異彩の瞳と銃創造者

創伽夢勾

契約

 森の中に、どんどんと大きな音が響いている。
 もちろん熊による仕業だ。
 取り巻きで合った狼はいなくなり、マンツーマンで熊に意識を集中できるから、大ぶりな攻撃はなかなか当たらない。

「でも、これくらったら絶対致命傷だよな」

 ブンブンと振られる熊の大きな腕をギリギリなところで躱していく。
 どうにかして、一度距離を取りたいところ。物質創造で作れる盾は、完成度がまだ低く、熊の攻撃を一度受ければ壊れてしまう。だから今はリベリオンを防御に回している。

「とりあえず距離を取るか」

 レンは左手の指の隙間に三本の直剣を生成する。そして、その三本の剣に魔力を流して、上へと放り投げる。

『ヘヴィーフィール』

 上へ放り投げられた剣は、放物線を描き熊の真上へ、そのまま重力魔法で、重さが増し急加速。三本のうち、一本が熊の足へと深々と突き刺さった。
 そのうちにレンは熊から距離を取る。

「重力魔法に力持ってき過ぎたな」

 重力魔法は魔力を込めれば込めるほど、重さを変更できたりする。あの重さの剣は熊でも抜くのは難しいだろう。何よりあの手で剣を掴めるのか?
 剣が消えるまで、残り四分。

「さて、どうしようかな」

 レンは考えた末、魔銃を始めて実戦で使うことを決めた。
 魔銃は、レンと師匠であるユニが試行錯誤させて開発した、魔法特化型の銃だ。今までの銃はあくまで実弾を使用し、それにエンチャントを加えることで運用してきた。
 だが魔銃が撃ちだすのは実弾ではなく魔法だ。

「師匠以外に試すのは初めてだけど、まぁ大丈夫だよな」

 レンは右手を前に突き出し、短縮呪文を唱える。

『クリエイト・タイプ:マスケット オプション:マジックバレット』

 次の瞬間、レンの右手にはマスケット銃が一本生成されていた。
 マスケット銃は先込め式の銃であり、火縄銃の一種だ。この銃はこう言った戦闘では不向きの銃だ。だがレンの場合は違う。
 レンは銃そのものを弾を込めた状態で生成できるため、使い捨ての用法で連続で使うことが出来る。ただし、魔銃の場合はまた話が違ってくる。
 魔銃の場合、実弾のようなリロードは必要ない。必要なのは魔力の補充とイメージだけだ。
 なら、なぜ魔銃を使うのか、それは魔導書の様に魔法の補助になるのは勿論。威力の確保、正確な狙い、連射速度、そして何よりレンが思うのはかっこいいからだ。
 かっこいいものを使いたい。これの何が悪い? まぁ、実際使えるんだから満足だ。
 レンはマスケットを熊へと向ける。すると、動けないはずの熊がレンに向かって突進してきた。

「って、まさかあいつ、自分で貫いたのか」

 熊の後ろに見えるのは、柄の部分まで、地面にめり込んでいる剣だった。
 熊は、レンとの距離を一気に詰め、その大きな腕を振り下ろしてくる。
 レンは横に大きく跳び、熊の攻撃を回避。地面に転がると、すぐに体勢を立て直して、マスケットの銃口を熊へと向けた。

『リロード:サンダーバレット』

 魔銃がガチャっと、音を立て、それを確認したレンはマスケットの引き金を引いた。
 マスケットの銃口から飛び出したのは、雷の弾丸。それはまっすぐ、熊めがけて飛び、やがて着弾した。
 着弾直後、熊は鳴き声を上げ、後ろにのけぞった、どう見ても効いている。
 レンは追い打ちをかけるように、マスケットを一回転させ、再び、熊へと向けた。

『リロード:ブリッツ』

 魔銃に魔力を流し、引き金を引いた。
 次にマスケットから飛び出た魔力弾は飛び出た瞬間からはじけ、無数の小さな玉となって、熊へと向かう。いわゆる散弾というやつだ。
 熊へと当たった弾丸は、小さい球が数発当たっただけ、それでも、熊へは充分効いているようだった。

 小さいダメージでも数当てれば嫌になってくる。
 熊は木をなぎ倒し、腕を振りましながら突っ込んでくる。レンは後ろに下がりながら、散弾をリロードし、発射を繰り返していた。

「さぁてそろそろかな」

 二本目のマスケットがレンの手から消え、レンは腰にあるリベリオンを引き抜いた。
 そして、熊に向けて、リベリオンの切っ先を向ける。
 そのまま、魔力を切っ先に込め、文字を書く。

『テイワズ』

 テイワズ。勝利のルーンと呼ばれる文字。勝利欲を強く持ち、その効果は全身強化。
 レンの周りには白いオーラと呼べるものが可視化されていた。

「終わりにしようぜ」

 レンは突っ込んでくる熊に正面から挑む。腕の攻撃を避け、避ける際に、腕を刻む。そのまま左足めがけて、リベリオンを横に薙ぐ。
 さすがにキロ落とすまでは出来なかったが、左膝を地面についた熊の背後へ。

