異彩の瞳と銃創造者

創伽夢勾

異彩の瞳

「ルドラか」

 気づいたときには光は消え、目の痛みも治まっていた。そしてそんなレンの視界の中にはルドラの姿があった。
 そのルドラは目を大きく見開き、何か不思議なものを見たような眼をしていた。

「どうした?」
「嫌なんでもないよ、それより何があったんだい?」

 ルドラが瞬きした、次の瞬間には、レンの瞳の色は元の黒色に戻っていた。
 レンは、前の教会で起きたことも含めて、一部を省いてルドラに説明した。もちろん三年契約なんかについては教えていない。無駄に心配なんてかけたくないから。

「へぇー精霊ね。僕には縁遠い物かな」
「俺だってこんなことになるとは思っていなかったよ」

 その時、レンは嫌な予感に襲われた。何かが来る。とても嫌なもの、右眼が熱くなるような感覚に襲われた。次の瞬間レンは叫んでいた。上を見ながら。

「ルドラ、後ろに飛べ!」

 ルドラは状況を理解できず、だが、レンと同じ嫌な予感には襲われていた。だから、レンの言葉に驚き、怯えるように数歩、後ろに下がった。
 レンの叫びの後、それはすぐに訪れた。どこから? それは空中から、いや木の上からだ。
 鋭い爪を持ったそれは、落下地点の一番近くにいたルドラを襲った。その正体は、狼だった。
 着地と同時に爪を振り下ろし、その爪はルドラを襲った。だが、レンの叫びで、後ろに下がっていたルドラには、その爪は当たらなかった。だが、ルドラの来ていた服は違った。爪をほんの少しかすり、鋭い爪に触れた服は綺麗に破れていた、その奥の物も同時に。その奥にあった白い物、晒と呼べるその物もろとも。

「きゃーーーー」

 ルドラは、自分の体を両腕で抱きしめ、尻餅をついてじりじりと後ろに下がっていた。
 レンはすぐに手にコルトパイソンを創造した。それを狼めがけてではなく、上に向かって発砲する。狼めがけて撃てば、ルドラにも当たる可能性があったからだ。
 突然の謎の音に驚いた狼は、横に飛び、レンとルドラから距離を取った。その狼は普通とは違い、目が赤く爪も長い。息も荒くとても攻撃的だ。これはその狼が魔獣である証。
 狼が警戒しては慣れている内にレンは猛ダッシュで、ルドラの元へ向かった。まだあの魔獣から感じる嫌な感覚は消えていない。
 もう少しでルドラのもとにたどり着くそんな時に魔獣はルドラに向かって走り出す。敵意むき出しで、怯えた獲物を捕らえるように。

『エワズ』

 レンはとっさにルーン魔術の動きを表すエワズを発動。自分の速度を上げ、飛び込む。ルドラに向かって。
 ルドラを突き飛ばして、狼の攻撃を回避させる。その後は勿論ルドラを押し倒す形になるわけで。

「なっ、ななな、なにを」

 レンの手はルドラに大かぶさる時、自然と胸の位置へ。ルドラは男。そう認識していたはずの手の中にはそこまで大きくはない、でも手に収まる柔らかい感触が存在していた。

「あっあああああ」

 ルドラの顔がみるみる赤くなっていく。そして、事態を理解したレンはすぐにルドラの上から退いた。それはレンがルドラが、女だということに気づいての配慮ではない。レンはルドラから退くと、右手の指先に魔力を集めてルーン魔術を発動させる。

『エイワズ』

 狼はルーンの魔力壁によって突進を止められる。だが、即席で作った魔力壁はすぐに壊れる。レンはルドラに心の中で謝りながら、魔力で全身を覆い強化してルドラをお姫様抱っこする。

「えっ、ちょっと」
「口閉じて、舌噛むよ」

 ルドラの態度を見る限り、怯えはまだ残っているが羞恥心の方が強く働いているのか、先ほどまでよりかは落ち着いている。状況も理解していて、顔は真っ赤だが、レンの言葉を聞くと静かに頷いた。レンはそれを確認して魔獣とは反対方向に走り出す。
 強化したとはいえ、子供の脚力、狼から逃げられるわけもなく、魔力壁で稼いだ距離もどんどん詰められていく。

「くそっ」

 レンは急ブレーキをかけて止まる。ルドラをその場に降ろし、エイワズを唱える。ちょっとの時間稼ぎだ。

「ルドラ。お前は先に行け」

 レンは上着をルドラに着せ、背中を押す。

「え? レーヴェンは」
「いいから、俺は時間を稼ぐ」

 レンは物質創造魔法を使い、右手に直剣を作り出す。魔獣は魔力壁に衝突し、そこまで長くは持ちそうにない。

「やだよ。僕だけ逃げるなんて、逃げるなら一緒に……」
「このまま二人で逃げても捕まるだけだ。それなら俺が残って時間を稼いだ方が片方の生存確率は大きいだろ? それにそんな役目、女の子にさせるわけにはいかないだろ。なーに死ぬ気はないさ」

