真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

prologue1

ー2125年 6月23日 PM11:17 首都郊外ー

虚しく夜風の吹き抜ける廃ビル街。
そのうちの一つのビルの屋上に二人の人影があった。
そこにいるのは十代半ばの少年と少女。
彼等は若干のアレンジが施された軍服を身に纏っていた。
軍服の背中には大きくローマ字で『SS』の文字の刺繡が施されており、その文字は彼等が何者であるかを示していた。
『救世主の剣《Savior Seber》』通称『SS』。
この世界に突如として現れた異界からの訪問者、『魔物』を討伐するために生まれた特殊武装組織の一つ。
世界中に存在する組織の中でも屈指の戦力を誇る組織。
二人はその『SS』の構成員だ。

「レン、ゲートが開くのここで間違いないんでしょうね?」

少女の方が口を開く。

「ああ。間違いねぇよ。それよかアユム、『ユキ』はどうした?」

レンと呼ばれた少年、『大柳オオヤギ レン』は肩をすくめてそう答えると少女、『真白マシロ 歩夢アユム』に視線を向ける。

「寝かしつけてきたわよ。あの子、ホントに朝に弱いから、明日起きれないと大変じゃない?あ、でも、もしかしたら父さんが起こすかも…」

そんなアユムの答えにレンは目に手をやり天を仰ぐ。

「あー……最後の難所はケンおじさんがいたかぁ。明日は遅刻決定だな」
「一応、父さんには寝かしといてって言ったけど……まあ、絶対起きるわよね」

アユムは憂鬱そうに溜息をつくと気持ちを切り替えるように自身の頬を叩く。

「まぁ、起きるまでに片付けちゃえばいい話よね!」
「簡単に言うなよなぁ……」
「うっさい。で、今回の標的は一体何よ」
「なんでキレ気味なんだよ……一応、本部から送られてきた文面通りなら……ホラ」

そう言ってレンは肩に下げていたカバンからタブレット端末を取り出してデータベースにアクセスする。
そこから組織が自分宛に送ってきたメールを表示し、アユムにその画面を見せてやる。
ちなみにアユムにも同様のメールが送られているのだが、彼女はつい最近形態を壊してしまい修理に出している最中なのでそのメールを確認することができなくなっている。

「ふーん?『犬面人コボルト』か。それなら私らでも余裕ね」
「アホ。よく見ろ『犬面王コボルトキング』もいるだろうが」
「あ、ホントだ。って、キングもいるってかなりキツイわね……」
「一応それを見込んで報酬も上乗せされてるっぽいが、『ユキ』の奴がいないとなると相当きついな」
「ぐぬぬぬぬ!本部の連中め、私たちをユキの付き人とでも思ってんじゃないの!?」
「まあ実際、俺等の中で一番強いのもユキだからな。いつも一緒に行動してるからひとセットとして数えられてもしょうがないだろ」
「解せない気持ちでいっぱいだけど、今は気持ちを入れ替えてお仕事と行きましょうか!」
「急に元気になったな。無茶はするなよ?」
「分かってる。……明らかにヤバそうなのが出てこない限り、退くつもりはないけどね」
「おい、脳筋女。今なんつった?」
「え?私、何か言ったかしら?」
「はぁ……なんでもねぇよ。って、ん?」

いつも通りに突撃思考なアユムに呆れたように大きく肩をすくめたレンだが周囲の空気の変化を敏感に感じ取り、辺りを見回す。
そして、彼が見つけたのは自分たちがいる場所から見て丁度反対側、そこに浮いた大きな亀裂。
それは異界からの来訪者、魔物が現れる門。
通称『ゲート』。
その亀裂の奥では大量の『魔物』がひしめき合っており、門が完全に開くその瞬間を今か今かと耳障りな鳴き声を上げながら待っていた。
見れば徐々に亀裂が横に開き、門が開こうとしているのが分かる

そして次の瞬間、その亀裂は左右に大きく裂け、門が開いた。

一体目が飛び出したのを皮切りに一斉に駆け出してくる『犬面人』たち。
レンはそんな魔物たちを見て小さく溜息をもらす。

「よかったな、アユム。お望みの獲物だぜ?」
「ここで成果を上げで上の連中をギャフンと言わせてやるわ!」

二人はことを言いながら両腕に嵌めた『思念金属体リベリオン・マテリアル』製のブレスレットに触れる。


「「武装開放!」」


声を合わせて叫ぶ二人。
そして、二人の両腕に嵌められたブレスレットは、まるで二人の意思に呼応するようにその形状を変化させていく。

「対魔物用特殊武装、『剛拳ポルクス』!」

アユムのブレスレットは銀色に輝き茜色の線の入った、右腕の肘までを覆うガントレットに。

「対魔物用特殊武装、『哭銃ウル』……」

レンのブレスレットは黒をベースとした銃身に蒼いラインの入った二丁の拳銃に。
二人はブレスレットから姿を変えた己の得物の調子を確かめるとお互いに視線を合わせ、一斉に『犬面人』の湧き出すゲートに向かって駆け出した。


「「ミッションスタート!」」


to be continued...

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