胸にヲタクという誇りを掲げて
第1節/ぼっち部の勧誘を断れず
あの事件の翌日から、僕に対する周囲の態度が変わり始めた。
なぜか今までひどい扱いばかり受けていたはずの僕に対する周囲の待遇が良くなっている。
一体何が理由でこうなったのかは分からないけれど、変に注目を浴びるようになり、余計に生きづらいことこの上ない......
そう言えば、ミキの野郎に彼女が出来たらしい。
あいつが、「あ、ごめ、俺彼女出来たからしばらくおまえと一緒に帰れんわー、すまそー」とか言った日には、「あの粉クソ野郎とっとと滅びやがれ、二次ヲタ童貞イカレポンチめ」と陰口を叩いたが、自分のことを言っているようで悲しくなったのでやめた。
ちなみにあいつの彼女というのは、VR同好会の城之内 希音さんだそうだ。
僕はあまり女の子のことを可愛い、とか、美しい、とか思える感性を持ち合わせていないのでなんとも言えないが、まぁ、目鼻立ちは整っている方だと思う。
ミキに彼女が出来たなんてこと、腹だたしい上に顔面をハンマーで叩かれたような衝撃だったけれど、まぁ、ミキは人とかかわれるタイプの奴だったから、案外これは分かっていたことなのかもしれない。
「はぁ、ついに僕もぼっち飯デビューか」
と、悲しくなったのは誰にも言うまい。
昼休みに人気のない屋上でひとりで弁当を食べる。
人に見つかると恥ずかしいので、屋上の通用口にハシゴを使って上り、その上で食べている。
タイミングがタイミングで、変に注目を浴びるようになったタイミングでぼっちになるというこの屈辱。
もう泣いてもいいよね?
悲しさでより空虚に感じる空腹度を満たすために、口の中に飯を運ぶ。
「ねぇ君、一年生だよね?」
急に背後から話しかけられたため、驚いて弁当が喉につまり、むせた。
「げほっ、ごほっ」
振り向くとそこに居たのは、ハシゴからちょいと頭を出してこちらを除く人の姿だった。
「今年の一年生は殆ど運動部に入ったって聞いたから少し寂しかったんだけど、なんだ! まだちゃんといるじゃん!」
「あ、あの、何がでしょう?」
口ぶりからしておそらく先輩であろうその人に僕は質問をした。
「あー、ごめんごめん! 説明不足だったね」
と、その人は両手を合わせてウインクしながら言う。
「君みたいな、部活動に入ってないぼっちがまだいるじゃないか! って話だよ」
「は、はぁ」
痛いところを疲れたが、まったくもって間違いはないので返事はする。
というかこの人、性別不明だ。学校なのに制服を着ていないし、声が中性的すぎて区別がつかない。
「でもウチは部活動必ずやらなきゃいけないからねー、君や私みたいな人のためにあるんだよ」
「何がですか?」
「ぼっちによる、ぼっちのための、ぼっちだけの部活、『ぼっち部』がだよ」
「え」
「入部ありがとうございます!」
ぐっと親指を立ててそう言ったその人は、上に登ってくると、「ここにサインよろしく」と、強引に僕にペンを渡し、名前をかかせてきた。
「ちょ、ちょっとまってくださいよ、そんな部活聞いたことないですよ、新入生説明会の時にもいなかったし」
「当たり前でしょ。そんなん冷やかしのリア充共が入ってくる確率が上がっちゃうからね。私達は自分たちと同じような境遇の人間を学校十歩き回って毎年探してるって訳」
上に登ってきたことでやっと判明したのは、その人が女性であったという事だ。顔しか見えていない時は、ショートボブだったので童顔の男の娘の可能性も否定出来なかったのだけれど、やはり女性だった。
「さ、入部しよっか。ぼっち部はアフターフォローも手厚いからさ!」
半強制的に入部届けを書かされて、もうこれは入部せざるを得ない、というラインまで来てしまった......