 女の子。その単語を聞いた瞬間ルドラの顔がまた赤く染まっていく。でも、何かを決意したように言葉を続ける。

「わかった、任せる。だけど僕は、いや私は逃げない。君が勝つところを後ろから見届ける。だって負ける気はないんでしょ?」

 明らかに変わった女口調。それはルドラの本気さを感じ取るのには十分だった。

「それ、俺が負けたら二人で死ぬじゃねーか」
「勝てばいいんだよ勝てば」
「くっそ、こっちは魔獣見るのも初めてだってのに」

 ドンドン。そんな音と共に魔力壁にひびが入る。レンはルドラに下がるように指示する。
 右手に作った直剣とは別に頭の中で、いつでも銃を取り出せるようイメージを固めておく。
 それと同時に魔力壁が割れる。魔力はすでに半分を切っている。朝稽古やら、銃の披露で魔力は持ってかれていた。魔獣はまっすぐレンへと突っ込んでいく。繰り出される爪を剣で受け止める。ずっしりとした重みがレンの身体中に伝わる。身体を魔力で覆っていなかったらただではすんでいない。
 狼が飛びのき、再び、爪を振り下ろしてくる。それをレンは先ほどと同じように右手に持った剣で受け止める。だが、狼の猛攻はこれでは終わらなかった。もう一個の前足で、レンの脇腹を狙うように横からの一撃を繰り出す。
 後ろからルドラの叫び声が聞こえる。その時レンの左眼が熱く、痛みが走る。瞬きした次の瞬間。レンの視界はゆっくりになっていた。狼の動きもその爪の動きもゆっくりと、まるで意識だけが加速したように。
 レンはとっさに左手に逆手で直剣を創造する。そして、瞬きをした次の瞬間。速さは戻り、もう一個の爪の攻撃は生成した剣によって防がれていた。

「……うそ」

 後ろからルドラの声が聞こえる。レンの右手の剣は時間の制限によって消え失せる。
 何だ今のは、何が起こったのか、それはレンにはわからなかった。だが、こうして悩み動きが鈍ったレンを魔獣が抜くのは簡単だった。
 魔獣が狙ったのはレンではなくルドラ。レンの横を抜け、ルドラめがけて走る。それを剣で迎撃する速度も技術も今のレンには足りていなかった。だが、そこであきらめるレンではなかった。とっさに空の右手にコルトパイソンを生成する。狙いの先には魔獣とルドラ。武器のないルドラに魔獣を撃退する術はない。レンに迷う時間はなかった。撃たなきゃルドラが死ぬ。
 それだけを考え、魔獣に向けて狙いを定める。その時、また左眼に痛みが走る。だが、さっきとは違い右眼にも痛みが走った。瞬きした瞬間。またレンの視界内がゆっくりになる。そして、魔獣の動き姿はしっかりと、捉えていた。ここを撃てば死ぬ。そして、その位置を銃弾が貫いてもルドラには当たらない。それらすべてがこの右眼によってわかってしまった。思考を巡らせ、正確に狙いを定め、一撃で魔獣を葬る。次の瞬間レンは引き金を引いていた。
 銃弾はまっすぐ魔獣めがけて、その狙いは首、それも背骨がある、ぎりぎりの位置だ。銃弾は狙い通り、魔獣の首を貫き、ルドラの目の前で転倒。しばらくして命を絶った。

 ルドラは助かった。助けられた。レーヴェンという人物に。秘密も知られた。そして、その人物は視界内に居て、その目の色は左眼が深紅、右眼が翡翠色だった。

「はは、やった……ぞ」

 レンの限界はもう来ていた。レンは剣と銃を地面に落とすと、そのまま前のめりに倒れていく。それを見たルドラは上着が取れたことも気にせず、レンの元へと走った。だが、レンが倒れる前にレンを受け止めた人物がいた。
 長い紫色の髪の女性、ローブを着込み、エナン。いわゆる魔女の帽子を被っている。魔女。そう呼べるような服装に、腰には見慣れない形の剣があった。そして、何より驚いたのが、その人物の左眼が、レンの右眼と同じ色をしていたからだ。それにどこから現れたかすらわからなかった。

「ははっ、精霊眼に魔眼も使う子なんて、そんな子初めて見た。おもしろそうね」

 そして、そんな魔女(仮)は次にルドラに目を向けた。

「あなたも面白そうね。それより、服着たら?」

 その言葉を聞いて、ルドラは慌てて落ちた上着を拾った。









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