真っ白な少女の成長譚
prologue5
落ちる。
落ちる。
ただひたすら、落ちて行く。
向かう先は、眼下の敵。
ある種の同族にして、仇敵。
それ向かってユキは、相棒である『変幻竜刃バルムンク』の大剣から槍斧へと変身を遂げたその白い刀身を向ける。
地面が近くなるにつれてその存在はより大きく、より明確になる。
犬のような、というよりは犬そのものな頭。
全体的に大きく筋骨隆々とした肉体。
小型の『犬面人』達が持っていた石斧をそのまま拡大したような風の得物。
いかにしてアユムとレンの後ろに突如現れたかは謎だが、油断さえなければあの二人でも倒せた相手だ。
慢心するわけではないが、アユムとレンの二人より高い実力を持つユキにとって、目の前の標的はあまりに貧弱に見えた。
しかし、建造物の中で戦わねばならないうえ体格的にもあちらに利がある。
それに、先程の奇襲を見た矢先、警戒を怠るわけにはいかない。
つまるところ、ユキに残されている選択肢は空中からの一撃で標的を仕留めることに他ならなかった。
本来なら『奥の手』を使ってすぐに終わらせる事ができたのだが、残念なことに『奥の手』を使うことはアユムとレンに禁止されている。
この前も勝手に『奥の手』を使ってしまいこっぴどく怒られたばかりなのだ。
故に、一撃で仕留めるという選択肢以外に彼女の取れる行動はない。
「狙うのは、首っ!」
既に目前まで迫った『犬面王』。
その首筋めがけてユキは『バルムンク』を構え直す。
最初は30mほどあったその距離が9m、8m、7mと近づいていく。
5m、4m、3m、2m、1m......
そして、その距離が0になった時、『犬面王』の首が飛び生命活動が完全に停止した。
-------------------------------------------------------------
ユキが『犬面王』を討伐してから数十分後、隣のビルでは『犬面王』により吹き飛ばされていたアユムが目を覚ましていた。
勢いよく半身を起こしたアユム。
「のわっ!」
するとそれに驚いたのか、すぐ隣で胡坐を掻いて座っていたレンが身体をのけぞらせる。
「やっと起きたか、寝坊助」
しかし、次の瞬間には安心したような表情で軽くアユムを小突く。
「うっさい!寝坊助言うなっ……!」
そう言っていつものように反撃に出ようとしたアユム。
だが、軽く腕を振り上げたところであることに気が付き、振り上げた腕をマジマジと見つめだした。
意識を失っている間に武装が解除され素肌が現れているはずのそこに包帯が巻かれていたのだ。
いや、それだけではなく身体の至る所に応急処置がしてあり、しまいには昨日家の階段で軽く転んだ際に擦りむいた膝に絆創膏が貼ってあった。
「……ありがと」
「あ?何が?」
「なんでもない!そんなことよりここはどこよ!?」
「だからなんでキレ気味なんだよ!……ここはさっきいたビルの隣のビルだ。運良く中に入ることができたみたいでな、高さ的に見て大体八階あたりだろ」
「……それは本当に運がよかったわね。壁に当たってたらひとたまりもなかったでしょうし。それで、ユキは?」
「さっきオレたちが吹っ飛ばされた時にはぐれたみたいだ。……そうだな、ちょっとこっち来てみろ」
「なによ?って、……は?」
まだ少しふらつく足でレンの立っている窓際まで移動するアユム。
そして、その光景を目にした彼女は呆然とした。
辺り一帯に立ち並んでいた廃ビル群が瓦礫と化していたのだ。
「ユキが暴れまわったみたいだな。見たところ『奥の手』は使ってないんだろうが」
「なんでこのビルが倒壊してないのか気になるレベルね……」
「いや、そんなことないぞ」
「は?」
アユムが疑問の言葉を続けようとした矢先、二人のいるビルが大きく揺れた。
「どうやら、ここら一体の地盤がダメになってるみたいだな。さっきも少し揺れた。今ほどじゃないけどな」
「何を暢気に言ってんのよ!急いでここから脱出するわよ!……って、きゃっ!?」
冷静に現在の状況を開設するレンの手をつかみ走りだそうとしたアユム。
だが次の瞬間、彼女は足首に走った激しい痛みによりその場に膝をついてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫よ、このくらい!」
「……本当にお前は嘘が下手だな」
「きゃあ!?」
突然軽くなった体に悲鳴を上げるアユム。
なんてことはない、レンがアユムを抱き上げたのだ。
所謂、お姫様抱っこで。
「ちょちょちょちょっと、レン!」
「あ?どうした」
「どうしたじゃないわよ!いきなりなにすんのよ!」
「歩くのが辛そうだったんでな。抱き上げさせてもらった」
「おろして!てかおろせバカレン!」
「歩けないんだから無理すんな」
「歩ける!歩けるからぁ!」
「本当か?」
「本当だってば!こんなとこユキに見られたら姉としての威厳が……」
「もともとそんなモンはないから安心しろ」
顔を真っ赤にして必死の抵抗を見せるアユムには意にも介さず歩みを進めていくレン。
アユムも次第に抵抗することを諦めたのか、階を一つ下った頃にはすっかりおとなしくなっていた。
「さ、ビルが崩れない内にさっさとユキを迎えに行くか」
「あーもう!好きにしなさいよ!」
to be continued...
