胸にヲタクという誇りを掲げて

ニムル

第3節/ぼっち部は陽キャのことを好まず

 桃花とうか先輩に連れられて(押し込まれて)、誰かがこの教室に入らされている声がする。

 また僕と同じような勧誘を受けた人がいたようだ。

「え、あ、あの、先輩?」

 ほらほら、新人さん怖がってるし、明らかに入りたい人のノリじゃないじゃないですか。

「先輩、なんかその子嫌がってません? 嫌がってるなら強引なのはよくないので帰ってもらいましょうよ」

 先輩のいるスペースを見るという労働のために、わざわざ今PCで見ているアニメから目を離すなどという愚劣極まりない敗者のとる行動をとるようなことはしない。

 どれだけ「いみふめい~ww」とか「気持ち悪い」とか言われようとも、今僕のとっている行動が人間としては最悪極まりない行為だったとしても、僕は一ヲタクとして胸を張っていられるように生きていきたい。それが最近の僕の心境だ。

 よって、ただでさえ部員同士のつながりが薄く、全員が全員ヲタクではなくあくまでもボッチであるこの環境に、どんな新しい人間が入ろうが関係ない。

 ぼっち部の部室は暇をつぶすための場所、つまりコミックインターネットと大差ない。違う点をいえば、指定席があり金銭は必要ない、つまりメリットをそのまま形にしたような場所。

 こんな、まさしく陰キャが集まるような部活に好き好んではいる人間は少ないだろう。それこそ僕だってつい先日に入部したばかりだが、ヲタクをふくめた陰キャという生き物にとって快適なこの空間は、陽キャには生活しづらいこと間違いなしだろう。

 そんな世間から見たらへんてこな空間に無理に人を呼ぶ必要はないだろう。来るべき人間は来るべくして寄ってくる。

 さてここまで考えるのにコンマ三秒かかったわけだけれどなぜこんな謎理論を展開しているかといえば、先ほど押し込まれてきた人の声が泡沫さんに似ていたからだ。

 僕の人生を本格的につぶしに来ているのだろうか、彼女は。

 陽キャの恐ろしさをしみじみと感じながら、僕はPCの中の自分の嫁に思いをはせるのだった。

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