真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

challenge3

ー2125年 4月25日 AM8:23 私立清流天草高等学校 2-C教室ー

「……はよ」
「はよーっす」
ガラガラ、という音を立てて教室の扉が開く。
そこから入ってきたのは猫のような癖っ毛気味の短髪が特徴的なボーイッシュな少女と眼鏡をかけた猛禽類のような鋭い目つきが特徴的な長身の少年だ。
扉が開いた一瞬、クラスメイト達が彼らの方を向くが、一秒としないうちにその視線は離れて行く。
すると教室に入ってきた彼らに知り合いらしき二人の生徒が近づいて行く。
「あ、来た来た!今日も時間厳守で関心関心!」
「しかも二人そろって、ね」
その二人は瓜二つの少年と少女だった。
気の弱そうな印象を与える垂れ目の少年に対して、少女の方は気の強そうな印象を与えるツリ目と、全く雰囲気の違う二人組。
よく見れば目元以外のほぼ全ての顔のパーツ、髪の毛の長さに髪型、体格及び身長までもが寸分違わず一致していることからこの二人が双子であるのは想像に難しくない。
「歩夢ぅ、おっはよー!どうした―元気ないぞー?」
「……逆に聞くけど、どうしてあんたは朝から元気一杯なのよ…」
近づくや否や抱きついてきた双子の片割れの少女にボーイッシュな少女、歩夢は苦笑を漏らす。
「ははは、でも、ほんとに元気がないようだね?朝から何かあったのかい?蓮」
「なんでそこでオレに振るんだよ……もとはと言えばお前らの勤め先が原因だからな?」
そんな光景を遠目に双子の片割れの少年は眼鏡の少年、蓮をからかう。
「はて?全く見当がつかないけど、楓は何か知ってるかい?」
「んー?柊が知らないならアタシは知らないよー?」
そう言ってお互いに首を傾げる双子。
筒木ツツギ ヒイラギ』と『筒木ツツギ カエデ』。
子供っぽく落ち着きのない姉の楓に対して、落ち着きのある大人びた弟の柊。
見事に正反対の性格の彼らであるが、こう見えて彼らは歩夢と蓮の先輩にあたる。
学年が、というわけではない。
この双子は弱冠17歳にして『対魔物特殊機動部隊』所属の正規の隊員でもあるのだ。
「ほら、このホームページ」
「ん?どれどれ……【『対魔物特殊機動部隊』訓練生募集中】って、……は?」
蓮から手渡されたタブレット端末でホームページ上の情報を次々とスクロールしていく柊。
最初は驚きのあまりん開かれていたその目は情報を読み進めるうちに真剣みを帯びて行く。
「蓮、ちょっと時間いいかな?」
「おう、どうした?」
「いや、少し上司に確認をと思ってね。歩夢と、一応楓もおいで」
「アタシはオマケ!?」
「いいからとっとと離れなさいよ!何時まで引っ付いてるつもりよっ!」
「まだやってたのかよ……」
どうやら女性陣は蓮と柊が話し込んでいる間もずっとそのままだったようで、歩夢に至っては春だというのに額に汗を掻くている。
「ははは……それじゃ、HRの後、いつもの場所でね?ほら楓、行くよ」
「あー、愛しの歩夢がぁー」
「暑苦しいっての!」
「歩夢、いいから席に戻るぞ。セイウチに目をつけられたら厄介だ」
「私のせいみたいに言わないでくれる!?」
文句を言いながら蓮に噛みつく歩夢だが当の蓮は特に気にした様子もなく受け流していく。
学校の備品である時計を見ればHRはあと数分のところまで迫っていた。
歩夢に付きまとわれながら自分の席に着いた蓮は小さく嘆息しながら荷解きを始めた。
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ー2125年 4月25日 AM9:07 私立清流天草高等学校 屋上ー

「で、お前の上司はなんて?」
「それが隊長も何にも聞かされてないみたいなんだ」
「はぁ?お前んとこの隊長さんって結構上の階級じゃなかったか?」
「いや、この前作戦中に、その、またやらかして……」
「今度はどんな命令違反したんだよ、お前の隊長…破天荒すぎだろ……」
「今度やらかしたら軍法会議だって笑ってたよ……」
「そりゃ、余程の大物だな」
疲れた顔で乾いた笑みを浮かべる柊と蓮。
彼らは今、学校の屋上に来ていた。
離れたところには楓と歩夢の姿もある。
本来ならば一限目の授業を受けているはずの彼らだが、柊と楓に至ってはその範疇には入らず、特例として授業をエスケープすることが許されているのだ。
二人が『対魔物特殊機動部隊』所属の軍人であるからこその特権だ。
ちなみに蓮と歩夢については普通にサボりだ。
一般の学生に授業をボイコットする権利などないのだ。嘆かわしいことに。
閑話休題それはさておき
上司からもたらされた報告に顎に手を当てて考え込む柊と蓮。
「とにかく、隊長に詳しい話がしたいから基地まで来いって呼び出されてるんだけど、二人はどうする?」
「……遠慮しとくわ。あんたらの基地に入るのは部隊に入隊してからにしたいしね」
「だ、そうだ。ぶっちゃけ俺も同意見だ。なによりお前の破天荒な上司と顔を合わせたくないってのが大きいけどな」
「これからその上司と直接顔を合わせる僕に言うかいソレ?思い出し笑いしたらジュース奢りだからね」
「アホか。ま、とりあえずなんかあったら連絡くれや」
「はいはい。さ、行くよ楓」
ひらひらと手を振って歩夢と楓の方に視線を向ける柊。
その視線の先では未だに歩夢にくっついて離れない楓がいた。
「えー?基地に帰るの?あたしまだ歩夢とイチャイチャしたーい!」
「誰がするかそんなこと!ほら柊、あんたもこのバカ引っぺがすの手伝いなさいよ!弟でしょ!?」
「ほら、楓。これ以上駄々こねると今月のお小遣い減額だよ?」
「あ、それはやだ」
そう言って歩夢からスッと離れる楓。
どうやら彼女は自分の欲望に忠実らしい。
「それじゃ、授業の方頑張ってね。とくにセイウチの説得の方を」
「あー、そう言えば一限目って英語だったな」
「このままサボっちゃダメかしら?」
「「「ダメです!」」」
ぽつりと漏れた歩夢の呟きにその場にいた全員が反応し、同じ言葉を返した。
「英語の単位、ただでさえギリギリなのにこれ以上落としてどうすんだ」
「前のテストも赤点ギリギリじゃなかった?」
「職員会議で進級が危ぶまれる生徒の筆頭だってセイウチが言ってたよ」
「ぐぬぬ……」
それぞれの口から出た正論に口をへの字に結ぶ歩夢。
他の面々は呆れ顔だ。
「ほら、アホやってないでさっさと行くぞ」
「ちょっ!?引っ張んなバカ蓮!」
「はは、それじゃ二人とも試験会場でね?」
「バイバーイ!」
歩夢の制服の襟元をつかんで屋上を去ろうとした蓮。
「あ、そうだ。蓮」
「ん?どうかしたか?」
「……いや、なんでもない。説得、頑張ってね?」
「おぅ」
小さく頷いて教室へ戻って行く親友に柊は喉元まで出かかっていた言葉をそっと飲み込んだ。
(今回の試験。なんだか嫌な予感がするんだ。参加するなら用心してね?)
そんな思いを胸に、少しばかり不機嫌そうな表情で柊の指示を待ち続けていた双子の姉に声を掛ける。
「さ、隊長がお待ちだ。行こうか、カエデ」
「了解。出発しようか、ヒイラギ」


to be continued...

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