真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

prologue2

あるところに世界があった。
その世界のまたある所に一つの青く輝く星があった。
青く輝く星、地球には数億人の人間が生息し独自の文明を築き、繁栄の歴史をたどっていた。


あるところに世界があった。
その世界はある日を境に、唐突に終わりを告げた。


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2020年6月20日
世界がオリンピックに沸き立つ年、それは起こった。
全世界同時に陸海空のあらゆる場所に突如亀裂が入り、そこから伝説上の生き物を模ったバケモノが現れたのだ。
現れたバケモノ達は一切の容赦なく街を破壊し始めた。
人はそのバケモノたちを『魔物』と呼び、人類はそれらに対抗すべくあらゆる手を尽くし反撃した。
が、それらはすべて無意味に終わった。
刃物はおろか銃火器、人類の持つ最終兵器にして過去最大の過ちである核兵器を以てしても『魔物』を倒すことは不可能だったのだ。
それから数か月。
『魔物』が現れてから人類は繁栄の歴史など見る影のないほどに衰退した。
後に人類はこの年を『厄災の年』と呼んだ。
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なけなしの資源を使い『魔物』の目を盗んで隠れ住むという状況が十年ほど続いた。
『厄災の年』から丁度十年後の2030年6月20日。
人類は遂に反撃の手段を手に入れた。

それはほんの一握りの鉱石だった。
過去に空間に亀裂が入り、魔物が現れたその場所の地面から発見された小さな金属。
手に入れる際、数百名の命を対価に手に入れた小さなカケラ。
遺された人類はそれを死に物狂いで研究に勤しんだ。
硬度、耐熱性、錆に対する強さと普通の一般的な鉱物と比べても高い水準にあるその金属の研究は昼夜問わず行われた。
そして、人類はその金属が人間の意志、精神に呼応して形状を自在に変化させる性質を持つことを突き止めた。
だが人類が突き止めたのはそれだけではない。
人類は我が物顔で世界中を歩き回る『魔物』相手に金属片を使い実験を試みたのだ。
その結果、その金属片は魔物に対する唯一の有効的な打撃力になることが分かった。
人類は人の意志に手形状を変え、魔物に対する有効打となるこの金属を『思念金属体リベリオン・マテリアル』と名付けた。
そして研究の結果はそれだけではなかった。
『思念金属体』を使った実験により、人類は奇跡的に二体の『魔物』を生け捕りにすることに成功したのだ。
一体は腐った人間のような姿をした『屍喰鬼グール』。
もう一体は犬の頭をした人型、『犬面人コボルト』だった。
姿形に差異があるこの二体を研究者たちは必死になって調べ上げた。
そして、この二体の魔物の中に共通したある『細胞』を見つけ出した。
ソレはこの世界に存在しないはずの一つの『因子』であった。
ラットを使った実験によれば『因子』は生物に投与すると瞬く間に細胞を侵食し肉体を強靭なものに作り替えることが分かった。
ソレを人類は『反逆者の因子トレイターズジョーカー』と名付け、さらなる研究を続けた。
そして、研究を続けることで新たな発見をした。
『因子』に対する適正だ。
研究が進み人体投与の実験が行われたとき、『因子』には適性があり、適性のない者に投与すると拒絶反応を起こし即座に『魔物』へと姿を変えてしまうという事例が確認されたのだ。
また、それとは逆に適性の高いものに『因子』を投与することで『因子』が変化し、その構造が変化することで人外の力を手に入れることも分かった。

そして長い研究の末、ついに人類は『魔物』に対抗する力を手に入れた。
人々は『因子』を受け入れ『魔物』と戦う彼らのことを『魔討士』と呼んだ。

『魔討士』の出現を機に、人類は反撃の狼煙を上げた。

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『反逆者の因子』を人間に投与することで生まれた魔討士達は次々と『魔物』を倒し、屍の山を築いた。

厄災の年から35年、ついに人類は『魔物』から文明を取り戻した。


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そして、人類が文明を取り戻してから約100年後。

一度は破滅し、再び立ち上がった世界。
そんな世界で一つの物語が幕を開けようとしていた。

それは真っ白な少女の物語。
その身に悲痛な過去を宿し、何物にも染まることのなかった小さな少女。
無垢で純粋な少女が、美しいモノに触れ、醜いものを知り、一人の人間として成長していく物語。
真っ白な少女の成長譚が、今始まる。


...to be continued

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