「よし、これからよろしくねっ!」
そう言った、やたらとテンションが高く、ぼっちやヲタクという言葉とは無縁そうな先輩が去っていく姿を、僕は静かに見送った。
なぜか今までひどい扱いばかり受けていたはずの僕に対する周囲の待遇が良くなっている。
一体何が理由でこうなったのかは分からないけれど、変に注目を浴びるようになり、余計に生きづらいことこの上ない......
そう言えば、ミキの野郎に彼女が出来たらしい。
あいつが、「あ、ごめ、俺彼女出来たからしばらくおまえと一緒に帰れんわー、すまそー」とか言った日には、「あの粉クソ野郎とっとと滅びやがれ、二次ヲタ童貞イカレポンチめ」と陰口を叩いたが、自分のことを言っているようで悲しくなったのでやめた。
ちなみにあいつの彼女というのは、VR同好会の城之内 希音さんだそうだ。
僕はあまり女の子のことを可愛い、とか、美しい、とか思える感性を持ち合わせていないのでなんとも言えないが、まぁ、目鼻立ちは整っている方だと思う。
ミキに彼女が出来たなんてこと、腹だたしい上に顔面をハンマーで叩かれたような衝撃だったけれど、まぁ、ミキは人とかかわれるタイプの奴だったから、案外これは分かっていたことなのかもしれない。
「はぁ、ついに僕もぼっち飯デビューか」
と、悲しくなったのは誰にも言うまい。
昼休みに人気のない屋上でひとりで弁当を食べる。
人に見つかると恥ずかしいので、屋上の通用口にハシゴを使って上り、その上で食べている。
タイミングがタイミングで、変に注目を浴びるようになったタイミングでぼっちになるというこの屈辱。
もう泣いてもいいよね?
悲しさでより空虚に感じる空腹度を満たすために、口の中に飯を運ぶ。
「ねぇ君、一年生だよね?」
急に背後から話しかけられたため、驚いて弁当が喉につまり、むせた。
「げほっ、ごほっ」
振り向くとそこに居たのは、ハシゴからちょいと頭を出してこちらを除く人の姿だった。
「今年の一年生は殆ど運動部に入ったって聞いたから少し寂しかったんだけど、なんだ! まだちゃんといるじゃん!」
「あ、あの、何がでしょう?」
口ぶりからしておそらく先輩であろうその人に僕は質問をした。
「あー、ごめんごめん! 説明不足だったね」
と、その人は両手を合わせてウインクしながら言う。
「君みたいな、部活動に入ってないぼっちがまだいるじゃないか! って話だよ」
「は、はぁ」
痛いところを疲れたが、まったくもって間違いはないので返事はする。
というかこの人、性別不明だ。学校なのに制服を着ていないし、声が中性的すぎて区別がつかない。
「でもウチは部活動必ずやらなきゃいけないからねー、君や私みたいな人のためにあるんだよ」
「何がですか?」
「ぼっちによる、ぼっちのための、ぼっちだけの部活、『ぼっち部』がだよ」
「え」
「入部ありがとうございます!」
ぐっと親指を立ててそう言ったその人は、上に登ってくると、「ここにサインよろしく」と、強引に僕にペンを渡し、名前をかかせてきた。
「ちょ、ちょっとまってくださいよ、そんな部活聞いたことないですよ、新入生説明会の時にもいなかったし」
「当たり前でしょ。そんなん冷やかしのリア充共が入ってくる確率が上がっちゃうからね。私達は自分たちと同じような境遇の人間を学校十歩き回って毎年探してるって訳」
上に登ってきたことでやっと判明したのは、その人が女性であったという事だ。顔しか見えていない時は、ショートボブだったので童顔の男の娘の可能性も否定出来なかったのだけれど、やはり女性だった。
「さ、入部しよっか。ぼっち部はアフターフォローも手厚いからさ!」
半強制的に入部届けを書かされて、もうこれは入部せざるを得ない、というラインまで来てしまった......
「よし、これからよろしくねっ!」
そう言った、やたらとテンションが高く、ぼっちやヲタクという言葉とは無縁そうな先輩が去っていく姿を、僕は静かに見送った。
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