『クリエイト・タイプ:ソード。トリプル』

 左手の指の間に三本の直剣を生成。先ほどと同様、魔力を込め、上空へと放り上げる。
 宝利投げた直後、腕を横に薙いできた熊の攻撃をジャンプで躱し、ダッシュ。そのまま、もう片方の足をリベリオンで切り刻む。
 両足をやられ、地面に倒れる熊、だが、まだ死んではいない。腕で這いずるようにしてこちらに向かってくる熊。
 それに最後、終わりをつぶやくようにレンは呪文を唱えた。

『ヘヴィーフィール』

 その言葉と共に、放り投げられていた剣は、真下へ熊めがけて、重さを増して急降下していく。そのまま、頭、喉、胸へと三本が突き刺さり、その命は絶たれた。



「あ、イヴィルの言うとおり、ホントに倒しちゃった」
「いいね、やるじゃんあいつ」

 レンが熊を討伐した直後、視界が揺らいだ。
 気が付くと目の前にしたいは無く。元通りの森の中にいた。そして目の前には、イヴィルとリーネ。

「で、俺は合格か?」
「いいぜ。契約結んでやるよ」
「私も……構いません」

 すると、イヴィルがレンの左手の甲へと近づき、そっと口づけをした。

「……お前何してんの」
「は? 何って契約だろ?」

 気づくと、レンの左手の甲には黒い紋章が浮かんでいた。

「それにしても男が口づけって」
「それこそ何ってんだ。俺がいつ、男だって言った?」

 ん? ちょっと待て、こいつ女なのか。なんか俺の周り、男装というかそういうの多くないか?

「なーんて、嘘だけど」
「おい!」
「ほれ、次リーネの番だぞ」

 リーネもひらひらとレンの近くに寄ってくると、イヴィルの作った黒く丸い紋章の上から口づけした。
 それと同時に、視界が揺らぐ。そして、なんだか一気に魔力を消費した感覚にレンは襲われた。

「これ、恥ずかしいですね」

 リーネはレンの手の甲から離れる。手の甲をよく見ると、右半分さっきのままの黒い紋章。そして、もう半分が白い紋章に塗り替えられていた。

「前にも言っただろ、俺たちは二人で、一対の存在だ。まぁコネクトはつないだし、後は」

 イヴィルの言葉と同時に、右眼にリーネが手を触れ、左眼にはイヴィルが触れていた。すると、眼に魔力の流れを感じ、その感覚はすぐに離れて行った。

「眼の能力に制限かけてたからな、まぁ前と大して変わらないと思うけど」

 それから、魔眼と精霊眼について、二人に少し教えてもらった。
 俺は左眼に魔眼。右眼に精霊眼を持っている。ただ、眼の能力にも種類がある。
 例えば師匠の精霊眼。透視眼。物を透かして見ることができ、それだけでなく、相手の能力、感情を見ることもできるそうだ。通りで嘘が通じないと思ったよ。
 そして、俺の魔眼の能力、イヴィルが俺にくれたのは思考加速。
 思考加速はその名の通り、思考を加速させる能力だ。思考を加速させ、瞳に映る世界をゆっくり流す、その間に思考を巡らせることが出来る。そんな能力だ。制限が解かれた今、魔力を込めれば込めるほど、時間はゆっくり流れ、限界まで行けば、全ての事象が停止するほどの思考速度を得ることが出来る。ただし、思考加速を重ねれば重ねるほど、続ければ続けるほど、脳がやられ、いずれ、左眼も使用不可能に、二度と視力が戻らず、能力も使えなくなるんだそうだ。
 師匠が使うなと、良く言っていた理由はこれだろう。

 次に、右眼の精霊眼だ。
 これも師匠とは違う能力だ。俺がリーネから貰った能力は閃別センベツ
 物事を一瞬で見極め、それに適応した対応を可能とする眼だそうだ。
 狼型の魔物の時や、エアリアとの模擬試合、攻撃の軌道が見えたり、弱点がどこにあるかが分かったりしたのはこの眼の能力だということだ。
 加速眼と閃別眼この二つの組み合わせは、はっきり言ってずるい。

「じゃあ、俺たちはいったん引っ込むぜ、何かあったら呼べ。だが気安く呼ぶな。めんどくさいから。ピンチの時だけな分かったか」
「わ、私は、気軽に……あっ」

 リーネは言葉の途中にイヴィルに引っ張り、消えて行った。

「まぁ無事に終わったでいいのかな」

 レンは無事に終わったことに息を吐きながら、報告の為に、一度家へと戻ることにした。
 このあと、レンが学園に通うまで三年。修行を重ね。その時を待った。


コメント

  • alrain

    まさか…主人公はマミる運命なのか…??

    3
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