落ちる。
ただひたすら、落ちて行く。
向かう先は、眼下の敵。
ある種の同族にして、仇敵。
それ向かってユキは、相棒である『変幻竜刃バルムンク』の大剣から槍斧へと変身を遂げたその白い刀身を向ける。
地面が近くなるにつれてその存在はより大きく、より明確になる。
犬のような、というよりは犬そのものな頭。
全体的に大きく筋骨隆々とした肉体。
小型の『犬面人』達が持っていた石斧をそのまま拡大したような風の得物。
いかにしてアユムとレンの後ろに突如現れたかは謎だが、油断さえなければあの二人でも倒せた相手だ。
慢心するわけではないが、アユムとレンの二人より高い実力を持つユキにとって、目の前の標的はあまりに貧弱に見えた。
しかし、建造物の中で戦わねばならないうえ体格的にもあちらに利がある。
それに、先程の奇襲を見た矢先、警戒を怠るわけにはいかない。
つまるところ、ユキに残されている選択肢は空中からの一撃で標的を仕留めることに他ならなかった。
本来なら『奥の手』を使ってすぐに終わらせる事ができたのだが、残念なことに『奥の手』を使うことはアユムとレンに禁止されている。
この前も勝手に『奥の手』を使ってしまいこっぴどく怒られたばかりなのだ。
故に、一撃で仕留めるという選択肢以外に彼女の取れる行動はない。
「狙うのは、首っ!」
既に目前まで迫った『犬面王』。
その首筋めがけてユキは『バルムンク』を構え直す。
最初は30mほどあったその距離が9m、8m、7mと近づいていく。
5m、4m、3m、2m、1m......
そして、その距離が0になった時、『犬面王』の首が飛び生命活動が完全に停止した。
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ユキが『犬面王』を討伐してから数十分後、隣のビルでは『犬面王』により吹き飛ばされていたアユムが目を覚ましていた。
勢いよく半身を起こしたアユム。
「のわっ!」
するとそれに驚いたのか、すぐ隣で胡坐を掻いて座っていたレンが身体をのけぞらせる。
「やっと起きたか、寝坊助」
しかし、次の瞬間には安心したような表情で軽くアユムを小突く。
「うっさい!寝坊助言うなっ……!」
そう言っていつものように反撃に出ようとしたアユム。
だが、軽く腕を振り上げたところであることに気が付き、振り上げた腕をマジマジと見つめだした。
意識を失っている間に武装が解除され素肌が現れているはずのそこに包帯が巻かれていたのだ。
いや、それだけではなく身体の至る所に応急処置がしてあり、しまいには昨日家の階段で軽く転んだ際に擦りむいた膝に絆創膏が貼ってあった。
「……ありがと」
「あ?何が?」
「なんでもない!そんなことよりここはどこよ!?」
「だからなんでキレ気味なんだよ!……ここはさっきいたビルの隣のビルだ。運良く中に入ることができたみたいでな、高さ的に見て大体八階あたりだろ」
「……それは本当に運がよかったわね。壁に当たってたらひとたまりもなかったでしょうし。それで、ユキは?」
「さっきオレたちが吹っ飛ばされた時にはぐれたみたいだ。……そうだな、ちょっとこっち来てみろ」
「なによ?って、……は?」
まだ少しふらつく足でレンの立っている窓際まで移動するアユム。
そして、その光景を目にした彼女は呆然とした。
辺り一帯に立ち並んでいた廃ビル群が瓦礫と化していたのだ。
「ユキが暴れまわったみたいだな。見たところ『奥の手』は使ってないんだろうが」
「なんでこのビルが倒壊してないのか気になるレベルね……」
「いや、そんなことないぞ」
「は?」
アユムが疑問の言葉を続けようとした矢先、二人のいるビルが大きく揺れた。
「どうやら、ここら一体の地盤がダメになってるみたいだな。さっきも少し揺れた。今ほどじゃないけどな」
「何を暢気に言ってんのよ!急いでここから脱出するわよ!……って、きゃっ!?」
冷静に現在の状況を開設するレンの手をつかみ走りだそうとしたアユム。
だが次の瞬間、彼女は足首に走った激しい痛みによりその場に膝をついてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫よ、このくらい!」
「……本当にお前は嘘が下手だな」
「きゃあ!?」
突然軽くなった体に悲鳴を上げるアユム。
なんてことはない、レンがアユムを抱き上げたのだ。
所謂、お姫様抱っこで。
「ちょちょちょちょっと、レン!」
「あ?どうした」
「どうしたじゃないわよ!いきなりなにすんのよ!」
「歩くのが辛そうだったんでな。抱き上げさせてもらった」
「おろして!てかおろせバカレン!」
「歩けないんだから無理すんな」
「歩ける!歩けるからぁ!」
「本当か?」
「本当だってば!こんなとこユキに見られたら姉としての威厳が……」
「もともとそんなモンはないから安心しろ」
顔を真っ赤にして必死の抵抗を見せるアユムには意にも介さず歩みを進めていくレン。
アユムも次第に抵抗することを諦めたのか、階を一つ下った頃にはすっかりおとなしくなっていた。
「さ、ビルが崩れない内にさっさとユキを迎えに行くか」
「あーもう!好きにしなさいよ!」
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