓮の向かいのベンチに腰掛けると、先ほど投げつけたものと同じ煎餅を取り出し、袋の上から拳を叩きつけた。
「他所でそんなことする奴に自由人とは言われたくないな」
「お前もこの煎餅と同じにしてやろうか?」
ヤの字の人たちのごとくメンチを切る歩夢。
もちろん蓮はそんな歩夢からサッと視線を逸らす。
逸らした先に歩夢が回り込む。
が、また蓮が視線を逸らす。
またまた回り込む。
またまた視線を逸らす。
繰り返すこと十回。
十一回目が始まろうというその時、歩夢と蓮は妙に自分たちに視線が集まっていることに気が付き顔を見合わせた。
その視線は生暖かいものを見るものだった。
そう、まるで出来立てホヤホヤのカップルの逢引きを目撃した時のような...
「「ッ!?」」
そして、その視線の意味に気が付いた次の瞬間、二人の顔は湯気が出そうなほど赤く染まり、同時にお互いから視線を逸らした。
(や、やっちまったー!)
(や、やっちゃったー!)
お互いの心の声までシンクロしている。
しかし、二人は気付いていない。
二人が同時に赤面し、同時に顔を逸らしたことで周りの視線がさらに生暖かくなっていたことを...
「ねぇ楓、絵の前でバカップルが公衆の面前でイチャイチャしてるよ」
「ねぇ柊、しかもこのバカップルお互いがお互いに赤面してるよ」
そして彼らは気付かない、開け放たれた控室の扉の陰で双子の友人が事の一部始終を目撃していたことに...

to be continued...

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